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Placebos & Nocebos: How Your Brain Heals and Hurts You(全1記事)

「病は気から」は本当だった プラセボ効果の不思議

実際にはなんの治療効果もないはずの薬を飲んでいるのに、「効き目がある」と思い込むことで、本当に症状がよくなることがあります。“プラセボ効果”と呼ばれるこの現象がなぜ起こるのかは、実はまだよくわかっていません。しかし、単に精神的な面だけでなく、「きっとよくなる」と願うことで身体も生理学的な反応を実際に起こし、免疫反応を活性化して有害なストレスホルモンの分泌を抑制します。そして、逆に思い込みがマイナス方向にはたらいてしまう“ノセボ効果”も存在します。「病は気から」というのはどうやら本当のようです。

偽物の薬でも効果を発揮してしまうプラセボ効果

マイケル・アランダ氏:“プラセボ効果”という言葉を聞いたことがあるでしょうか。実際にはなんの治療効果もないはずの薬を飲んでいるのに、効き目があるのだという心理が働いて、本当に症状がよくなることを言います。

偽の薬が実際に効果を表すというこの現象は、医学界でも、まだよくわかっていないのです。

今回は、ハンク・グリーンに代わって、私、マイケル・アランダがお届けします。

科学者たちは、1700年代からプラセボ効果の存在を知っていましたが、どうしてそのように作用するのかは現在でもよくわかっていません。

プラセボは見かけだけの薬にしては、医学的な効果が非常に高いことがわかっています。そのため、アメリカは連邦法で、新薬治験には、プラセボを用いた二重盲検法を実施しなければならないと定めています。

つまり、食品医薬品局(FDA)に新薬として認めてもらうためには、二重にガードされた、プラセボテストに合格しなければならないのです。これは、現実にはかなり厳しいテストです。

プラセボはうつ状態、不安、痛み、不眠を和らげる効果があると確認されていますし、気分を高揚したり、思考力を強化したりもします。そのような効果があるのは、本人が本当の薬だと信じていることもありますが、医者に対する潜在的な信頼も影響しています。

例の、古典的なパブロフの条件反射がここでも作用していると言えるでしょう。パブロフのことはご存知だと思いますが、犬にエサをやるたびに、鐘を鳴らしていると、しまいには、鐘の音を聞くだけで犬がよだれを垂らすようになるという実験をした人です。

子供がバンドエイドを信奉して、バンドエイドをつけた途端、傷がよくなったと思い込むのとよく似ています。

実際に身体も生理学的な反応を起こす

治療を受けたら誰しも、病状がよくなることを期待します。プラセボという名前自体、ラテン語で「私は喜びを得るであろう」を意味します。

「きっとよくなる」という信念が心に生まれることがプラセボの基本です。

また、単に精神的な面だけでなく、「きっとよくなる」と願うことで身体も生理学的な反応を実際に起こし、免疫反応を活性化して有害なストレスホルモンの分泌を抑制します。

脳から自然に作られるホルモンで、痛みを緩和するエンドルフィンというホルモンがありますが、プラセボ効果はそれと関係しているという研究もあります。

病状がよくなるという期待感は実際に、エンドルフィンを受け取るオピオイド受容体を活発にし、鎮痛システムを活性化するのです。それらの受容体は、アヘン剤やほかの鎮痛剤が鎮痛のために活性化する受容体と同じなのです。

別の研究では、アルツハイマー病が進んだ患者は鎮痛剤やプラセボのどちらをあたえても痛みはあまり軽減できないことがわかっています。

なぜなら、病気のせいでオピオイド受容体が損傷されており、本物であれ偽物であれ、治療の期待感からの恩恵を受けることができないからです。

逆に思い込みがマイナスの効果をもたらすことも

しかし、思い込みが逆の効果をもたらすこともあります。プラセボ効果がプラスではなく、マイナス方向に働くのです。それを“ノセボ効果”といいます。

ノセボは期待や思い込みのために、悪い効果が出てくることを言います。偽薬が悪い副作用を引き起こすのです。

例えば、全身に慢性の痛みが生じる線維筋痛症という病気がありますが、それに対する薬の治験で、プラセボ投与を受けた志願者の1割以上が、吐き気やめまいの副作用で、治験から脱落してしまいました。

プラセボですから身体には無害のはずですが、そのような副作用があるかもしれないと知らされていたのが原因です。

副作用があるかもしれないと聞いただけで、本当に副作用が起こってしまったわけです。

ノセボ効果は、本当の薬を投与された患者の場合でも起こります。つまり、医者がこの薬にはこういう副作用があるかもしれませんよと患者に告げると、患者は実際にその副作用を経験してしまうのです。

前立腺の肥大を抑えるために開発された薬の治験で、患者の半数には、勃起機能に障害が起きるかもしれないと告げ、残りの半数にはそれを告げなかったところ、告げなかった人たちで副作用を訴えたのは15パーセントでしたが、告げた人たちは44パーセントが勃起機能障害を訴えたという報告があります。

結局のところ、プラセボやノセボの反応がどうして起こるのはいまだによくわかっていません。そのメカニズムはおそらく状況にも左右されるのでしょう。

しかし、ハーバード大学でプラセボと複合治療の研究をしている、テッド・キャプチャック氏は、突き詰めていけば、案外単純なところに行き着くと考えています。薬は確かに大切ですが、それよりもっと大切なのは、優しい看護と、医療従事者との信頼関係なのです。

キャプチャック氏は、プラセボ効果が起こるのは、単に与えられた偽薬が本物と信じるからだけではなく、むしろ医者の思いやり、温かさ、優しいまなざし、同情などと深く関わっていると考えています。

医療行為がどのように行われるか、また、その行為にどれだけの信頼が寄せられるかが、プラセボを考える上で大切なことのです。

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