椎木隆太社長のエピソード

ムーギー・キム氏(以下、ムーギー):これものすごくおもしろい話なんですけど、この『一流の育て方』のプロモーション1回目で、いろんな分野の一流の人にインタビューして、「おたくどうやって育てられたんですか」っていうのを聞いてまわったんです。

一流の育て方―――ビジネスでも勉強でもズバ抜けて活躍できる子を育てる

最近おもしろい方がいて、DLEの椎木(隆太)社長、ご存知の方いらっしゃいますか? 椎木社長っていう娘さん(椎木里佳氏)が高校生社長で有名な方がいらっしゃるんです。「鷹の爪団」で有名な社長です。

ご存知の方いらっしゃいますか? いいですよ、別に手を挙げてもあてるわけじゃないですから。安心して「知ってる」って挙げてもらっていいんですけれども。こんだけあったまらないと、私がこれから誰も知らない人の話をしようとしてるみたいな。

(会場笑)

ムーギー:あとは東大の医学部からハーバードの院に行って、いろんな研究をなさっている石川善樹さんっていう産業医の方の話なんですけれども。その方のお話ですとか。いろいろな著名な方の、各分野の著名な方のお話を聞いてるところなんですけれども。

その椎木社長の言った言葉でおもしろいのは、本当にユニークな方なんです。娘さんもまだ高校生なのに、自分の会社を始めて。お父さんは「なんでもかんでもやらす」っていう感じなんです。

その椎木社長の経歴を簡単に言いますと、最初SONYに入って、あの時代のSONYには「そこで勤め上げる」というメンタリティの人多いんですけど、30歳くらいで自分なら自分のビジネスができるだろうということで、独立して。まったく違うビジネスを始めて、いろいろ失敗しつつも、最終的には上場にこぎつけたっていう人なんです。

「どうやったらあんたそんなに、とくにあのときの時代の日本で、そんな変わった判断できるようになったんですか」って聞いたときに、「親が、1回だけ自分を怒ったときがある」って言ったんです。「さすがに、1回しか怒られてないから覚えてるんだ」と。

「なにを怒られたんですか」と聞いたら、友達と友達の家に遊びに行ったとき、遅くなって、みんなが「泊まる泊まる」と言い出したらしいんです。それを見て、「みんなが泊まるって言い出したから俺も泊まるわ」って言ったらしいんです。

そしたら父親が烈火のごとく怒って、「ただ、自分の意志で泊まるんだったらいいんだ。周りが泊まるから泊まるって、それはどういうことなんだ」と。「お前が泊まりたいんじゃないのか」って、そこで烈火のごとく怒ったらしいんです。

それで言い直して、「周りが泊まるからじゃなくて、こういう理由で泊まりたいからです」と。対して父親が、「お前がそういう泊まりたい理由があるんだったらいいんだ」と。これは結果の問題じゃなくて、「周りに流されずに自分で決めているか」をどれだけ重視するかっていうことなんです。

「あんたはなにがしたいの」と問い続ける

最近、日本の人材派遣会社としてものすごく伸びている、ちょっと社名は伏せなくちゃいけないんですけど、○○っていう会社があって。(その会社のインタビュー内容で)差し障りのない範囲で言いますと、いわゆる「エリートコースの会社を蹴って、よくできましたね」って話をしてたら、やっぱり彼が言ってたのが、「子供のときから主体性っていうのをものすごく重視されてた」っていうんです。

ほかの人が行くから判断するんじゃなくて、自分がやりたいかどうかで決める。

これは一番重要なことだけに強調してもしきれないんですけど、私の後輩で一番活躍している、本当にライジングスターみたいなのがいるんです。その人が20何歳で5,000万くらいの給料もらって、出世コースに乗ってたんですけど、ある日パーンと辞めちゃって、給料も5分の1くらいの国際協力団体みたいなやつに行ったんです。「よくもまあそんな判断ができたな」っていう話をしました。私はこの本の完成度を高めることに必死だったもんですから。

(会場笑)

ムーギー:私にキャリア相談に来たんですけど、彼女が言った言葉がまた共通してたんです。子供のときから、「あんたはなにしたいの」ってひたすら親に問われてた、と。

彼女は私立の中高一貫教育に6年間行ってたらしいんですけど、「中高一貫だから3年ごとにいちいち勉強しなくていいから、長期的に人材育成に大切なことを勉強できた」って言うんです。そのときに一番感謝しているのが、ミッション校だったそうなんですけど、シスターが「受験なんかどうでもいいから、その代わり、勉強のなかで自分が一番なにをしたいのか自分に問い続けなさい」と。

私、聞いてショックを受けたんですね。つまり、このなかで家庭、学校教育を振り返って、「あなたなにがやりたいの」ってひたすら聞かれた人ってどれだけいますか? いたらどうしようと思ったよ。みんなやってるじゃんって(笑)。

(会場笑)

ムーギー:そうでしょう。家庭教育でも、「あんた、この大学行きなさい」とか「この会社行きなさい」とか言われても、「お前なにやりたいんだ」っていうことを突き詰めて聞かれてる家庭の割合ってものすごく低いです。

