アルファ碁が世界最高の選手に勝利

ハンク・グリーン氏:人工知能ファンのみんなにとっては、ここ数週間はかなりエキサイティングだったことでしょう。

2015年10月に、歴史上で初めて、Googleが開発した人工知能の「アルファ碁」が、極度に複雑なボードゲームである囲碁の勝負で人間のプロ選手を負かしました。

そして2016年3月、この人工知能は世界最高の選手に勝負を挑み、勝利したのです。しかも4回も! これはかなり大きな出来事です。これからその理由を説明しましょう。

エンジニアが人工知能について話す時、それは感情を持ち、私たちと会話ができて、話しをし、自ら考えるようになり、そして世界を乗っ取って滅ぼすような人の形をしたロボットのことを言っているわけではないのです。

人工知能とは、人間が普段するようなことを行うようにプログラミングされているに過ぎません。あるタスクをやり遂げるための手順に従うようにプログラムがされているだけです。

だから、選択肢がたくさんあったり、意思決定をしなくてはならないような状況に置かれると困惑してしまうのです。例えば、複雑なボードゲームである囲碁とか。

囲碁の勝敗は、白と黒の石と基盤を使って、できるだけたくさんの得点を獲得するか、相手の石を勝ち取るか、もしくはいかに陣地を囲いこむかで決まります。どんなゲームであっても、勝敗を決めるのは、相手がどんな手を使ってくるのか何通りもの戦法を考えられる能力です。

私たち人間は、今までの経験から最高の戦法を打ち出し、相手がそれによってどんな手を使ってくるのかを考えることができます。しかし、そういった認識のパターンをコンピューターにプログラミングするのは大変なのです。

だから一般的に人工知能がチェスのようなボードゲームをする時には、考えうるすべての手を検索し、最も勝つ確率の高い手を使うのです。ただ問題なのは、囲碁というのは19マス×19マスの基盤を使うゲームで、1回ごとに数百通りもの手があるということでした。

実際、1試合で考えられる手は宇宙に存在する原子の数よりも多いと言われているのです。

どうやって人工知能に囲碁を教えたのか?

では、人工知能が囲碁で人間に勝つようにプログラミングするのが難しいならば、エンジニアたちはどうやってアルファ碁に囲碁を教え込んだのでしょうか?

彼らは人工知能に考えられるすべての手を検索させる代わりに、良い手と悪い手の違いを理解させることにしました。エンジニアたちはアルファ碁にまず人間のプロが対戦したゲームから得た3,000万もの手を教えました。そして何千回も自分自身と対戦を繰り返し、新しい理論を学んでいったのです。

その知識と高度なプログラミングによって、人工知能は最良の手を決定することができるというわけです。考えうるすべての手を検索しているとかなりの時間がかかってしまいますが、これだと素早く関連性の高い選択肢だけに狭めることができます。

今のところ、この理論は人間に対してはとてもうまくいっています。数ヵ月後、アルファ碁は囲碁のヨーロッパチャンピオンであるファン・フイ氏と5回戦の試合をしました。

そして、全試合に勝つことができました。コンピューターがプロの囲碁選手に勝ったのは初めてのことなのです。

Googleは今こそが人工知能が過去10年間に渡って囲碁の世界でトップに立ち続ける、韓国人のイ・セドル氏に対戦を申し込むときだと思ったのでしょう。

Googleは5試合すべてをライブストリーミングし、15分のまとめをアップロードしました。

人工知能にとって大きな一歩に

そして、ここからはネタバレです。アルファ碁は5試合あるうちの最初の3試合に勝ちました。エンジニアたちが人工知能にプログラミングしたことと、教え込んだことがうまくいったというのは明らかですね。

でもアルファ碁とセドルはまだあと2試合することになっていました。そしてセドルは4試合目に勝利しました。これはとても大きな意味を持つのです。なぜなら、人工知能が最高の手を選びきれていないということですから。

この試合で大きな転機になったのは、セドルがくさびと呼ばれる手を使った時でした。

これに対する返し手はたくさん考えられます。セドルはたくさんの選択肢を人工知能に与えることで混乱させようとしていたのです。

人工知能はたくさんのトレーニングを受けていましたが、この作戦はうまくいきました。くさびの後、アルファ碁の内部で算出された勝利する確率は20パーセント以下にまで落ちて、勝負はアルファ碁にとって難しい方向に展開していきました。その確率は負けを意味するとプログラミングされていたのです。

そして、とても接戦となった最後の5試合目ですが、アルファ碁は試合の最初の方でミスを犯したものの、勝利することができました。

アルファ碁は世界で最高の囲碁の選手ではないかもしれません。でもこれからもずっとその性能は上がっていくでしょうし、最終的には世界のトップに立つかもしれません。どちらにせよ、これは人工知能にとってとても大きな一歩なのです。