「デコまん」に似たアート作品をつくるリスク

質問者4:今回、「デコまんはわいせつじゃない」ということになって、以前活動されていた「デコまんワークショプ」というのがあったと思うんですけれども。そういった活動はまた再開できるのか?

そういった自分の女性器を型取りして、絵の具で塗ったりとか彩色を施すときに、白いままの部分を残したりするということについて、なにかリスクなどがあるのか?

あと、3Dの頒布が問題だったということなんですけれども、その3Dデータを使って、デコまんでも、アート作品を作ることのリスクというのがどの程度あるのかを教えてください。

山口貴士氏(以下、山口):すごくストレートないい質問なんだけど、ストレートな答えが返せない質問でもあります。

なんでかというと、基本的には、今回の裁判の判決も事例判決なんですよね。例えば、ポイントとしては、色が女性器とかけ離れている水色とかチョコレート色とか白とかだったりすると。

そうすると、周りに置いてある、女性器の部分で露出されて、一部残りの部分がファーがいっぱい生えているとかですね。そういうところはやっぱり性欲、つまり女性器とかけ離れている要素というのがどれだけあるか、ということがポイントになってきてるわけですよ。

逆にいうと、これは裁判官の頭の中を勝手に忖度するつもりはないけれども、例えばファーの代わりに人間の陰毛にしか見えないもので周りにぐにゃぐにゃとか、人間の生え方と同じような感じにやった場合、同じような判決になったかというと、そこのところについて言えば、微妙なところなんですね。

だから、色が違うとか、「そこだけでは……」というわけではないと思います。なんでかというと、3Dデータのほうは色ついてないんですよ。あれ、白だし。もちろん画面のね……。

ろくでなし子氏(以下、ろくでなしこ):無色。

山口:無色なんです。だから、色を勝手に変えられるようになってるんだけれども。

やっぱり違いというのは、女性器の細かい凹凸とかひだとかいろんな核心の部分ですよね。陰核から肛門にいたるまでの核心の部分とか、そのへんが細かく制限されてるかどうかとか、そういうところがけっこうポイントになってるわけ。だから、それが精密に再現されてるかどうかというのがあるわけなんです。

だから、ものすごく精密に型を取ることに能力を注力して、できるだけ精密な型を取るんだと一生懸命やった場合には、デコまんと同じようなものをやったとしても、ひょっとしたらわいせつに近づくのかもわからない、というところはあります。だから、すごくクリアカットなかたちで申し上げるのは難しいということです。

それから、3Dデータについても、3Dデータというのはそのものじゃなくて、3Dデータを加工していろいろやってしまえば、そのことによって結果としてわいせつ性、つまり女性器かけ離れて、性欲への刺激が緩和されて、芸術性がさらに付与されてというかたちでできることになるということで。

だから、デコまんみたいに、直接型取りしたから、3Dスキャンしたからダメと。そういう単純な判決ではないんですね。ストレートな質問にストレートじゃない答え返してしまって申し訳ないんですけど。

ろくでなしこ:結局どうなってるの?

山口:結局どうなってるの? それは法律相談料払って聞けよ(笑)。あ、そんなこと言っちゃいけない(笑)。

3つのデコまんが無罪になった理由

南和行氏(以下、南):今、山口先生のおっしゃった趣旨のとおりなんですけど、ちょっと補足します。

今回、デコまん3つが無罪になったとはいえ、最初の造形物1と2と言ってる部分は、いわゆるラメがあって、ファーがあって、色がぺちゃって塗ってあって。本当にデコレーションしている。3つ目というのは「スイーツまん」といってチョコレートのような雰囲気になってて、クリームとかイチゴとかデコレーションしているという。

その3つ目のやつと最初の2つをけっこう分けて丁寧に書いてるんですね。例えば、いわゆるデコまん、普通のデコまん、ワークショプで作ったようなデコまんには「人体とかけ離れた皮膚の色をしてる」とか「人毛とは明らかに異なる毛皮を貼ってる」という言い方をしてるんですね。

