ライフネット生命・岩瀬氏が感じる「テクノロジーの限界」

岩瀬大輔氏(以下、岩瀬):ありがとうございます。今日の本題が「テクノロジーが変えるビジネスと社会」ということなので、お三方にそれぞれ、これから5年ないし10年の時間軸で、「こういったテクノロジーが、こういうふうにビジネスや社会を変えていく」といった点についてのお考えを、お聞かせいただければと思います。

最初に1つ、僕が問題提起したいのは、インターネットは確かにすごかったんですけど、それ以外は本当にどこまでいくんだろうかという、逆にテクノロジーの限界みたいなものを感じています。

例えば、僕ら金融業界で言われているのが、いろんなテクノロジーが発達して、金融技術が発達して、例えばデリバティブみたいなのができて、世界中のお金の取引高が天文学的に増えて、いろんなことが変わったと言っているんですね。

でも、リーマンショックで大金融危機が起きたときに、アメリカ、まあ世界を代表する投資家のウォーレン・バフェット……85、86歳ですかね? 彼が言っていたのが、「この100年で金融業界であった、本当に意味のあるイノベーションは1つだけだ。それは、銀行のATMだけだ」と。それ以外、なにも意味なかったみたいなことを言っているんですね。

確かにそういう面もあると。あと、最近読んで、「ふむふむ」と思ったのが、ピーター・ティールの本『ゼロ・トゥ・ワン』のなかで、これはピーター・ティールが言っているからおもしろいなと思ったんですけどね。

「結局テクノロジーは人間を代替することはない。人間を補完するだけなので、人間と競争しない。テクノロジーがすごいと言われるけど、言ってみれば大したことない」というのを、シリコンバレーの兄貴、まあシリコンバレーの小澤さんみたいな存在が(笑)、ピーター・ティールが言っていたのが意外で。

それで、実はピーター・ティールも最初は法学部出身で弁護士なんですよね。なので、一方ではすごいテクノロジーで社会が変わるみたいな話で、毎回新しいものがいろんなのが出てくるわけなんですよね。

テクノロジーがすごいという幻想

例えば、僕はベネッセの社外取締役をやっていて、今日はベネッセのオーナー家の福武英明さんが来ているんです。

教育業界では、今、EdTechという、education × technologyというのが、1つの流行り言葉なんですけど、僕は正直言って、そんなことやったからって子供が勉強できるようになる気がしないんですよね。

そんないろいろとテクノロジーすごいという幻想と、一方で本当に人間がそれでどこまで変わるんだろうか、確かにATMはすごい、インターネットはすごいんですけど、それ以外に本当にどこまでいくんだろうかというのを思っていて、とくにビッグデータとかもそうで……。すみません、「モデレーターはあんまり長くしゃべるな」と言われているんですけど(笑)。

問題提起なんですけど、僕が10年前に会社作ったときに、小澤さんもよく知っている某大起業家の方に呼ばれたんですね。

その方に言われたのは、「俺は今、日本の国民がなにをしているのか、全部わかる」。つまり、なんの本を買って、保険なので、いつ妊娠したかもわかる。妊娠した本を買っているとか、妊娠グッズを買っているとか。

いろんなポイントサービスをやられている方で、あと、どんなビデオ借りているとかわかるとかですね(笑)。

(会場笑)

岩瀬:なんかそういったことを言われて、「全部わかる」と。その結論が、「だから、うちの通販サービス使え」と言われたんですよ。

僕がそのとき思ったのは、メーリングサービスですね。「そんなに全部わかるんなら、自分でコマースの商売したら大成功するじゃん」と思ったんですよ。

でも、10年経ったけど結局ね……ポイントビジネスを売却しちゃったりしているので、どれだけデータを取っても、人間の購買行動とかはそこまで正確に捉えられないんじゃないかなみたいな、いろんな原体験があって。テクノロジーって本当にどこまでできるんだろうかという問題意識を持っているんです。

この点について、お三方それぞれの立場からお話しいただければと思います。じゃあ、大澤さんから。

写真業界のイノベーション

大澤朋陸氏(以下、大澤):私は写真の業界にいるので、ちょっと写真の話をしますと、我々がちょうどビジネスを始めた2002年ぐらいは、フィルムからデジタルに変わって、「すごく大きく変わる」と言われていた時代なんですね。

ただ、変わる変わると言われながら、本当に変わったのは10年ぐらいかかったかなというのがあって、「フィルムじゃないとこの色が出ない」とかですね。

いろんなことを言いながら、我々がやった2002年でも、まだフィルムのカメラマンがいっぱいいました。デジタルにはなかなか移行しなかった。

今はほぼデジタルで、その色も出せるようになってきて、変わってきてはいるんですけども、とはいえ、やっぱりその瞬間を切り取るということは、写真家の技術としては変わっていない。

これが今、4K、8Kと言われてきて、一眼レフカメラの動画が撮れるようになってきて、その動画から切り取った写真が、もう写真として成立するぐらい画質が上がってきている。

