アメリカは“ラスボス”と心得よ

辻庸介氏(以下、辻):なるほど。ありがとうございます。佐藤さんどうですか。

佐藤航陽氏(以下、佐藤):私もだいたい同じ考え方を持っていて、昔にユニクロの柳井さんも同じ話をしてたんですよね。海外で立ち上げてみて思ったことなんですが、「カルチャーの近さ」。実はここがすごく重要だなと。

実は日本のインターネット企業で、海外展開が一番しやすい国を調べてみたら台湾なんですよね。なぜかというと親日だから。共通の言語だったり共通のカルチャーをお互い共有できるので、言語は違うんですけれどすごくなじみやすい。マネージメントもしやすいし、対話もしやすいんですよね。結果的に一番立ち上がりやすい。

なので、市場規模とかよりはどちらかというとカルチャーがどれくらい近いか。それによってどこから攻めていくかというルートを考えていく。日本企業は最後にアメリカに行くべきであって、アメリカ企業は逆に最後に中国に行くべきルートなので、ルートを間違えないこと。

私たちはよく言うんですけども、「アメリカというのはラスボスだよね」と。もっともカルチャーが遠くて、かつやりづらい国。なので、最初に行くとグローバル展開の出鼻をくじかれてしまうので、一番近い国から進出していく。

アメリカは逆に最初に中国とか日本に行ってはいけなくて、当然ヨーロッパに行くべきなんですよね。ヨーロッパである程度基盤を築いたら、英語とかアメリカの思想をちゃんと理解している国、インドとかそういうところを回って、最後に中国というところまで行く。それをちゃんと理解してるかしてないかによって、グローバル展開はたぶん変わってきてしまうので、事前にそういうことを知っておきたかったなと思いましたね。

どのように生きた情報を得るのか?

:それはどうやって知ったんですか? 実際やってみて頭を打ちながら、進みながら覚えてきた?

佐藤:それもありますし、あとは他社の情報。「あそこは苦戦してるらしい。なんでだろう」ということとか、あとは、メタップスがアプリのマーケットの分析をしているので、日本企業のアプリ、LINEとかも含めてどこの国で普及しやすいかを調べていきました。すると、だいたい同じ傾向があったんです。

やっぱり台湾とかタイとかは、日本のサービスが普及しやすい。一方で中国は相当遮断されており、アメリカも難しい。アメリカ企業のサービスがヨーロッパでやっていけるというのも、傾向が一緒でした。

:情報の取得は(会場に)来られているビジネスパーソンにとって命綱だと思うんですけど、世の中には情報なんてあふれてるじゃないですか。そのなかから必要な情報を取得して、加工して、考えて落とし込んで自分にどう活かすかみたいなプロセスがあると思うんですけど、そこはどうされてますか? 間下さんはどんな風に情報を得られているんですか?

間下直晃氏(以下、間下):ネットの情報とかそういうのでいろいろ入ってくるのもありますけど、やっぱり直接体感できる情報ほど強いものはないので。体当たりというのが多いですよね、実際には。結局いろんな失敗もあるし、そこで得るダメージもありますけど、それによって得られる情報は本当に強い。

むしろ、そういうふうに体当たりしてる人に(情報が)近づくと思う。自分で体当たりしてみるというのは、かなり大きな違いがあると思うんですね。だから正直、海外展開やるんだったら海外に行けと思いますね。まともに向こう側でやってないとできないです。

聞いてる情報(で判断すること)、人間の常識は怖いんです。日本と海外は常識が違うじゃないですか。常識が違うベースの情報が入ってくると、理解できないし、信用できないんですよ。行ってみて常識がわかると、そこがまっすぐに入ってくる。そういうのはけっこうあります。

日本人はすぐに年齢を聞く

吉田浩一郎氏(以下、吉田):本当におっしゃるとおりで、働き方というのも、……私はずっと日本だったのですけれども、海外に行っていろんな人に会うと、例えばスイスの銀行員が「2ヶ月休暇を取って世界中を旅してます」と聞いて、役職は別に普通の主任クラスなんですよね。「え、銀行員で2ヶ月休み取れるの?」みたいな(笑)。

そういう話とか、やっぱり成熟市場における働き方はこうなってくんだなと。こういうナマの状況が見られるかというか。日本全体の成熟市場に身を置いてる企業の働き方をワークシェアリングとか副業OKにしていくとか、あるいは休暇を多く取れるようにしていく。

あるいは、会社以外の自己実現のあり方、自分の発見の仕方みたいな時間を取っていくんだなというのを、ナマでけっこう見る機会がある。グローバルには、本当に1年単位2年単位で会社を辞めてる人なんてたくさんいるじゃないですか。でも、日本は一回やめたら正社員に戻りにくいみたいな感覚があるし、あと年齢を聞く。あれがぜんぜん違いますよね。

日本人は1歳違ったら「先輩!」みたいな感じですけど、別にグローバルだと年齢の話をしないというか。別に45歳でアントレプレナーやっていても「おっ、いいね」という感じだし、25歳で老けてるやつがいてもそれはそれで認めるというか。そういうところでいちいち型にはめることが、日本のなかでどんどんなくなっていくんじゃないかと思います。

