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基調講演(全1記事)

DeNA南場氏「会議で“正解”を探す人はいらない」就活生に語った、デキる人材になる方法

2016年5月14日、社会人&大学生のためのベンチャーの祭典「Start Venture Festival 2016 Spring」が開催されました。基調講演に登壇したDeNA取締役会長・南場智子氏は、就職を控えた学生たちに向けて、これから訪れる組織や働き方の大きな変化を紹介。そのなかで、デキる人材として活躍するためにやるべきことや、必要な成長環境について語りました。

マッキンゼーを経て、DeNAの創業へ

南場智子氏(以下、南場):こんにちは、南場です。よろしくお願いします。(Start Venture Fesital 主催者、元・DeNA、現・株式会社ライトマップ代表取締役)鈴鹿が「DeNAさん」と「さん」づけで呼んだのはショックでしたね。仲間ということで応援に来たんだから……。

若い世代が職業をしっかり自分で選択することがとても重要だと考えているので、こういうOppotunityをくれて感謝しています。

はじめに自己紹介をします。 新卒でマッキンゼーというコンサルティング会社に入りました。最初あまりに仕事ができず2年でアメリカに留学し、休憩しました。MBAを取るという、ちょっと格好がつく休憩(笑)。ズルいですよね。

休憩してるうちに辛かった日々をすっかり忘れちゃって、卒業後また戻って来ちゃいました。戻った初日にマッキンゼーの辛さを思い出して、えらい後悔したのを覚えてます。

その後、仕事が軌道に乗り楽しくなってしまい、「私、一生マッキンゼーでいいや」という感じで、本当に、「自分がいないマッキンゼーはつまらない」と思うくらい調子に乗っていたんですけど。

マッキンゼーに戻って9年経ったころ、突然魔が差してしまい、「起業したいな」となりました。ずっと人にアドバイスしているうちに、「自分で事業をやりたい。アドバイスしているくらいだから自分でもできるんじゃないか」って錯覚に陥っちゃったんですよね。

これが大きな間違いで、あとで「クチで言うのとやるのではえらい違うんだ……」とわかって奈落の底に何度も落ちるんですけど。まあそれがDeNA創業の経緯です。

(スライドの年表に)ビックリマークがついてるのは、そのときのウキウキっぷりを表現したいなと思って(笑)。それからDeNAの紆余曲折の歴史が始まり、今日も続いています。

私は立ち上げから12年間社長を務めたのですが、2011年に家族が突然大病をしてしまい、闘病に専念するために退任しました。 2年経って一段落したとき、やっぱりDeNAでもっと試合をしたいなということで、戻ってフルタイムで仕事をしています。

今は「会長」という役職ですが、ふつう会長というと、あんまり現場の仕事をしないで大所高所から、というイメージなんですけど、DeNAはそういう会社じゃないです。それに執行役員も兼ねているので、全社の経営だけじゃなく、eコーマスとヘルスケア、スポーツなどいくつかの事業を直接やってます。

今日は、「Start Venture Festival」。ベンチャー万歳って趣旨だと思うんだけど、ベンチャーがどういうものかは、名著『不格好経営 -チームDeNAの挑戦』というのが出てますので(笑)。

(会場笑)

包み隠さずベンチャーの現実がわかるように書きました。新しい事業を成長させていくというのはどういうことなのか、どういうところでドジを踏むのか、ドジを踏むとだいたい人間はどうなるのか、そういったことが赤裸々に記されているので、ぜひ図書館で借りないで、ブックオフで買わないで、Amazonかどこかで買って読んでください。

名前は出ていないけれど、ここにいる(元DeNA、現LITALICO)中俣(博之)とか(元DeNA、現ライトマップ)鈴鹿(竜吾)などの若手の活躍がびっちり入っています。

不格好経営―チームDeNAの挑戦

組織や仕事の仕方が大きく変わる

さて、今日の趣旨に反するかもしれないけれど、私は、全員がベンチャーに向いてるとは思いません。また、ベンチャーという形式概念が、なにかを約束してくれるものではありません。そういうことに惑わされずに、ぜひ自分で考える軸を持ってもらいたいと思っています。

ここにいるみんなが職業を考えるとき、どの会社に入ろうかと、所属する組織を探すのが実態だと思います。それはぜんぜん悪いことじゃないのですが、これから仕事の仕方が大きく変わっていくことを忘れないで欲しいと思っています。1つの組織にみっちり属して、その中に閉じてなにかコトをなすというのは少数派になっていきます。

目的に向けてベストな人材を選ぶ。たまたま同じ組織にいる身近な人の中から「あいつだ、こいつだ」と選んでプロジェクトを推進するのは、限界があると思わない?

