CLOSE

セカンドキャリアに幸あれ!! 戸田和幸×玉乃淳 Part.1(全1記事)

「自分だけの色を持つべき」“赤モヒカン”の闘将・戸田和幸のキャリア論

サッカー解説者の玉乃淳が引退後のサッカー選手の生活に迫る「セカンドキャリアに幸あれ!!」。今回は、日韓W杯の“赤モヒカン”で一世を風靡した元サッカー日本代表、戸田和幸選手のインタビューを紹介します。※このログはTAMAJUN Journalの記事を転載したものに、ログミー編集部で見出し等を追加して作成しています。

“赤モヒカン”の闘将・戸田和幸のキャリア論

玉乃淳氏(以下、玉乃):戸田くん、やっと会えました!! うれしいです。

戸田和幸氏(以下、戸田):玉ちゃん、相変わらず元気そうだね。なんかさー、君が履いているその赤いパンツとかを見ると、なんていうのかな、ゲストを立てるんじゃなくて、「俺のほうがお洒落ぞ!!」「俺のほうが勝ちだ!」「俺のほうがかっこいい!」みたいなオーラがビンビン伝わってくるんだよね。

玉乃:いきなりイジメるのやめて下さい(泣)。でもホント、戸田くんにはいつも感謝しているんです。

“東京ボーイ”だった僕が初めて地方クラブに移籍したときも、心配してくれて毎日のように電話をかけてきてくれたり……。つまりは、オンとオフの人格が違いすぎて(笑)。試合中のアドレナリンMAXの戸田くんからは想像できない優しさに、戸惑いを感じました。

戸田:サッカーをしているときは、とにかく勝負に勝ちたかったし、高く評価されたいし、もちろんお金だってできるだけたくさん欲しかった。

なによりも、クラブに関わる人たちやサポーターみんながハッピーになるには、自分はどういうふうに毎日を生きればいいかをすごく考えていたんだ。

そういうスタンスでサッカーをしている人がどれくらいいるのかなって考えると、正直、わからないけど、でも俺はそうやって選手時代を生きてきた自負がある。

それに自分が感じたことは行動に移してチャレンジするなかで、海外にも出て、まあ納得いく活躍はできなかったけど、その経験を決して無駄にしないよう日本で活かそうと考えてプレーしてきた。

監督・チームメイトとの衝突

玉乃:戸田くんのアグレッシブな姿勢は、時として他者との衝突も起こしてしまったのでは?

戸田:もちろん監督とギクシャクしてしまったことも確かにあった。若い頃は監督だろうがなんだろうがフラットな関係だと思っていて、「現状よりもより良くなるための議論や言い合いならいいじゃん」と思っていた。

極論を言えば、例えば10個のことを言って5個間違っていたとしても、あとの半分が正しければOKみたいな。それぐらい一生懸命だった。

でも監督からすれば、俺なんて子供みたいな年齢だし、あっさり突っぱねられたりもしたね。チームメイトとの関係もそう。

俺は本当にはっきりしているから。チームが良くなるため、勝つためだったら、120%で意見をぶつける。清水のときも、中心選手だったアレックス(三都主アレサンドロ)と毎試合のように喧嘩していた。いや、喧嘩どころじゃないな。胸ぐらをつかみ合って、もうバッチバチ状態。でも勝ったらお互いに肩を組んで、笑って喜びを爆発させていた。

まあ、そこまでやる必要があったかどうかはひとまず置いといて、やっぱり上手くいかないときも多かったかな。もうちょっと大人しくやっていれば良かったのかもね(笑)。

高校時代の恩師の教え

玉乃:戸田くんのその尋常ではない、“勝利への欲”は、どうやって育まれたんですか?

戸田:なんだろうね。親も兄貴も公務員だし。俺がこのキャラクターになったのは、おそらく高校のときの影響だと思う。桐蔭学園高に入学して、李(国秀)さんの指導を受けて、主張することの大切さとかを学んだのは事実。

ミーティングでは高校生ではまだ完璧に理解できないような話をしてもらったときもあった。政治とか、世界情勢とか。

でもたぶん、李さんが伝えたかったのは、「お前たちは結局これからそういう世界で生きていくんだ、サッカーが上手いだけではダメだ、見られている意識を持ちなさい」ということだったと思う。なんとなくわかるでしょ? 桐蔭の人と話していると、そういう雰囲気がない?

