ヤフー小澤氏らがテクノロジーを「大したことない」と言える理由--ITの限界をG1で徹底議論

テクノロジーが変えるビジネスの未来 #3/5

G1カレッジ2015
に開催

2015年11月23日、次世代のリーダーを担う大学生・大学院生を対象とした「G1カレッジ2015」が開催されました。第3部分科会D「テクノロジーが変えるビジネスの未来」に登壇したヤフー・小澤隆生氏、メタップス・佐藤航陽氏、フォトクリエイト・大澤朋陸氏の3名は、ライフネット生命・岩瀬大輔氏が問題提起した「テクノロジーに感じる限界」について、それぞれの見解を語りました。

ライフネット生命・岩瀬氏が感じる「テクノロジーの限界」

岩瀬大輔氏(以下、岩瀬):ありがとうございます。今日の本題が「テクノロジーが変えるビジネスと社会」ということなので、お三方にそれぞれ、これから5年ないし10年の時間軸で、「こういったテクノロジーが、こういうふうにビジネスや社会を変えていく」といった点についてのお考えを、お聞かせいただければと思います。

最初に1つ、僕が問題提起したいのは、インターネットは確かにすごかったんですけど、それ以外は本当にどこまでいくんだろうかという、逆にテクノロジーの限界みたいなものを感じています。

例えば、僕ら金融業界で言われているのが、いろんなテクノロジーが発達して、金融技術が発達して、例えばデリバティブみたいなのができて、世界中のお金の取引高が天文学的に増えて、いろんなことが変わったと言っているんですね。

でも、リーマンショックで大金融危機が起きたときに、アメリカ、まあ世界を代表する投資家のウォーレン・バフェット……85、86歳ですかね? 彼が言っていたのが、「この100年で金融業界であった、本当に意味のあるイノベーションは1つだけだ。それは、銀行のATMだけだ」と。それ以外、なにも意味なかったみたいなことを言っているんですね。

確かにそういう面もあると。あと、最近読んで、「ふむふむ」と思ったのが、ピーター・ティールの本『ゼロ・トゥ・ワン』のなかで、これはピーター・ティールが言っているからおもしろいなと思ったんですけどね。

「結局テクノロジーは人間を代替することはない。人間を補完するだけなので、人間と競争しない。テクノロジーがすごいと言われるけど、言ってみれば大したことない」というのを、シリコンバレーの兄貴、まあシリコンバレーの小澤さんみたいな存在が(笑)、ピーター・ティールが言っていたのが意外で。

それで、実はピーター・ティールも最初は法学部出身で弁護士なんですよね。なので、一方ではすごいテクノロジーで社会が変わるみたいな話で、毎回新しいものがいろんなのが出てくるわけなんですよね。

テクノロジーがすごいという幻想

例えば、僕はベネッセの社外取締役をやっていて、今日はベネッセのオーナー家の福武英明さんが来ているんです。

教育業界では、今、EdTechという、education × technologyというのが、1つの流行り言葉なんですけど、僕は正直言って、そんなことやったからって子供が勉強できるようになる気がしないんですよね。

そんないろいろとテクノロジーすごいという幻想と、一方で本当に人間がそれでどこまで変わるんだろうか、確かにATMはすごい、インターネットはすごいんですけど、それ以外に本当にどこまでいくんだろうかというのを思っていて、とくにビッグデータとかもそうで……。すみません、「モデレーターはあんまり長くしゃべるな」と言われているんですけど(笑)。

問題提起なんですけど、僕が10年前に会社作ったときに、小澤さんもよく知っている某大起業家の方に呼ばれたんですね。

その方に言われたのは、「俺は今、日本の国民がなにをしているのか、全部わかる」。つまり、なんの本を買って、保険なので、いつ妊娠したかもわかる。妊娠した本を買っているとか、妊娠グッズを買っているとか。

いろんなポイントサービスをやられている方で、あと、どんなビデオ借りているとかわかるとかですね(笑)。

(会場笑)