クラウドソーシングとかいうバズワードはどうでもよくて、基本的な考え方として、世界中からベストな人材を連れて来て、目標に向けて最適なフォーメーションを組み、目標を達成して成果をわかちあおうよ、というかたちのプロジェクト単位の組成です。

これまでもモノやお金は組織の壁を超えて調達してきました。一番重要な人材のソーシングも当然そうなっていきます。

そういった方向への動きは当社でもすでに顕著です。例えばヘルスケアの事業の1つは東京大学医科学研究所と一緒に基盤を作ったし、各テーマの世界的権威と広くネットワークを作って進めています。

医師にも参加してもらっているプロジェクトがあります。よくある「名前貸し」ではなく、それぞれのプロジェクトの成功に向けて役割を担ってもらい、精一杯がんばってもらっています。

また、ゲーム事業ですが、わが社はSound Studio持ってないんです。当然ですけど、サウンドってむちゃくちゃ大事だよね。サウンド1つでテンションがぜんぜん違ってくるでしょう? ものすごい反応が薄くて残念だけど(笑)。

そういった成否を左右するコアな要素も外部の人が参加してプロジェクトが組成されています。この動きはもっと加速し、ゆくゆくは会社ベースではなくプロジェクトベースが基本になるでしょう。

この方向性で世の中が変わるときに、就職するとか会社を選ぶってどういうことなのか、考えて行きましょう。

プロジェクトに呼ばれる「デキる人材」になる準備

もちろん、やりたいことがすでに明確に決まっている人はそれを追求すればよいのですが、まだフワフワしている人も多いんじゃないでしょうか。私自身も就活してるときなんか、なにをやっていいのかまったくわからなかった。社会に出るという概念すらわからなかったです。

若いうちから具体的に「これやりたい」って明確に持てないことは多いし、知ってる狭い世界のなかで無理に選ばなくてぜんぜんいいと思う。社会に出ると視野は急激に広がるんだから、それから選んでいいし、いつだって選び直していい。

だから今現在、具体的なキャリアビジョンやパッションがないことに対して焦らないでください。

そういうものは、一生懸命仕事をしていくうちに生まれてくることが多いです。目の前の仕事に打ち込んでいるうちに、やりたいことが明確になってくる。あるいは、湧き出るような情熱に自ら気づく瞬間に巡り会えるので。焦らずに、そのときまでに、自分の力を磨いておくということが重要だと思います。

とくに、仕事の仕方が大きく変わっていくということを考えたときに、プロジェクトに呼ばれる「デキる人材」になっておくことが、なによりも重要なことだと考えます。

目的単位でプロジェクトが組成されて仕事をする。そういうときに、有名企業の課長さんだからとか、一番出世が早い部長さんだからとか、そういうことで呼ばれることはないんですね。実力で呼んでもらえるかどうかが決まります。実力をつけ、プロジェクトに呼ばれるデキる人材になっておけということです。

どんな実力? デキる人材って何? これはなかなか整理して言えないんだけど、ひと言でいうと、なにか目標に合意したときに、それを達成できる人材になってくださいということにつきるのかなと思っています。

スペシャリストであってもジェネラリストであっても、そういうことなんです。「これを達成しよう」と自分で腹落ちしたときに、それを達成できる人材かどうか。

私もうん十年社会人をやってわかったことが1つありますが、なにか目標が定まったときに、「この人に任せたら絶対できるな。なんとかなるだろうな」という人と、「この人に任せたらたぶんできないな」って人と2パターンしかいないんだよね、残念ながら。

まずは、その前者になっとけということです。どこか領域を絞り込んで、専門スキルを作って……とか考える前に、すごく大事なことだと思います。

もっと噛み砕いて言うと、この目的・目標を達成するために、「誰の力となにが必要か」そして、「どういう段取りでやっていけばいいんだろう?」と考えて、アクションに移すということですね。