玉乃:戸田くん以外はないですね。

戸田:あ、そう。ないか。

玉乃&戸田:ははははは(笑)。

戸田:李さんにいつも言われていたのは、「お前、いつも帰りに町田駅で喧嘩してこい」ってね。もちろん、例え話の1つではあるけど、それぐらい当時の俺には本当に闘争心がなかったんだと思う。

これから社会に出ていくにあたって、自分をしっかり持つこととか、主張することを恐れるなと教えられた。でもまあ、あれだけ大人しかったはずの俺が、プロの世界ではまったく真逆な感じになっちゃうんだからね(笑)。

玉乃:人ってそんなに変われるもんなんですね!? もともと、もっとなにか過去にあったんじゃないかと勘ぐっていたんですが……。

戸田:うーん。強いて言えば、小学校のときから、練習中にファミコンの話をしているヤツとか大嫌いだったわ(笑)。ファミコンの話、子供なら、ぜんぜん普通のことだよね? でも、俺はすごく嫌だったの。

試合で点を取って喜んでいるのは別に良いけど、「お前、今日のプレーぜんぜんダメじゃん」とか密かに思っていた(笑)。

玉乃:あまり仲良くなりたくないタイプのチームメイトですね(笑)。

リスクを考えるなんてナンセンス

戸田:ははは。厳しすぎるかもしれないよね。俺のそういうところは、どうやらお爺ちゃんに似たらしいんだよ。お爺ちゃんはとんでもなく豪快な人だったみたいで、戦時中は1つ分隊を持っていたらしくて。

玉乃:絶対にそれだ。戸田くんのあの理解不能な闘争心の謎が、ようやく解明できましたよ。完全にそのお爺さんの血筋ですね。

戸田:そういう人たちが国を、日本をもっと良くしようと紡いできた歴史があって、自分たちが今こうして生かされているわけだよね。それはすごく真剣に考えてきたし、だったら俺はどう生きていくべきかを、サッカーをするうえでも常に大事にしてきたというのはある。

玉乃:ディス・イズ・“ラストサムライ”! その風貌といい、海外に挑戦したキャリアを振り返っても、一筋縄ではいかない。

戸田:サッカー人生を送るなかで、リスクなんて考えたこともなかった。欧州移籍のオファーが来て、躊躇するなんてありえないし、今の自分の環境と条件を照らし合わせている時点で、俺はもうナンセンスだと思ってるから。だって別物だから。

ステージが違うんだから。例え給料が下がったって行けばいいじゃんと思うし、俺はそう思ってやってきたからね。

イングランドでも、オランダでも、韓国でもそう。今振り返ると、全部テスト入団だったしね。チャンスがあるなら、すべて掴みに行ったよ。

もちろん、もっともっと良い結果を出したかった。それは今でも残念に思っているけど、当時は自分なりに最善を尽くしてやったから、後悔は一切してないよ。

サッカー解説者・指導者としての現在

玉乃:でも、あの“赤モヒカン”で一世を風靡した日韓ワールドカップの後にトッテナム移籍って、やっぱり戸田くんはただ者じゃない(笑)。そういう男だから、引退後も引っ張りだこなんじゃないですか?

戸田:いやいや。引退するときには、「2~3年は食いっぱぐれるぞ」と覚悟はしていた。オファーなんてないだろうし、それぐらい、俺はたぶん、イメージがあまり良くないんじゃないかって。

だから、各所に挨拶に行ったりもしたよ。自分から行動を起こさないと絶対、仕事の話なんて来ないと思っていた。風評を覆すには、自分から動くべきだと考えていた。

玉乃:人間同士なんて、実際に会えば誤解が解けて、わかり合えたりもしますからね。逆に、僕からすれば噂だけに惑わされている人は、こちらからノーサンキューですけど。

戸田:あれ? 急に威勢が良くなってきたね(笑)。それでもいろんな失敗をしてきたなかで、本当に多くのことを学ばせてもらったし、今は会っていただけるだけで感謝だよ。

あとは自分次第。解説の仕事もそうで、チャンスが来たら自分のすべてを出せるように最高の準備をして丁寧に1つずつやらせてもらっている。

あとは、福岡で小学生を教えることになったんだ。今、小学5年生の息子がサッカーをやってるので、引退してからは練習や試合を見に行ったりする機会は増えてるんだけど、指導者の在り方というか、俺なりに思うところがあってね。それで町クラブを回ってみたりもしてるんだ。

