うまいくいっている人は感謝することを知っている

ミセス・パンプキン氏(以下、パンプキン):この本(『一流の育て方』)に出てくる学生さん、だいたい今順調にいってる人たちです。みんな親に感謝しておられるんですね。それは、小さいときにちゃんと教育を受けて、知性が備わってるんです。だから、親の愛情を感じ取るにも、ある程度の知性が必要なんじゃないかと。うまくいかないとき、受験に失敗したとか仕事で嫌なことあったとか、親が無理に行かせたとか、親のせいにすることの反対で。

一流の育て方―――ビジネスでも勉強でもズバ抜けて活躍できる子を育てる

うまいくいっている人は、親の愛情とか親の恩とか、感謝することを知っている。そういう意味でも、感謝できる感性の持ち主、知性の持ち主に育てるというのも、幼いときの家庭教育がすごく大事じゃないか。ある動物学者、ちょっと名前は失念したんですけど、「親は情で子供を育てる。子供は知恵で親と接する」と。

親の情は親が死んでからじゃないとわからないことが多いらしいんですけど、私もそうでした。親が亡くなった瞬間に、こんなに親の愛は大きかったのかって思ったんです。

でもそれまでに、賢い人とか知性のある人は、親から受けた愛情を感じ取って理解して。うまくいかなかったら親のせいにするとか、そういうことはないんです。

この本には私の優秀な友人がよく出てくるんですけど、その人はなにかといいますと、ちょっとこれを書いてるときに格好つけまして、いろんな文献を調べて書いたりしたんです。そしたら、そんなことをお母さんから聞きたいなんて、誰も思ってないって言うんですね。

それでも、私のことだけではあまりにもレベルが低すぎますので、賢い友人たちの受けた教育とか、友人たちが賢い教育をした、それを見聞したことを書いたんですけど。その友人のうちの何人かはやっぱり、見てましたら、賢いんです。いわゆる一流、仕事が一流じゃなくて、すごく優しくて偏見がないからみんながその人の周りに集まってくる。人間的にすばらしい人たちなんですけど。

親が96歳とかで養老院とかに行っていても、彼だけは、看護師さんにも見せない表情で、挨拶するんですって。知性の豊かな人の親に対する愛情は、やっぱりすごい深いんです。

その人は片道1時間半かかっても、2週間に1回通ってはるんですけどね。そういう人がいるように、知性が豊かな人は優しくて感性が豊かで。やっぱり最小単位の親子での関係で育まれる場合が多いんじゃないかって。そんなふうに感じました。

無償の愛で子供を育む、それがスタート

だから親子の絆とか情というのも、やっぱり放っておいて育つものじゃなくて、親が能動的に、意識的に育てるものだと思ったんです。昔のように貧しい時代に戻さないと親子の情は戻らないとか、そんなんじゃなくて。今はもう、「成績どうしてそんなに落ちたの」って言うだけで、グサってする事件が起きてます。それは異常ですね。すぐにキレるとか、昔にはなかったことでしょ。

共通するものは、親の体裁やなんか言って、無理に勉強させるとかじゃなくて。昔の親がしてることは、条件付きでない、無償の愛で、子供を育む。それがスタート。

貧しかったから、親に思いが募ったんじゃなくて、親の本当の、無償の愛で包まれてたから、私も親が好きだったと思うんです。だから、先ほどどなたかとお話しして、「知的に育てるのが先ですか、愛情が先ですか」って言われたんですけど、同時です。それは別々じゃなくて。

こういう時に有名な実験があって、ネットで調べてもそれがすぐ一番に出てくるんですけど、あるロンドンの養老院で、AとBという養育者と、CとDというシスターが育てるんです。やっぱりよい人が育てた人は背もぐんぐん伸びて性格もよくって、ちょっとヒステリックな人が育てた人は背も伸びないし、性格もおかしいんですって。

それを交換したら、こっちの生育が止まって、よいほうのCさんの背が伸びる。それくらい養育者の愛情はすごく大事だと聞いたことがあります。ですから本当に、ヒステリックでない、条件付きでない愛はすごく大事だなって。

昨日テレビで、世界で一番貧しい大統領って言われたムヒカさんの番組を見られた方いらっしゃると思うんですけど、「世界でもっとも進んだ国の1つ日本のみなさんは、幸せかっていうのを見たいんだ」って言われたんです。「幸せでない人もたくさん見える」と。