クラウドワークスは、年齢非表示・居住地を公開せずに仕事を受注することもできるんです。年齢公開せずに仕事を受注している方もいます。そういう価値観が変わっていく必要というのは、最近すごく感じてますね。海外に行ってみると。

「自分特有の違和感を発見しろ」

:それはピラミッド型の年功序列で、上が一番情報を持っていて情報をコントロールしながら下におろしていく仕組みが、今はインターネットで情報なんてバーっと共有できますし、上の意思決定が間違っているときもすぐにわかっちゃう。例えばブラック企業だったイチ社員がお客さんとか社員に発信したら、あっという間にネット上に広まって困ってしまうとか。かなりインターネットの影響が大きいですよね。

吉田:もうそういうコストが、今の日本市場に見合うようになったんですよ。稟議のコストとか、セキュリティのコストとか、著作権や商標権がどうとか、そういうのを全部乗っけるわりに取引の額とかがどんどん小さくなってますから。そういうものを、そもそも変えていかなきゃいけない。そういうのはすごく感じますよね。

:情報取得でいうと、吉田さんは「○○革命!」とか考えるじゃないですか。それはどういうインプットがあって、そういうアウトプットになるんですか?

吉田:私の原体験は手塚治虫とハインラインというSF作家なんですけど、あの人たちがなんで今の世の中を描けたかというと、人のエゴを想像しているからなんですね。あの人たちはすごくエゴイスティックで、エゴを突き詰めると将来がわかると思って描いたものが、今、目の前にあるわけじゃないですか。だから外を観察することも重要なんですけど、内的世界のなか、自分のエゴを突き詰めると未来がどうなるかということを、すごく考え続けると。自分のなかの微妙な機微ですよね。

よく言っているのは、自販機は毎回しゃがんで取るじゃないですか。キオスクとか駅にあるやつはしゃがまずに取れますけど、「あれはいつまでしゃがむんですかね」みたいな。あれを当たり前にしゃがんでる人と、そうじゃなくて「しゃがむってめんどうくさいよな」と感じる人ではけっこう大きな違いがあります。これがロボットにできない仕事だと思うんです。

ロボットはしゃがんで取ることを最適化できるかもしれないけど、しゃがんでること自体を再定義したりということはたぶんできないはずなので。そこにすごく集中して、ウチの新入社員とかにも「自分特有の違和感を発見しろ」みたいな、そういうことはすごく言っています。

:なるほど。エゴと言われるとアレですけど、要は世の中で不便なこととか本質的じゃないことをどうあるべきかを考えて、その差を埋めにいったらビジネスにもなるし、人としても……。

吉田:頭のいい人は「本質はなにか」と考えられるんですけど、それよりもうすこし手前の、自分にとっての不便とか違和感みたいなものに敏感になることが、具体的にはけっこうやりやすいんじゃないかと思っています。

メタップス佐藤氏が物理を再学習した理由

:なるほど。佐藤さんはどうですか? 勉強方法、情報取得方法。思考を深く掘り下げていくために、例えばビル・ゲイツだと「Think Week」という誰ともしゃべらない時間を、1週間作ってこもるとかやるらしいんですけど、工夫していることはあります?

佐藤:私も考える時間はめちゃくちゃ長いですね。たぶん普通の経営者に比べると、活動時間の80パーセントくらいは考えごとしてますね。そこで、知りたいことがあったらそれを知ってる人を探し出し、質問しに行く、ということをやっています。

吉田:最近の物理の話、教えてくださいよ。

佐藤:なんでしたっけ?

吉田:最近物理を勉強してるという。物理じゃなかったでしたか?

佐藤:勉強してました。なぜかというと、物理は高校の頃はまったく意味のない話だと思ってたんですよ。でも今では、実は物理は世界のあり方とか経済のあり方を、うまく説明してるものだなと思っています。例えば金融工学は物理を応用したりしているわけですよね。初めてビジネスとか経済の世界に身を置いたあとに、物理が重要なんだなとよくわかったんです。

なにかを知って、それを軸にまた次のことが知りたくなって……というのを繰り返しやっていって、数珠つなぎに進んでいってる感じですかね。テーマがけっこう変わっていきますね。そのなかで、その情報に一番詳しくて自分でやったことのある人を探し出し、その人に質問しまくればだいたい80パーセントくらいは外野でもわかるので、また次のテーマが見つかってくると。それを繰り返しやってますね。……あんまりビジネスに関係ないですか?

:でも、ビジネスに関係あると思って人と会ったりしないですもんね。人と会うのが楽しくて、興味があって。

佐藤:知りたいことを知ってると。結果的にビジネスになったという場合が多いですね。

:そうですよね。ありがとうございます。いろんな方向に飛び続けてる当パネルディスカッションですけども……。

吉田:非連続な(笑)。

:非連続なパネルディスカッション(笑)。でも、勉強の方法とか個人像をどうつかむかとかそういう話は、この経営者の方々はちょっと変わってるからここにいらっしゃると思うので、そういう方々の勉強スタイルとか考え方は知っていただけたんじゃないかなと思います。