サイボウズ×リクルートが取り組む「働き方変革」
司会者:ここから対談パートに入っていきたいと思います。サイボウズ青野社長への質問を含めまして、働き方変革を実現するために、「私たち社員自身は何をすればいいのか?」「どういったアクションを取ればいいのか?」そういったことをメインに対談を進めて参りたいと思います。
株式会社リクルートホールディングス・広報ブランド推進室室長兼働き方変革プロジェクトリーダー(3月末時点)である林さんに登壇していただきます。では林さん、よろしくお願いいたします。
林宏昌氏(以下、林):よろしくお願いします。 2015年4月に「働き方変革プロジェクト」を立ち上げ、リーダーを担っています。
この1年でいろんなことをガラッと変えてきていますが、考え方はまさにサイボウズさんがやられていることと近く、かなり共感をしています。
僕らもフレックスではありましたが、わりと画一的で、ある程度同じ時間に同じ場所で同じ仲間と働くというところから、「いかに一人ひとりの多様性を受け入れながら働き続けられるんだろうか?」「そのなかで、どう成果を高めていけるんだろうか?」ということを考えながらやってきました。
今日は青野さんとみなさんからたくさん質問を受けていますので、その辺りを活用させていただきながら、もっぱらリスナーというかたちで望んでいけたらなと思っています。よろしくお願いします。
(会場拍手)
いかに長時間労働を減らせるか
青野慶久氏(以下、青野):よろしくお願いします。
林:僕自身もちょうど今、3歳と0歳の子供がいまして。どこまでが仕事で、どこまでが子育てかという、そのバランスも多様化でそれぞれだと思うんですけれども。
青野さんはもともとは「がむしゃらに働くんだ」みたいなところから変わられて、今の子育てと仕事の理想のワークライフバランスは実現できていると思われているのか? この辺がちょっと足りていないと思われているのか? どんな感じなんですか?
青野:我が家は子供が3人いまして。生まれる度に私の労働時間が減っていったんですよね。昨年は、3人目が生まれましたから、妻は産んだばかりで大変で、私が上の子を見ないといけないので、朝保育園に送っていって。育休期間中は16時半までに迎えに行かないといけないんですよ。
会社を16時に出て、2人迎えに行くみたいなことをやっていて、9時~16時勤務だったんですよ。これをやってなにが起きたかというと、「実は労働時間って減らせるんじゃないか?」ということだったんですね。
それまでは、重要な仕事をいっぱいしているつもりで、「これ減らすとかありえないよね」とか思いながらやってたんですけど(笑)。
16時に帰るしかないとなったら、1回自分の仕事の棚卸しをして、実はその多くはやらなくていいことだったり、もしくは任せちゃっていいことだったりして、バンバンバンバンと外すと16時に収まるみたいなことが起きました。
もちろん子供が寝た後に1回パソコンに向かったりはしますけれども。「実は労働時間は減らせるんだ」「よく考えたら、人間が集中できるのは数時間だしな……」みたいなことがわかって。
そこでちょっとバランスに目覚めたというか、「なんだ、このぐらいのバランスでもぜんぜんパフォーマンスが落ちないんだ」ということがわかって。「今までの自分はなんだったんだ?」みたいな。そんな感じですかね。
チームで仕事の棚卸しをやってみる
林:先ほどの講演で、「どうやったら長時間労働を減らせるのか?」という質問の答えは、「帰ることなんだよ」とおっしゃっていて。たぶん大半のみなさんも、「それはそうなんですけど、でも帰れないじゃないですか?」と思っていると思います。
あるいは、「青野さんは社長だから仕事を振ったりしているけど、私なんかが帰ろうと思っても、課長から『明日までに頼むよ』といわれると、なかなか難しいみたいな話もあるのかと。
そういう意味では、チームのメンバー一人ひとりが「帰るんだよ」ということを進めるためには、何を変えていけばいいと思われますか?
