漫画家が書きたくないモチーフ

ダ・ヴィンチ・恐山氏(以下、恐山):田中先生は漫画家ですけれども、書きたくないモチーフってあるんですか?

田中圭一氏(以下、田中):例えば、都庁。

恐山:都庁!? そうそうないにしてもですね。

田中:都庁だけはスクリーントーンが欲しいですね。

恐山:でも、ありませんか? そういう町並みトーンみたいな。

田中:マンションね。有名な話は、そのマンションのトーンを漫画家さんがみんな使うから、ある漫画のA君の家も、ある漫画のB君の家も同じだっていう、そういう現象があります。

恐山:「コミPo!」はそもそもそういうものなのが、すごいですよね。

あと、自転車って漫画読んでるとあんま出てこないですよね。自転車登校のキャラとか。あれは完全に作者側の都合だろうなっていう気は。

田中:だってスポークとか全部書くんですよ、あれ。

もっとややこしいのは自転車競技のときに、頭にかぶる変なヘルメット。すっごい複雑な局面を持ってるじゃないですか。穴もいっぱい空いてるし。

(会場笑)

恐山:最近だと、『乙嫁語り』って漫画とか、民族衣装の模様を全コマちゃんと全部描いてるんですよ。ミリ単位で。ああいうのって同業者としてどう思われます?

田中:あの方は、だから、あれを描きたくてやってるんですよね。糸がどう通っててとか。どのぐらいの布でっていうのも全部描きたくてやってるわけですよね。だから、それはもう、そういう人だからぜんぜん苦労がないわけですよね。

Hな漫画でも、女の人の体が描きたくて描きたくてしょうがないから描いてる人だから、あれが成立するんで。そうじゃない人が描かされる苦痛って半端じゃないですよ。

どうやって意識逸らしながら……。オールナイトニッポンでおもしろいハガキ読まれてると思いながら、全部ちまちま書き上げたりとかやってましたもんね。

主人公が教室の一番隅の後ろの席になる理由

恐山:クラスを描くのも嫌だってよく聞きます。学校の机。

田中:有名な話は、必ず主人公は一番隅の後ろの席にいるのはなぜかというと、そっから向こう側のイス・机を描かなくて済むじゃないですか。

恐山:主人公席があそこなのは、もう決まりがあるんですね。

田中:そういう理由ですよ、もちろん。だから、いかに線数を少なくしてその場が成立するような作品にするかですよね。

変な話、いま私『Gのサムライ』っていう漫画を描いてまして。あれは絶海の孤島の流刑島なんですが。もう、建物がないから一切いらない。

あとは、もうだいたい海と空ですからね。本当そうなの。ほとんど背景って描かなくて済みますもんね。あれは本当によくできた設定で。今後も僕は無人島で漫画を描く(笑)。

恐山:あれがうっかり京都の街中だったりしたら。

田中:吉原の遊郭がだーんとなったら、もう本当に3倍ぐらい時間かかるよね。原稿料一緒なのに。

恐山:読者もそこ読みたいわけじゃないですからね。背景だし。

田中:どんな場所にいるかじゃなくて、キャラクターが何するかなんですよ。しかも、あの漫画、だいがいキャラクター全裸になりますから、服も書かなくて済むんです。

恐山:すごい。省エネ。

田中:本当省エネです。

セブ山:すごいな。そういう目線で、僕は漫画を読んでことなかったんで。ちょっと今後。

田中:費用対効果というものがありますからね。

セブ山:「費用対効果」で読んでみようと思いますわ。

『キングダム』とジブリアニメは費用対効果が悪い

恐山:『キングダム』とかね。費用対効果すっごい悪いんじゃないですかね。

田中:大群衆とか、ものすごい数の兵隊がいますからね。

恐山:群衆がテーマの漫画ってもう地獄じゃないですか。

谷沢川:キングダムのアニメ会社とちょっと付き合いがあるんですけれども、もう、あの方に話を聞いたら、いかに馬から上を絵にするかっていう。大変だから。全部そこで切ってたって言ってましたね。

