サウスパークのすごさは「ないことにしない」主義

山田玲司氏(以下、山田):サウスパークの何がすごいかって話なんですけど、フルオープンでいくんですけど。ここで思うのが「ないことにしない」主義がでっかいなと。

で、世の中には実際に存在してるわけよ。だって俺たちって、生き物殺して食ってるんだけど、殺してるの見せないで生きてるじゃない、どっか。

それ以外にも、いろんなことを隠して生きてるよね。サウスパークで一番典型的なのが、このジミーってキャラクターがいるんだけど、障害を持ってるんだよね。日本でこのキャラクターを出すとなるとまたこれえらい大変だし、いろんなことになるからまず出せないんだよ。

そうするとこの人、世の中にいないことになっちゃう。でもこういう人はいるわけで、こういう人にも人生があって。実は彼はスタンダップコメディが得意なんだよね。それで彼の悩みもあるし、彼の友情もある。でこれ普通にフラットに描かれるんだよね。

で、これカイルってのがユダヤ系。カートマンはドイツ系ですよね。この2人がつねにあのブラックジョークをずっと言い合っている。要するに「お前はユダヤだからな」ってドイツの奴がユダヤの奴をいじめたりしている。

この時点でもう完全に無理ですよ! 「何なんだよ! ユダヤは!」って必ず言われる。

誰でもちょっとはレイシスト

だろめおん氏(以下、だろめおん):これ日本でやったら、どんなんなるかなって考えたんですけど、とても口に出せない(笑)。

山田:ぜったい言えない! だから「えーと、例えて………例えて言えない」っていうことの繰り返しっていうことだよね。だからそのへんのところのことが、イスラムのところに関してもそうだし、それから大人の性欲についても、まー向き合うよね。

限界までいくよね。あと人間の中にある差別意識みたいなののすごさだよね。あの「Everybody's a Little Racist♪」ってのあったでしょ。あれは『アベニューQ 』ですけど、「誰でもちょっとはレイシストだよ」っていうあのノリ。あれだからザッツアメリカだなって感じがして。

で、彼らにとっての悪って何かなっていうと、そいういうの隠すことが悪なんじゃねーの?っていう若者らしいレジスタンスなんだよね。だからそこが一番の核で素晴らしいと思う。

おっくん:だいぶ核心的なことをいきなり言いますね。

山田:トレイとマットってこの2人にとっての悪っていうのが「ないことにする」。これ、すごいなって思うんだけど。先に言っちゃうとこの2人がメインのキャラクターのモデルになってるんだよね。

このスタンのモデルがトレイ・パーカー。カイルのモデルがマットなんだよね。で、マットは本当にユダヤ人で、ユダヤ人として本当にアメリカに住んでる人っていうポジションにいるんで、だからこそコイツを出せるんだよね。

だからコイツがいじめられてるっていうのを彼本人がやってる。ここでまた自分たちの何かを隠そうとしないで出していくっていうやり方っていうのかな。

その潔さがまー、すごいなって感じがあって、あといろいろあるんですけど。アメリカのコロラド州のど真ん中っていう。あそこは保守派層のど真ん中っていう。

いわゆるティーパーティーっていうか。アメリカがもっともヤバいことをやってる中心にあって。でも彼らはめちゃめちゃ保守派で神様を信じてて、敬虔な宗教を信じている人たちが多いんだけど、そこにある欺瞞(ぎまん)やなんやらみたいなもの。

そしてこの「チームアメリカ」で言ってるのが戦争を仕掛けてヒーローだぜ、みたいな。その背後にあるものは土地から来てる感じはすごいするよなって思って。

NYでもLAでもない場所から本当のことを言う

俺けっこう思うのが、これが生まれた土壌ってすげーでかいなって。ニューヨークでもなくロスでもなかったっていう。真ん中にある田舎っていうところから本当のことを言っちゃうよっていうヤバいものが出てきてるっていうのがまーおもしれーなと思うわけ。

でこれどういうことかっていうと、俺はこのフルオープンっていう世界観ってセカイ系の逆だと思うんだよ。

つまり「僕は君だけを一生だけを愛す。君を守るために生きる」っていう「君」はオバさんにならないの? っていう話になるの。「で、お金どうすんの」とか。

おっくん:あー、はいはい。

山田:君はもうヒーローだけど、それって救ったあと大丈夫なの? この子と? っていう。他の女と一生何にもないんだな!? っていう問題に対して「あ、あー、あー……」みたいな。

そういうことを全部ナシにしてセカイ系って成立するわけだよ。剣と魔法でセカイを守るっていう。でその建前をぶっ壊すっていう。このサウス対セカイっていうのはね、あるなと思っちゃう。

どうしても見てると、これってサウスパークがやってることっていうのは、セカイ系の向こう側っていうか、俺たちが作っているコンテンツっていうのは、あることとないこを分類して、都合の良いことを並べて美味しくするっていうやつ。

それで俺とセカイっていう関係に特化していく、純化していくっていうのがセカイなんだけど、サウスパークはまったく逆で、セカイっていうのはヤバいとこなんだよ。本当に。だから壁の向こうだね、まさに。壁の中と外の話だなっていう感じがすごいする。

あとサウスパークのすごいところっていうのがこれです。着地バランスですね。ここでどらに言ってもらいたかったのが、「ブックオブモルモン」っていう、彼らがモルモン教についてやった回があったんですけど、サウスパークで。

それを元ネタにした作品がミュージカルになってトニー賞とってんだよね。みんながあんまり馴染みがないんですけど、アメリカのユタ州にはモルモン教っていう不思議な宗教があるんですね。

だろめおん:行ってきました。

山田:行ってきましたか。で、自転車2人組でやたらさわやかな白人2人がやってきて。

おっくん:ゆず?

山田:あ、まー、ゆずみたいな感じ。ゆずみたいな布教。でも彼らは押し付けません。そういうのしないから。非常に真摯で優しくて、だけど人生を変える素敵な1冊っていうのを持ってるんです。

ブックオブモルモンていう。この人たちがとってもおもしろいけどちょっとイカれてる。だけど……みたいなのをサウスパークでは取り上げてる。これをブックオブモルモンていうミュージカルにするんだけど、これも着地なんだよね、問題はね。そのへんは、だから。

おっくん:着地っていうのがよく分かんないんですけど、オチってこと?

山田:まずねーこれ「布教に燃える2人の若者」っていうのが出てくんだよね。それでモルモン教は派遣されるの。君たちはどこの国に行けー、どこの国に行けーって。日本に行けーっつって。で「Yeah! IT’s a Soysource!」っつって。君はパリだ!「OH! Turtleneck!」とかっつって(笑)。

そんな感じでみんな喜ぶわけ。で「行ってくるぜ!」つって、そんで主人公の2人組が言われるのが、あのー、何だっけ?

だろめおん:まず主人公が……あ、このタイミングで、あのお土産持ってこようと思って。

山田:まじかよ(笑)。ここかよ(笑)。

だろめおん:はい、灰皿!

おっくん:俺に!? このタイミングで!?