漢字で言えば、戦略や戦術を企画し、実行する力。そしてやってるうちに「間違ってたー!」とか「やっぱりこれが足りなかった」とかがわかってくるので、あれこれ工夫し、軌道修正しながら、目的をなんだかんだいって達成してしまう、そういう力です。

世の中、真新しい課題だらけになってきています。過去から繰り返されている課題もいっぱいあるんだけど、そういうのはだいたいマニュアルとかAIとか機械とか、あるいは整備された美しい歯車が解決してくれるわけです。

大量の過去の事例から学習しどんどん賢くなるAIにとって代わられたくなければ、我々人間は、本当に真新しい課題に挑戦しなければならない。

とりわけこの日本は人口構成や国家財政やエネルギーの問題、自然災害の問題とか、あるいは国際的な競争力や安全保障など、他国が経験していない真新しい課題に直面しています。

なにも事業じゃなくたって、こういった大きな社会的課題の解決に向けても、ゼロベースの思考、前例のない付加価値を創造していくことが求められます。

まず「正解」を探すクセのある人は採らない

そこで、教育ハンデキャップについて語りたい。ここにいるみんなだいたい日本人だよね? 同じ国籍の人がこれだけ集まるというのは、すごいことなんだけど、やっぱり日本の教育のハンデキャップを背負ってる人が多いはずです。

自分はそうじゃないと思っても、私も含めて実際そうです。お父さんが文科省とかの人がいたら申し訳ないけど、やっぱり、日本の教育は大きい問題の根源になってます。

戦後の高度成長期、きわめて高いレベルの均質な工業製品を大量に作って加工貿易するという時代に最適であった教育システムが、根本的にはほとんど変わっていません。

我々はいまだに均質な1つの答えを言い当てられるように教育されています。間違えない達人の量産です。今求められる人材とのギャップが激しすぎる。

最終面接を今でも自分でやることがあるのだけれど、「最後になにか質問ありませんか?」と言うと、「こういう質問が正解だ」と頭がまず回り始める人が多いです。

「ここでなにか聞いておきたいことある?」と私が訊く。大事な職業選択において……私、DeNAのファウンダーだよ?

もっと聞きたいことあるんじゃないのかなと思うんだけど、「ここではこういうことを聞くのが正解だ」みたいに頭が回転してる。「質問」するときまで「答え」を探しているという……。

我が社はそういう人は採らないように踏ん張っています。すでにある「正解」を探す癖は、常識の枠を超えて事業を発展させる際に邪魔になります。「正解」は常識だったり、前例だったり、そして組織の中では往々にして上司や権威になります。

コンサルタント時代、いろんな日本企業を見てきたけれども、例えばミーティングでは、最も上席の人の表情や相づちのうち方にみんなとても敏感です。もっとも「偉い」人の意向を読んで、その方向にまとまって行く。

もともとはクリエイティブな日本人が教育によって、1つの正解がないと居心地が悪い人にされてしまっている。大きなハンデキャップだと思います。

本当に自分の頭で、自分の腹で、あるいは自分の感情でもいいんだけど、とにかく自分で答えを見つけることができるかどうか。常識的にはこうだけど、今の我が社は違うんじゃないだろうかと疑うことができるか。

常識、前例、上司、先生、あるいは「みんなが思っていること」を正解とせず、自身で考える癖をつけるよう、教育によるハンディキャップを認識して、今日から意識的に努力して欲しいです。

「純粋にコトに向かってるチームか」見極める

さて、「こいつに任せたらできる」という人材になっておこうという話をしましたが、就職や転職を考えている人たちは、そういうデキる人材に成長する場を選ぶという意識が重要だと思います。

成長できる環境かどうかを判断するには3つほどポイントがあります。1つは純粋にコトに向かっているチームかどうかということです。平たく言うと高い目標があって、そこに向かって皆が真剣に全力で頑張ってるか。そういう環境に身を置くと、高い確率で自分もヒリヒリするほどストレッチすることになります。

ぜんぜん頑張ってない会社なんてないじゃないかって思うかもしれないけれど、収益をあげる方程式ができ上がっていたり、規制で守られたりしていてそんなに頑張らなくてもよい会社もあります。