青野:そうですね。仕事の棚卸しみたいなものは、ぜひしてみて欲しいなと思うんですね。「自分が大事だと思っていることが、本当にお客さんにとっての価値になっているんだろうか?」とか、「もしお客さんの価値になる仕事だけをチョイスしたら、どれだけ残るんだろうか?」みたいな。
こんなことをやってみると、来たメールを返すのにえらい時間かけてないか? みたいなね。実は返さなくてもなにも困らないし、むしろ返すからまた戻ってきたりするみたいなね。そんなことが起きてないか? みたいな(笑)。そういうのは一度考えて見て欲しいなと思いますね。
思うのは、1人だけでやるのはけっこう大変だと思います。自分だけがやると、わからなくて周りから振る人も出てくるので。できれば1回、短期間でいいのでチーム・グループでチャレンジしてみて、それで振り返ってみると、「意外と減らせるね」ということに気づくんじゃないかなと思います。
社員同士を比較しないこと
林:子育てや介護と仕事の両立の問題があるときって、制度をうまく活用したいということもあるんですけど。
一方で、バリバリ働きたいという人も会社にはけっこういます。そうすると、16時に帰る人と残業をして働く人を、どのように統一の基準で評価するか、は、なかなか難しいなと。
サイボウズさんでは、「100人いれば、100通りの人事制度があってよい」ということで、「私は早く帰るよ」「でも、長く働きたい人はそういう制度もあるよ」という話があると思うんですけど。このような問題というのは起こらないんですかね?
青野:そうですね。社内の人を比較すると、あっちの人は16時までしか働いてなくて、こっちの人は残業して働いているのに、16時までの人の給料を高くするのは難しいよねということを思っちゃうんですけど。
そこの給与の評価基準を変えたのが、僕たちにとっての発見でした。どう変えたかというと、もう社員同士を比較するのはやめましょうと。16時までしか働かない人が転職を希望していたとすると、僕らはいくらの給与を提示するんだろうか? という発想でやりました。
この残業して働ける人に、僕らだったらいくら払うのかと考えると、社員を比較する必要がなくなる。例えば、この人は16時までだけど、めっちゃスキルがあるし、欠かせないよねと思ったら、やっぱり高い給与を出します。
その社員同士を比較しないというところに頭が切り替わってから、そこが乗り越えられるようになってきましたかね。
林:なるほど。社内で残業して働く人と、16時に帰る人を比較するので、そこが問題になるけれども、本質的なスキルやアウトプットの質を評価することで変えるんだと。
青野:そうですね。
多様化する社会に必要なマネジメント力
林:そういうかたちで、いろんな人が多様な時間で、多様な働き方をしていくじゃないですか。個人にとっても、多様化がすごくいいということがみんなわかると思うんですけれども。
一方でチームを率いている人やマネジメントをしている人からすると、例えば朝9時から20時ぐらいまで働いている人たちをマネージするのと、週3日しか来ない人から、午前中だけ来る人、もしくは二足のわらじで他の会社と掛け持ちしながらやっている人たちのマネジメントというのは大きく変わりますよね。
「マネジメント評価がけっこう高まるんじゃないの?」という一方で、「本当にチームとして成果があげられるの?」というところについてどうやってチャレンジされていたり、あるいはもう結果として、「こういうことをやればいいんだよ」ということはありますか?
