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Guest Speech 株式会社ドワンゴ 川上量生氏(全2記事)

「"底辺のネット文化"で世界を獲りにいく」 川上量生氏が2011年に考えていた、ニコ動の海外戦略

ゲームの開発会社からネットカルチャーの一角を担う企業へと成長したドワンゴ。その代表である川上量生氏が、2011年にTechCrunch Tokyoで語ったスピーチを書き起こし。前編では、ニコ動をつくった時の3つの発想について、そしてこちらの後編では、ニコ動の海外戦略について語っている。(TechCrunch Tokyo 2011より)

ニコファーレに12億かけた理由

川上:それとニコファーレっていうものを今年作りまして、これもネットで「なんで作ったんだ。俺らのプレミアム会員費を無駄遣いするな」ってさんざん言われたんですけども、無駄遣いすること自体が目的なんですよ(笑)。実は金額が高くなりすぎてしまって公開していないんですけど、12億かかっているんです。

ちっちゃなライブハウスに200人しか入らないのに12億って明らかにかけすぎなんですよ。どんだけシミュレーションをしても絶対にペイしないという計算結果が出まして、これは行こう! と(笑)。というのが、ニコファーレを作ったときの我々の気分だったんです。

今だに思ってるんですけども、あそこでイベントをやった人は「こんなのは見たことがない」って言って、どんな演者さんも喜んでくれるんですよ。こんな設備、こんな箱は見たことがないって喜んでやってもらえるんですけども、当たり前です。全く経済合理性がありませんから。ああいうものが今後できることは多分ありません。

相当いろんな技術が進化すれば5年後くらいはもっと出てくるのかもしれませんけど、そうすると5年間くらいは無駄な箱、無駄な設備っていうのは我々が独占できるのが、僕らの目論見なわけです。

もう一つ、ニコニコは超会議っていう、これもユーザーから評判の悪いイベントを来年は幕張メッセでやるんです。これは、幕張メッセの1ホールから8ホールまで全ホールを借り切るんです。全ホールを借り切るイベントは東京ゲームショウくらいなんですけど、だいたいはそのうちの何ホールかを使ったイベントだけで、あと、ジャンプフェスタが全ホール借りきりますかね。うちのイベントはそれにプラスしてイベントホールを借りるんです。

そうすると、東京ゲームショウよりも多い、幕張メッセでやる最大のイベントになるわけですよ。そこがスタートです(笑)。出すものについては実は今考えている最中でして、まだそれを埋められるかどうかは決まっていないんです。そういう説明のつかないことをやる会社っていうのが、日本では非常に減っていると思いますので、僕は逆にそこはニッチだと思ってそういうことを考えてやっているわけです。

海外進出は元々やる気がなかった

川上:最初、この話が来たときに海外進出の話もしてくれっていうお話をいただきましたので、海外について我々がどういうことを考えているのかっていうことをちょっとお話したいと思います。

ニコニコ動画って、最近廃止したか廃止されていないか分かりませんが、スペイン語版とドイツ語版だったかな? それと中国語版があって、英語版がなかった。最近作ったかもしれないですけども、一番最初に作ったのがスペイン語版とドイツ語版と中国語版だったんですね。

なんでかって言いますと、海外進出をやる気がなかったからですね。練習をするときにどこがいいか考えると、英語版を作ると英語圏にはYouTubeっていうものがありますから、YouTubeの人たちに手の内を明かすというか、しょうもないことをするとかっこ悪いっていうか、恥ずかしいものを見せてもしょうがないなっていう。

やる気が無いものを、これがニコニコ動画って思われるのも癪だったので、英語はやめたと。フランスにはDailymotionっていうヨーロッパで有名な動画サイトがありますので、フランス語もやめて、ドイツ語とスペイン語にしたっていうそれだけの理由なんです。全く予想通りお客さんは来てないんです。海外進出って非常に難しいと思うんですね。

なんで皆さん海外進出するのか、僕はよくわからないんですが、日本って世界の中でも非常に恵まれた環境で、日本で儲けられない会社が海外で儲けられるとはとても考えられない。海外のほうがよっぽど厳しい世界なんですよ、特にBtoCの世界においては。その中でどうやったらサービスを出来るのかっていうことを我々はずっと考え続けながら、いまだに方法がちゃんとこれだというものが見つけ出せていないわけなんですが、最近ちょっとやり始めています。

海外では記者クラブ問題は起きない

川上:それっていうのは、一つは報道です。実は我々、ニコニコ生放送っていうものがありまして、日本の歴代首相とかの番組とかも作っていまして、政治においてはニコニコ動画っていうのはネットの世界で存在感を見せていたんですね。ところが、日本の中では記者クラブの開放問題っていうのがありまして、要はネット対マスコミっていう対立構造があるわけですよ。

まるで我々ニコニコ動画が、既存の新聞テレビの世界にけんかを売っているような構造がどうしてもできてしまうと。そうするとホリエモンみたいになってしまうのも嫌なので、我々は全くそういう気概はありませんし、そういうネットメディアを代表して戦うっていう気は全くありませんでしたので、記者クラブのない国に行こうと。海外報道に力を入れるといいんじゃないかと。

この作戦はかなり成功していまして、アメリカのほうで事務所を作っていろんなものを報道しているんですけど、テレビ局も新聞社も海外に出張している人がいらっしゃるけど、駐在の人は、基本的には異国の地でみんな寂しいので海外だと仲良くなれるんですよね。記者クラブ問題っていうのは、海外においてほとんど存在しないんですよ。

