「宇宙兄弟は当たったけど、まだハリウッドが熱狂してない」 傑作を生み出すための“悔しさの大きさ”

熱狂を呼ぶコンテンツのつくりかた #3/3

Advertising Week Asia 2016
に開催

5月30日~6月2日にわたって開催された広告の祭典「Advertising Week Asia」。3日目に行われたセッションでは、博報堂ケトル代表の嶋浩一郎氏が、『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』の編集者・佐渡島庸平氏、『ゴッドタン』『ピラメキーノ』のプロデューサー・佐久間宣行氏に話を聞きました。企画の発想法や、これからのメディアのあり方についてトークを交わしました。

編集者はクリエイターの“鏡”になる

嶋浩一郎氏(以下、嶋):さっき佐渡島さんが言われていたことで、クリエイターの人たちと一緒にコンテンツを作っていくというのは、相当信頼されないとパートナーシップが組めないわけじゃないですか。

そもそも今、世の中的には、「直接作家が原稿書けちゃったりするから編集者はいらないんじゃないか」みたいな、とくに紙の場合はそんなふうになってるんですが。

作家の人から信頼されるには、先ほど佐久間さんは編集という技術と芸人さんの価値の交換ということをおっしゃられていましたが、佐渡島さんはいかがですか?

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):基本的には、超一流の漫画家は1人で全部やれるんですよね。井上雄彦さんもそうだし、安野モヨコさんもそうだし、小山(宙哉)さんもそうなんですけど。作品を作る時は、自分で自分の心のなかに降りていって作って出すわけですよね。それを何度も繰り返していて、「何度もおもしろいと言われてるから、これでおもしろいだろうな」というのを繰り返しやっているんですけれども。

編集者の役目は、鏡だと思ってるんですよ。鏡なしで髪の毛切ったりメイクしたりするのは、どれだけうまい人で何度もうまくやっていても、100回1人で切ってうまくできた経験があっても、やっぱり「大丈夫かな?」というのを鏡で見たいじゃないですか。

例えば、ほとんどの編集者の人は、おもしろくないと思っていても「締め切りヤバいから、これでもらっとくか」とか、「これ、俺はおもしろいけど、今の編集長は絶対ノーと言うな」とか、たくさん違う要素を入れて返事をするんですよ。

そうじゃなくて、純粋に自分がどう思ったか、自分の心に響いたか響かなかったかということだけを言うと、鏡として機能するんですよ。

僕の場合は自分で作ろうとは一切思ってなくて、1人で全部やれる人を見つけてくるんですよ。それでその人が1人で全部やりきれるように、しっかり考えられるように、環境を整えて、鏡的な機能をするというのが僕の仕事なんですよね。

:じゃあその鏡のやり方は、相手によって違うということですよね?

佐渡島:そうですね。

:番組を見ていると、『ゴッドタン』はタレントさんとスタッフのみなさんとの一体感がすごくて、ほかの番組以上の熱量がある感じがするんですけれども。そういう演者のみなさんとの関係の作り方ということについては、佐久間さん、どうなんですか?

うまくいく秘訣は「プライベートで仲よくなりすぎない」

佐久間宣行氏(以下、佐久間):これは逆説的なんですけど、プライベートでまったく仲よくならないというのがうまくいっている理由だと思います。もっとベタに言うと、お酒の席で決まったものはなにもないというのもあるし。

プライベートで仲よくなりすぎていないから、「手を抜いたら切られるんじゃないか?」とお互い思ってる、関係がちゃんと続くというところがありますね。

僕は、出演者のみなさんとすごく仲よくて毎週飲みに行ってるんじゃないかと思われてるんですけど、1年に1回の打ち上げ以外は行かないので。

:逆に、会議とかはちゃんとやるということですか?

佐久間:そうですね。

:企画会議がすごく長いほうなんですか?

佐久間:単独でやっているお笑い番組の場合は、毎回企画を立てるようなものなので、それは時間がかかりますかね。

:今のクリエイターの人との関係性の作り方は、すごくおもしろい議論ですよね。広告においてもいろいろ共通点があると思いますけども、あと10分ぐらいになってしまったので(笑)。

後半は人の気持ちをつかむコンテンツの作り方とか、手口みたいなことをお2人に聞いていきたいんですけれども。佐久間さんは、資料に書いていただいたんですよね?