あるいは、頑張る方向が、組織を守ることだったり、自分がどう評価されるかとか、その組織の中の椅子の並び替えや取り合いに一生懸命といった環境もあります。

そうではなくて、事業の成功や社会的問題の解決などの外に向かった目標に向かって組織全体が純粋に半端なく頑張っている環境を選んでほしい。

こういうと立ち上がったばかりのスタートアップや小さいベンチャーに目が行きがちです。でも、規模にだまされないでください。たしかにベンチャーはわかりやすい。だいたい単一事業ですから、語りやすいのです。「あの社長はビジョンがある」とすぐに惚れ込みますが、ビジョンを語りやすい規模なわけです。

企業が成功して成長すると、複数事業部門をもつことになり、全体のトップはひと言で会社のビジョンを語りにくくなります。例えば住友商事って何を目標としているのか? 事業領域が広いと、そのひと言は抽象度を増してしまう。

でも各事業にははっきりしたビジョンや目標があるでしょう。そしてそれに向かって全力で頑張っているチームであればよい。

だから社長が、むちゃくちゃ具体的でピンポイントなビジョンを掲げていないからダメだとか、そのように捉えないでください。

これは規模ではなく文化の問題です。チームそれぞれに十分に高い目標があって、そして本当にヒリヒリ痛みが伴うほどストレッチして頑張っている風土かどうかというところですね。規模や形式的な概念に惑わされずに、ぜひ五感で感じてほしいです。

ということで、「純粋にコトに向かってるチームか」というところのお話をしました。

仕事の大小ではなく、起承転結を経験することが大事

2つ目が、起承転結、目標単位で仕事を任せられ、1000本ノックをやらせてくれるかということです。

「目標単位」ってどういうことか。わかりやすくするために、機能単位と目標単位を対比するイメージ図を作ってみました。

儲けのメカニズムが完成していて、機能単位に役割分担されてオペレーションが整斉とまわっている組織が1つのイメージです。機能と機能と接合部がかっちり決まっているので、1つの機能を担うチームががむしゃらに頑張って創意工夫をすることが全体最適にならないことがあります。

それに対してもう一方のイメージは、会社や事業の大きな目標があると、それをまた目標単位で分解して、「これを達成させるためには、これとこれを達成する必要がある」と目標ごとに任せて行くイメージ。

そしてやり方は勝手に考えろっていう任され方がよいですね。目標は分解されて段々小さくなります。小さくても起承転結任されるほうがよいです。

例えば、1年上のOBが「俺なんかもう2,000億の仕事任されてるんだよ」とか「俺の仕事が日経新聞の一面に載っちゃってさ」みたいなことを言うのを聞くと、カッコいいと感じるかもしれないけれど、その規模感に惑わされないでほしいなと思うんです。

成長できるかどうかという観点で大事なのは大小じゃなくて、目標に対して起承転結を任されてるかどうかです。そして、1000本ノックと言いましたが、1つできたら次のもっと厄介な仕事が目標単位でぶん投げられるか、というところで見極めてほしいなと思います。

周りの人材のレベルが高いかどうか

それで、3つ目。これ意外と重要。周りの人材のレベルが高いかどうか。とくに新卒にとっては重要です。20代前半、体力も知力もすでに人生のピークに近いです。経験だけが不足している。吸収力が抜群に高いんですね。

その状態ではじめて責任ある社会人になります。乾いた砂地みたいにいろいろと吸収するでしょう。乾いたスポンジに濁った水、悪い水を吸い込ませず、できるだけ高いレベルの吸収をしてほしいです。

先輩はどの環境に行っても輝いて見えます。自分が知らないことをいっぱい知っているから。それを見て、自分のキャリアの目標値とかものさしとかが形成されていきます。どうせ影響を受けるなら、本物に影響を受けてほしいということです。

昔から、体温計の事例をよくアナロジーで言うんですけど、2〜3秒で体温が測れる体温計がありますよね? あれが意外と正しく測れちゃうというのは、おそらく温度の上がる初速度の角度から計算してるのだろうと思います。

それぐらい初速の角度で、だいたいどれぐらいのレベルの人材になれるのかというのが決まるというか、少なくとも非常に大きな影響を持ってしまうということです。

ですから、最初に足を踏み出すときはやっぱり「すごいな、この人」と目標にできる人がたくさんいる、「自分より3つ、4つ上なだけなのに……なんなんだ? 化け物か」と思うような人がいっぱいいる組織に行ったほうがよい。

