公職選挙法改正のねらい
堀潤氏(以下、堀):さぁ、西田さん。お願いいたします。
(テーマ「若者に限らない民主主義の啓発を」について)
脊山麻理子氏(以下、脊山):政府は今年7月に行われる見通しの参院選から、自治体の判断で大型ショッピングセンターなどにも投票所の設置ができるようにする、公職選挙法の改正案を通常国会に提出する方針を固めました。
堀:投票率の向上につなげようという選管の動きですね。
これまでは、選挙当日の投票所は校区など各地域に1ヶ所しか設置できなかったんですが、改正案はショッピングセンターや駅前の商業施設に投票所を創設できるようにすると。
今までなんでやらなかったんだろうかと。確かにそうだよねと。
さらに、期日前投票所の投票時間も、現在の午前8時半から午後8時を市区町村の判断で、午前6時半から午後10時まで広げることができるようにする。
最近だと、コストの関係から逆に早く切り上げちゃうなんていうところもありましたけどね。
今年の参院選から18歳選挙権がスタートしますよね。春の進学や就職に伴う転居によって投票する権利が得られないケースを防ぐため、古い住所に3ヶ月以上住んでいれば古い住所での選挙区で投票可能にする方針です。
若い世代の投票率が低い理由
西田亮介氏(以下、西田):今、投票年齢の引き下げがすごく話題になっていて。いろいろなところでニュースが出ています。
まず最初に、世代別の投票率を見ていただきたいと思います。これを見ていただければわかるとおり、おそらく10代と20代はライフスタイルが似ていますから、10代の人たちもおそらく20代に近い投票率になるんじゃないかと思います。
むろん当初はアナウンス効果もあって、20代よりは高くなったりするかもしれませんが、ほかに構造的な理由はあまり見当たりません。
そのなかで、今回なるべく投票しやすいように、例えば、ショッピングセンターとか人が集まるところで投票できるように改正が行われました。
この取り組みは、なんら否定されるべきではなく、肯定的に捉えられると思います。そうなんだけれども、もうちょっと先のことまで考えてみたいと思います。
なぜ若い世代は投票率が低いのかと、そして対策としてよく行われているのが、例えば、アイドルを普及啓発活動に使ってみたりとかいうことですね。
そういう表層的なことばっかりやっている。その問題はよく考えないといけないというところを取り上げてみたいと思います。
堀:なにが投票に行くモチベーションなのかということですね。
西田:まさにその通りです。
学校の授業で教えるべき政治への理解
西田:次のパネルを見ていただきたいんですけど、明るい選挙推進協会という協会があって、彼らが2015年の夏に若年世代を対象に調査を行っていて、投票年齢引き下げ自体はみんなだいたい知っているんですね。「知っていた」という人が87.5パーセントですね。
ところが、「18歳以上の選挙権に賛成ですか? 反対ですか?」ということを聞くと、これは、15〜24歳を対象にしても、「わからない」とか「反対」の人たちがけっこういるということがわかります。
堀:当事者世代の前後のみなさんじゃないですか。
西田:そうなんです。この点、きちんと直視する必要があると思います。なぜ投票年齢が引き下げられ、なぜ投票に行かなければいけないのかということについて、当の世代によく理解されていないというところがあるんだと思います。
堀:箱はできたけど、中身がというね……。
西田:魂がまだ込められていないということなのかもしれないですね。
ところで僕はふだんあまりパネルを使わないんですが、今日はいろいろ持ってきてみました(笑)。
堀:ありがとうございます。
西田:これも明るい選挙推進協会のデータなんですけど。
「政治をどうやって学びましたか」ということで、一番多いのが「国民主権や多数決などの民主主義の基本」や「選挙区制や選挙権年齢などの選挙のしくみ」。知識の習得です。それから、「普通選挙権実現の歴史」などですね。
堀:確かに、この辺は学校授業のなかでカバーされているんですよね。
西田:最近目玉になっている下から2番目の「実際の選挙や架空の候補者による選挙での模擬投票」とあるんですけど、これは8パーセントですね。
堀:少ないですね!
西田:グッドプラクティスはあるものの、全体を見回してみると、あまり普及していないことがわかります。
堀:確かに、模擬投票をやっているという高校が、逆にニュースで取り上げられるくらい特殊な事例ってことですか。
西田:そういうことですね。僕も、こういう番組で解説するのでよく出ているんですけど、いつも同じ学校が事例で使われているんですね。
堀:確かに。
西田:先進的なケースということなんですけどね。
若者のニュース情報源はネット? TV?
西田:ちなみに、若い世代は、「政治や経済のニュースで何で得ていますか」といったところで、実はテレビがけっこう多いということがわかります。テレビで政治や経済のニュースをきちんと解説するというのは若年世代対策という意味でも重要ですよということが言えそうですね。
堀:みんな、みんな! 見てね!
西田:そういうことですね!
よく若い世代はネットで情報を得ているとか、そういう話になっていますけど、実はテレビで解説するというのも大事だという話です。
日本社会に足りない政治の議論
西田:ここまでの話が一通りデータとしてあって、僕の個人的な考えですが、そもそも日本の社会には民主主義の独自性というか手触りや相場観がないと思うのです。
つまり、三権分立とかそういう話はやるんだけども、でもどこか他人行儀なところがあって、「アメリカで発展しました、イギリスで発展しました」みたいな話に終止しがちです。じゃあ、日本の場合はどうなのかということになると、みんなあまり知らないという。
堀:あまりディベートとかもしないですからねぇ……。
西田:民主主義や政治の価値とはなんなのか。それによって自分たちの政治的な好みを知るというのが重要で、そこにある種の本質があるんじゃないかと。
堀:もっと、決めさせたらいいんじゃないですか? やっぱり。子供たちに。高校生たちと議論しているときに、「中立とか公平って何?」という話をしたときに、彼らが言った言葉は、「極論を知って議論を続けることです」と言ったんです。
「おぅ……!」と思って、感心して、逆に教えてもらっちゃったりなんかして。
西田さん、これ。テレビもこういう役割は一方で重要だと思うんですけど。今後どうしていくことが必要だと思われますか。
西田:中立のあり方も難しいし、公平のあり方についても難しいんですけど、いろいろな問題について、例えば日本の教育だと「憲法改正、是か非か?」という話はなかなかやらないと思うんですね。でも、こういった議論はやはりやらないといけないんじゃないかと思いますね。
堀:政治的な問題で。「センシティブだ!」なんて言ってね。
西田:そうですね。センシティブな問題から逃げずに、踏み込んで議論をしていかなければいけないと思います。具体的な問題から逃げないということでもありますね。そのためには、政治は教育になるべく介入しないようにする。
例えば、ネガティブリストじゃないですが、これをやったらアウトだけれども、これをやらない限りは基本的には教育はそれでいいんだという制度の作り込みが必要だと思いますね。
堀:ありがとうございました。本日のオピニオンCROSSは以上とさせていただきます。