これが8Kになると、ほぼ写真と変わらないというようなかたちで、「カメラマンがいらなくなるんじゃないか」ということがすごく言われているんですね。

要は、動画を固定カメラで撮っておいて、あとから編集して写真を切り出せばいいということで、海外のスポーツスタジアムなんかは、完全に全部置かれているんですよね。動画が置かれていて、そこから切り取ってやるというフォトサービスなんかも出てきているんです。

とはいえ、その瞬間を切り取る技術、その感性といったものはテクノロジーでは変えられないんじゃないかなというところと、一方では、その切り取った……要はすごくよく写真が売れるカメラマンがいるとしますよね。

そのカメラマンの完成の部分を学習させて、その瞬間で動画を切り取るようなものを覚え込ませて、自動で切り取るみたいなものをやっていけば、その人のコピーが作れるんじゃないか的な考え方もあって。

そこを我々はバランスを取りながら、どういった写真を届けられるのかみたいな。結局答えはないんですが、テクノロジーはやっぱりツールなのかなというふうには見ていますけどね。

GoogleやAmazonもテクノロジーだけでは利益にならない

岩瀬:はい、ありがとうございます。じゃあ次、佐藤さんお願いします。

佐藤航陽氏(以下、佐藤):はい。私たちもテクノロジーを中心にビジネスをやっていて、いろんな会社の分析をしていたんですよね。それで、おもしろいことに気づいて、「経済的な利益というのは、テクノロジー以外のところにしか発生しないんだな」ということに気づきました。

つまり、テクノロジーというのはコモディティ、既存のサービスを陳腐化するためのツールであって、そのものでは利益になりえないということを感じているんですよね。

例えば、Googleが実際、なぜあそこまでスケーラビリティを得たかというと、やっぱり彼らは初期のタイミングでサーバーを安く作ることができた。当時はサーバーが何億円とかかったはずなんですよね。

それを自分たちですごく安く買ってきて、チューニングをして……というのが、初期のエンジニアたちに技術があったので、それがゆえに、誰かが検索を叩いたら一瞬でリクエストを返せる仕組みができた。だから結局、ハードウェアの部分なんですよね。

岩瀬:例えば、AdSenseとかはどうなんですか?

佐藤:彼らも結局は営業というのが必要じゃないですか。なので、AdSenseもやっぱり中小企業を自動化して、彼らが管理画面から出稿できるという仕組みはあるとは思うんですけど。

実際にその内訳を見ていると、けっこう大企業に対する営業をしっかりやっているんですよね。つまり、そこはもうテクノロジーではないんですよね。Amazonも同様で、やっぱり配送。あれはテクノロジーではなくて、明日届く、これはもうインターネットではないんですよね。

(会場笑)

佐藤:楽天さんを見ていても、ものすごくしっかり営業している。2000年代の初期のタイミングって、やっぱり本当にその営業マンが店舗に行って、1軒1軒話すという営業組織を作って、やっと利益が出ているという状況だったので。

テクノロジーはすごく便利ではあるんですけども、やっぱりすぐにコピーできてしまうので、それ以外のところでどう利益を出すかというのが重要だよね、というのが気づきとしてあったので、ピーター・ティールの言うことは、そのとおりだと思っています。

そのもので利益を出そうとするんじゃなくて、そこでは実現できないところに競争優位性というのを持っていかなければいけないと考えてはいますね。

なので、経済とテクノロジーという関わりで言えば、テクノロジーそのものを強みにするのではなくて、そこではできないことを強みにしておいて、テクノロジーでほかの企業さまがやっているところを陳腐化していくというのが、戦略として一番正しいなと感じていますね。

インターネットはもうフロンティアではない

岩瀬:ありがとうございます。今日のパンフレットのなかに、「Internet of Things」だとか、「人工知能」だとか、「VRがこれから来る」と書いてあるんですけど、そのへん佐藤さんはどのようにお考えで、どういったことに着目されていますか?

佐藤:人工知能とかVRでいうと、たぶんインターネットの延長でしかないなと思っていますね。

なので、あれで劇的に変わるかというとそうではなくて、結局はインターネットが若干進化して、たぶんリアルの世界にいくと、それがIoTとかロボティクス、あとは3DCG、いわゆるエンターテインメントの領域にいくとVRに進化して、2つに分かれていくだけだとは思うので。

たぶん既存のプレイヤーで強い企業はそのまま強いですし、あとはそこの隙間を縫って、また新興企業が出てくるとは思いますけども、ものすごく劇的な変化がというと、そうではないと思っています。

なので、私はインターネットはもうフロンティアではないなと思っていますね。すでにできあがった市場であって、本当のフロンティアというのはゲノムだったり、違う領域に発生しているのかなと。

岩瀬:そういった中、メタップスはどういう未来を描いて、どこで勝負をしていくお考えなんですか?

佐藤:まあ戦略的な話にはなりますけど、IRじゃないですけど(笑)。

私たちはものすごく知りたがりな会社なんですよね。世の中がどうなっているのかを、テクノロジーを通して見ていきたいというのがあるので、極力多くの情報と分析をしていって、実際私たちの現実というのがどうなっているのかというのを、解き明かしたいというのがあります。

なので、ビジネスモデルと企業の方向性というのは、そんなにシンクロしなくてもいいのかなと思っています。稼げるところは稼ごうと(笑)。