一方で「スイーツまん」についてはチョコレートの茶色ですから。それは人間の皮膚の色にもある濃い茶色。だから、見ようによってはあれは皮膚の色にも見えるわけですよね。茶色い皮膚の人というのがいる、という言い方をして。

女性器の陰影も最初のデコまんに比べたらはっきりしてると。それは、なし子さんがワークショプじゃなく作ったから綺麗に取れてるという意味だと思うんですけど。

でも、一方でいろいろクリームつけたりとか、お菓子というか、イチゴ、フルーツつけたりしてるから、結果としては今度は洋菓子のようになってると言うんですよね。お菓子のように。だから、別のものになってるわけですよね。

ということで、「結論としては……」みたいなかたちでなってて。すごくスポッと切れるような答えを出すんじゃなくて、1個1個裁判所が見た結果を述べてるんです。

そこを読むと、たしかに作り手の側でいらっしゃる方は、なにかスパっと「ここから大丈夫」というのがほしいというのはすごくわかるんですけど。この判決をずっと読んでも、あるいは山口先生言いましたけど、法律相談料払って1時間話を聞いて……。

山口:僕じゃなくてもいいですよ。

:「私のこの作った作品どうでしょう?」となってもわからないということですかね、山口先生?

山口:え?

:山口先生に法律相談料払って、「私の作ったこの作品、これから公開しても大丈夫ですかね?」って聞いたら、この判決でスパっとわかる、という話ではない。

山口:わかるものはわかるんじゃないですか。わからないものは「わからない」って言いますけど(笑)。

なんでかというと、グレーであったしても、白に近いグレーと真っ黒に近いグレーといって、100万通りぐらいのグレーの濃淡があるので。「これはおそらく大丈夫ではないか」とか。今回の事件もあるし、ほかの流通してるものとの関係で、ある程度の意見というのは言うことができるんだけど。

ただ、こういうチェックリスト方式みたいに、「こことこことここさえ気をつけばやれば……」というふうにわかりやすくというのはなかなか難しいです。

アダルト関係の摘発基準

実際、警察は摘発の基準を変えてます。アダルト業界の人たちはよく知ってると思いますし。アダルトの関係の出版物というのをずっと定点観測でひたすら見ていくとわかるんですけども。

モザイクが小さくなったり、大きくなったり、濃くなったり、薄くなったりというのをずっと周期的に繰り返しておりまして。警察の対応というのは一様じゃないんですね。

ただ、アートの場合はそこまで変数がないので、アートのほうはやっぱり摘発に際して、ちょっと躊躇させるなにかはあるんだと思うんですよ。

結局、ぼく前、松文館事件というのを弁護しましたけれども、その時やっぱり、「いろいろ言っても、やっぱりエロ本でしょ?」という観点があって。それは否定できないところなんですね。エロ本はエロ本なんだけども、これはわいせつというほど、相当刺激のつよいエロ本じゃないんだという主張をしなきゃいけないわけですけども。

なし子さんのデコまんの場合は、そもそもエロを目的にして作ったわけでもなんでもない、単にたまたま体の一部を使ったアートであって、その使った部分が性器だったというだけな話なので。だから、だいぶそこは違ってくるんじゃないかなと。

もともと「アートのほうが摘発されにくい」というところは絶対あると思うんですよね。そこは、そういうふうにアダルト作品とそうじゃないものを区別する風潮を是とするか非とするかは別として、そこはあると思います。

だから、そうなってくると、ほかの表現物がどうかというのを見るしかないと思うんですよね。例えば、春画なんかなかなか展覧会できなかったけど、やりましたよね。結局、京都でも大阪でも、僕は両方とも行きましたけれども。『芸術新潮』とかですね。

そういうところを見ながら、結局、ポイントというのは「私は性器を出したいんだ」というメッセージを正面から送る感じでやると、わりとチャレンジングになってしまうのかもわからないです。現状だと。