ただし、今回のこれのアンケートの母体になっている自己実現して頑張っている人っていうのは、やっぱ子供のときからなにがやりたいのかって突き詰める問いを受けたんだな、と。それに基づいて、自分で決めるトレーニング受けてたんだな、と。

これは、主体性を育む上で非常に重要なことだなと思って。

重要なのは「なにがやりたくて、なにに向いているのか」

ある人がこう言ったんですね。私も尊敬する某教授なんですけれども、その方がおっしゃったのは、「教育の定義は2つあるんだ」と。「1つは、その人が学校で勉強したことをすべて忘れたあとに残っているのが教育」。

それをもっと具体的に言うと、「この6年間、15年間なりの義務教育、大学教育なりを全部受けたあとで、自分はなにがやりたいのか、なにに向いてるのか、その2つを知ってたら教育に一番大切なことはできてるんだ」。

確かにそうですよね。今から残りの時間で到底話せないなと思ってることを、かいつまんで1分くらいで言いますと、主体性とか、最後までやり遂げる力、最後までほかより頑張れる力って、結局自分がやりたいことを見つけて、かつ自分が向いていることをできているかどうかで、その人のキャリアも人生も9割決まったようなものだと思いませんか!

そうだと思うんです。だから、本当に教育で重要なのは、幅広い視野を見せたなかで自分が一番なにに向いてるのか、なにがやりたいのかを気付かせてあげるサポートをどれだけできてるのかだと思います。

そろそろ「主体性でどれだけ話すんだ」っておっしゃる声が聞こえてきそうなんですけど。

(会場笑)

ムーギー:最後、お母さん話してもよいですよね。お母さんのお許しをいただいたので話します(笑)。

このアンケートのなかで私が感銘を受けたのが、この最後のところにありました。「人と違っていい」と教えられたと。「人に迷惑をかけるなと教えられるんじゃなくて、お前だったら迷惑かけてくれって言われるような人を集められるような志を持て。そういうような教育ができたかどうかだ」と。

いい言葉だと思いました。例えば日本だと、ものすごくいいのが協調性があって、「1回進むと団体と同じ方向に行く」という、これがすばらしい協調性だと思うんです。なら逆に、「反対方向に走ったときに、周り全員で間違っちゃう」っていう。これもやはり、リスクとしてあると思います。

そんななかで同調圧力が強い社会だからこそ、「みんな間違ってるよ」と言えるような強さを持てるかどうかっていうのは、社会的にも重要なことだと思います。

またビジネスで成功する上でも、「ビジネスで大儲けしよう」「第一人者になってスターになろう」と思ったら、結局、ほかの人が始める前に自分で始めなくちゃいけないんですね。「ほかの人がやらないからやるんだ」っていう、この強さです。みんなやらないからやらないんじゃなくて、「みんなやらないからチャンスがあるんだ」って言うような人。

私が投資とか金融とかの業界のなかで尊敬する人は、やっぱり創始者なんです。まだこの日本に、この業界がないときに、「ほかの人がやってないからこそ始めようじゃないか」と思う人。

やっぱり、人と違っていいんだという強さ。ときには「みんなが間違ってるんだ」と言えるような強さ。とにかく「迷惑だけはかけちゃダメです」って言われてきた人は、迷惑はかけないけど毒にも薬にもならない人になっちゃうことがあります。

そういったときに、「迷惑かもしれないけどやっていいんだよ」って。そういう後押しをしてあげるのが親のサポート。もしも本当に迷惑だったらダメですよ? 迷惑だけだったらダメなんですけど、そういう主体性が重要だな、と。残りはあと10分で、あと8ページくらいあるんですけど、これをかいつまんで話すと。

(会場笑)

親の価値観を押し付けてはいけない

ムーギー:安心してください。実は残りで、この2番目の視野を広げるっていうポイントについて話すのと、Grit(グリット)、最後までやり遂げる力を付けるにはどうしたらいいのかっていう内容。

もしくは、コミュニケーション能力を育む、コミュニケーション能力っていうのは上手いこと話すとかおもしろいとか、そういうことじゃなくて。

一番重要なのは、相手の気持ちをわかるか、相手の違う価値観を需要できるか、相手の違う視点に立てるか。そして、相手の違う価値観と意見と情報、そういう違いをちゃんと受けた上で、そのコンセンサスを作れるかどうか。このコミュニケーションこそ、リーダーシップの要だと思うんです。

パンプキンが私によく言う言葉があるんですよ。「ビジネスで大きくなるには、相手も欲があることを知らなくちゃいけない」と。「相手も、打算があることを知らなくちゃいけない」と。相手と相反する利益をまとめて、相手も得させる。

相手の視点に立てるのか、もしくは「put your foot shoes」、相手の靴に自分の足を置けるか。これは相手の立場に立って考えるかってことを言ってるんですけど、これが一番高度なコミュニケーション能力だと思うんです。