青野:それでいくと、昔はマネージャーが楽だったと思うんですね。社員がほぼ全員男性で、「残業しろ」と言ったらみんなやってくれる人で。「あっちに転勤だ」と言ったら、みんな行ってくれる人みたいな(笑)。こういう会社だったら、本当に上司は楽ですよね。「今月売上足りてないから、もっと頑張れ」という感じだったと思うんですけど。
多様化してくると、それが通用しなくなってマネジメントが大変だと言う。ただそれは言い換えると、やっぱりマネジメント力が低いと思うんですね。
これをマネジメントできる能力こそが、21世紀型のマネージャーだと。どこにコツがあるかというと、みんなで働くわけなので、タスクをいかに共有しておくか。これがマネジメントするときには必須になると思います。誰が何の仕事をどこまでやっているのかを共有すると。
これがあると、人が入れ替わったり、病気になってしばらく来なかったり、人が増えたり減ったりしても、「僕はいま仕事がたまってるから、誰か空いてる人よろしく」みたいなことが簡単にできる。このワークをチームで共有するというのがないと、けっこう辛いと思いますね。
「会社に残ってる人がえらい」という風土は変えられるか
林:結局そこが見える化されてないと、誰が何をやっているかよくわからなかったりして、マネジメントとしてはそこが不安ですよね。だったら、より長く働いてくれる人に仕事を寄せていこうかみたいな構造になってしまう。
青野:そうなんですよ。目に見えて頼みやすい、「あいつがいるから、あいつに振ろう」みたいなことが続くと思いますね。
林:やっぱり多様化で、会社にいる人もいればいない人もいるというときに、同じ成果でもなんとなく会社にいる人のほうが評価が高くなるとか。今でもあると思うんです。
僕らも勘違いしてはいけないのは、16時に帰る人と残業して働いている人で成果が一緒だったら、本当は16時に帰ってる人を評価しないといけないんだけど。
なんとなく、「あいつ朝から来てさ、夜まで頑張ってるじゃない」という会話になったり、「毎日会社に来て頑張ってるじゃない」みたいな。
「本来と違う趣旨で評価されるんじゃないか?」という危機感から、「別に行かなくていいんだけど、オフィスに行ったほうがいいのかな?」とか、「帰ってもいいんだけど、いたほうが頑張ってる感が出るのかな?」とか。
この辺はまさに風土的なものだと思うんですけど。そこはどういうふうに変えてこられたんですか?
青野:そうですね。
林:もともとはバリバリ働かれてた会社ですもんね。
青野:そうなんですよ。
林:僕らもそうなんですけど。
青野:そうですよね。不夜城でしたもんね(笑)。それで言うと、僕もまだ変わってないんですよ。なんか頑張って会社に来たことをアピールしたがる自分がいるんですよ。
(会場笑)
台風とか来るじゃないですか? サイボウズの社員、出社しないんですよ。僕はすごい必死で出社して来たら、会社に誰もいなかった(笑)。
でもそれを見た瞬間にすごい安心して、この会社に汗だくになって、雨でびしょ濡れになってまで会社に来て、それを評価して欲しいと思う人なんてほとんどいないんだって。それを見てけっこう安心しましたけどね。僕は変わってないですけど(笑)。
ワークライフバランスが成り立つ2つの要素
林:一方で、今のマネジメント側が変わらないといけないという話から、働く個人に話を寄せていくと、青野さんの著書『チームのことだけ、考えた。』中でも自立が大事なんだと書かれてたんですけど、これからナレッジワーカーの時代になっていくなかで、個人はどういうことに気をつけながら働いていくことが大事だとお考えですか?