そうじゃなくて、「私はなにかメッセージを送りたい。その性器というものをやる必要がある」。なし子さんの場合で言えば「女性器というものの持ってるイメージを変えたい」。そういうメッセージ性があって、そのために使ってるんだという話になってくると、やっぱりわいせつじゃないという方向にいきやすいかと。

つまり、メッセージ性を送る上でどういう位置づけなのかをたぶん芸術性の内容というか判断においては思ってるんじゃないかと僕は思います。じゃあ、続いての質問。

控訴審の最大の争点

質問者5:今日は『芸術新潮』を代表して来ました、キノシタと申します。デコまんがわいせつでないというのは、当然の結論だと思うんですが。しかし、一方で直接型を取っているという意味では、すごい即物的だと思うんですよね。一方でスキャニングというのは非常に観念的だなと思うんですよ。

裁判官は、あれが即性器を再現していると考えてるわけですね。だけど、これ一見して「女性器である」というのをどうやって立証できるんだろうと思うんですが。

今日の資料いただいたのでは、実際に頒布した人はたったの8人ですよね。その8人は見てるんですか、これ?

山口:1人か2人は見てるんですよね。全員が見てるわけじゃないです。

質問者5:今回の裁判でけっこう早い時期に3Dプリンターの非常に高性能なものを検察側が持ち出してきたと思うんですけれど。「スキャンしたというだけでわいせつである」という結論のように聞こえるんですが。

それも、実際に見て影響を受けてるというところまで、どういうふうにこれを考えてるんでしょうか? というか、これが今後の争点になってくるんじゃないかと思うんです。

須見健矢氏(以下、須見):まさに今おっしゃっていただいたことが控訴審の最大のテーマになるのではないかと。今はまだ短時間ですが、弁護人では話してたところで。

たしかに裁判所のほうは「精巧なスキャンデータだから、それが性欲を刺激するんだ」という、非常にきわめて単純な理屈でデータのほうを有罪にしておりまして。

そこは我々はプロジェクトアートだとかいろんな概念を使って一生懸命説明をしようと思ったんですけれども、そこがなかなか一審ではうまく伝わらなかったのか、裁判官の理解が悪かったのか、ともかくそこが受け入れられなかったと。

そこを今後どうやって打ち破っていくかということになりますので、先生にまたご相談させていただきたいと思います。

質問者5:ぜひ、そこを打ち破っていただきたいと思います。

「女性器=わいせつ」という考えを覆したい

山口:ほかにご質問のある方?

質問者6:AP通信の○○と申します。これから控訴されていくということですけれども、今回の判決について、なし子さん、自分の芸術を作って活動していくうえで思うこと、影響あるかどうか、躊躇することがあるかどうか、考えていらっしゃることがありましたら、今後の自分の表現のあり方について、おうかがいできればと思います。

ろくでなし子:山口先生もおっしゃってたように、デコまんのわいせつ性は無罪ということで当然だと思っていた形にはなったんですけれども。3Dデータについての有罪の判決の説明が、先生も言っていたように、「性器=わいせつ」という観念からすごく逃れてない。

私は、自分の体が自分自身が持っているものだからわいせつではないという、私にとってはごく当たり前な主張をずっと。そのために活動して。すごく男性目線から見たわいせつな概念でしか語られない「女性器」という概念を覆すために活動しているので。そこらへんがまったく裁判官には通じなかったということが非常に悔しいというか。

そして、デコまんの無罪になった理由も「性器には見えないから」という感じの例えだったので。見えないように作りたいということでもなくて、概念を変えたいと思っているので。なにか今後また活動するのに、そうやって気を使いながら作るということが、ものすごいバカバカしいというか。そういうことがしたいわけじゃないので。ちょっとそこが残念ですね。

でも、私は自分の無罪を信じてますので、最後まで戦いたいと思います。

質問者6:ありがとうございます。

山口:ほかにご質問のある方?