玉乃:戸田くんが小学生の指導ですか? 意外というか、イメージ的には、Jのトップチームで勝った負けたの世界のほうが似合っているような気がします。なんかシメオネっぽいですし。

戸田:オールバックだから?(笑)。いやでも、選手っていろんなキャラクターがあるけど、見なければいけない部分は、表面的なところではなく、やっぱりその奥側にある底の部分なんだと思っている。

みんなそれぞれ一生懸命に取り組んでいるのであれば、それは一回全部受け止めてあげたい。指導していくうえで選手を納得させられるだけの知識も必要だし、どう伝えるかも大事になる。

そういう意味では、現役のときから、人と向き合うときもけっこう踏み込んできたし、どこまで踏み込めばいいか、その距離感はわかっているつもり。

言葉の使い方だって、本当にそれを言う必要があるのか、適切なタイミングはいつなのか、ここはいったん我慢したほうがいいのか、とか。今はどのカテゴリーが自分に合っているのかまだわからないから、目の前にあることから少しずつやっていけばいいのかなと思ってる。

たまに小学生に交ざっても、誰よりもはしゃいで練習していたりするからね(笑)。それぐらい、正面からサッカーを学びたいんだ。

玉乃:120%の力と想いでサッカーと向き合う姿は、現役時代となんら変わらない。“サッカーラブ度”が半端なかったですもん。

戸田:半端ないね。今でも日中に自分のマンションの下の空き地で練習しているんだから。それをいろんな人が不思議そうに見ている。「なんだこいつは」みたいな(笑)。小学生相手に全員抜きしたりもするしね。

「自分だけの色は持つべき」

玉乃:そのうち、職務質問受けますから(笑)。でも、現役時代さながら唯一無二の道を歩みそうですね。

戸田:これから、どうなるかなんてわからないよね。これまでの人生を振り返っても、そのときそのときに必死にやってたらこうなった、ってだけで、その連続だよ。今度は指導する側になったけど、まだまだ俺はぜんぜんサッカーをやり切ってないから。まだ続いているから。

立場は変わったけど、サッカーを極めたいという想いは一緒。今まで自分が一生懸命にやってきて、上手くいったこと、そうじゃないことが山ほどあったけど、その経験を子供たちに伝えてあげたい。それがちょっとしたことでもなにかの助けになるなら、これ以上の喜びはないよね。

玉乃:あれ、今一瞬、戸田くんの未来が見えてきました……なるほど。なんか日本代表監督になる予感がしたので、そのときは僕をぜひ、アシスタントコーチとしてベンチに座らせてください(笑)。

最後に、現役選手に向けてひと言お願いします。

戸田:現役選手にメッセージ? この俺が? うーん。俺はただ単に人と同じじゃダメだと思って生きてきたからね。だって他の人と同じじゃ、いる意味がないと思っていたから。

ロボットにはなりたくなかったし、逆にそのスタンスが良く捉えられたときもあれば、逆もあったんだけど。でも、プロって結局そういうことなんじゃないかなと思う。

もちろん監督がいて、その要求に応えるのがプロなんだけど、でもそのうえで“お釣りを出せる”ようにしなければいけないし、俺はそうやって生きてきた。

まあ、現役時代にもセカンドキャリアにも共通して言えるのは、自分だけの色は持つべきなんじゃないかってことかな。

それを、所属するチームでプラスにできるように努力してもらいたいなと思う。失敗しようが、リスクを怖れずにチャレンジし続けていれば、結果的にいろんな経験ができるはず。

世界中でさまざまなサッカーを感じることができたら、最高に楽しいよ。それはもう間違いない。そうやってきたから、引退した今でも、俺、サッカーが死ぬほど好きだもん。

(サッカーダイジェスト 2014年7月29日号にて掲載)

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 大企業への転職前に感じた、「なんか違うかも」の違和感の正体 「親が喜ぶ」「モテそう」ではない、自分の判断基準を持つカギ

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!