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ダイヤモンド社書籍オンライン 佐渡島庸平×三木一馬対談(全4記事)

時にはピエロになることも必要--2人の名編集者が語るビジネスの流儀

人気漫画の編集者としての仕事論をまとめた『ぼくらの仮説が世界をつくる』。その著者であり、クリエイターのエージェント会社・コルクの代表を務める佐渡島庸平氏が、数々のヒットを生み出してきたライトノベル編集者・三木一馬氏と対談を行いました。担当作家へのフィードバックの仕方などの編集者としての話から、打ち合わせやメールでの振る舞いなどビジネス全般に当てはまることまで、幅広く語っています(この記事は「ダイヤモンド社書籍オンライン」のサイトから転載しました)。

おもしろい作品だからこそ手を入れたくなる

佐渡島庸平氏(以下、佐渡島):三木さんが本に「創作物におもしろくない作品は1つもない」「少なくとも作家が担当編集に送ってきているという時点で、作家はおもしろいと思っている」という考え方には、全面的に賛成です。

作家さんに(作品を)直す話をするときって、こっちもその作品をもっとおもしろくしたいからこそ、なんですよね。

三木一馬氏(以下、三木):おもしろいから直したくなるんですよね。仮にまったくおもしろくなかったら、なにも言えないというか、All or Nothingで終わるからもっと時間はかからないというか。

佐渡島:そうそうそう。

三木:でも、こういった編集者特有のマインドは作家さんにはあまり伝わらず、むしろ誤解されてしまうから大変ですよね。

佐渡島:直しを言うと、「この作品をおもしろくないと思ってるんだ」って、作家さん自体も否定されてると思っちゃうんだけど、そうじゃない。1人でもこの作品に熱狂している人、おもしろいと思ってる人がいるんだってことをすごく重視しながら、直しの話し合いをしますよね。

三木:ちなみにそれって、いつ頃気づきましたか? 僕は不覚にも、ある程度の編集者経験を経てからようやく……だったのですが、佐渡島さんは最初から、例えば先輩の編集者が教えてくれたりしたとか? 

佐渡島:週刊モーニングの初代編集長の栗原さんという方がいて、まわりの人みんなが一同に「栗原さんはすごい人だ」って言うんですね。それで、小山宙哉の『ハルジャン』がうまくいかなかったときに、栗原さんの連絡先を調べて「この作品のどこが悪いか教えてもらえないですか?」って相談に行ったんです。そしたら、じゃあ、お返しに昼ご飯をおごって」って言われて(笑)。それで、快くアドバイスをもらったのが、6年目ぐらいの頃です。

ハルジャン (モーニングコミックス)

すべての創作物は尊敬に値する

三木:おごる金額がお昼でよかったなら、それはいい先輩ですよね(笑)。

佐渡島:はい、すごく魅力的な方です。栗原さんが、ある時ポロッと言ったんですよ。「すべての創作物は尊敬に値する。新人のどんな原稿でも。すべての原稿に、編集者は尊敬の気持ちが重要だ」って。そのとき「ああ、僕は作品に対する敬意が今まで足りなかったな」と思ったんです。だって、仮におもしろくないと思った作品があったとして、それは僕という1人の人間にとっておもしろくなかった、というだけなんですから。

三木:うん、その通りだと思います。じゃあそのことに気付いたのは、『ハルジャン』をやられているとき?

佐渡島:いや、『ハルジャン』をやっているときは入社して4、5年目だけど、しっかり全部の作品に敬意をもって接することができるようになったのは、7、8年目くらいかなぁ。三木さんはどうしてそういう考え方に?

三木:僕のきっかけは、ある担当作家さんの1人が、「僕は褒めて褒めて褒めまくってくれるほうが、やる気が出るのでぜひお願いします」と言ってきてくれたときですね。

すごく才能があると感じた作家さんだったので、さっきもお伝えしたように、いいものだとむしろたくさん直しを入れたくなるんですよ。ですが、その人は「チェックと文句が多すぎて落ち込む」と言ってくるんです。僕は「いや、これめちゃくちゃおもしろいと思ってるから、いろいろ指摘したくなってるんですよ」と伝えたんです。

すると作家さんは、「だとしても、その100倍褒めてほしい。そうしたら書けるから」というやりとりを何度もすることになって。打ち合わせのときは、必ず最初に「あなたの作品はすべていいと思ってる! その前提で、さらによくするために直しをするからね」と前振りするようなりました。それでも落ち込まれますけど(笑)。