質問者7:高知新聞のヤマタと申しますが。よろしくお願いします。僕もなし子さんにお聞きしたいんですが。

先ほど、「ポップアートと認められてうれしい」という発言がありましたが、正直な気持ち、うれしさと不満の部分というのはどれぐらいの割合なんですかね。

ろくでなし子:これまで裁判を通して、自分の主張を私は真摯に主張してきたつもりなんですけれども。やっぱり世の中のみなさま方がなかなか理解しづらいことなので。

とくに裁判官のような方々の凝り固まっている感じの方々には理解できないんじゃないかと思っていたので、デコまんについて芸術、「これがポップアートの一種だ」と言ってもらえたことはうれしかったというのが素直な気持ちですね。

でも、認められ方が結局従来の「女性器に見えないから」という理由だったので、結局性器がわいせつだ。「性器というもの自体が即わいせつで、それ以外の性表現は性器さえ見せなかればわいせつじゃないのか?」みたいな、おかしな価値はまったく変わっていないということにはすごく憤りを感じているので。

割合でいうと、2割ぐらいうれしい感じですかね(笑)。

噂の婚約者とのやり取り

質問者7:あと1個追加でいいですか? 先日(婚約を)発表されました、マイク・スコットさんですが、今日っていらっしゃってるんですか?

ろくでなし子:今日は海外なので、アイルランドから見守ってくれてます。

質問者7:なにか話されました、今回のことで判決にあたって?

ろくでなし子:「君の無罪を信じているので、頑張れ」という応援をいただきました。

質問者7:それに対してなんと答えたんですか?

ろくでなし子:「がんばるー!」って言いました(笑)。

質問者7:ありがとうございました。

山口:ほかに質問のある方?

質問者8:すいません。大学院で主に刑法の175条について研究している者でありまして。法的な判断でちょっとお聞きしたいことがありまして。

今回はデコまんが、これは別にわいせつ物じゃないにしても、そのへんは無罪と認められたというのはすでに報告されてるとおりなんですが。

一応無罪として認められた要素の1つとして、いわゆるアートショップでアートギャラリーでのみ展示していた。つまり、そこで公然性のような概念が否定されたという説明はなにかなされたのかなというのが1点気になりまして。

ごめんなさい。あともう1点、先ほどの説明でありました「愛のコリーダ」の説明とも絡めてなんですが、ろくでなし子さんの違法性の意識とかの可能性も有していなかったというような戦い方をしたのか? あと、戦い方をされたにせよ、裁判所がなにかしらそういう判断をしたのか、教えていただけると幸いです。

森本憲司郎氏(以下、森本):弁護人の森本から、まず前半の1点目だけ私が答えますが。

アダルトショップで展示されたいたということについては、検察官は「アダルトショップに性玩具と一緒にわいせつ物を展示していた」んだと。「性玩具と一緒に置いているということは、なし子さんの作品もわいせつだ」という論理を使ってきたんですね。

そういう論理を使ってきたんですが、そこについて裁判所は、わいせつかどうかの判断はその物、その作品それ自体から判断するんだということで、アダルトショップに置かれていたということは考慮せず、そこは要素としては排除して「わいせつじゃない」というような判断をしています。

ただ、これは今の文脈だと弁護側に有利に使われてるんですが、3Dデータのほうでこの論理を使うと、3Dのデータが「女性器そのもののデータなんだから」ということで、芸術性とか思想性というのが考慮されなくなるので、これは非常に難しい問題なんですが。

判断のところをちょっと読みますと、弁護人がどういう主張をしたかというと、本件造形物が女性向け向けのアダルトショップに展示されており、同ショップへの入店が許可されているのは基本的に女性客だけであり、男性のみの客や、女性同伴でも男性が複数人の場合は入店が固く禁止されているんだと。

そういう女性向けのアダルトショップなんだから、見るのは女性なんだから、18歳以上の女性に限定されたショップで、なし子さんのデコまんを置いたところで、誰が性欲を刺激されるんですか、というような主張をしたんですが。