それは、物質は豊かだけど、たくさん買うために働かなきゃいけないから。「それに追われて、幸せでなさそうに見える」って言われたんです。「日本の行く末は人類の行く末にも重なるから心配だ」とも言われたんです。

私は日本が豊かだからこそ、貧しい国に生まれた人が一生かかっても手に入れることができない教育環境とか、それを受けることができたおかげで、世界中で活躍するNGOの人やノーベル学者を、いっぱい輩出しています。胸を張って、「幸せな人もいっぱいいます」って言えると思うんですけど。

逆に、物質文明にスポイルされてる、幸せでない人もいっぱいおられますね。ムヒカ氏が言うには、「社会貢献するためには、自分が幸せでないといけない。自分が幸せであるということは、やっぱり優しくて愛情豊かで、家族も愛情で包んで、それではじめて社会貢献ができる。だから、そうできるのはなにかと言ったら、頭脳と愛だ」って言われるんです。

だから同じことだと思ってね。知性と優しさ、思いやり。それがすごく大切だ、と。

知性と、愛を感じ取る優しさ

それを思い起こすきっかけも、自分が親にどのようされて育ったか、そういうことを思い起こしていただいて。子育てとは関係なしに、これからさらに豊かに自己実現していくためにも、親から受けた愛を思い出していただいて。自分を粗末に扱わない、参考書と言ったらちょっと大げさですけど(笑)。きっかけにしていただいたらうれしいなと思うんです。

手前味噌ですけど、著者の私でもときどき紐解いて、そうだった、こうだったって、再認識したり再確認したりできる場合が多いんです。ふつうの小説だったら「もう読んだし、ストーリーわかるわ」って言うんです。忘れっぽいっていうのもあるんですけど(笑)。

それと同じように、1月に1回くらい、養老院に行くんですけど、そこの89歳の女性が、1ページ目で、「なんや知らんけど、涙がボロボロ出る」って言うんです。「詳しいこと私も書いてへんのやけど」って言ったら、「いや、お母さんを思い出して、お母さんが近くに来たみたいや」って言うんです。最初から最後まで読んだんですって。

最後にちょっと母親のこと書いたら、悲しくて悲しくて。「もう時間よ」って言おうと思ってたんですけど、それは黙ってました(笑)。

(会場笑)

パンプキン:「もう悲しくて、これだけ親を身近に感じたことはない」って。養老院の人ともみんなで回し読みしたりお話したり、スタッフの人が買いに行ったりして。養老院で話題になってるんですって。まさかあそこで話題になると思わなかったですけど(笑)。

(会場笑)

パンプキン:みなさん養老院はまだまだ先ですけど、養老院へ行く前にやっぱり親から受けたことをもう1回思い起こして。ムヒカさんじゃないですけど、「自分が強く愛情豊かに過ごすことで、社会貢献ができて。それ以上の幸せがありますか」。「いっぱいものがあっても、そんなもの幸せじゃないはずだ」っていうことです。

人それぞれ、幸せの定義は違いますけど、1つの幸せのかたちとして、ムヒカさんが語ってくださってたんですけど、「頭脳と愛」。私は「知性と愛を感じ取る優しさ」と言いますが、親からこれだけ無償の愛を受けてる。

親もいろんな未熟なこともありますし、親も子供に癪に障るものの言い方をしますけど。その奥にあるものを感じ取っていれば、親の少々の言葉のまずさとか、自分に対する無礼があっても、理解しなければいけないと思うんですね。親って、感情的に怒ったりするものですし。

でもそれをいいことに、「あんなん言うたな」って親を一生恨んだり、もうちっさい話だと思うんです。だから親と上手くいかない人が外でうまくいくのかなって思ったり。最小単位で、しかも自分を一方的に慈しんでくれた人を恨んだりしてもうまくいかない。

そういう意味で、親の愛を感じ取ることはすごく大事だなって。先ほどの日本人の話じゃありませんけどね。そういう優しい人は、人がいつも集まってきますし。そういう意味でやっぱり一流の人なんです。だから、親の愛はすごく大事だと思いました。

出世コースを走った人はよい家庭教師にはなれない

そろそろ終わりなんですけど、私は4人をハーバード入れましたとか、東大理三に入れましたとか、そういう華々しいことを言う立場にないのは残念なんですけど。でもそれ以前に大切なこととか、それ以降に大切なことっていうのも、具体例を挙げていっぱい書きました。

それをなぜ書けたかなんですけど、やっぱり一流のサッカー選手、一流の野球選手が、一流の名監督になれるとは限らないのと同じように、出世コースを走った人はよい家庭教師にはなれない。よい教え方はできない。