岩瀬:なんかそういったことを言われて、「全部わかる」と。その結論が、「だから、うちの通販サービス使え」と言われたんですよ。

僕がそのとき思ったのは、メーリングサービスですね。「そんなに全部わかるんなら、自分でコマースの商売したら大成功するじゃん」と思ったんですよ。

でも、10年経ったけど結局ね……ポイントビジネスを売却しちゃったりしているので、どれだけデータを取っても、人間の購買行動とかはそこまで正確に捉えられないんじゃないかなみたいな、いろんな原体験があって。テクノロジーって本当にどこまでできるんだろうかという問題意識を持っているんです。

この点について、お三方それぞれの立場からお話しいただければと思います。じゃあ、大澤さんから。

写真業界のイノベーション

大澤朋陸氏(以下、大澤):私は写真の業界にいるので、ちょっと写真の話をしますと、我々がちょうどビジネスを始めた2002年ぐらいは、フィルムからデジタルに変わって、「すごく大きく変わる」と言われていた時代なんですね。

ただ、変わる変わると言われながら、本当に変わったのは10年ぐらいかかったかなというのがあって、「フィルムじゃないとこの色が出ない」とかですね。

いろんなことを言いながら、我々がやった2002年でも、まだフィルムのカメラマンがいっぱいいました。デジタルにはなかなか移行しなかった。

今はほぼデジタルで、その色も出せるようになってきて、変わってきてはいるんですけども、とはいえ、やっぱりその瞬間を切り取るということは、写真家の技術としては変わっていない。

これが今、4K、8Kと言われてきて、一眼レフカメラの動画が撮れるようになってきて、その動画から切り取った写真が、もう写真として成立するぐらい画質が上がってきている。

これが8Kになると、ほぼ写真と変わらないというようなかたちで、「カメラマンがいらなくなるんじゃないか」ということがすごく言われているんですね。

要は、動画を固定カメラで撮っておいて、あとから編集して写真を切り出せばいいということで、海外のスポーツスタジアムなんかは、完全に全部置かれているんですよね。動画が置かれていて、そこから切り取ってやるというフォトサービスなんかも出てきているんです。

とはいえ、その瞬間を切り取る技術、その感性といったものはテクノロジーでは変えられないんじゃないかなというところと、一方では、その切り取った……要はすごくよく写真が売れるカメラマンがいるとしますよね。

そのカメラマンの完成の部分を学習させて、その瞬間で動画を切り取るようなものを覚え込ませて、自動で切り取るみたいなものをやっていけば、その人のコピーが作れるんじゃないか的な考え方もあって。

そこを我々はバランスを取りながら、どういった写真を届けられるのかみたいな。結局答えはないんですが、テクノロジーはやっぱりツールなのかなというふうには見ていますけどね。

GoogleやAmazonもテクノロジーだけでは利益にならない

岩瀬:はい、ありがとうございます。じゃあ次、佐藤さんお願いします。

佐藤航陽氏(以下、佐藤):はい。私たちもテクノロジーを中心にビジネスをやっていて、いろんな会社の分析をしていたんですよね。それで、おもしろいことに気づいて、「経済的な利益というのは、テクノロジー以外のところにしか発生しないんだな」ということに気づきました。

つまり、テクノロジーというのはコモディティ、既存のサービスを陳腐化するためのツールであって、そのものでは利益になりえないということを感じているんですよね。

例えば、Googleが実際、なぜあそこまでスケーラビリティを得たかというと、やっぱり彼らは初期のタイミングでサーバーを安く作ることができた。当時はサーバーが何億円とかかったはずなんですよね。

それを自分たちですごく安く買ってきて、チューニングをして……というのが、初期のエンジニアたちに技術があったので、それがゆえに、誰かが検索を叩いたら一瞬でリクエストを返せる仕組みができた。だから結局、ハードウェアの部分なんですよね。

岩瀬:例えば、AdSenseとかはどうなんですか?