裁判所はここを取らなくて、男性客も女性客と一緒だったら入れるし、そこで、もしなにか、なんだろう……。まあ要するに、男性も絶対に入れなかったわけじゃなかったということで、女性を限定してというのは取らなかったんですけれども。

私もちょっと今いろいろ考えてて定まってないんですが。

弁護人の主張も検察官の主張も採用せず、客観的にその作品からわいせつ性を判断するというふうに考えていると。デコまんのほうは作品にいやらしさがないようなデコレーションが施されているので、わいせつじゃないという判断だったと思いますけれども。そこが3Dデータとの関係で今後いろいろ考えなきゃいかないなと思ってます。

歌門彩氏:2点目のご質問について、最高裁ですでに出ている判決文を見ますと、最高裁大法廷、昭和32年3月13日でしたかね。

「問題になる記載の存在の認識とこれを頒布・販売することを認識があれば足りて。かかる記載のある文書がわいせつ性を具備するかどうかの認識まで必要としているものではない」。

こういった最高裁の判決がすでにあるところであります。ただ、弁護人といたしましては、こういった点に関しましては、わいせつ性の意味の認識は必要なんだという立場で争っております。

山口:じゃあ、次の質問ある方?

7月に開催されるろくでなし子の個展

質問者9:日刊スポーツのシバタです。お願いします。ろくでなし子さんにおうかがいします。

7月に個展を準備されてるということで、そこでは、今ままでのデコまんを並べるのか、それとも、先ほどの発言の中で「自分自身の性器のわいせつではない。そういうことに気を使いながら、ものを作るのはバカバカしい」と発言されてます。

でも、あえて性器を想像させるようなけっこう精巧なものを作品として並べるというような、個展の中のディスプレイの今のプランがあれば教えてください。

ろくでなし子:弁護団と検討して展示の方向で前向きに考えたいと思ってます。

質問者9:何を展示?

山口:デコまんのうち起訴されていないものについてはいいんじゃないかとは思っているんですけれども。それについては弁護団と検討するということです。

いまだ係争中、おそらく検察官は控訴すると思いますので、そのへんについては慎重に考えたいと思うので。ごめんなさい。非常に微妙な問題なので引き取っちゃいました。そういうことです。

質問者9:係争中ということは今回の3点ですね? その3点について、デコまんを並べるかどうかはわからない?

山口:それは、おそらく並べないと思います。裁判所。そもそもないですから。

ろくでなし子:返ってきてない。

山口:並べようにも、押収されていて。

質問者9:デコまん以外はなにか出す予定ですか?

ろくでなし子:個展でですか? もちろんです。

質問者9:例えばどんなプランを?

ろくでなし子:「選挙」をテーマにした個展を開く予定ですので、そちらの展示を考えております。

質問者9:それは、将来はろくでなし子さんが衆議院議員とか参議院議員になってる可能性があるということを見越しての?

ろくでなし子:架空の選挙で、会場に来たみなさんが4名の候補者の中から実際に投票をできて。参加型の、私はプロジェクトアートを作っている者なので、みなさんで参加して、それを作品にするという制作方法をしてますので、そういうような展示をしたいということです。

質問者9;ありがとうございました。

山口:ほかにご質問ある方?

特定少数にわいせつ物を渡す場合は罪にならない

質問者10:すいません。一般の人間なんですけれども。まず、ご婚約おめでとうございます。

今日傍聴に当たって内容を聞かせていただいたんですけれども。極端な話、3Dスキャンしたやつをプリントして、それをデコまんにした場合というのはどうなるんですかね?

3Dスキャンしたやつを3Dでプリントアウトしますよね。それをもっと拡大したりとか縮小できることで表現が広がるということで、3Dにしはったと思うんですけどね。それを従来のようにデコまんにした場合?

