経営学は成長してからやればいい

岩瀬大輔氏(以下、岩瀬):ありがとうございます。真田さんは、ご自身のお話もあるんですけど、いろいろ世代下の社長をいっぱい見てらっしゃいます。

「こいつ、社長として1人前になったな」とか「成長したな」って思うのはどういうときですか? あるいはご自身の10年前と今と比べての成長でも、どちらでも答えやすいほうでいいんですが。

真田哲弥氏(以下、真田):まず1つは、自分を過去と比べると、起業した頃って、みんな単純に財務と法務の知識がないんですよ。

よく学生の子たちにも言うんですけど、「経営学なんていうのはある程度成長してからやればよくて、そんなことどうでもいいよ。先に頭でっかちになる必要ないよ」って。みんな起業した頃ってそんなこと知らないですよね。

それが上場すると、いろいろ面倒くさい話がいっぱいあって、財務を戦略的に考えられるように順番に変わっていきますね。投資家との対話が増えるのでしょうがなく。いろいろ財務的なことを聞かれてくるので、そういうことが身についてくると。

そして、計画性。ある程度長期の計画を聞かれるから考えざるをえなくなる。最初の上場する前の起業する頃って、先の話なんてわかんないけど、一応紙を作らないといけないから、紙に絵を描いておいたぐらいの感じじゃないですか。でも、それが順番に計画を考えるようになってくるということ。

経営者として部下にどう接するか

一番変わるのは、やっぱり人に対する接し方。これは社長云々ではなくて、人間として。ここいるような人って、みんな能力があるから起業してると思うんですね。

能力がある人って「こんなこともできないの?」と部下ができなかったことに対して、やっぱり思っちゃうわけですよ。若いときってみんなそうだと思うんです。僕も「そんなことまだできてないの?」とか、「いつまでかかってやってるの?」とか思っちゃうわけですよ。

自分基準で「俺がやったらこんなこと1週間でできるよ」と思うことが2週間経ってもできてないと「まだできてねえのかよ!」って思うわけですよね。それをつい怒鳴っちゃうわけですね。若いときはやっぱりそうだったし、若い経営者はそこからスタートすると思うんですよ。

それがこう言ったらどういう反応になるから、どういう言い方をするのが一番腹落ちするのか、なんてことを考えながら、怒るようになるのはやっぱり30歳越してからでいいですよ。

若いときにはそんなことを考えてちゃダメだと思いますね。40歳越してくると、そういうことをちゃんと考えるようになるし。

プレイヤーとして率いるか、経営者として現場に任せるか

もう1つは、リーダーシップの取り方として、率先随伴と言うんですか、プレイヤーとしてまず自分が真っ先に走って、あとにみんながついてくるようなリーダーシップの形から、プレイヤーとしての自分ではなくて、プレイヤーのみなさんに活躍してもらうように、自分が段取りをするかたちを作るようなリーダーシップに転換していけるかどうかという。

社員30〜100人ぐらいまではプレイヤーとして自分がガンガンいく、「みんな、ついてこい」というリーダーシップでいけるけども。そのやり方だと、結局自分より優れたプレイヤーがその中から出てこないから、そのへんが限界です。

それ以上組織として発展しなくなることに気が付き始めて。ここの上をいくためには、俺より優れたプレイヤーを輩出しないとダメだわ。そのためには、俺がプレイヤーとしてあんまり前線に出すぎないほうがいいから、1個引っ込もうみたいな。

でも、言いたいことは言わないといけないし、方向性は決めないといけない。でも、あんまり自分自身でプレイしないという。この矛盾した2つを……。

でも、意見と方向性は俺が決めるという、これを自分のなかでうまく中和させてバランスが取れるようになってくるのが、次のステップだと思うんですね。そこにやっぱり時間がかかりましたよね。

岩瀬:どこまでマイクロマネージメントする、しないっていつもすごく悩みます。例えば三木谷(浩史)さんはけっこう細かいところまで口出しされるという話を聞いたり。

でも、あまり細かいことに口出しするのはよくないというような、バランスがあるじゃないですか。そのへんについては、真田さんは、どう考えられてますか?