青野:そうですね。この多様性や個性を発揮できる組織を作るとなったときに、結局大事なのは2つぐらいだなというのが結論でした。
本にも書いたんですけど、1つは「公明正大」。嘘をつかないということ。先ほどの林さんの話で、近くにいる人のほうが安心できるのはなぜかというと、「遠くに行っているあの人は本当に働いているのか?」とか、そういう疑念が生まれちゃうからだと思うんですよね。
その「嘘をつかない」という信頼関係がないと、この多様性を持ち込んだときに、社内に不信感が芽生えてきて崩壊するぞというのがあったので、とにかく「公明正大」というものをこの会社のインフラにしようと思って、「嘘をなくす運動」みたいなものもずっとやってきました。それが1つ。
もう1つは「自立」。多様性を認めたときに自立できていない人がいると、本当に大変です。「僕は朝何時に来たらいいんですか?」「知らん」と。「僕は今後どんな働き方をしていったらいいんですか?」「知らん」と(笑)。
こういう人には自問自答させて、「あなたはどんな働き方をしたい?」「どんなキャリアプランを描きたいんだ?」「どんなライフスタイルを目指したいんだ?」「あなたが一番幸福に感じることはなんだ?」ということを問いながら自立を引き出していくと。
その理想に向かってスキルをつけていってあげる。こんなイメージですかね? この2つがあったらなんとかなると思います。
働き方を変える最初の1歩
林:「個人がどんな働き方をしたいのか?」って、僕らも去年聞いてみたんですよ。これからの働き方というのは、会社が決めるんじゃなくて、一人ひとりが選べるようにしていくことがすごく大事だと思って。「みんなどんな働き方をしたいんですか?」と聞くと、「今まで制約があって、それが外れると思ってなかったので考えたことがない」。
「どんな働き方をしたいんですか?」と言われても、「いやぁ、そうですね。まあオフィスに来る頻度がちょっと減ったらいいですかね」とか、そんなものしかなくて。本質的にどんな働き方をしたいかなかなか描けていないということがあったんですけど。
そういうのはサイボウズの中では、日々みんなで会話をしたりするものなんですか? あるいは研修とか語り場みたいなものを作って議論しているのかとか。なにか工夫されていることはありますか?
青野:そうですね、ディスカッションのスペースがグループウェア上にあって、そこでワークスタイルをよく話し合ったりもしますし、疑問に感じたことが日々問題に上がって、改善のために動いたりするので。社員もなんとなく「言っていいんだな」という空気ができていると思います。
やっぱり一番効果的だと思うのは、自分の近くにほぼ会社に来ない人がいたりすると、「あれでいいんだ!」とか、4時半に帰る人がいると「こういうのもありなんだ」とか。
一緒に働く人のなかにそういう人がいると、「じゃあ、俺はどう働こうか?」ということを考えるようになると思うんですよね。自分ごと化させることがすごく大事かなと思います。
林:具体的な事例が間近で見えて、会社としてもウェルカムになっているという安心感がまずあって、そこから考え始めるということですね。
青野:そうですね。みんなが最初からバァーと考えるわけじゃなかったですね。
林:なるほど。たぶん、今日ここに集まってくれてる人は、役割として組織の働き方変革を担っている人もいれば、個人的にすごく思っている人もいると思うんですけど。
1歩目をどう始めるのか? どういうことを起点としていったらいいのかという示唆やアドバイスがあればいただきたいと思います。当然テーマもバラバラだと思うんですけれども。
青野:全体を一気に変えるというのは、一番難しいことですよね。仕事を切って切って切って細分化して、できるところから始めるというのは当たり前ですけど。これをチャレンジして欲しいなと思うんですよね。
例えば、「自分のグループ5人で、今週こんな働き方をしてみよう」とか。それぐらいの提案だったらできるかもしれませんね。
やってみてダメだったら、やめたらいいんですよ。それだったら賛同も得られやすいでしょうし。やることによって、今までやったことがないことだから、間違いなく知識が得られて、「次やるんだったらこうしよう」というアイデアが湧いてくると思うんですよね。
そうすると、小さな成功がだんだんだんだん大きくなっていって、あとは模範を広げていくだけ。最初の一歩が途方もなく大きく見えているみなさんなので、問題を切って切って、短期間、少人数で1回やってみたらおもしろいんじゃないかなと思います。
林:ありがとうございます。
「重要な会議は全部16時までに終わらせる」
林:会場のみなさんから質問があれば、手をあげていただきたいと思います。
質問者1:マネジメント層が育児休暇を取ると、上司の判断が必要だったり、単純にタスクを可視化しただけでは補えないんじゃないかなと思うのですが。
青野:私が去年16時退社を決意して、自分の仕事をもう1回全部見直そうと思ったときに、「僕にしかできない仕事ってなんだろう?」と考えました。
僕は社長というポジションですから、やらないといけないのは本部をまたぐ案件の意思決定。やるかやらないかを判断する。そこの意志決定は自分しかできないというのが1つ。
もう1つは、社長という肩書きがついているので、それを社外的に見せていく。社長が言っていますという広報機能みたいな役割。これもたぶん僕しかできない。
「極論すると、この2つだけじゃないか?」ということに気づいたんですね。そうなると、広報機能は時間が短くなったらできる部分が減ってごめんねと。その分、厳選すればいいだけ。
ただ先ほど言った意思決定のところ、これは16時までにしかできなくなるわけですよ。なので、重要な会議が全部16時までに終わるようになったんです。
これが大好評で、「すごい効率がいいです」と言われて。もしかして足引っ張ってたのは俺か? みたいなことが起きました(笑)。
(会場笑)
林:ほかにいらっしゃいますか?