佐久間:この時代になってから僕が番組を作る時に考えていることをいくつか書きました。先ほど申し上げたとおり、仲間になりたいと思わせることがすごく大事で。

今はコンテンツをいくらでも見られるんですよね。あと、見逃してもなんとかついてこられる。そのなかで、仲間になりたいと思わせること、この人たちを応援したいと思わせることがすごく大事だなと思っていて。なんだったら、アイドルでも仲のいいグループのほうが人気があるんですよね。

佐渡島:嵐とかね。

佐久間:たぶん日本人は、世界的にもそうかもしれないですけど、仲のいい人たちを応援したいというのがやっぱりある。

「仲間になりたいと思わせる」ことが重要

あとは、昔のテレビというのは、VTRですべてバラしちゃって、惰性で見せるということが多かったんですけど、今は逆にできるだけ先バラシしないで、リアルタイムで驚かせて口コミを起こすことが大事。

なんでかと言うと、見逃してもくっついてくる人というのは、変な言い方ですけど、違法サイトを使ってでもついてくるんですよね。見てきちゃうから、隠す必要がないというか。だから、同時にみんなで見る喜びを意識するということ。

これは嫌な言い方ですけど、テレビとかドラマの場合だと、できるだけ早い段階でかまさないと、もう類似コンテンツに負けるという。なので、早い段階で裏切るということ。それがすごくうまくいってるなと思ったのが『おそ松さん』ですよね。♯1の回がもうDVDに入らないという。けっこう早い段階ですごく泣ける話が入ってきていて、視聴者の期待をガツッと裏切って作っているし。

:文脈の、波の作り方が、ぜんぜん変わってきている。

佐久間:変わってきているなと思います。

:佐渡島さんは、今のお話を聞いてどうですか?

佐渡島:僕が意識しているのと共通することがいっぱいありますね。とくに「仲間になりたいと思わせる」というのは、すごい重要だなと思っていて。やっぱり距離が近づいてきて、テレビのなかの人たちが特別な人たちじゃなくなってきているから、自分たちの延長線上で、自分たちと似てるなと思えるかどうかというのは、すごい重要だなと思いますね。

:佐久間さんは企画の発想法みたいなことで、もう1枚作ってくださっているんですけれども。

佐久間氏の企画の発想法

佐久間:これは番組の種になるようなことなんですけど。僕だけかもしれないですけど、「みんなが盛り上がってるのに、なんで僕だけおもしろくないんだろう?」とか「僕だけなんでおもしろいんだろう?」という、自分だけの違和感をそのままにせずにずっと考えておくと、それがあとから企画になるということがありますね。

「さっき、あの人の暴露話をしてみんな盛り上がってたけど、僕はそういうところの下品さが嫌いだったんだな」と思ったら、それが番組になったり企画になったりするんですね。自分だけ盛り上がらないところというのは、結果、自分の価値観だったりするので、それをもっと強いものに掛け合わせるだけで、新しいものができたりすると思いますね。

それと同じで、既存のヒット番組のコア、例えばテレビ東京だったら素人モノは絶対に当たるんですけど、その要素と、他局でメガヒットしているものをいくつか掛け合わせるだけで、またこれも企画として成立したりするんですよ。

あとは自分の武器ですね。僕はサブカルチャーがすごい好きで。サブカルチャーがすごい好きだけど、テレビのなかでお笑いと掛け合わせているものはないなと思ったから『ゴッドタン』を初めたり、コント番組のなかに演劇の力を入れていったりしました。それがマスヒットになるかどうかはわからないですけど、少なくともオンリーワンのものは作れると思いましたね。

4番目は先ほど申し上げたとおり、出演者から企画を考えるということ。5番目は、これは冗談みたいなもんなんですけど、本当になにも浮かばない時は、週に1回か2週間に1回、書店の新書のコーナーを回るんですよ。新書のタイトルはどんどん変わるじゃないですか。新書の人たちはもうタイトル命でずっと考えてるから、「ああ、今は怒りたくないんだ」とか。怒りたくない本が出た3週間後ぐらいに「怒ってもいいんだ」みたいな本が出てたりして……。

(会場笑)

佐久間:新書のタイトルを眺めているだけでなんとなく企画が思いつくというのはありますね。キーワードとして、これがメインコンテンツになることはないかもしれないですけど。

:僕も博報堂が神保町にあった時代は、三省堂の平積みのタイトルを毎週見に行って、それを一言のキーワードにまとめるという訓練をしてましたね。

佐渡島:それで時代の空気を感じるというのは、おもしろいですね。

:「今週は『対立』だ」とか。そういうのをやってましたね。

佐久間:Twitterのバズワードもあるんですけど、それは多少ネタ化しているところもあって。新書の人たちは本当に気分をつかんで売ろうとしているから、キーワードとしてはおもしろいんですよね。

「悔しさの大きさ」が原動力に

:なるほど、おもしろいですね。佐渡島さんにも、人の心をつかむコンテンツの作り方みたいなところをお聞きしたいんですけれども。

佐渡島:僕の“熱狂のレシピ”で言うと、(スライドに)「悔しさ」って書いてましたっけ?