田中:キングダムのアニメの場合は、モブキャラとか全部3Dの作りだから、1人ポチポチって歩くの作れば、あとはコピペでバーっと何万人増やすっていうのができますよね。

谷沢川:いや、バレちゃうんですよね。やっぱりランダムに作れないんです。そんなに全部は。だから腰から上からだけしか作らないとか。モブでもそういうふうにやったって言ってましたね。

田中:確かにね、漫画でも何万人描けって言われて全部コピペしたときに、もうバレバレですもんね。それは恥ずかしい。

恐山:クローン集団とかだったら大丈夫ですけど。

田中:いくらクローンでも、みんな同じポーズで走るのはありえない。

谷沢川:宮﨑駿の場合は、いろんな飛び散る液体とか砕けた柱とか岩とかあるじゃないですか。あれが全部同じ角度にならないように、なっちゃうとバレちゃうじゃないですか、「コピーしたな」みたいに。

だから、全部定規で測ってたって言ってましたね。1個1個定規でやって、絶対合わないようにしてたの。角度を変えて。

田中:そこまでやるんだ。スタジオジブリ。

セブ山:コピペと思われたくないから?

谷沢川:だから、もう1つも同じ角度にならないように、全部変えるように定規でやって。合わせながらやってたの。

田中:そんな人たちだから、CG使わないわけですよね。あんなのCG使ったら1発で全部別の角度作れるのに。

谷沢川:ランダムにできるのに。水しぶきとかね。

セブ山:教えてあげたほうがいいんじゃないですか。知らないだけじゃないですか、これ。すごいですね。でも。

田中:深い。漫画って深いんですよ。

コミPo!イベントの最後に

ということで、最後は私がこれ描いてくれと言われて描いたんですけれども。手書きでセイカちゃん(京町セイカ)を描いてくれというシナリオが書いてありまして。

当初の予定だと私が、セイカちゃんを手書きで書いた絵でどんな陵辱があるのかと。残念ながら今回、めっちゃ普通に描かせていただきました。

セブ山:すごい。

(会場拍手)

田中:萌えキャラの漫画家さんが描いたみたいなね。

セブ山:先ほど上でバーって、おしゃべりしながら、気がついたらもう完成されてましたから、やっぱりすごいなって。

田中:そこはね、すごくないですよ。板前だったら普通に刺し身切ってるのと同じで、日常の仕事としてやるわけですから。かんなで削る人も日常で綺麗に平らにするのも、あれもそういう仕事だから。

みなさんはみなさんの仕事でちゃんとそれで積み上げてきたものがあるじゃないですか。そんなにそう「すごい、すごい」って、漫画家をそうやって持ち上げるとろくなことがない。増長して、本当に。

セブ山:いやでも、すごいですよね。

谷沢川:いいですよね。真似できないですよ。

田中:なんとなく収まりがっていうか。萌えキャラ、かわいいキャラになった。これでもっとエロいの描いちゃうと、これどこにも持ってけなくなるじゃないですか。

よく言われるんですよ。サイン会で、「田中さん、ブラックジャック描いてください」って。そりゃ描くけど、どこにも売れないよって。家に置いといたって絶対これ後からいろいろ問題になるしね。

そういうのもあるんで、やっぱりちゃんと描くときは10年後とか20年後にどうなるかを考えて描かないと。若いときに勢いで描いてさ、後からね「あ、しまったな」って。でも、引っ込められないですからね。もう火をつけて燃やす以外にないわけじゃないですか。そんなのもある。

セブ山:重みのある言葉ですよね。

田中:本当はここでごっついエロいの描いて、わーっと湧いて締める予定だったんですけども、ちょっと日和ってしまいまいました。

もう53歳ですのでね。あと、生きても20年かちょっとだと思いますから、もうそろそろまとめに入っていいんじゃないかと。

セブ山:いやいや、まだでしょう。まだですよ。まだまだ。

谷沢川:エロいの見たいなー。

恐山:指の先に何か描き足すだけで違ってきますよ。

田中:そうですよね。あの指の形っていろいろ想像が膨らみますよね。そこはみなさんの心の中で描いていただければ。

セブ山:それぞれのエロを。

田中:てなわけで、ちょっと押しちゃいましたかね。すいません。そんなわけでですね、この楽しい漫画解説と漫画をコミPo!で作ってどんだけ笑いが取れるのかっていうコーナーでございました。