佐藤:彼らも結局は営業というのが必要じゃないですか。なので、AdSenseもやっぱり中小企業を自動化して、彼らが管理画面から出稿できるという仕組みはあるとは思うんですけど。

実際にその内訳を見ていると、けっこう大企業に対する営業をしっかりやっているんですよね。つまり、そこはもうテクノロジーではないんですよね。Amazonも同様で、やっぱり配送。あれはテクノロジーではなくて、明日届く、これはもうインターネットではないんですよね。

(会場笑)

佐藤:楽天さんを見ていても、ものすごくしっかり営業している。2000年代の初期のタイミングって、やっぱり本当にその営業マンが店舗に行って、1軒1軒話すという営業組織を作って、やっと利益が出ているという状況だったので。

テクノロジーはすごく便利ではあるんですけども、やっぱりすぐにコピーできてしまうので、それ以外のところでどう利益を出すかというのが重要だよね、というのが気づきとしてあったので、ピーター・ティールの言うことは、そのとおりだと思っています。

そのもので利益を出そうとするんじゃなくて、そこでは実現できないところに競争優位性というのを持っていかなければいけないと考えてはいますね。

なので、経済とテクノロジーという関わりで言えば、テクノロジーそのものを強みにするのではなくて、そこではできないことを強みにしておいて、テクノロジーでほかの企業さまがやっているところを陳腐化していくというのが、戦略として一番正しいなと感じていますね。

インターネットはもうフロンティアではない

岩瀬:ありがとうございます。今日のパンフレットのなかに、「Internet of Things」だとか、「人工知能」だとか、「VRがこれから来る」と書いてあるんですけど、そのへん佐藤さんはどのようにお考えで、どういったことに着目されていますか?

佐藤:人工知能とかVRでいうと、たぶんインターネットの延長でしかないなと思っていますね。

なので、あれで劇的に変わるかというとそうではなくて、結局はインターネットが若干進化して、たぶんリアルの世界にいくと、それがIoTとかロボティクス、あとは3DCG、いわゆるエンターテインメントの領域にいくとVRに進化して、2つに分かれていくだけだとは思うので。

たぶん既存のプレイヤーで強い企業はそのまま強いですし、あとはそこの隙間を縫って、また新興企業が出てくるとは思いますけども、ものすごく劇的な変化がというと、そうではないと思っています。

なので、私はインターネットはもうフロンティアではないなと思っていますね。すでにできあがった市場であって、本当のフロンティアというのはゲノムだったり、違う領域に発生しているのかなと。

岩瀬:そういった中、メタップスはどういう未来を描いて、どこで勝負をしていくお考えなんですか?

佐藤:まあ戦略的な話にはなりますけど、IRじゃないですけど(笑)。

私たちはものすごく知りたがりな会社なんですよね。世の中がどうなっているのかを、テクノロジーを通して見ていきたいというのがあるので、極力多くの情報と分析をしていって、実際私たちの現実というのがどうなっているのかというのを、解き明かしたいというのがあります。

なので、ビジネスモデルと企業の方向性というのは、そんなにシンクロしなくてもいいのかなと思っています。稼げるところは稼ごうと(笑)。

飯食って、恋に落ちて、寝る 人間の営みは変わらない

岩瀬:ありがとうございます。小澤さん、業界に20年いらして、いろんな流行り廃りというか、いろんなものを見てきたと思うんですけど。

今のお二人のお話を受けて、最初の問題提起について、少しお話を聞かせていただいていいですか?