山口:それはだからどういうふうに加工するかとか、基本的にそういうことによるんじゃないですか。加工とかデコレーションの仕方によって違ってくるとしか言いようがないです。

質問者10:要は、今日の内容からいくと、芸術性が認められるような作品であればOKという感じなんですかね。

山口:「芸術性が認められるような作品」というのと、あともう1つはおそらく「性器らしさ」ですよね。「性器らしさ」と乖離させるような装飾とかデコレーションがどれだけあるかということになるんじゃないかと思いますけれども。

質問者10:これからの表現の難しいところ。ということは、3Dでプリントアウトしたやつを素材として使ってもOKということ?

山口:基本的にそもそも刑法175条はわいせつ物の単純所持を処罰するわけでもないし。特定小数人間の譲渡はそもそも処罰するものではないんですよ。

だから、問題は「不特定多数人に」ということと、あと「販売目的の所持」ということが問題になるというのが法律の立て付けになってるわけです。あと「陳列行為」ですね。要するに、陳列についても「不特定もしくは多数人に見れるような」ということが問題になってくるわけですよ。

ただ、特定小数の人間ですよね。自分の局部のところを例えば写真を撮って、それをあげるっていった場合、基本的に問題は起きないわけですよ、それは。もちろん子供だったら、児童ポルノの問題とかが起きるんですけれども。子供じゃないから、18歳以下でない限り問題にならないわけですね。

ただ、不特定ということになってくると別なんです。「先着3名様に差し上げます」とかやると、これは不特定にならないなってくるから問題になってくると。

あるいは今回の場合、8人でもいちおう「多数」という概念に入るので、問題になってくると。クラウドファンディングですから「不特定」もしくは「多数」のどっちかに、両方とも引っかかってしまったと裁判所は考えたんでしょうけれども。

そういう要素がありますので、例えばアーティストの素材として、個別に1人だけに渡したといったら、それは問題にならないです。175条の条文がそういう立て付けになっていないからです。

質問者10:ありがとうございます。

女性器と男性器では結果は変わってた?

山口:ほかに?

質問者11:AP通信社のフクエです。有罪になった件でCD-Rを渡したという件が有罪というのをおっしゃってたと思うんですけれども。販売した部分が有罪ということなんでしょうか?

山口:おまけ。要するに「ミニチュアまんボート」を買ってくれた人に、おまけとしてCD-Rを渡してたということみたいなんですね。だから、それ自体を販売というのとはちょっと違うかなと。

ほかに質問のある方?

質問者12:○○と申します。架空の質問なんですけれども。一般的に日本社会では女性器と男性器の扱い方が若干違うかと思いますけれども。今回は判決は、万が一これは女性器ではなくて男性器であった場合に、なにかそういう区別があったかと思いますか? それとも、それは性器であること、だからこういう判決が出たことはないですか?

山口:男性器と女性器でそんな区別してるかというと、区別的に取り扱われることは否定しません。例えば、法廷で「まんこ」っていったら制止されるけど、「ちんこ」って言ってたら制止されなかったという実例があるので。それは、なし子さん、身を持って実証してくれたことがあるので、それはなんとも言えないんですけれども。

ただ一方で、例えばアダルトビデオ、女性器にも男性器にもぼかしを入れるんですよね。あとは、シンガポールの写真家でリスリー・キーという人が争わずに略式になりまた。

あれはたしか男性器が写ってるやつでしたよね。愛知県立美術家のほうで写真について「取り下げろ」ということを愛知県警から。あれも男性器でしたよね。

だから、男性器か女性器かということは、そんなに、少なくとも取り締まるレベルにおいては男女平等なんじゃないかなという気がいたします。

社会的なコンテキストにおいては、おっしゃるとおりで、また違う取り扱いがあるんじゃないかという気がしますけれども。法律違反として取り締まるか否かというところにおいては、そんなに差別的な発想はないんじゃないかなと思いますね。

まん拓職人の“立川のおじさん”

須見:立川のおじさんの話の話してあげたら?