その環境で頑張って仕事していれば、十中八九2〜3年後に自分がそうなってますね。 2社目、3社目ではそれほど重要でないが、最初の就職ではこの点が極めて重要です。

だから就活で若手にどんどん会って下さい。社長は話がうまい。社長はキラキラしています。どんな組織でもトップをはれる人はやっぱり素晴らしい。

でも、いつも社長の横にべったりいるわけではない。「君には社長の横で……」などと言われても実際は横にべったり置いてなんてもらえない。だから、なるべく多くの若手社員に会って、レベルを確認してください。

本当に「こいつすごいな、こいつを超えたいな」と思えるような人材がゴロゴロいるかどうか。3つのポイントの話をしました。

入社したら「目標達成」に没入する

それで次、入社したらの話なんだけど、「成長のパラドクス」があるので注意してください。「成長できる場所を探せ」って言ったじゃない? でも職場についたら、成長を少し忘れましょう。自分の成長に意識を集中していると成長が遅れてしまいます。

「これができるようになりたい」「成長しているだろうか」「周囲と比べてどうか」「こんなことをしていて本当に伸びるのかな?」こんなことばかり考えてるとイップスになるよ。

自分でなく「こと」に向かってください。プロジェクトの目標を達成するために、自分でできないことがあったら「自力でできなきゃだめだ」と踏ん張るより、できる人を引っ張って来て、助けてもらう。恥をさらして補ってもらって、とにかく目標達成に没入する。この没入が人を成長させます。

自分の評価や成長のレビューは半期に1回でいいです。この成長のパラドクスの話、入社したら思い出してね。

それで、「ヒリヒリ痛いこと」とかいろいろ言ったね。「頑張る」とか「ストレッチ」とか言ったんだけど、どうだろう? 苦行だろうか?

今後ビジネスの世界に入る人もNPOや教育、医療の世界に行く人もいると思うけど、ひとかどの人材になるために、目標に向けて頑張って頑張って、みたいな話だったけど、頑張るというのはなんか苦行のイメージがありますよね。

デキる人間になるための1000本ノック。これはもう修行だと。でも本当に苦行だろうか? ということなんです。

私は、実はそうでもないと思っています。正しい環境に身を置いていると、とても楽しいプロセスだよということを伝えたいです。

私はみんなよりもうんと長くビジネスの世界に身を置いて、ずっとヒリヒリするほど頑張ってやってきてるけど、振り返ってもそうだし、今もそうだけど、目標に向けて頑張るということは、実はものすごく充実感のあることです。幸せなことです。

今のポジションとかステータスとか資産とかの話をする人がいます。でもステータスや資産は人を幸せにしないよね。個人差あると思うけど、私はそうです。

やっぱり夢中になって頑張っているときが一番幸せです。そのときは大変で「幸せだなあ!」って毎日言わないかもしれないけど、夢中になって頑張ることを失った瞬間に痛感すると思う。そして、目標を達成したときの喜びって格別なんだよね。

それを1000本ノックで繰り返すというわけだから、いい人生だよ。だから、怖がらないで楽しんでほしいなと思います。

DeNAの組織の原点

今日はその証拠写真を見せたいと思ってるんだけど、なかなかそういう瞬間って写真に撮れないんだけど。これは『不格好経営』にも出てる写真。1780円払わなくても見れちゃうという、今日の大サービスですね。

(写真を見て)これはDeNAを創業して、すったもんだえらい大変な思いをして、最初に「ビッダーズ」というサイトを作った、その「ビッダーズ」が生まれた瞬間です。今までずっとテスト環境でしか見れなかったものがWeb上で見えて、ユーザーが入札したのが見えたんですね。

この顔見てちょうだいよ。この4人の清々しい顔。やっぱり内から湧き出る喜びですね。もうこいつら生意気だったり、うっとうしかったり、すごいどうしようもないやつらで。一人ひとりのモチベーションの源泉もぜんぜん違う。

違うんだけれども、1つの目標に全員で向かい、そして達成しました。すっごい頑張って、辛い思いをして、ようやくここまで到達したからこそこの顔なんだよね。いい笑顔だと思います。

