どんな指標で生産性を評価しているのか?
北浦正行氏(以下、北浦):それでは、これからの時間は会場のみなさん方との意見交換の時間にしてまいりたいと思います。どうぞご自由にご質問をいただきたいと思いますが、ご質問のある方はどうぞ挙手をお願いできますでしょうか。どなたでもけっこうです。
質問者1:生産性を向上するといった時に、当然数字が上がってこなければいけないと思うんですが、先ほど林さんからダイバーシティというお話があったんですけれど。その間に、それを取り入れたところが明らかに数字が向上したとか、業績が上がったとか、もしくは単に数字が上がったのではなくて、生産性の指標、どういうメジャーで上げていこうとされているのか。
そのへんの独自のポイントやエンゲージメントみたいなものがあるのか。そういった指標をどのように見られているのか。また全社に導入したときに、今お話いただいたような範囲で、どのような向上・動きがあったのかというのを教えていただきたいと思います。
同じようなことで牧野さんに、製品を導入した企業、もしくはこれまでの実験のなかで生産性を上げるというときに、業種だとか企業の形態によって生産性の上げ方は違ってくると思うんですけれども、どういうメジャーを考えてやられているのかというところをお聞きしたいと思います。
拘束時間をいかに減らすか
林宏昌氏(以下、林):ありがとうございます。まさに目下悩んでいるテーマです。昨年から取り組み始めて、アンケート上では従業員の満足度が高まるということと、従業員一人ひとり、あるいは組織長に、「生産性が高まった」と回答してくれている人が半数以上いるというのはわかりました。
では、どのような指標で行っていくのかということが大事だと思っていまして、我々のグループのリクルートスタッフィングという会社は、例えば「時間あたりの売上高」というものを指標とし、それを高めていくんだと言っています。
これは、時間と売り上げの相関関係があまりないことはわかっていたので、いかに効率的に働いていくのか。つまり時間あたりで売上高を高めていくのかということを考えていかなくてはいけないと思っています。
僕らも今は、生産性の指標には1人あたりの利益みたいなものを置いていたりするんですけれど、このあと、そこを時間という概念にもう一段ステップアップさせていくべきなのか。それができるのかということを考えていかなきゃいけないなと思っていまして、まさにそこを悩んでいます。
もう1個はまさに「労働時間」というものの定義がいよいよもう1回必要になってきまして、僕らはもう1回そこを開きながら、拘束時間を短くしていくということができないだろうかと考えています。移動とか通勤時間とかそういうものを減らしていこうと思っているので、そのためにリモートワークなり、それからサテライトオフィスというのを首都圏に数カ所作っていこうと思っています。
家では仕事ができないという人がある程度いるんですが、わざわざ1時間とか1時間半かけて本社に通うのではなくて、家のそばにあるサテライトのオフィスで働くという考え方でやればいいじゃないかと。カフェでもいいんですけど、それだとなかなかテレビ会議ができないので、テレビ会議ができるようなサテライトオフィスを作っていこうと。
なので、そういった意味では拘束時間をいかに減らせるのかということが1個、今の目下のテーマなんですが、会社としてどのような指標を掲げるのかというのは、頭を悩ませているところです。
コンピューターで作業する時間を極限まで減らす
牧野正幸氏(以下、牧野):製品を導入した企業の生産性向上というのをどう見るかということですね。今まで統計を取る時というのは、売上高がいくらだとか、店舗当たり、面積あたりの売上高がいくらだとか、利益がどうなっているかとかいうのを当然コンピューターに入力されたデータに基づいて取ってきていたんですが、コンピューターのオペレーションについて統計を取った会社というのはほとんどないんですね。
例えば、1つの伝票入力に何秒かかっているのかとか。ある画面を開いた後に、その画面を何秒間放置しているのかとか。スプレッドシート1つとっても、スプレッドシートを作るのにこの人たちはどれぐらいの時間をかけて、どれだけの量のデータを入力したか、もしくは操作したかなんていうものも、実は当社のシステムではコンピューターが全部データを記録しています。
結果的にそれの平均値を取ったり、統計データを取って、それを月次で見ながら生産効率を見ることは可能ですね。人工知能を使っているので、人工知能がサジェストしてくれて徐々に効率は上がっていくはずなので、それが上がっているのかとか。
また同業他社に限らず、他社比較、いろいろな会社と比較してみて自分の会社はどれぐらいの効率性になっているのかということを見ることができます。例えばこの人が1日に検索を何回かけて何に使ったかまで、コンピューター側ですでにデータが取られているので、それが結果的に業務につながっているのかということをずっと測っています。
別に世の中のコンピューター全部がじゃないですよ、うちのシステムだけです。Yahoo!のページを見てるからって、それをいちいちチェックしているわけじゃないですけれども。業務システムのなかにいる間にどのようなことをやっているのかというのを見て、我々は実はそれによってコンピューターを触る時間をまさに極限まで減らそうと思っているんですね。
拘束時間を減らすのと同じように、実はコンピューターを触っている間は、ぜんぜん生産性がいいわけではないので、できるだけコンピューターを触る時間を減らして、むしろコミュニケーションだとかコラボレーションのほうの時間にとってもらいたい。もしくは考える時間にどれぐらい取っているのかというのが重要なので。
コンピューター操作時間をいかに短くするかっていう指標はわりと簡単にグラフで見れるようになっているので、そういったところで生産性の向上を見ています。
北浦:今お二方からお応えいただいたんですが、ベルグさんはいかがですか?