佐渡島:そういうこと、よくあります! 可能性を感じていればいるほど、もっとよくしようと思うのに、まったく逆のことを思われてしまう。

打ち合わせでは「ダメ出し」ではなく「ポジ出し」をせよ

三木:で、そのマインドはなにから来てるのかな、と分析し始めまして、まずは自分に置き換えて考えてみたんです。すると、「たしかに」と思う部分があった。

たとえば、僕は担当する電撃文庫のあらすじは、自分で3~4パターン書いてみて、作家さんにチェックしてもらうんです。そこでOKが出たらホームページや折り込みチラシに載せる……という段取りを踏んでいるのですが、あらすじを作家に3、4パターン送って返ってきたメールが、直しと指摘と修正のみの簡素なリアクションだった時、「全パターン、つまらなかったのかな……?」と不安になったり、凹んだりするんですよね。

冒頭に少し「全部よかったです。でも……」と前置きを書くだけでも、印象は違うわけで。編集者の自分でもそう思うんですから、自分の作品にいろいろ言われてしまう作家さんはもっと気にしてしまうだろうなと理解したわけです。

佐渡島:なるほど。それで本(『面白ければなんでもあり』)に書かれていた、「打ち合わせではダメ出しをせずにポジ出しばかりする」という方法論を確立なさったわけですね。

面白ければなんでもあり 発行累計6000万部――とある編集の仕事目録

三木:それから今はいろいろな小説の投稿サイトがあるからこそ、世に出た瞬間に、「おもしろい」と思う人がどこかに必ずいる、というのがすぐにわかるようになっているんですね。ですから、そういう考え方を前提に、もっともその(おもしろいと思う人の)数を増やすことを編集者は目指さないといけないと思っています。

そうしないと、おそらく「(おもしろいか否かの)判断基準なんて、もう読者でいいじゃん。編集者とかいらないじゃん」と思われてしまい、今後淘汰されていくだろうなと考えています。

ビジネスの体制が整っているところで勝負することが大事

ですから、今後はその「おもしろい」と感じてくれる読者の数をいかに多く、いかに広げられるかを考えることを意識していかないと、編集者はやっていけないんじゃないでしょうか。

佐渡島:いやー、むちゃくちゃ賛成ですね。この前、数年ぶりに会った新人の人に「ダメ出しがすごいから、なぜ僕に新人賞をくれたのかわからない」と言われて。これは完全に逆で、数年でもっとも期待している新人だったから、たくさん意見を言っただけだったんです。自分のコミュニケーション能力を疑いましたね(笑)。

三木:ははは、それひどい誤解ですよ!

佐渡島:僕が新人の漫画家さんと打ち合わせしたときによく言ってるのは、「才能を否定しているんじゃない」ということなんです。

たとえば運動神経がいい人がいたときに、その人が卓球やバレーボールをやったりすると、職業として食っていきづらいという現実がある。でも、野球とかサッカーだったら食っていきやすい。だから、この人は作家としてこの先、10年、20年食っていく能力があるというときに「卓球が好きなのもわかるけれども、まずは野球とかサッカーで有名になって、それから卓球へ行けばいい。それならやっていける」と。

卓球やバレーもスポーツとしてはおもしろいのだけど、ビジネスの体制が整っていない。ビジネスの体制が整っているところで勝負をするのは、大事なことです。

先にみんな、プロとして食べていける道の基礎を身につけようよっていう直しのアドバイスをするんだけど、それを才能の否定と思っちゃうというのはけっこうあって。本当に、三木さんの本を読んだら、ジャンルは違えど、考えていることは一緒なんだなって思いました。

成功する「メディアミックス」とは

佐渡島:あと、本に書かれていた「成功するメディアミックスは、家訓を再定義すること」っていうのも、まったく僕がメディアミックスするときに考えていることなんですよね。やっぱりちょっと、違うことをやらないといけない。でも軸は一緒です。それぞれのメディアごとに特徴が違うので。

三木:『宇宙兄弟』のアニメと実写映画、原作のすみ分けはすばらしかったと思いました。あれはプロデューサーの川村元気さんの手腕が凄いのかなと思いつつ、チームのマインドを一致団結して、これで行こうと決め込めたところが成功の秘訣なのではと感じました。

宇宙兄弟(1) (モーニングコミックス)

佐渡島:ただ三木さん、本に、「メディアミックスでは空気を読め」って書いていたじゃないですか。あれに僕は失敗したなと思って。映画のほうなんですけれど。

三木:え!? そうですか? ユーザーとしては全然思わなかったですけど!

