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ハーバード大学 卒業式 2016 スティーブン・スピルバーグ(全1記事)

スピルバーグ「デバイスではなく相手の目をよく見つめて」現代の若者に人と繋がる大切さを説く

2016年5月26日のハーバード大学卒業式で行われた、映画監督スティーブン・スピルバーグ氏のスピーチ。映画製作のために大学を中退し、父親になってから子供たちのために大学を卒業した経験を持つスピルバーグ氏が、自身のこれまでの人生を振り返り、若者たちにメッセージを送りました。

子供たちのために50代で大学を卒業

スティーブン・スピルバーグ氏:このようなすばらしい卒業生や委員会や親御さんの前で話せて光栄です。ぜひこの特別な日を楽しんで下さい。

そしてハーバード2016年卒業生、おめでとうございます。

(会場拍手)

私にとって自分の卒業した時のことを思い出すのは簡単で、といってもたった14年前ですけどね(注:スピルバーグ氏は2002年に大学を卒業)。

(会場笑)

37年かけて卒業した人が何人いるでしょうか。在学中にユニバーサル・スタジオから夢のような仕事をオファーされ、退学しました。親には「映画製作がうまくいってる」と話しました。

しかし、ある理由で大学に戻りました。ほとんどの人は教育を受けるため、また親のために大学に行きます。ですが、私は子供たちのために大学に戻ったのです。私には子供が7人いますが、彼らに大学に行くことの大切さを説くために。そして50代の時にカリフォルニア州立大学ロングビーチ校で学位を得ました。

(会場拍手)

『ジュラシック・パーク』のおかげで古生物学の学位をもらいました(笑)。

(会場笑)

意識と直感は違うもの

私はやりたいことがわかっていたので退学しました。みなさんのなかにもそれがわかっている人はいるでしょう。しかし、迷っている人もいます。「医者じゃなくて、コメディライターになりたい」と親に相談する人もいるかもしれません。

そんな時、次にあなたが選ぶ決断は、映画では“キャラクター・ディファイニング・モーメント”と呼ばれます。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でレイが「自分にフォースがある」と気づく瞬間や、インディ・ジョーンズが恐れを振り払って苦手なヘビの山を飛び越える瞬間がそうです。

2時間の映画ではたまにしか起こりませんが、現実世界では毎日そんな瞬間に直面します。強く長いキャラクター・ディファイニング・モーメントの連続、それが人生です。

私は18歳の時点で自分がなにがしたいかを明確にわかっていたのでラッキーでしたが、自分が何者かは知りませんでした。それもそのはず、人生の最初の25年は、他人の声に耳を傾けるための期間なのです。親や教師が頭のなかをさまざまな知識や知恵で満たしてくれますし、その後は仕事の上司やメンターが世界がどうなっているのかを教えてくれます。

しかし、時々そこに「私はそうは思わない」という疑いが生まれます。ただうなずいているのは簡単です。なぜなら自分自身の考えを抑え、「まわりのみんなが話しかけてくる声で自分の声が聞こえない」というニルソン(ハリー・ニルソン)の歌のようになっているからです。

最初は、自分が聴くべき内なる声はかなり聞き取りづらいものでした。高校時代の時のように。しかし、注意深く耳を傾けるようになると、そこで直感が働き始めました。そこで言っておきたいのは、直感は意識とは違うということです。

2つは似たように聞こえ、意識は「こうすべきだ」と叫び、直感は「これもできる」と囁きます。その「これもできる」という声を聞くのです。その声以上に自分を反映するものなんてないのです。その声に正直になってから、やるべきこととそうでないことがわかるようになりました。

よき未来を作るためには、過去を学ばなければならない

1980年代までは、私の映画は逃避主義といわれるものでした。『1941』でさえもです。

(会場笑)

そういったほとんどの初期作品は、私の内側の深くからの声を反映しています。今でもそうですが。ただ、大学を中退した私の視野は狭いものでした。

しかし、そこで監督した『カラー・パープル』が、自分が考えもしなかった経験へと導きました。

この作品は深い痛みと真実に満ちた物語です。シャグ・エブリー(注:『カラー・パープル』の登場人物)が「みな愛されたい」と言うように。これはまさに私の直感であり、多くの人にこのキャラクターや物語を知ってほしかった。そうして映画製作をしているなかで、映画はミッションでもあるということに気づいたのです。

みなさんにもミッションという感覚を見つけてほしい。痛みから逃げず、実践し、チャレンジするのです。私の仕事は、2時間の世界を生み出すことですが、あなたたちの仕事は、永遠に続く世界を生み出すことです。イノベーター、モチベーター、リーダー、そしてケアテイカーなのです。

よき未来を作るためには、過去を学ばなければいけません。『ジュラシック・パーク』の著者マイケル・クライトンは、この大学とメディカルスクールの両方を卒業していて、「歴史を知らないというのは無知である」という教授の言葉を引用するのが好きでした。歴史専攻、いい選択ですよ。

(会場笑)

就職市場ではどうかわかりませんが、文化的にはね(笑)。

自分の直感だけを信じるのは最愛の人を見つけるまで

ソーシャルメディアが氾濫していますが、私の子供には、出来事の裏側でなにが起こっているかを見るように言っています。相手が何者かを理解するということは、自分が何者だったかを理解するということですから。祖父母、そしてこの国が何者だったかを理解することでもあります。結局のところ、移民の国なのです。少なくとも今は。