夫婦間の価値観の違いを埋めるには
質問者2:私自身、5歳と2歳の男の子の母です。夫がもうバリバリ長時間働く仕事で、そういう働き方は時代からも遅れてるな……と思うなかで、夫婦間のそういう意識へのギャップが生まれてしまいます。夫側の立場から、なにか思いがあれば教えていただきたいです。
青野:ほんまですよ! これは今もサイボウズが直面していて、夫婦問題なんですよ。2回連続であって、ほんまに腹が立ってるんですけど。
サイボウズのママさん社員が退社することになって、2人連続で来たんですよ。理由は旦那さんの転勤です。1人なんて入社してまだ2ヶ月か3ヶ月の人ですよ。「これからサイボウズでムッチャやりたいです」って入ってきて、「夫がいきなり香港に転勤になりました」と言われる。「これはちょっと許し難いぞ」と思って、その旦那さんが勤める会社に怒鳴り込みに行こうかなと(笑)。
(会場笑)
なにが言いたいのかというと、結局これは社会で解決しにいかないと根本的には解決しないんだと思いましたね。
日本の大企業でよくある、2週間前に転勤と言われたらどこへでも行くというような、このやり方を変えていかないと、社会としてなかなか問題が解決しない。
なので、みんなで頑張って変えていきたいと思うんですけど。協力していただけませんかね? リクルートさんのような、規模が大きい会社が率先して動くことによる社会への影響力は、本当に大きいですよ。
僕らが頑張っても、しょせんは500人のベンチャーです。これを何万人の会社が、会社を挙げて風土を変えて、新しい世界に突入したという事例をつくって欲しいんですよ。
これをやると、たぶん次に続く大企業がどんどん出てくると思うんです。なのでぜひお願いしたいと思っています。
林:ありがとうございます。ほかにいらっしゃいますか?
仕事の質より生活の質に目を向ける
質問者3:私も子供が4人おりますが、名古屋に転勤して早半年。子育てはほぼ妻に丸投げという状態です。
先ほどのお話を聞いて、大いに反省をしているところです。とはいえ、誰かが休みを取ったときに、その仕事を補う人員の余裕をある程度持っていなければ、仕事が回らなくなっちゃうんじゃないかと思っているんですが、採用や人員の計画はけっこうゆとりを持って考えていらっしゃるんですか?