「悔しさの大きさ」ということで、自分のやっていることを自分でどういうふうに評価するかというのが、すごく重要だなと思っていて。例えば、講談社にいる時に『宇宙兄弟』が「すごい当たったね」、「がんばったね」と周りからすごく言われたんですけど。僕からしてみると、「当たってるのに、ハリウッドが熱狂して『映像化したい』とか言ってこないな」と。

例えば、トム・ハンクスがこれを読んで「やっぱり宇宙映画をもう1回撮りたくなった」というぐらいになってこそ当たってると感じるから、ぜんぜん当たってると思わなくて、「もっともっと違うことをやっていかなくてはいけない!」という思いなわけですよね。

やっぱり『ドラゴン桜』をやった時も、まだ中堅の作家さんと当てたことしかなくて、新人と当ててない。そのことが悔しいとか。上を見るとまだまだあるわけで。

アメリカで1960年代ぐらいにCAA(Creative Artists Agency)というタレントエージェンシーの会社ができたんですけど、その会社ができて3年ぐらいでハリウッドの俳優のギャラが10倍ぐらい変わって。CAAがきっかけで、ハリウッドが世界的な産業へと変わっていったんですよね。

タレントエージェンシーのあり方をその人が変えたというのはすごいことで。じゃあ、コルクはCAAと比べてどうなんだと。

CAAは3年ぐらいでそれだけの変化を起こしたのに、さっきも僕は「あと2年ぐらいすると大きな変化が表れます」とか言っていて。チンタラしてんなと思うと、悔しくてしかたがないというふうに、下を見ようと思うといっぱいいるんだけど、上を見ようと思ってもやっぱりいっぱいいて。上を見る癖というのが、「まだ足りない、もっと考えないと」、「もっとこういうことができるはずだ」というのを延々と思わせてくれるんだなと思いますね。

これからメディアはどうなっていくのか?

:では、時間も押し迫ってきましたので、最後にお2人から。

それこそみなさんが聞きたいことで、2分じゃ話せないよみたいなことなんですけど。ポイント、キーワード的なことでもいいので、佐渡島さんからお願いします。

佐渡島:僕は、限りなくいろんなものが細分化していくだろうなと思っています。もともとは雑誌とかテレビ局とか、テレビとか出版とか大きなものだったのが、FacebookのなかもTwitterも、それぞれの場所が結局はメディアになってきていて、コンテンツみたいなものが細分化されてきている。

多くのコンテンツが細分化されて外に出ていくなかで、それをどういうふうにしてもう1回再編集・キュレーションして出していくのか。

だから音楽を作った人間よりも、再編集しているDJのほうが価値を持ってきているというようなことが、全部の産業に当てはまってくるんじゃないかなと思っていますね。

:はい。じゃあ佐久間さん、最後に一言お願いします。

佐久間:テレビは今は不便なんですけど、どんどん便利になっていくと思うんです。便利になっていつでも見れるようになればなるほど、目利きの存在というか、キュレーションしてくれる人がテレビにも必要になってくるし。

もしかすると、例えば僕が作るから見てくれるとか、もうちょっとテレビを作っている人間たちがクリエイターとして出てくるかなと思います。

:さっきおっしゃっていた、「テレビの人はもっとクリエイターであるということを意識してもいい」という。

佐久間:いつでもどこでも全録とかによって見れるようになってくるほど、なにをきっかけに見ればいいかわからなくなってくるはずなので、クリエイターの名前か、目利きで「これがおもしろいよ」と言ってくれるキュレーターの存在、その両方が際立っていく世の中になるんじゃないかなと思いますね。

:はい。本当にこの2人の話はもうちょっと時間がほしかったんですけれども……今日は45分という短い時間でございましたが、コルクの佐渡島さんとテレビ東京の佐久間さんでした。最後にお2人に拍手をお願いします。

佐渡島・佐久間:ありがとうございました。

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