(会場拍手)

私たちは自分のストーリーを伝えなければなりません。両親や祖父母に話してみてください。そして、できるなら彼らのストーリーを聞いてください。きっと退屈しませんよ。私が実体験に基づく映画を作る理由はこれです。歴史には、語られてこなかったすばらしいストーリーがあるのです。ヒーローや悪役は文学の産物ではなく、歴史に基づいているのです。

自分の囁きに耳を傾ける理由はここにあります。リンカーンやシンドラーも同じです。モラルが揺らぐことなく、勇気ある自分でい続けるのです。そのためには多くのサポートも必要です。

運がよければ、私の親のように魅力的な親に恵まれているでしょう。父は、私が12歳の頃にムービーカメラを与えてくれました。そしてそれが私に世界を理解させてくれたのです。父には本当に感謝しています。父はそこに座っています。

(会場拍手)

彼はワイドナー図書館(注:ハーバード大学の主要図書館)より1歳若い99歳です。改装なしですよ(笑)。

(会場笑)

家族以外にもバックアップはあります。『素晴らしき哉、人生!』という映画を知っていますか? クラレンスはこう記します。「友達がいる人に間違いはない」。ここで友達ができた人もいるでしょう。その友情を手放さないようにしてください。そしてその友達のなかに、人生を共有したいと思える人が見つかることを望みます。

皮肉な人もいるかもしれませんが、ここではあえてセンチメンタルになろうと思います。これまで直感の大切さについて話しました、それ以外に聞く声などないと。でもそれは最愛の人を見つけるまでです。ケイトに出会って結婚をしたことが、私の重要な“キャラクター・ディファイニング・モーメント”となりました。

(会場拍手)

世界中に倒すべき“悪”がある

愛、サポート、勇気、直感。これらを持ち合わせていても、ヒーローには倒すべき悪が必要です。しかしラッキーなことに、世界中にさまざまなモンスターたちがいます。人種差別、同性愛差別、民族、政治、宗教……。子供のときはユダヤ系であるということでいじめられましたが、私の親や祖父母の時代に比べればたいしたことはありませんでした。

反ユダヤ主義はなくなったと信じていましたが、この2年で2万人のユダヤ人がヨーロッパを離れました。イスラエル大使館でオバマ氏はこう言いました。「世界の真実を知るべきだ。反ユダヤ主義は増えている。それは否定できない」。

そのことに対する私の取り組みは1994に始まりました。ショア財団で、53,000のホロコースト被害者、目撃者と63の国でビデオ証言をとりました。

現在ルワンダ、カンボジア、アルメニア、南京の証言に取り組んでいます。こういったことは今も起こっているのです。どうすれば憎しみが止むかではなく、なぜそれが始まったかについて考える必要があります。レッドソックスファンの前で同族意識を言う気はありませんが。

(会場笑)

しかし同族意識にはダークサイドもあります。

本能的に、人間は“私たち”と“彼ら”にわけたがります。みんなが“私たち”だと思うためにはなにをすべきでしょうか? まだまだやることが多く、まだ始まってすらいないと私は思ったりもします。LGBT、イスラム、ユダヤに対する差別の根底にあるのは、1つの大きな憎しみです。

より大きな憎しみに対する回答は、人間愛しかありません。恐怖を興味に換えることで世界を修復していかなければなりません。繋がることにより、互いを認め合うのです。私たちが大きな1つの民族だと信じるのです。イェールの学生のこともね(笑)。

(会場笑)

息子はイェール出身です(笑)。

(会場笑)

デバイスではなく、お互いの目をしっかり見つめて

とにかく、共感はただ感じるものではありません。行動を伴うものです。それはつまり、投票です。それは平和的な抗議です。他人のためになるなら、声高に叫ぶのです。

ハーバード大学記念教会もその1つの例です。先ほどファウスト学長が言ったように、その南の壁には、ハーバードの卒業生であり、第二次世界大戦で命をかけた人たちでの名前が刻まれています。697人の魂がそこに眠っています。1945年にハーバード学長のジェイムス・コナントが、彼らの行いを讃えたのです。

70年たってもそのメッセージはまだ生きています。なぜならそれはすべての世代に対する借りだからです。自由のために戦った彼らのことは、忘れてはならないことです。大学を卒業し、世間に出てからも彼らの行為を忘れないでください。『プライベート・ライアン』のミラー大尉が「Earn this(ムダにするな)」と言ったように。

人と繋がっていてください。そしてアイコンタクトとってください。メディアの人間が言うことではないかもしれませんが、みんなお互いの目を見るよりも、デバイスを見つめる時間が長くなってしまっています。人間の目をちゃんと見るようにしてください。

(会場拍手)

お願いします。学生も卒業生も、ファウスト学長も、みなさんもっと知らない人としっかり目を合わせてください。そうです。ちょっときまずいその感じが人間性なのです(笑)。

(会場笑)

こういうことがこの4年間で経験していることを願います。今日は、次の世代のための道を歩き始める日なのですから。私は作品のなかで色々な未来を想像しましたが、あなたたちは現実世界でそれを決めるのです。それが正義と平和で満ちることを願います。そしてみなさんがハリウッドスタイルのハッピーエンディングにたどり着くことも(笑)。

(会場笑)

T-REXを追いかけ、犯罪者を捕まえ、あなた方の親のためにE.T.のように「go home」してください。

(会場笑)

ありがとう。 

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