26歳女性からの質問に回答

乙君氏(以下、乙君):最後これ、1個質問だけやってもいいですか?

山田玲司氏(以下、山田):いいよいいよ。

乙君:ちょっと緊急なやつ。緊急というか、深刻なやつ。

山田:はいはい。

乙君:玲司さん、ちょっとお茶でも飲んでください。

山田:いいっすよ。

乙君:さっきもコメントで「ゼェゼェ言ってる」って(笑)。

(一同笑)

山田:マジで? どうしたどうした?

乙君:玲司さんが疲れてるんじゃないかって。

山田:あーあーあー、大丈夫だよ(笑)。

(一同笑)

乙君:『Cバージン』やるときは、これから酸素を用意しろみたいな(笑)。

山田:そうかな、マイケル・ジャクソン的な感じねー。

乙君:コメントめっちゃよかったんだけど、やっぱ玲司さんがノッてるとさ、挟めないよね。

久世孝臣氏(以下、久世):うん、挟めない挟めない。

山田:ごめんね。

乙君:っていうので、そういうのは来週の楽しみでね。はい、質問いきます。モコさん、女性26歳の方からです。

読者の辛辣な言葉を受け入れるにはどうすればいい?

「初めまして、モコと申します。第1回から番組楽しく拝見しております。今回、玲司先生にご相談をしたく、メールをお送りしました。相談内容は新人漫画家が読者さんに痛烈な感想を書かれたとき、どう立ち直ればいいかです。

私は新人漫画家で、度々読み切り漫画を雑誌に掲載していただいています。自分の漫画の評価や評判は気になりますが、マイナス評価を引きずってしまう性格のため、自分の作品や名前は検索しないようにしています」。

エゴサはしないようにしてると。

「しかし、先日、通販サイトを利用していた際、関連商品の欄に私も掲載させていただいている雑誌がたまたま表示され、星1の評価がつけられていました。目に入った瞬間、ブワッと汗が吹き出しましたが、なにが書かれているんだろうと気になったため、ついクリックしてしまいました。

開くと、雑誌がつまらない、とくに私の漫画がつまらなかったという内容の文章が、死ねとまではいきませんが、暴言に近い言葉で長文にわたり書かれていました。トップカスタマーレビューでした。

なるほどと思う点もありましたが、勉強になるという以上に傷心してしまい、もう何日もペンを持てていません。次の締め切りもあるのでグダグダしている暇はないんですが、読者さんにあれだけのことを言わせてしまう私は漫画家失格なのではないか、という負の思考に陥ってペンが止まるばかりです。

うれしい感想をいただくこともありますが、件のレビューが強烈すぎてなかなか前向きに考えることができません。読者さんの辛辣な言葉を受け入れ教訓にする、または、はねのけられるようになるには、どうしたらいいでしょうか?」

そういう強いメンタリティとか、柔らかい心というか、新人漫画家として初めて世に出ようとしてて、でも、読者にかなりクリティカルなことを言われた場合に、さあ、どういうふうに。

もう戦ってる場所が違う

山田:あの、おれも自分の漫画を批判されたりとか、おれに関することで批判されるのが大嫌いなんで、見ないんだよね。絶対に。

乙君:(笑)。

山田:エゴサなんか絶対にしない。できればインターネットしたくない、ぐらいの(笑)。

乙君:携帯持ってませんでしたもんね。

山田:ずっと持ってなかったね。

久世:えー!

乙君:それはエゴサとはあんまり関係ないんだけど(笑)。

久世:うんうん。

山田:でも、油断して、1回ホームページみたいなものを作ろうなんて言ってやって、コメント欄にしたら、なんかワーッてディスも入るんで、「ダメダメ、終わり終わり!」みたいな、「おしまいおしまい! そんなん見たら終わっちゃうよ!」って言って、終わらせてしまいましたね(笑)。

(一同笑)

山田:だから、これは向き不向きで、おれはたぶんモコさんと同じタイプの人間なんで、その対処の仕方は、例えば愛のある教訓ね、それから指摘、「ありがとうございます。おかげで成長できました」みたいなことには期待してない。

乙君:あー。

山田:それはなんでかっていうと、レビュー書く人もそうだけど、例えばその批判してくる人たちって、過去の物、今ある物と比較してるんだよね。今ある物ってもう過去の物じゃん。でも、おれたちはないものを作るわけで、そこけっこう不毛だなと思うんだよな。