山口:アーティストだよね。

ろくでなし子:え〜。

山口:アーティストというか職人か。まん拓職人?

ろくでなし子:でも、表現者だからアーティストか。

山口:ある種のアーティスト。すごくこう……難しいですよね。そこは。

ろくでなし子:人様のまんこで商売してましたからね。

山口:立川のおじさんって言っても、実際は立川の人でもなんでもないんですよね。

ろくでなし子:静岡県の人です。

山口:関西(の立川簡裁)で有罪判決を受けたから、立川のおじさんって呼ばれてるだけで。

女性器の正確な拓をシリコンゴムで取ることにすごく情熱を注いでた変わった人がいて。すごいんです。そのためにわざわざ学校通ったりとかしてたんです。その努力が実って、見事にお縄になった人がいて。そういうのを見てると、やっぱり警察のほう……。でも、あれはちゃんと立件されちゃったもんね。そういうのがあるんです。

でもたぶん、あれは今回の判決の考え方とは矛盾しないんですよ。3Dプリンターは「精緻な複製」だから。こっちのほうも「精緻な複製だから」というところでたぶんとってるので、たぶん男性器でも同じように、性器のものであったとすれば、それはなるんじゃないかなと思います。

たぶん、子宝飴とか、かなまら祭りのご神体とか、取り締まられないのは、あれは性器っぽく見えるものであって、リアルな性器を型取りして作ったものではない、というふうに当局は考えているのではないかなと。あと大きさもあるでしょうね。あんな大きいものはない。

すいません。さっき言った「愛のコリーダ事件」の一審判決なんですけども。正確に言いますと、地裁判決が東京地方裁判所、昭和54年10月19日ですね。もっと詳しく調べたい人のために言っとくと、「判例時報945号15ページ以下」って書いてありますね。

それから、あとは高裁で昭和57年6月8日付けの判決が出てます。これは、「判例タイム473号64ページ以下」ということです。

ちなみに愛のコリーダ裁判については裁判記録が出版されているんですよね。古本屋とかいかないとないんですけれども。これをやると、昔のわいせつ裁判とか、大島渚さんとためにどういう人が証言して、どういうふうに戦えたというのが見えて。

今に比べるとすごく裁判所って国家的だったんだなと思われるような訴訟指揮が見られたりしてて、なかなか歴史的資料としておもしろいです。

ほかにご質問ある方いらっしゃいます?

175条は変態を相手にしていない

質問者13:先ほど「人の耳を見て興奮する人もいれば、ふとももを見て興奮する人もいる」とおっしゃっていたんですけれど。

そこからさらに、例えば、対物性愛みたいな趣向の人だと、パワーショベルとか自動販売機見てめっちゃ興奮する人とかいるわけじゃないですか。そう考えると、誰も性的に興奮させないものというのは逆にないんじゃないかと。

山口:すいません。まずそこ重要なポイントがあるんですけど、一般人を基準にして判断するんですよ。だから、変態は相手にしてないんです。それすごいポイントですよ。変態はおよびでないというのが175条の精神なんですね。

だから、逆にいうと、変態性欲を極めてれば別にわいせつとか気にしなくて、思うがままに、パワーショベルの写真集見て興奮したりとか。無修正の写真集でも。修正しなくていいですから、パワーショベルの写真集はですね。

やりたいようにやればいいんですけど、残念ながら、普通の性欲の基準の範囲内を持ってると厳しいというのが175条なので。

質問者13:不快になる人が少ないなら許されるが、多いなら許されない?

