なぜ人は笑うのか?

ハンク・グリーン氏:おかしなことがあると人は笑います。笑いは生理的現象の1つですが、15以上の顔の筋肉と呼吸器官と脳の辺縁系と呼ばれる部分が関わっています。それに、とくにおもしろいジョークであれば、涙管も関係してきます。

笑いといえば楽しい時を思い浮かべますが、脳の深刻な病気の兆候として表れる場合もあります。急に笑い出したり、泣き出したりして止まらなくなる「笑い発作」と言われる症状がありますが、これは脳腫瘍が原因で起こることもありますし、脳卒中や脳の外傷の後遺症がある人や多発性硬化症の患者の場合は、情動調節障害という神経性障害が原因になっていることもあります。

こういう発作は、本人のその時の感情とはほとんど関係なく、自分で抑制が効かないので、感情失禁と呼ばれたりします。

しかし、我々がふつう笑うのは、仲間と一緒にいて楽しい時です。笑いを研究する学者によれば、笑いの大半は、社会的絆を強めるということに根ざしていると考えられています。

確かに、1人でいる時より、仲間といる時の方が、ずっと多く笑いますし、友達や家族の前だとすぐに笑みを浮かべることができます。みんなで一緒に笑うと結びつきが強まり、仲間意識が生まれるのです。また、安心な気持ちを表したり、緊張を緩めるために笑うことあります。

驚きの要素が笑いを引き起こす

研究者は、笑いの理由を説明するのにいくつかの理論を組み立てています。第1は、不調和理論というもので、これは、予想しなかった冗談のオチを聞いたり、友達がうっかり敷物につまずいた時のように、驚きという要素が笑いを引き起こすと考えます。

普段は、みんな平気で部屋を歩いていてなにも起こりません。脳はそれを予想できる退屈な行動と捉えます。ところが、友達が部屋に入ってきて、敷物につまずいて転倒し、持っていたピンポン球の入った箱を落としたとしましょう。

友達が錆びたナイフの上にでも倒れたのなら別ですが、そうでなければ、みんな爆笑するでしょう。突然で、予想もしていないし、みんなが平気で歩いているのと比べるとまったく不調和な状態です。それにピンポン球もこの場と調和しません。

赤ん坊や幼児はこのようなことでよく笑います。単純な、「いないいないばあ」だけでも、5時間ぐらい笑ってくれます。バナナを電話の代わりに使うのもよくウケます。

敷物につまずいてこけたのが、あなた自身だったとしましょう。びっくりするでしょうが、みんなが笑っているのを見て、きっとあなた自身も笑うでしょう。一緒に笑って、社会的絆を強めようとするわけです。恥ずかしさや緊張も感じるでしょうが、同時に、怪我がなくてよかったとホッとしているかもしれません。そこで、次の安堵理論というものが考えられています。

笑いは精神的小休止のようなものです。我々の脳は絶えず働いています。いろんな情報を取り込み、身体に絶えず指令を送り続けています。それで時には、楽しい息抜きが必要なのです。

優越によっても笑いが生まれる

とくに、緊張が続いている時には、息抜きが大切です。ハリウッド映画でハラハラドキドキする場面でジョークが使われるのは、まさに、この考えに基づいているのです。スターウォーズでハン・ソロが自分の命が危ない時に、ジョークを言ってその場の緊張を和らげます。それは、自分自身にとっても、副操縦士チューイーにとっても、また、身を乗り出して見ている観客にとっても必要なことなのです。

緊張状態に対処するのにユーモアは欠かせません。いわば、脳が再充電され、また仕事に取り掛かることができるのです。科学者はこれを認知エネルギーの放出と言いますが、ユーモアによる安堵と考えればいいでしょう。

ところで、また、敷物につまずく話に戻りますが、みんなあなたのことを笑っていますが、全員が赤の他人だったとしましょう。その場合の笑いは優越理論によって説明されます。つまり、みんなあなたの不幸を面白がり、バカにした顔をしているわけです。優越理論も相手側と自分たちという意味では、仲間の結束につながると言えます。ただし、優しい善意に満ちたものとは言えません。

十代の頃を思い出してください。自分の親をからかったり、親に限らず、だれかれなしによくからかったことがあると思います。その時代から抜け出せてない大人も多いかもしれませんが、十代はややこしい時期で自分でもいろいろ苦しいことがあるので、それから逃れるのに優越の笑いは役に立っているのかもしれません。

いずれにせよ、我々は、気心の知れた仲間とよく笑い、緊張から解き放された時にもよく笑うわけです。笑いの果たす役目は、精神的にも肉体的にも大きいものがあります。

逃げるか闘うかというような切羽詰まった時には、ストレスホルモンが分泌されますが、笑いはそれを抑えてくれます。笑うことで、血圧も下がり、血流に酸素も多く流れ込みます。免疫力を高めるT細胞や、抗体を作るB細胞も増加します。さらに、100回笑うと、自転車を15分こぐのと同じカロリーが消費されると言われています。

というわけで、笑いは最善の薬とまでは言えないかもしれませんが、かなりいい薬であることは間違いありません。