乙君:あー、もう戦ってる場所が違うんだ。

山崎貴監督のエピソード

山田:そう。だって、あなたにはわかんない物を作ってるかもしれないじゃん。で、これは古今東西すごくよくある話で、ゴッホみたいな絵を書いてる人がいなかったときには、なにそれってなって。モディリアーニもそうだったじゃん。ピカソもさ、「アビニヨンの娘たち」は公表できなくて、ずっとアトリエに隠してたじゃん。あんな革新的な。

でも、革新的な物はその時代にはなかったものだから、その時代の人たちはそれがわかんないの、なんだか。だから、挑戦しようと思ったら、今の人たちに真面目に意見を聞く必要はないっていうか、むしろノイズになってしまう可能性が高いっていうさ。

だから、実を言うとこれ、レビューとか見ないほうがいいと思うよ。レビューとか害にしかならないんじゃないかなって。

もしくは、ほめられたらありがとうございます。で、そのほめられたいっていうのはあるかもしれないんだけど、なんかな、ある程度のところまでいったら、勝手に会った人が「よかったよ」なんて言ってくれて、その生の声のほうがリアルだなっていうか。なんか、あんまり信じないほうがいいなっていう気がするな。

あと、叩かれるのでおなじみの山崎監督いるじゃん。ええと、『ジュブナイル』の、『三丁目の夕日』の、宇宙戦艦ヤマト(注:『SPACE BATTLE SHIP ヤマト』)の、あと3D版ドラえもん(注:『STAND BY ME ドラえもん』)の山崎(貴)監督に取材したときの話を、前したことあったかな? ここで。ね、乙君。

乙君:あったかなあ、覚えてない。

山田:おれ、『ゼツヤク』(注:『絶望に効くクスリ』)映画版っていうのをやってたときに、山崎監督が『SPACE BATTLE SHIP ヤマト』っていう映画をね、木村拓哉さんっていう人が主演されてた、黒木メイサさんという人と一緒にやってた映画があったんですよ。

(一同笑)

山田:そのときに取材に行きまして、「山崎さん、すごいいろんなこと言われてますけど、大丈夫なんですか?」って言ったら、したたかにニヤニヤしながら「いやいやいや。ノイジーマイノリティとね、サイレントマジョリティっていうのがあるじゃないですか」って言ってて。

その話が、いわゆる、ね、みなさんご存知のサイレントマジョリティってのは、言葉にはならないけどみんながいいよって思ってること。ノイジーマイノリティっていうのは、「ノイジー、雑音。だけど、ちょっとしかいないよ」っていうふうに彼は言った。

で、彼の作品がいいとか悪いとか、それは別の話。おれがどう思うかってのも別の話。業界的にどうかっていうのも別の話。だけど、「そうやって戦ってんだ、この人!」と思って。山崎さんって。で、山崎さんが本当にやりたいことって、実はドラえもんじゃないわけよ。頼まれたからやってるんだよ、あれ。

で、ヤマトも「頼まれちゃった、どうしよう……」ってすごい悩んで、周りにすごい相談しまくって、「でも、ヤマトだろ。おまえが頼まれたんだろ。やるしかねーよな」って言って、あの予算の範囲のなかで、木村拓哉を使って、1隻のフェリーを借りて、それをヤマトということにして、ブルーバックにして(笑)。あれ、だから、フェリーだからね、ヤマト。

乙君:へぇー! すげぇなあ。

酷評されても折れない秘密は「ノイジーマイノリティ」

山田:そう。

乙君:波動砲ねーじゃん。

山田:波動砲ないよ。1台のトラックみたいな、装甲車みたいなのがあって、「これどうすんの? これしかないの?」って言って。「じゃあ、これで突入する? ガミラスの中に」みたいな。「どうすんだ!」みたいなかんじで必死に作ったのが、あの『SPACE BATTLE SHIP ヤマト』。

久世:(笑)。

山田:だから、でき云々というよりは、もうそことの戦いで、「とりあえず、注文された物、自分が完成できるベストの物を作りました」って言ってて、それで満足してくれた人もいるんですよっていう話なんですよね。ちょっと、だから、話ずれるんだけど、映画の良し悪しの話とは。

だけど、メンタリティの話といえば、山崎監督が折れないであの酷評のなか、次の映画を撮り続けるっていうことの秘密が、「ノイジーマイノリティだな」っていうふうに、だから、「クレーマーがいるよな」っていうふうに考えているっていうやり方で生き残ってるんだから、モコさんには山崎メソッドがおすすめかなと思って。