山口:不快とかそういうのとも違うわけですよね。例えば、わいせつの概念で、不快になるかどうかということだけ……。

例えばわいせつって概念は、174条の公然わいせつと、175条のわいせつ物陳列罪のわいせつ概念って同じだと言われてるわけですよ。だから、不快に思う人がいるかどうか、被害者がいることを想定している規定ではなくて、モラル、公衆道徳を守るための規定なんですよ。

例えば、「先着8名様で僕のマンションの部屋に集まって、みんなでスワッピングやりましょうね」みたいな呼びかけするじゃないですか。公然わいせつで捕まるわけですよね。

これ、誰か不幸な目にあってるかというと、誰も不幸な目にあってないんですよ。みんな気持ちよくなってるだけなんですけれども、公然わいせつで捕まるということがあるので。誰かが不快に思うか思わないかというのは、実はわいせつ罪の本質ではないと。そういうことです。

質問者13:わかりました。ありがとうございます。

ろくでなし子の今後の活動

山口:ほかにいらっしゃいますか?

質問者14:質問にならないかもしれないんですが、さっきの異常性欲というところで、北原みのりさんがやってるお店、私行ったこと何回もあるんですけど、あそこって例えばレズビアン向けのアダルトグッズ売ってたりとか、同性愛者の人とかも異常性欲に入るのかなって。

山口:入らない。なんでかというと、同性愛の人のやつでも性器とか露出されてればダメだからです。わいせつとして摘発するのがあれなんですよ。だから、けっこうゲイ向けのとかレズビアン向けのでも、モザイク入ってなければ摘発されます。

質問者14:さっきのお店も基本的に女性、女性同伴だったら男性も入れるんですけど、女性が女性の性器を見て興奮しないというのも……。

山口:まあ、なんかね。ただ、立論としては、僕らのほうとして言いたいことというのは、もし本当にこれを性的な刺激を興奮させるようなものとして作って、意図して展示するんだったら、そういう場所には置かんだろうということを言いたいわけですよ。わかります? ほかにもっと置くにふさわしい場所があるわけじゃないですか。としかいいようがないです。

実際、僕もラブピースクラブ行ったことがないのでなんともないんですよね。行ったら110番されるんじゃないかな。

ろくでなし子:違う意味でね(笑)。もう告知してもいいですか?

山口:何の告知?

ろくでなし子:個展とか。

山口:ちょっと待って。このあといろいろ告知とかに移りたいので、最後に質問ある方。ラスト。いる? いないね。じゃあ、すいません。なし子さんのほうにマイク渡します。

ろくでなし子:すいません。恒例の告知タイムですが。この度って「ワイセツって何ですか?」の英訳版が北米で発売されまして。今Amazonでも売ってます。来週、北米とニューヨークにプロモーションに行きますが、英語圏のみなさまぜひ、漫画ですので気軽にお読みいただければと思います。

あとですね。お手元にある『まんこ新聞』にも書いたんですが、7月8日から20まで新宿眼科画廊にて「選挙」をテーマにした個展を催します。

こちらの選挙は会場に来たみなさまが、架空の候補者なんですけど、私も含めた4人の候補者に実際に投票できる、選挙を楽しめる個展です。私が落ちる可能性もありますし、無事当選するかもしれないし、まだよくわからないんですけど。

オープングパーティが9日(土)に。まん汁(豚汁)を振る舞います。そして、18日に開票しますので、ぜひ投票をしに来てください。

「あなたも出馬できる券」というのも販売しておりまして、実際に立候補できます。あとパーティ券(ワイロ)も販売しておりますので、お手持ちの新聞のURLをご覧になって、ぜひワイロをどしどし買ってください。

引き続き『ワイセツって何ですか?』という単行本と、『私の体がワイセツ!?』をAmazonで販売しておりますので、この機会にぜひまだ読んでないという方は読んでいただけましたら幸いです。

あと、控訴しましたので、この戦いはまだまだ続くと思いますが、引き続き私の事件にご感心を寄せていただけたら幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。ありがとうございます。

(会場拍手)

すいません! 大事なことを言い忘れてました。裁判のスタンプカードを発行しておりまして。このあとポイントカードを持っている方はぜひ、まんこのスタンプを押しますので来てください。ポイントがそろそろ溜まる方もいらっしゃると思いますので、「ろくでもないもの」を差し上げたいと思います。よろしくお願いいたします。