この高度なコミュニケーション能力を育むために大切なのが、実は子供たちが感謝してることいっぱいあるんですけども、自分のポイントにフォーカスしてみますと、親の価値観を押し付けないこと。押し付けたらダメですよね、本当に。私、みのもんたの気分です。もんたがよく「そうだね、お母さん」って言ってる気分なんですけれども(笑)。

(会場笑)

ムーギー:私には、「この人のためだったら頑張りたいな」っていうボスがいます。ビジネスで成功する人って、30歳そこそこまでは自分のスキル、能力を磨いたらある程度はいくんですけど、そのあとのリーダーとか上に立つ人の素質となってくると、どれだけ周りのサポートを受けることができるかが大事になってくる。そこに勝負の軸は移っていくと思うんです。やっぱりそういう人たちって、「あんたのためだったら一肌脱ぎたい」って思われてる。

どういうボスに私はそれを感じるかって考えたときに、やっぱり失敗したときに、頭ごなしに「こうやらなくちゃいけないだろ」って言わないです。常に価値観を尊重してくれる。だけど、「こういう理由でどうだ」と。

学生たちのアンケートのなかで、コミュニケーション能力を磨くなかで、親に一番感謝してることと親に一番直してほしかったことを聞いたら、一番直してほしかったことは、感情的に怒鳴ること。あと、価値観を押し付けること。逆に一番ありがたいなと思ってることは、自分が内面から気づけるように、理由をちゃんと言って教え諭してくれること。

これが重要だなと思うんですよね。というのも、単に高度なコミュニケーション能力、とくにリーダーの立場になると、例えば交渉相手とまったく違うこと言ってるときにまとめる能力とか、火を吹いてるプロジェクトメンバーやクライアントを1つにまとめて前に進ませる能力だとか。

そのなかで、人と揉めることがあったときに、親が常に価値観を押し付ける教育を受けた人って、自分が人に反論するときも、自分の価値観を押し付けようとする行動パターンが染み付いちゃってるんです。人に怒るときも、やっぱり感情的になって叫んでしまう。それに対してうちのボスは、絶対怒らないんです。試しにどこまで我慢するかって怒らしてみたんですけど、怒らないんです。

あくまで、来年から気付けるように、コツコツと努力してくれるんです。そのコミュニケーションの努力自体に、感謝の気持ちがわいて。こんなに自分の気持ちに配慮して叱ってくれてるんだ、と。

“巻き込める人”は信頼問題を重視して育てられている

本章の最後にもあるんですけど、人を育てるにしても子供を育てるにしても、その人との信頼関係、愛情があるかどうか。それが一番重要なコミュニケーション能力の1つだと思うんです。やっぱり「怒られてるときに一番それを感じる」って言う人が多くてですね。実際、ビジネスの現場でもそうだと思うんですけど、例えばボスにいろいろ怒られるんだけれども、ただしそのボスのことを好きになるっていう人、いますよね。

ある意味コミュニケーション能力で一番重要なのは、もちろん相手の視点とか価値観を受け入れるっていうその姿勢とか叱り方に配慮するっていうこともあるんですけど、相手と愛情に基づいた信頼関係を結ぶ力があるかどうかっていうことです。

例えば、私が「上司として人を雇うとき一番重要なのはなにか」とか、「ビジネスで人を招集させるときに一番重要なことはなにか」っていう話を聞くわけです。

そういうときに「信頼できる人かどうか。それが一番重要なんだよ」と。確かにビジネスで、我々30歳くらいまではいろんなサラリーマンに同じようなこと言ってるんですけど、30中盤くらいになると、自分の信用でお客さんとか資金とか集めてどんどん大きくなってる人を見ると、やっぱり信頼獲得能力っていうところで一番差がついてると思うんです。

子供のときから、将来一番大切なのは、最初はもちろん主体性です。ただ、主体性だけだと1人ではいいところまではいけるんですけど、最後により大きくなろうと、自己実現しようとなると、周りの協力を巻き込めるかどうかが大切になってきます。

巻き込める人っていうのは、やっぱり人から信頼を獲得することができる。信頼の獲得に一番大切なことを子供のときからポツポツと教え諭されてる人。例えば「絶対嘘をつくな」とか、「言ったことはちゃんとやりましょう」とか。そこのところにものすごく重点を置いて教育を受けてきた人と、「嘘も方便やで」みたいな関西のノリの人と(笑)。信頼問題に対する敏感性がぜんぜん違うんです。

この信頼問題っていうのは、海外の金融機関とか、金融機関に限らず、欧米のグローバル企業で働くようになると、これがすべて。信頼問題に関して、とくに嘘を1個つく、つかないということに対する敏感性がものすごく強い。

日本の政治家の答弁で「嘘ついても当たり前」の様子を見慣れてきてるかもしれませんが、同じメンタリティで海外に出て行くと、ものすごく痛い目にあうことになるんです。子供のときからどれだけ信頼問題を重視して育てられているかっていうのが、非常に重要だな、と。

これで今がちょうど8時なので、ここで一旦切らしていただきます。