2024.12.10
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議会史に残る感動の名演説(全1記事)
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江田五月議長:尾辻秀久君から発言を求められております。この際発言を許します。尾辻秀久君。
自民党・尾辻秀久氏(以下、尾辻):本院議員、山本孝史先生は、平成19年12月22日、胸腺がんのため逝去されました。享年58歳でありました。まことに痛惜哀悼の念に堪えません。
山本孝史先生は、平成18年1月、国立がんセンター中央病院において、現在の医療では治ることのない「ステージ4」の進行がんであるとの確定診断を受けられました。奥様には、何も治療をしなければ余命は半年と告げられました。
胸腺がんは、非常に珍しいがんで、もともと外科手術による切除が難しい上、他の臓器への転移も見られたことから、抗がん剤による化学療法が選択されました。
爾来(じらい)、山本孝史先生は、末期のがん患者として常に死を意識しながら国会議員の仕事に全身全霊を傾け、2年の月日を懸命に生きられたのであります。私はここに、山本孝史先生の御霊に対し、謹んで哀悼の言葉を捧げます。
尾辻:山本孝史先生は、昭和24年7月7日、兵庫県芦屋市にお生まれになり、その後、大阪市南船場に転居されました。先生が5歳の時、兄上が自宅前でトラックに轢かれて亡くなられております。山本先生は後に、母が亡骸となった兄の脚をさすっていた姿を、今も鮮明に覚えていると書き遺されています。
山本先生はその後、立命館大学在学中に、身体障害者の介助ボランティアを体験され、これをきっかけに大阪ボランティア協会で交通遺児育英募金と出会うことになります。交通遺児の作文集を読まれた時、夭折した兄の無念さや、両親の悲しみが一気に胸に溢れたと述べておられます。
「大阪交通遺児を励ます会」を結成された先生は、活動を展開するため、全国協議会の事務局長に就任されました。交通遺児と母親の全国大会を成功させ、参加者とともに銀座をデモ行進されたと聞きました。先生の政治の世界におけるご活躍の基礎は、市民活動にありました。
山本先生は大学卒業後、財団法人交通遺児育英会に就職され、その後、米国ミシガン州立大学に留学。家族社会学を専攻して、高齢者福祉や社会貢献活動、死の教育のあり方について学ばれました。大学院修士課程を修了された後、育英会に復職され、平成2年に事務局長に就任されました。
災害や病気、自殺などで親を失った子どもにも奨学金を支給したいと願っておられましたが、監督官庁の反対に遭い、縦割り行政を痛感されていた平成5年、先生に転機が訪れます。誘いを受け、日本新党から旧大阪4区に立候補され、ボランティア選挙、お金のかからない選挙を展開し、当選されました。
次いで平成8年の総選挙には、新進党から近畿比例区に立候補され、再選を果たされました。衆院時代の山本先生は、年金や医療制度の改革、介護保険の創設や残留邦人の援護などの問題に取り組まれました。
また、当選の翌年から、長きにわたって厚生委員会の理事の職を務められました。質問等の回数は、本会議での代表質問2回、討論2回、委員会での質疑70回、質問主意書は医療問題援護事業などに関するもの34本を数えます。
特に薬害エイズ事件の真相解明では、隠されたファイルの存在や、加熱製剤承認後も非加熱製剤が使用され続けていた事実を明らかにされました。また、脳死臓器移植問題では、いわゆる金田・山本案と呼ばれる対案を提出され、国会論議を深めることに貢献されました。
先生は平成13年、参議院に転じ、大阪選挙区から立候補され、当選されました。再び年金や医療制度の改革に取り組まれ、亡くなられるまでの間、参議院本会議での代表質問が5回、予算決算、厚生労働などでの委員会質疑は58回に及び、質問主意書についても年金社会保険庁問題などで11本を数えます。
この間、党務においては民主党の"次の内閣"の厚生労働大臣、年金改革プロジェクトチームの座長などを努められました。また、山本先生は平成15年、参議院民主党新緑風会の幹事長に就任されました。
幹事長在任中の平成16年の参議院選挙は、年金が大きな争点となりました。先生は年金政策の第一人者であり、民主党の年金改革法案の実質的な立案者であったと伺っております。山本先生は年金論議を終始リードされましたが、政府の年金改革法案の代表質問に立たれた際、この壇上から次のように訴えられました。
「議場の皆様に申し上げます。年金改革はこの国の有り様を決める大事業であり、そして我々は国民の代表であります。年金改革とこれからの国の有り様について、この参議院において真摯に真剣に、そして徹底的に議論しようではありませんか」。
使命感に満ち溢れた名演説でした。厚生労働委員会における、小泉総理との白熱したやりとりは、今も語り草となっております。今もわが党は厳しい選挙戦を強いられることになりましたが、この時の躍進こそ、民主党が参議院第一党となる礎となっているといえましょう。