ミカール・ルイス・ベルグ氏(以下、ベルグ):まさにおっしゃっていたんですけれども、まず考えるところは、売上が上がるのかということですよね。でも、それぞれのKPI、企業に合った必要な測り方をするべきです。それは企業によって違うかもしれないんですけど、スタンダードな統計をそれこそ生産性本部が作れると、比較できるメリットがあるかもしれません。
それから、コストが下がっているかということも指標になります。この企業は競争力、この企業は時間の使い方というように、企業によって必要なもので測れるとすごくいいと思います。
質問者1:ありがとうございました。
「給料が減った」苦情はありましたか?
北浦:ほかにご質問がありましたらどうぞ。
質問者2:林さんにお聞きしたいんですけれども、さっき牧野さんのお話にもあったように、テキパキと働くと賃金が減るということが起こりますよね。実際にリクルートでやってみて、従業員の満足度が高いとおっしゃいますけれども、「給料が減って困った」みたいな苦情はありましたか?
それから、これはよく聞かれる質問かもしれませんが、リクルートさんがやろうとしているような理想を追求する上で、労働法制等、制度的な問題でなにか障害になっていることがあったら教えてください。
またこれは北浦さんにお聞きしたいのですが、ノルウェーと日本の比較を見ますと、ノルウェーの調査対象の4分の1の方が公務員なんですね。日本の方はほとんどが企業で働く会社員です。このへんの違いが結果になにか影響している可能性があるのかなと思うのですが、いかがでしょうか。
林:我々は基本的には一定程度の残業代をインクルードした賃金体系にしているので、大多数の人たちはそれによって賃金が下がったというようなことはありません。ただし、派遣の人たちも含めてリモートワークを認めると言っています。
リモートワークを認めるのは、個人の満足度もあるんですけど、生産性を高めるためにやっているので、構造的にそこの人たちは生産性が高まると給料が下がるということになるのが、実は目下課題です。
そこについては、生産性を上げてもらって、一方で彼・彼女たちのスキルが上がるような仕事をしっかりと渡しながら賃金を下げないようにするのか。あるいは労働時間を少し短くして賃金が下がってもいいのか、というのは、しっかりと面談をしながら個別でコミュニケーションをしているというのが現状です。
労働法制のところについては、ここは安倍政権になってからだいぶ変わってきたなと思っていまして。法制そのものが変わったというより、捉え方がだいぶ変わってきていると思います。
以前の、「1分1秒を把握することが是なんだ」ということから、リモートワークや働き方を多様化させていくということがまずあって、そのなかでいかにしっかり把握できるようにするのか。あるいは長く働き続けてしまう人が出ないためにどうするのかという本質的なテーマに進んできているのかなと思うので、今、なにか変えてほしいということはありません。
合理的な議論が成り立つように
北浦:労働法制のお話が出ましたが、牧野さんはどうですか?
牧野:たしかに安倍政権になってからは、ずいぶんまともな議論が成り立つようにはなってきていますね。
旧来の場合はもう本当に文言1つの世界で、「法律的にはここにこう書いてますからダメです」と。
「でもこう書いてあるというのは、そうは解釈しないんじゃないですか?」「いや、私はそう解釈します」という議論がもう延々と続いていたのが、ずいぶんと変わってきていると思うので、このままもっと合理的な判断ができればいいと思います。
本当に今、お話にもあったように、長時間労働したら効率も落ちて、頭がボケちゃいますから、我々としてもそもそもあまり長時間働いてほしくないというのがあるので、そこを管理するならしてもいいと思うんですけれども。
同様に賃金の体系で、さっき言っていた派遣社員の方とかですよね。うちもある程度の時間の残業代をインクルードしていて、実際働いた時間がそれ以下でもちゃんと払っちゃうので、そこにおいてはとくに問題にはならないんですけれども。
ただものすごく細かく言うと、この人が本当にこの時間を超えていないのかというのをどうやってつかまえるのか。超えていた場合には問題ですよねとなるので、そこをどう捉えていくのかというのはどうしても課題としては残ってきています。
北浦:最後の公務員の比率の問題ですね。ノルウェーは確かに公務員が25パーセントと多いので、そういう影響がないのかというともっと精査しないといけないと思います。一般に北欧の場合は国営企業の比率が高いのと、国営企業と言っても日本の公務員のようなものではなくて、どちらかというと昔の三公社という、そういう現業的な性格を持ったものも含まれていますので、公務員が多いと言っても、必ずしもいわゆる日本的な官庁に勤めている方というわけではないと思います。
これはのちほど改めてベルグさんに確認いたします。そういった意味ではそのへんはあまりバイアスはないのかなと思います。
それではお時間ですので、まだまだお聞きになりたい方もいらっしゃると思うんですけれども、このへんでパネルディスカッションは終了させていただきたいと思います。ベルグさん、林さん、牧野さん、本当にありがとうございました。