なにができないかがわからないから、なにでつまずくのかがわからないから、「それは常識だろう」って言って飛ばすからなんだそうです。そういう意味では、私はこんなん育てましたのでね(笑)。

(会場笑)

パンプキン:その反省を込めて、ここは私がなんとか、すごく難しくてこれはちょっと努力したらできるっていう目線で、書くことができたんです。そういう意味では、できが悪かったことに感謝できるくらいに、今日こんなにうれしい日を迎えることができました。

だからちょっと目線が低いぶん、いろんな人に共感いただけると思うんです。養老院行く前に気がつくって、すごく大切ですし(笑)。これからますます東のほうに足を向けて寝られないように、みなさんにますます愛していただけるように願いながら。私の話を終わらせていただきます。どうも今日は、ありがとうございました。

(会場拍手)

ムーギー:ありがとうございます。できの悪い息子扱いで私はいつも登場するんですけれども。

パンプキン:はい(笑)。

(会場笑)

自己実現するために一番大切なのは主体性

ムーギー:でも、実際できが悪かったんです。世の中の育児本で育て方というと、やっぱり放っといても東大理三に行くとか、放っといてもハーバード行くとか、そういう優秀な特殊な家で、かつ塾代とかもいくらでも湯水のように注げるっていうものすごく金持ちの家のことが書いてることが多くて。こりゃあ参考にならんなと。

もしくは、「あんただからできたんでしょ」っていう、「我流なんじゃないの」っていうところがあると思うんです。

この本が親しみやすいのは、超下から目線なんです。書いてるタイトルは『一流の育て方』って偉そうなんですけれども、なかを見てみるとすごく下から目線で。

おまけに文末で「これを勉強しなさい」って言うわけじゃなくて、「これができてませんでした。ごめんなさい」って反省してるくらい、できてなかったからこそ学べたっていうところがあるんです。冒頭で申しましたように、この本の目的、かつ今日の目的は、3つのことをしていただくことです。

1つは、この本は親の愛情を知れる本だということ。あと2つ残ってますよね。それは、子供は結局、親のなにに感謝するんですかっていうポイントと、単に勉強ができるだけで終わるんじゃなくて、ビジネス、また将来社会に出て、自己実現するためにはどんな資質が大切なのか。そこを具体的に知るほうに、今から移りたいと思います。

次のページに行かせていただきまして、主体性を育むということなんですけれども。

今回アンケートしたなかで、本に出てるのは200人くらいなんですけど、実は本当はもっといっぱいいたんです。

そのなかで、これは聞いてもしょうがないなっていうのはカットして、意味ありそうなやつを200。ここでは、実はこれだけ苦労したっていうことを共有したいんです。200人くらいが一番親に感謝してること、一番親に直してほしいことを書けっていうもんだから、みんな自由に書くわけです。

その自由に書くなかで、共通性が高くて順位が高いやつを並べたのが大項目的にはこの7つです。この本のなかには、重要なことしか載ってないんです。少なくとも多くの人が同時に、これが親に感謝したいことだ、と。そのなかで、主体性に関してなんですけども、このなかで、「私、主体性抜群です」っていう方、いらっしゃいますか? あれ、1人くらいいないの?

(会場笑)

ムーギー:主体性に関して、やっぱりよい大学に入っただけで終わる人と、その後、自己実現できる人との大きな差、一番大切な差はなにかといったら、やっぱりこの主体性だと思います。

主体性ってなんなのって話なんですけれども、これって、自分がセルフスターターになれるってことです。自分が起点になれるってことだと思うんです。

スター選手と単によい大学に入った人の差

私、いろんな海外の金融会社とかコンサルティング会社とか投資ファンドとか、いろんな国で働いてきたんですけど、そこで、社員を評価する時っていうのがあるんです。

その評価する時に、この人の潜在能力を測る時に書いている重要な1つ目の項目が、「この人はセルフスターターかどうか」。つまり、ボスになにか言われなくても自分で仕事を見つけて、自分がやるべきことを考えられるかどうか。その力が、いろんな海外のグローバル企業で重視されているんです。

実際に、私がものすごく尊敬する上司がいるんですけれども、その上司に私が入社したときに聞いたのが、「私がどんなことをするのがこの会社にとって一番ありがたいですか?」と。

これはアジアを代表する大きな投資ファンドですけど、私がその創業者のボスに聞いたんです。「どんなことやったらよいですか」と。そしたら、「ムーギー、そんなこと聞いたらダメだよ」と。「この会社にとってなにが役に立つ、それを自分で考えるのがお前の大切な仕事じゃないか」と。