日本からG8の取材とかに行く大量の人たちに紛れると、大変つらい思いをさせられるんですけど、仲間はずれにされたりしてね。バスの時間を教えてもらえなかったりとか、地味な嫌がらせとか受けるんですけど。海外だとむしろよくしてくれて、ホワイトハウスの報道のところにつないであげるよとか便宜もはかってもらえたりして、非常に仲良くしてもらえるという。ネットの融合はやはり海外報道からだなということを思っています。

海外進出のきっかけは、NASAの打ち上げを見るため

そもそものスタートっていうのが、本当にひどいんですけども、ドワンゴの設立者にRobert E. Huntleyっていうのがいまして、そいつがNASAのスペースシャトルを見に行かないかと。知り合いがいるから一般で買える席よりもさらに前の席で打ち上げが見れるっていうことを言いまして、みんなでスペースシャトルの打ち上げを見に行こうっていう企画があったんですね。

そのときにどこまで見れるんだって言ったら、打ち上げの地点から4kmか5kmが最前列だっていうんですよね。そんな遠いんだって言ったら、それより前に行けるのはマスコミだけだって言うんです。日本ではそのころすでに首相とかの番組をニコニコ動画でやりましたから、これをプレゼン資料にすると結構うちは立派なネットメディアに見えるんじゃないかと(笑)。

そう思いまして、NASAのメディアパスを取って、スペースシャトルを一番近いところから見ようと。爆発したら巻き込まれる危険があるところまで近づいて打ち上げを見ようっていうのが、うちが海外進出をした最初のきっかけです。そういうためにNASAのメディアパスを取ったわけなんですけど、それが結構大変だったんですよね。半年間くらいかかったんですよ。簡単かなと思っていたら。

海外の報道は強いコンテンツ

川上:一旦取れたら、取れたっていうことを、一応NASAも政府機関ですから、アメリカの政府機関のパスを持っているということをダシにしまして、米陸軍に潜り込んだりとか、国連のメディアパスを取ったりだとか。

海外の報道とかってやっぱり人気高いんですよね。NASAの打ち上げっていうのもニコニコ動画の中でも相当視聴率の高いコンテンツですから。だったら、いろんな報道とかを海外でやるっていうのは、そのこと自体がコンテンツになりうると。だから、海外進出をし、ビジネスをするということになると大変成功は難しいんですけども、日本の人に海外のものを見せるっていう目的で海外に事務所を作るっていうのはこれはありだなと。

それで、メディアパスを集めるごっこっていうのを始めようっていうことで、いろいろロードマップを組んで、最終的にはホワイトハウスとクレムリンのパスをどうやってとるのかっていうのを考えながらやってるんですけども。そのために海外の会社を作ったわけですよ。これはこれである意味成立しているんですよね。

海外の日本好きへアプローチ

川上:そして、さらにそのときにジャパン・エキスポとか、日本を題材にした日本ファンのための展示会っていうのがあるんですよね。これとかも集中的に取材させてくれということでやっていたら、日本関連のイベントをやるところから声がかかるようになっちゃった。なので、世界中の日本関連のイベントっていうので中継してくれないかという話が出るようになったんですよね。

そして、これをうまくすると日本のユーザーにコンテンツを提供するふりをしながら、海外にいる日本好きの人たちに対してアプローチすることができるんじゃないかなということを考えて、この1、2年やってきているところです。

その流れで海外の日本好きの、ジャパニストの人たちがいったい何を喜ぶだろうということを考えると、どうも海外の人もアニメを見たいらしいということで、海外へのアニメの配信権を我々のほうで集めまして、それをニコニコ動画を通じて配信するっていう試みを、ちょうど今始めるか始めないかという辺りですね。

そういうことから海外に行きたいなというのを今は考えている最中ですが、ただ、この後にビジネスを海外でなにかやるのかっていうことは分かりませんので、あまり外部ですとか、そういうところにちゃんとした発表をやっていませんですけど、そういうようなルートで海外に行こうかなって思っています。

底辺のネット文化から世界を狙う

川上:海外に行くときにもう一個チャンスがあるなって思っているのは、日本でもそうなんですけど、ビジネスサイドの人たちのほうがネットの表面上の世論っていうのが強いわけなんですよね。

ところが、日本の中でも2ちゃんねるっていう極めてアングラな文化があるわけなんです。これはビジネスの世界ではほとんど研究されることが少ないメディアなんですけど、やっぱりネットの世論だったり、ネットユーザーの動向だったりに対していまだにとても大きな影響力を与えている、そういうところなんですよね。

ただ、これをビジネスとして考えようっていうところは、なかなか難しいし、あんまり挑戦していないんですけども、やっぱりこういう底辺のネット文化というのは、実は日本だけじゃなくって世界中でもそういう素地っていうのは広がりつつあり、できつつあるんじゃないかっていうのは、これは僕らの仮説です。

そういうわけで、我々が大変注目しているのは、アメリカの4ちゃんねる(参考:2chひろゆきと4chan創始者ムートが対談! 「ソーシャルメディアってなぁに?」)っていういかにも2ちゃんねるにそっくりなサイトがあるわけなんですけど、これがアメリカのほうでもだんだん人気が出てきて、日本とは非常に近いような関係があるんです。

ニコニコ動画っていうのもどちらかというとビジネスサイドからではなくって、ユーザーのアングラな文化から誕生したネットサービスなわけです。そういうネットサービスっていうのは日本の中でもかなり特殊なんですけど、世界を見渡してもそういうアプローチで大きくなっているところってあんまりないんですよね。

そういう方法があるんじゃないかっていうことが、今僕が考えていて、ひろゆきが中心になってやってくれてるんですけど、そこから海外に行ければいいなっていう風に思っています。なんか時間を守れという話が(笑)。今までの人、守ってなかったんですよね? はい。ということですので、こういうあたりで話を終わらせていただきたいと思います。くだらない話で申し訳ありませんでした。

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