小澤隆生氏(以下、小澤):基本的な人間の営みというのは、もう何千年なのか、もう何千万年なのか、変わらないです。飯食って、恋に落ちて、寝るんです。

(会場笑)

小澤:テクノロジーというのは、そのマイナスをできるだけゼロに近づけて、悪いところをゼロに近づけて、いいものを伸ばすということなんです。

例えるなら、食べ物の問題。飢えている人がいる、マイナスの問題を農業の技術、テクノロジーを使って大量生産をして、なるべく飢えないようにする。

それで、プラスをさらにプラスにする。おいしいものを食べたいというものに対しては、高品質の食べ物、野菜ができあがり、おいしいレストランを探すためにインターネットを活用し、調理器具の技術革新によりおいしい料理が作れるようになる。

これがマイナスをゼロにし、プラスをさらにプラスにする。技術というのはそういうものでして、ただ人が物を食べるというものが不変なわけです。

寝るのも同様です。ベッドの技術革新だったり、ひょっとしたら睡眠のソフトウェアの改善により、睡眠のアルゴリズムが解析されて、いつ起きていつ寝ればいいみたいなものができると。

出会い系、昔は街でナンパしていたわけです。私も新宿アルタ前で一生懸命ストリートファイトというのをやっていたわけですよ。

でも今は、インターネットで「この人かわいい」っていういろんなアプリがあって、さらにビッグデータの活用により、「小澤さんに合ってそうな人がいます」って先に出てくるわけですよ。

(会場笑)

小澤:まあ、やりませんよ、私は!

(会場笑)

ほとんどの人がテクノロジーの本質をわかっていない

小澤:結婚16年、17年経っているから。ただ、恋に落ちるというのは変わらない。その効率がよくなる。出会えなかった人が出会えるようになり、「出会いたい」と思っていた人がより出会えるようになるという、もうそれだけですから。

そこにビジネスが発生するかもしれないし、ただ忘れちゃいけないのは、恋に落ちなくなるわけではないし、飯を食わないですむようになるわけでもないんです。それを忘れない、ということです。

それで、自分のやろうとしているこのテクノロジーが、どっちに使えるのかなということを、常に忘れないようにするということも重要だと思います。

例えば、治療で悪い人を治すのか、ものすごく頭のいい人を作るのかというのは別の話、テクノロジーで言ったらね。

そういう話だと思っているので、世の中はよくなります。ただ、根本が変わるわけではない。こういうことだと思っております。テクノロジーによってね。じゃあ、どこが変わるんだ? 不愉快な気持ちがだんだんなくなる。

例えば昔は、携帯電話というテクノロジーがなかった頃は、「早稲田大学の小澤ですけど、佐藤さん、あの……アキコちゃんいますか?」「おまえは誰だ?」なんて、家の電話にかけていたわけですよ。

携帯電話は、その親の気まずさというのをなくしてくれたんだけど、かけるという事実は変わらないわけです。

さらに今、どんなことかというと、断られるという不愉快さをいかになくすかみたいなところで、近くにいる人がFacebookでわかるようになったり、暇な人が多少わかるようになったりとか(笑)。

でも、結局、誘うことには変わらないんです。不愉快な気持ちをいかにテクノロジーでなくすか、そんな話だと思っています。

岩瀬:今、すごく簡単に、わかりやすく噛み砕いてお話しいただいたんですけど、すごく本質的で大事な話をしてくださっていて、けっこう世の中に出ている読み物、いろんな特集だとか、あるいは企業におけるディスカッションとかのなかでも、たぶんテクノロジーをわかっていない人がほとんどなんですよね。

なので、なにか新しいものが出てくると、「使わなくちゃいけない」とか、「これによってなにか劇的に変わる」と思ってビジネスプラン組んだり、取り組んでいる人がすごく多いんですよ。

だから、今の話ってみなさん、絶対覚えておくとすごく役に立つ話で、逆にテクノロジーを知りつくした人じゃないと、今日のお三方そうですけど、「テクノロジー大したことない」と言えないんですよね。ピーター・ティールもそうなので。

なので、テクノロジーの可能性を最大限生かしつつ、その限界を知りながらやるというのがすごく大事です。

今、小澤さんが、詳しい人もいればそうじゃない人もいるから、できるだけみんなでわかりやすく話そうねって、事前に打ち合わせしていたんですけど、すごくいい話を聞けたというのを覚えといていただければなと思います。

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