確かにそうだな、と。この主体性っていうのを見て、スター選手と単によい大学に入った人の差を大きく思うのは、よい会社、いわゆるこういう会社入る人ってみんなよい大学入って、頭はいいわけです。そういう人が多いんです。

そのなかで1年2年経つと大きく差がついてくるんです。いろんな人から頼りにされる人、それからいろんな人から「こいつとは働きたくない」と思われる人。

このできる人とできない人の差を見ると、やっぱり主体性に尽きる、と。つまり、ボスになにか言われなくとも、「本当にこれ勉強しなくちゃいけないな」って自分で判断して、自分で勉強してくることです。

というのは、大学時代までと社会に出てからの大きな違いは、大学入るまでは、「いい得点を取るためにこれやらなくちゃいけないよ」っていう、目標が見えてるわけです。社会に出て活躍しようとなると、「これは俺がやるんだ」と、目標を設定するところからやらなくちゃいけない。

じゃあこれ、「主体性が大切なのはわかった」と。「そんなことお前に言われなくてもわかってるわ」っていう声が、そろそろ聞こえてきそうなんですけれども。

主体性を伸ばすには?

じゃあ、その主体性を伸ばすためには、結局なにをやったらいいんですかって話です。このなかで、主体性を伸ばすためになにをやってるかっていうので一番回答が多かったのが、「自分に決めさせてくれた」ということです。

この自分に決めさせるというのも、つまんないことを決めさせるっていうことじゃないです。例えば我が家では、恥ずかしながら焼き肉のメニュー1つすら決めさせてもらえなかったんです。お母さん、びっくりしたでしょう。「本当にそう?」って、本当にそうなんですよ。

(会場笑)

ムーギー:主体性もへったくれもなくて、うちのお父さん、昔の韓国の儒教の思想が強いというか、親が全部決めるんだっていう方針なんです。親がなんでも決めるんです。

パンプキン:それがいけないということじゃなくて。薄味から順番にという、それを覚えなさいと言って。辛いのから、薄味から、なんでもかんでも出てくるでしょ。順番にオーダーするんです。それを教えるためなのに。

ムーギー:なんだそりゃあ(笑)。

(会場笑)

ムーギー:ただ申し上げたかったことは、子供の自主性というか、子供の判断を尊重するということなんです。このアンケートのなかで私が一番びっくりしたのは、「親に一番感謝してるのは、進路を自分で決めさせてくれたことです」「塾どこに行くのか決めさせてくれたことです」「習い事、なにやるのか決めさせてくれたことです」「休暇、なにするのか決めさせてくれたことです」「自分の判断を尊重してくれた」。

尊重してくれたからこそ、自分の判断で自分の人生、将来のことが変わっちゃうから、責任を持って判断するようになる。その判断を間違わないように、自主的に勉強するようになる。

例えば、お小遣い1つにしてもびっくりなもんです。うちなんかは、本にも書きましたけど、恥ずかしながらテストの点数がよかったら給料が上がるとか、ちょっとけしからん要素があったんですけれども。主体性の高い子供は、「1年分いきなりお小遣いもらった」と。「それで生活費から塾代から趣味代から、なんでも自分で予算を振り分けろ」と。

これが多かったわけではなく、1つの極端な例ではあるんですけれども、そのくらい子供のときから自分で考えて決断を下すというトレーニングを受けてるかどうかっていうのが、非常に重要なことだと思います。

私がビジネス教育、フランス、シンガポール、上海のビジネススクールでMBAを勉強してきましたけど、MBAで勉強することっていうのは、マーケティングの科目とかファイナンスの科目とかそういう個別のスキルではなくて、自分で意思決定する習慣なんです。ケース問題を出されて、「こういった状況でお前は社長だ。さあ、どう判断する」と。

そういったときに、やっぱり主体性のない人は、ひたすら情報を聞いてほかの人がどうするかっていうのばかりやってるから、いつまでも決められないんです。主体性のある人は、この限られた情報でリスクがあるほうを自分でバシバシ決めていって、とにかく前に進むんです。

この主体性を育む教育っていうのは、別に何十万ドル払って海外のMBA行かなくても、子供のときから「じゃあ、塾どこに行きたいのか決めろ」と。「次の夏休みどこに行きたいか決めろ」と。そういう決めるトレーニングを積ませることで、大きな差がつくんだなと思った次第です。