真田:たぶんタイプによると思います。僕はマイクロマネージメントをしないほうなんですね。ぼくの性格でそれをやりだすと、とことんやりたくなるから。あまりうまく自分のなかではそれはできないので。もう「任せる」って言ったら任せる。逆に、細かいところはもうつっこまないというやり方しかできないですね。

うまくマイクロマネージメントをできるタイプの経営者も世の中にはいますよね。そこはどっちがいいとか……。

岩瀬:タイプということですか?

真田:タイプなんじゃないかなと思いますね。

岩瀬:なるほど。

吉田浩一郎氏(以下、吉田):私は今、出席しなければならない定例会議を持ってないんですよね。会議ってほとんど無駄だと思っています。別にメールで共有できるのと、人の顔を見たらだいたい何を考えてるかわかるので。事業に関してはほぼ全員に任せています。取締役会以外の会議はないってぐらい任せてますね。

社長の仕事はクラウドワークスの未来を描くこと

岩瀬:ありがとうございます。最後に1つうかがってから、みなさんに質問をいただければと思います。

「アントレプレナー人生論」ということなので、みなさんがアントレプレナーとして、一番大切にされてることをうかがいたいと思います。

ちょっと抽象的ですが、パネルのテーマに沿ってということで、お答えいただければと思います。最初にすぐ答えられそうな、吉田さん。

吉田:やっぱり夢でしょうね。経営すればするほど、明確な輪郭を持って夢を維持し続けるというのが難しくなると思っています。

今の私の一番の仕事は、20年後のクラウドワークス、あるいは20年後のクラウドソーシング全体を通して、人の働く姿がどうなってるか、あるいは30年後どうなってるか。それに対して、クラウドワークスがどう描いていくと、社会のインフラとして役に立てるのか。

「社会のインフラとはなにか?」というと、たぶんJRやNTTは社会のインフラだと思うんですよね。ネット系だと、クックパッドとかって聞くと、けっこうインフラっぽい雰囲気になってると思うんです。

「そういう姿になっていくには、どうしたらいんだろう?」ということを考える。そこからはわりと論理的な話で、As-IsとTo-Beじゃないですけど、あるべき姿と今の現状の延長線上の差分、この間の空白の部分ですよね。現事業が成長したらこうなるという、ここが非連続な成長を生み出さないといけない。

この空白の部分というのが社長のやるべきことで、現事業の成長というのは、今いる現メンバーでできるんですけど、個々のチャレンジは私しかできないわけですね。

これの一番アップサイドを作るのが夢なんですよ。夢を明確にして、30年後、我々のミッションである「“働く”を通して人々に笑顔を」、それを実現するための20年で営業利益1兆円を通して、働き方革命を成立させる。そのなかのマップを埋めていくことが一番重要だと思ってます。

サービス自体を会社の求心力にしてはいけない

岩瀬:ありがとうございます。 真田さんにうかがいたいんですが、始めた頃とか、わりと伸びてるときってそれに乗っかれるじゃないですか。でも、「これで本当にいいんだろうか?」という時期も必ずあるなかで、そういうときに、みんなの夢とか思いをつなぎ続けるにはどうすればいいんですか? うまくいかないときが続けば続くほど、けっこうしんどいときってあると思うんです。

真田:さっきのセッションで小泉(文明)さんも言ってましたけど、サービスが求心力になってると、サービスが変わったときに会社から求心力が一気になくなると。まったくそのとおりで。

うちの会社も今ゲーム中心にやってますけども、それ以前にぜんぜん違うセキュリティとかサーバーとか、そういうことをやってたところからゲームに移って。

そのときに、「どこを目指すんだ」みたいなことを経営者が自分の口ではっきり言えるかどうか。そういうことがすごい大事だと。ほぼ先ほどのセッションで言われてたことと一緒だと思いますね。それしかないのかな。