それで、私はこれが繰り返される組織を作ろうと思いました。それまでビジネススクールも行って、マッキンゼーで組織のモチベーション管理についてもコンサルティングとかして細かい知識がいっぱいアタマに入っていました。

えらそうに人事担当取締役に「こうしたほうがいいんじゃないですか」みたいなこと言ってたし。そういうマニュアル的なノウハウをいっそ全部忘れようと思った瞬間です。

そんなもんじゃないと。この高揚感でチームをまとめていこうということですね。だから、今私は自分の組織では、この瞬間をいくつ生み出せるか、この瞬間の連続を一番大事にしてます。

最近『ワンピース』のゲーム開発をローンチして、GrossingでTop10にも入りました。あと任天堂と共同で作った「Miitomo」のチーム。それから我が社が住商さんとやってる「KenCoM」というサービスとか。ローンチの瞬間のあのうれしさ。

あと、(DeNA) AUTOMOTIVEの自動運転、ロボットタクシー、これは大変だよね。実用化にあと何年かかることやら。でも、途中にこの瞬間を作るわけよ。例えば神奈川県藤沢で、ロボットタクシー走らせるトライアルやろうと。

まず、そのために○○省の○○さんが「うん」と言わなきゃダメだと。市長が「うん」と言わなきゃダメだと。そして「うん」と言ってもらう。それでこの顔。実際にトライアルやって、この顔。それからその次に必要なのは何なんだろう? この技術課題を解決しよう。それを解決してこの顔。それがやっぱり大事。本当に楽しいです。

だから、恐れないでほしい。自分の力をつけるということは、どれぐらいこの顔ができるかということでもあるんだよね。

たいして苦しくないストレッチだったら、この顔はできない。ものすごく高い目標で、それに向けて死ぬほど汗かいて、吐くほど考えて、だからこの顔になるわけです。そうすると、成長するということです。

そういう意味で大事なのが、夢中になれるかどうかだと思います。

職業選択は人生で初の意思決定

最後だんだんものすごくわかりやすい言葉になってきましたけれども、基本的には夢中にならないと成長しないよということです。社会に出るということはそういうことだから、楽しみにしててほしい。

今日は私は多くの人に当てはまる話をしました。3つの条件って言ったよね。純粋にコトに向かってるかとか。1000本ノックさせてくれるかとか。周りの人材のレベルが高いか。これはけっこうジェネラルなことです。

ただ、夢中になれることって人それぞれやっぱり違うよね。だからぜひ、自分で選択してほしいです。ここから自分の人生を生きはじめる。初めてなんじゃないだろうか? とくに学生はそうだと思うんだけど。

偏差値的に自分が行ける大学のなかで、マックス難しい大学に挑戦してきたんじゃないの? 社会で広く共有されている評価の軸にかなり影響されて生きてきませんでしたか? 日本の教育を受けていればそれが自然です。そうなるのは君たちの責任ではない。

だけど、職業選択においては初めて本当に自分の選択をしてほしいです。それはさっき鈴鹿が言ってたように、親が喜ぶものでもない。社会が認めてくれることとは、残念ながら関係ない。

ちなみにだけど、安定を求めてる人だっていていいと思います。それが自分の選択ならば。だけど、社会がみんな「この会社は安定している」と認めている会社が今一番不安定ですから。かなりのパラドックスです。

そういった意味でも、最後まで自分の独自の判断で選んでほしいなということです。ベンチャーという概念もワクワクするかもしれない。クールかもしれない。友達にドヤ顔できるかもしれない。それは大事なことじゃない。

自分がヒリヒリするほど高い目標を掲げて頑張るなかで、なにが起こっても「あいつならできる」と言われ、プロジェクトに呼ばれるひとかどの人材になれるかどうか。なるためには夢中になれる環境が必要。

なにに夢中になれるかは、自分の腹に聞かないとね。親や親友が夢中になってもしょうがない。自分で選択してほしいなと思います。

社会に出ると、新しい価値を創造しないといけない、だから自分の頭で考えられる人間にならなきゃダメだって言ったよね。社会に出る前からいい練習です。この職業選択というのは。

自分の選択をして、「あの日が1つのきっかけだったな」って今日のことを言ってくれる人が1人でもいたらうれしいです。聞いてくれてありがとう。

日本の学歴偏重社会を変えられるか

質問を2〜3受けます。時間的に申し訳ない。

質問者1:ビジネス・ブレークスルー大学の〇〇と申します。僕が思った「デキる人材」というところで、自分は高校を中退したんですけど、そういう人っていまだにマイノリティだなと感じています。

日本にこのままいてもダメだなというので、海外に行ったりしたんですけど。自分がそう思ってても、周りが賛同してくれないときに、どうしたら自分からアクション起こしたらいいですか?