佐渡島:いい映画だから、もっと流行ってもいいと思っていたんです。ちょうど同時期に『テルマエ・ロマエ』があったんですよね。で、『テルマエ・ロマエ』のほうがずっと大ヒットしちゃって。

テルマエ・ロマエI<テルマエ・ロマエ>

僕と川村君は震災の後、人々が元気になって目標に向かうのを応援するような映画にしようって話をしました。でも、応援とかよりも、ただ笑いたいっていうのが社会の空気だったから。もっとユーモアを強くしないと、あのタイミングでは大流行にはならなかった。

三木:なるほど。

原作で考えていた結末を映画にあげた

佐渡島:僕と川村君の時代の空気の読み違えっていうのがあったなぁとは思って。そういうことを三木さんの本を読んで考えました。

三木:確かに広いマスを狙う考えとしてはとても正しいですね。ただ、原作既読ファンの僕から言うと、「原作で(まだ)見ることができない姿の理想型」を映画で表現してくれているので、大成功ではあるんですよ。

メディアミックスって、ときに原作ファンが疲れ切って去ってしまうという不幸な現象も生んでしまいます。それとは真逆で、既存ファンにいいメモリアルを見せてくれた……というのが『宇宙兄弟』の印象でした。

佐渡島:ありがとうございます! 高評価でうれしいです。

三木:あの映画を観た後、「今度は原作で、あの2人が一緒に月から地球を見るのはいつになるんだろう」という楽しみ方ができますし、原作ファンはすごくよかったって思ってらっしゃる方が多いんじゃないかなとは思いました。

佐渡島:そうですね。映画の終わり方って、ほとんど原作を始めるときにイメージしていた終わり方なんですよ。小山さんに「この締め方は、もう映画にあげちゃいましょう」と。それで、僕らはもっともっといい終わり方を考えて、それによって自分たちのハードルを上げましょうって話し合っていました。

三木:だからすばらしいと思ったのかも。原作のもともとのエンドイメージですもんね。

佐渡島:『面白ければなんでもあり』には、そんなメディアミックスのときに、三木さんがプロデューサーとしてどう動いているかの作法が公開されてて、僕自身すごく勉強になりました。

できる人のメールはテンションが高い

佐渡島:あと、「打ち合わせは常に明るく楽しくしなきゃいけない。なぜなら打ち合わせはダメ出しだから」って書かれていたのも、本当にそうだなと思いました。だからある種ピエロ的にバカなことを言うのも、編集者にはすごく重要で、賢くても意味がないっていうのはいつも思うことです。

三木:僕も常々そう考えて動いています。

例えば、作家さんが凹んでいるときにどうするか。もちろん編集者も一緒になって悲しむという方法もあると思うんですけど、それだとなんというか精神的成長が見込めず、作家さんが前に進めなくなってしまう気がするんです。

どんなときでも明るく楽しく振る舞って、作家さんが「あの悩んでたのはなんだったんだろう?」と思ってくれるぐらいに、暑苦しくバカやったほうが、「人生の谷から登り始める」という仕切り直し感があるというか……これは編集者のスタイルの問題かもしれませんが、とにかくいつも僕はそうしています。

佐渡島:僕は「作家とどうやって打ち合わせするんですか」って聞かれたときに、「作家ごとに変えてます」っていつも答えていて、そこも三木さんとまったく同じ考えなんですよね。

三木:でも唯一共通しているのは、いろんな作家さんやイラストレーターさんから、三木さんのメールは元気がよすぎて気持ち悪いって言われるんですよ(笑)。たしかに僕、気が付けば「!」を多用していて……。気持ちを伝えたいことが前に出すぎてるのかもしれません。

佐渡島:僕も、ビックリマーク多いですねって言われて(笑)。見てみたら、全部の文に「!」がついていて、これアホだなぁと思って。それでたまに「。」を入れるように書き直すんですよね(笑)。

三木:いや、でも、メールって、1.5倍くらい冷酷になるじゃないですか。だから全然いいと思いますけどね。機嫌悪いのかなと思われるくらいなら、「こいつ、やたら元気だな」って心配されるほうがいいかなと。

佐渡島:そうですよね。LINEとかだとそこが大丈夫になるんですもんね。『面白ければなんでもあり』には、そういう打合せの方法から、一緒に仕事をしている人とのアライアンスの組み方まで書かれていて、一般のビジネスマンの人でもかなり役に立つ内容になっていると思いました。

ぼくらの仮説が世界をつくる

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