自民党・尾辻秀久氏(以下、尾辻):山本先生はわが自由民主党にとって、最も手強い政策論争の相手でありました。
私は平成16年から17年にかけて、厚生労働大臣を拝命いたしておりました。その間、山本先生から予算委員会で3回、厚生労働委員会において8回のご質疑を頂戴いたしました。先日、会議録を読み返してみましたところ、170問ございました。
その中で印象深いのは、平成16年11月16日の厚生労働委員会での質疑でした。山本先生は、「助太刀無用、1対1の真剣勝負」との通告をされました。この質疑の中で、私が明らかに役所の用意した答弁を読みますと、先生は激しく反発されましたが、私が私の思いを率直にお応えいたしますと、幼稚な答えにも相槌を打ってくださいました。
先生から、自分の言葉で自分の考えを誠実に説明する大切さを教えていただきました。そして、社会保障とは何かをご指導いただきました。昨日も先生に叱られないように、社会保障には特に力を入れて、質問をいたしました。
尾辻:山本先生は平成17年、参議院財政金融委員長に就任されました。新しい分野で活躍しようとなさっていたその矢先に、病魔に侵されておられました。山本先生は平成18年5月22日、医療制度改革関連法案の代表質問に立たれ、この壇上から次のように語り始められました。
「理想の医療を目指された、故・今井澄先生の志を胸に、私ごとで恐縮ですが、私自身がん患者として、同僚議員をはじめ多くの方々のご理解・ご支援をいただきながら国会活動を続け、本日質問にも立たせていただいたことに心から感謝をしつつ質問をいたします。
そして最後に、がん対策法の本国会での成立について、議場の皆さんにお願いをします。日本人の2人に1人はがんにかかる、3人に1人はがんで亡くなる時代になっています。今や、がんは最も身近な病気です。
がん患者はがんの進行や再発の不安、先のことが考えられない辛さなどと向き合いながら、身体的苦痛、経済的負担に苦しみながらも新たな治療法の開発に期待を寄せつつ、1日1日を大切に生きています。私があえてがん患者と申し上げましたのも、がん対策基本法を成立させることが、日本の本格的ながん対策の第1歩になると確信するからです。
また、本院厚生労働委員会では、自殺対策の推進について全会一致で決議を行いました。私は、命を守るのが政治家の仕事だと思ってきました。がんも自殺も、共に救える命がいっぱいあるのに、次々と失われているのは、政治や行政、社会の対策が遅れているからです。
年間30万人のがん死亡者、3万人を超える自殺者の命がひとりでも多く救われるように、何卒、議場の皆様の理解とご協力をお願いいたします。」
と結ばれました。いつものように淡々とした調子でしたが、先生は抗がん剤による副作用に耐えながら、渾身の力を振り絞られたに違いありません。
この演説は、すべての人の魂を揺さぶりました。議場は温かい拍手で包まれました。私は今、その光景を思い浮かべながら、同じ壇上に立ち、先生の一言一句を振り返るとき……。万感、胸に迫るものがあります。
先生は法律を成立させただけではありませんでした。やせ細られた身体を押して、がん対策推進協議会を欠かさず傍聴されるなど、命を削って責任を果たされました。
山本先生は、昨年7月の参議院選挙にも立候補され、再選を果たされました。12月4日、筆頭発議者として被爆者援護法の改正案を提出されます。これが、国会議員として記録に残る最後の仕事となりました。
衆参両院で、述べ37本の議員立法を提出されたことになります。「国会議員こそ立法者である」との信念を貫かれたのであります。
尾辻:先生は12月22日、黄泉の国へと旅立たれました。先生の最後のご著書となった『救える「いのち」のために 日本のがん医療への提言』は、先生が亡くなられる直前に、見本の本が病室に届けられました。先生は目を開け、じっと見つめて頷かれたそうです。
その時のご様子を、奥様は告別式において次のように紹介されました。
「私は彼の手を握りながら本を読んであげました。山本は、命を削りながら執筆した本が世に出ることを確かめ、そして日本のがん医療、ひいては日本の医療全体が向上し、本当に患者のための医療が提供されることを願いながら、静かに息を引き取りました」。
バトンを渡しましたよ、襷をつなぐようにしっかりと引き継いでください、そう言う山本先生の声が聞こえてまいります。
先生、今日は外は雪です。ずいぶん痩せておられましたから、寒くありませんか? 先生と、自殺対策推進基本法の「推進」の2文字を、「自殺推進」と読まれると困るから消してしまおう、と話し合った日のことを懐かしく思い出しております。
あなたは参議院の誇りであります。社会保障の良心でした。ここに、山本孝史先生が生前に残されました数多くのご業績と、気骨溢れる気高き精神を偲び、謹んでご冥福をお祈りしながら、参議委員議員一同を代表して、お別れの言葉といたします。
(議場拍手)
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