だから、なんか悪く言われたら、ノイジーマイノリティと思ってりゃいいんじゃないかなと思って。

問題は、近くにいる人や、それから自分の漫画を読みそうな年代の人みたいな、例えば若い女性が見るんだったら若い女性に見せればいいし、それの反応っていうのが一番リアルかなと思うなあ。そのときに気を遣って言わない場合もあるけど、その程度でいいんじゃないかな、評判って。

で、あるとき、この体験っていうのが、「まあ、そういう時期もあったんですよ」って言って笑えるようになるんで、とにかく、なんて言うんだろ、傷ついた時期にどうしたらいいかっていうと。

いっぱい描くんだけどね、種類を変える。違うジャンルのものに挑戦する。それから、キャラクターを男だったのを女にするとか、だから、マイナーチェンジをしてみるとか。今やって失敗した方法っていうのをいったん下げて、ほかの選択肢を並べる。

だから、プランAがダメだったら、プランB、プランC、プランDっていうのを全部やってみて、それで数撃ちゃ当たるでやってみる、ドーンと。

そしたら、その担当とか編集者とか周りにいる人とかが、「これいいね」っていう話になるんで、とにかくこういうときは、「私はこれしかありません!」って言って、「ダメです」って言われて、「もう無理です!」って、このパターンを避ける(笑)。

(一同笑)

自分は天才だと思ってる自分が心の中にいる

山田:「私はこれしかできません!」「ダメです」「はい、じゃあ、これです。これしかできません!」「これしか?」「じゃあ、とりあえずこれぐらい並べときますんで、どれがいいですか?」みたいな。このタフさっていうのがあれば、やってけるっていう。

問題はここまで持ってけるようにするっていう。そしたら、会ったことのない人のレビューなんかどうでもいいから、そんなことよりも、自分は天才だと思ってる自分が心の中にはいるんだから、第1回目で言ったけど、そいつの言うことを聞いたらいいんじゃないかと思うね。

どうですか? 乙君さん。

乙君:なんか、たぶん、初めて見ちゃったってことだと思うんですよ、モコさん。だから、傷ついたんだろうな。逆に見まくったほうが……。

(一同笑)

久世:荒療治すすめますね。

乙君:うん。だって、おれもさんざんいろんな人から笑われたり、「あいつ調子に乗ってる」とか、いろんなディスられたりしましたけど、最初は傷つきましたよ。「あ、おれ調子乗ってたんや」って。

山田:(笑)。

乙君:「おれ、みんなを楽しませたいだけやったのに」みたいな。

山田:あげ太郎だったのに。

乙君:「あんまりいきすぎると、今度、うざがられるんや」とか。

山田:うざ太郎に。

(一同笑)

久世:(山田を指して)楽しそう!(笑)。

乙君:うざ太郎。いろいろあるけど、ある一定数、絶対そんな奴おるんですよ。

久世:おる。

山田:ノイジーマイノリティだから。

傷は時間が解決してくれる

乙君:逆に「そいつら嫉妬やん!」とか。でも、たまに正鵠を得ているものもあるんですよ。それは逆に、「おまえ、さすが」みたいな。ワッていってしまう。

久世:よう見てるやんって。

乙君:「よう読んでくれたな。逆にちょっと聞かして。どうしたらもっとおもしろくなる?」っていうような。だから、慣れっていうか、最初はそらね、どんなことでもそうですけど、最初の痛みってけっこう痛いじゃないですか。初めての経験。

久世:痛いです。

乙君:それがなんか、「またこの傷きた」みたいな。「同じとこ、傷つけるなあ。もうそれ知ってる」みたいな。治し方も知ってるし。だから、時間が解決してくれるっていうのと、慣れっていうのはあるから。

山田:それはある。

乙君:無理やりエゴサしまくれ、とかではなく、まあ、でも、それはあるよっていう。そんな気にすることじゃないよっていう、ただそれだけの話で。

山田:モコさんは、これから100作以上の漫画を描くと思うのね。

乙君:うんうん。

山田:そしたら、100分の1の話じゃない。

久世:あ、たしかに。そうですね。

乙君:で、そんなにダメ出しがあるんだったら、逆にそれすげーありがたいなと思って。

山田:乙君らしいよね。

乙君:逆に、じゃあ、そのダメ出しを全部つぶしていったら、すごいおもしろくなるってことでしょ?