南場:たぶん入り口だけじゃないかな。例えば、私と君が座ってランチを食って。1〜2回ミーティングをしたときに、「この人中退だ」って私の頭に残るだろうか? そうじゃないと思う。「この人はこういうことを深く考えてるな」とか、「あの人は我慢弱いな」とか、そういう印象は残るけど。

形式的なものではなく、中身がわかってもらえるような機会を作って。そして、あなたに力があるなら、1人、2人、3人、10人とわかってくれる人が出てくる。そいつらと一緒に仕事やればいいじゃない。ぜんぜん、そんな日本からいなくなる必要はないと思うよ(笑)。

(会場笑)

君みたいな人が大成功するのは、学歴偏重の日本の大問題に対抗するいいロールモデルになるから、応援したいと思うし、そう思ってる人いっぱいいると思う。

だからぜんぜん、大丈夫だよ。外国に行くなって行ってるんじゃないけど、その理由で日本を離れる必要はぜんぜんないと断言する。

質問者1:ありがとうございます。

南場:あざーす。

(会場笑)

南場:あとはいいですか? あと1人だって。じゃあどうぞ。

「コトに向かう」文化の重要性

質問者2:新しいコトをなす文化を作るために、南場さんはどういうリーダーシップをとられてたんでしょうか。

南場:「コトに向かう」っていう文化が重要なんだよね。 例えば新規事業のアイデアとか全部私から出てるかというと、ぜんぜんそんなことはなく、事業ではけっこううちのメンバーに惨敗してるんですけれども。「絶対勝ってやる」って思ってますけど、それはちょっと置いておいて。

人ってみんな、コトに向かう清々しい面と、あとやっぱり「チッ」ってなる闇の部分と言うか、身近な相対化をして自分はどうよと気にするような面と両方、ネイチャーとしては持っていると思うんですね。両面を持つ人から、清々しい良さを引き出すようなチームの環境を作ることが大事だと思うんです。

例えば、マッキンゼーは会社のブランドが非常に強いので、マッキンゼーという組織を守ることを大切にするし、人が人を絶えず評価してる組織、今から思えば内向きです。そこでも私はすごくうまくできたんですよ。

「私、ぜんぜん政治なんかやってません」みたいな顔で、実際は内向きに能力を発揮することもできるんだと自分で思います。

ところが一緒に起業した川田尚吾ってやつが、まったくその能力が欠如していて。DeNAで川田さんがNo.2のCOOでした。でも、いろんなことをやってるうちに課題によっては川田さんじゃなくて、違う若手に意見を聞いて決めることも出てきました。

「これは川田さんで、これは……」って分散していくわけですよね。で、「川田さんに言うの忘れてた」ってことも出てきます。

川田さんは自分がまったく知らないところで決定されたことについても、一度も不機嫌になったことがない。ただの一度も「俺は聞いてない」って言ったことがないんです。その決定のために川田さんが汗かいて働かなきゃいけなくなったとしても、です。

「聞いてない」とかへちまとか関係なくて。「この船を沈没させない。絶対にこのサービスを成功させる。そのために一歩でも半歩でも前に進むためにはなんでもやる」って人でした。

私はそれを見て、自分がせこい部分を出すのが恥ずかしいなと思ったんです。そして「こと」に集中するすがすがしい面を引き出す雰囲気ができてきます。その影響が組織の中心から広がり、身近な相対化とか椅子の取り合いとか、そういうことを気にする面を出しにくい、出すことが恥ずかしい社風になりました。

また、言語化して意識するようにしています。DeNAでは大切にする価値観として「コトに向かう」という言葉が繰り返し使われています。

ことに向かう文化ができてすごいメンバーが集まれば、新しいことはどんどん生まれるはです。そんな感じでいい?

質問者2:ありがとうございます。

南場:じゃあそういうことで。

(会場拍手)

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