久世:(笑)。いや、わからへんで、そんなん。

自分のジャッジをしてくれる人を作る

乙君:じゃあ、すごい近道なのよ、それって。あ、ここがおもしろくないんだったら……こいつに限定よ、この批判してる奴のいってるところを直せば、こいつにはめちゃくちゃいい作品になると。だけど、その分、また今度は逆に違う奴がディスってくるから。

久世:そうね、違う奴がくる。

乙君:だから、結局、自分がおもしろい作品を描けばいいんですよ。100万部売れなくてもいいし。1万部でもいいし。1,000部でもいいし。

久世:うんうん。

乙君:そこはね、どこまでの読者層を想定するとか、技術があるけど、でも、批判っていうのはとりあえずなんでもありきで。なにやっても……、(久世を指して)おまえだってあるしね。

久世:うん、めちゃくちゃあるよ。「ぜんぜん意味がわかりませんでした」って言われることもあるし、そんなのいちいち気にしてたらしょうがないというか。

なんだろうな、こっちになにかあるとしたら、こっち側にももう1個あると思うから、辛辣なコメントがあったら、「書いてないだけで、すげー楽しんでくれてる人もいるんだろうな」って勝手に妄想して、なんとか自分の気持ちを楽にするっていうのを、勝手にやってますね。

山田:サイレントだからね。

乙君:あと、自分のジャッジメントを、『キン肉マン』でいうところの、ジャスティスマンっていうのがいるんですけど。

山田:はいはい(笑)。

乙君:今、最新の『キン肉マン』。

山田:最新の読んでいらっしゃるんですか。

乙君:天秤をね、正義と悪の天秤を司ってるんですけど。だからその、自分の中のジャッジメントをしてくれる人を作るんですよ、先生とか。

だから、おれの場合だと、玲司さんとかそうなんですけど、久世とかもそうだけど、それを2、3人作っとけば、その人が「おもしろい」って言ったら、「あ、これでいいんだ」と。「おもしろいけど、ここをこうしたほうがいい」とかっていう、そういう自分が信頼できる人を何人か置いとけば、あとはもういいんじゃないかなとも思うんで。

山田:それはあるね。

久世:そうね、それはある。

見せ方を変えると星が5つになるかもしれない

山田:なんかね、これが作品だったとするじゃん。こっち側からしか見えてなかったら、こっち側のおもしろさわかんないじゃん。

久世:うんうん。

山田:こんなところまで手を加えてたり、こんなところまで、カエルの背中までみたいな。これが伝えたかったら、こっち側からしか見てない人にはわかんないじゃないっていう話ね。

そしたら、「じゃあ、この角度で見せようかな」っていうのもある。「この角度なら?」みたいな(笑)。「この角度ならどう?」って。「この角度とこの角度の写真を並べたらどう?」とか。

いろんなやり方があって、これがいわゆる見せ方ってやつで、見せ方を変えると、この星1しかつけなかった人が星5になるかもしんないんで。そんなもんじゃないっすかねっていう感じだよ。

乙君:わかりました。

山田:はい。

乙君:そうですね、まさにそうだわ。

久世:そのとおりだと思う。

乙君:まあ、いろいろあるんでね、傷つきながらいきましょうやと。

山田:まあ、トレジャーなんでね、人生は。

久世:トレジャーとプレジャーですね。

山田:トレジャーとプレジャーなんで。

久世:そうですね。

山田:(笑)。

乙君:でもね、なんかね、逆にもう1個広い視点で見るとさ、辛辣な評価がない世の中もおもしろくないなと思うんですよね。

山田:まあね。

乙君:悪意に満ちてる人がいても、まあ、いいかなって。

山田:まあ、そうね。

乙君:傷ついた自分自身はすごい嫌だけど、なんか、おれ関係ないから言えるけど、やっぱそういうのがあってこそ、ね、Amazonのレビューで星1とか、星5もあって。

久世:そうそう、バランスだからね。【正も奇も? 0:15:15】きちんとバランスよく最終的にはなるはずだから、大丈夫だよ。

乙君:「毒も食らえば、薬も食らえ」っていってね、勇次郎(注:『グラップラー刃牙』の登場人物、範馬勇次郎)が言ってたしね。

山田:勇次郎ね。

久世:おまえ、最後の最後で勇次郎ぶち込んだな(笑)。

(一同笑)

乙君:ということで、もうこのへんで今日は、10時半なんで、玲司さんもお疲れなんで、そろそろ締めたいかなと思います。

山田:3回目はよかったんじゃない!?

(一同笑)