そこはタイトに考えて、いる人で何とかしようとか。仕事を減らしていく方法で対応しようとか。会社としてどうお考えなのかお聞きしたいです。
青野:人のバッファというのはまさにそうで。できるだけバッファを取らないところがあります。出産のときなんかは何ヶ月も前からわかるので、それは早めに採用して引き継ぎをやります。そうは言っても、家族が病気になったとか、突発で来ることもありますから、それを含めて余剰は持っておくべきだとは思います。
ただどちらかというと、こっちが大事だと思ってるんですけど。「今やってる仕事のクオリティを下げない」というこだわりは、捨ててもいいんじゃないかと思ってるんです。
僕は10年ぐらい前にドイツに行ったことがあって、ほとんどのお店が18時には閉まるんですよ。「うわっ! なんちゅう国や」と。日本と同じような国だと思ってたら、なんという不便な国だと。俺は深夜にコンビニに行くのが好きなのに、これはあかんやないかと思って。
日本に帰って、近所のコンビニのおじちゃんとすごい仲良しなので、「ドイツに行ってこんなことがあった」と言ったら、店長さんが「本当に夜のバイトがなかなか取れなくてさぁ……」ってすごく辛そうな顔で話されたときに、俺が夜買いに来るからこの人のワークライフバランスが滅茶苦茶になっているんやと思ったんです。
なにが言いたいのかというと、日本ではもっと仕事の質じゃなくて、生活の質のほうに目を向けたほうがみんなハッピーに働けるんじゃないかと。別に深夜にコンビニに買いに行かなくても、ちょっと工夫すれば18時までに買いに行けるわけなんですよね。
オーバークオリティを追求して、みんな辛くなって、どんどん泥沼にはまっていないかと。
ヨーロッパでは役所の人も、ロングバケーションでいないらしいですよね。日本人的感覚からいくと、「仕事を引き継げ」と思うんですけど。
役所に行って、「領収書処理して欲しいんですけど」と言ったら、「あの人はバケーション中だから2週間待ってください」とか平気で言うらしいんですよ。
私たちの感覚からすると、「えー!?」ですよね。でも、その人たちのほうが幸せに働いているとするならば、もしかしたら未来はこっちじゃないかと。そんなことを思ったりします。
なので、今の仕事の質を維持しなければならないというのは、ちょっと疑ってかかってもいいんじゃないかと。それをやって、みんなが青い顔するんだったらやめたほうがいいぞと。
正社員・非正社員の区別はなくなってくる
林:では、ほかにご質問されたい方。
質問者4:私の持っているチームが、正社員と契約社員と派遣社員というかたちで、雇用形態が異なる人がいろいろいます。
私もそうなんですけど、働くママが多いこともあり、けっこう価値感が違うチームになるんですね。私が所属している会社は、まだ働き方変革が進んでいないので、「長く働くことが価値だ」みたいなところがどうしてもあります。
急にママが病気で休む、子供が病気で休むということも、派遣社員が代替することがちょっと不満だみたいな話になったりします。
雇用形態が違うなかで、価値観を合わせたり、話し合いを進めていくヒントがもらえればなと思います。
青野:難しいですよね……。正社員・非正規社員って日本だけらしいですね。だから外国人に説明するときに、すごい苦労すると聞いたことがあります。
日本の歴史の中で生み出されて、そのまま定着してしまってて、世界的にはまったく標準的ではない仕組みになっていると。
これがどう変わっていくのかわからないんですけど、サイボウズの事例でお話すると、どこまでが正社員かよくわからなくなってきているというのがあります。
なにをもって正社員と言うのかが難しくなってきている。なにしろ、副業していいわけですよ。場所も時間もフレキシブルになってくると、正規・非正規の2つに分かれるのではなくて、もっとまだらになってくる。
派遣社員でも、長く働く人もいれば短時間の人もいる。そうすると正規・非正規という区別自体が意味があるのかどうかわからない。単に契約の仕方の差であって、これ以上の差ではないという考え方にシフトしてきています。
僕が今悩んでいるのは、「この非正規と言われている人たちが、ずっと不安を抱えたままサイボウズで働いてないだろうか?」という不安があって。
もうちょっと新しい派遣の仕組みができないかなとか。そんなことを今考えている感じですね。すみません、なんのヒントにもなってないかもしれないですけど。
質問者4:ありがとうございます。
バーチャルな「法人」に縛られる必要はない
林:ありがとうございます。 今までやられて来たことがあって、この後の日本の社会課題に向かっていくんだということなんですが。
この働き方を中心として、青野さんが考えられる10年後あるいは20年後の働き方の理想というか意気込みをちょっとうかがえればいいなと思います。
青野:今ちょうど厚生労働省のプロジェクトで、働き方の未来を考えるプロジェクトをみんなでやっているんですけど。1個キーワードで上がっているのが、「個」という単語なんですよね。個人の「個」。
個に注目してみると、カテゴライズにとらわれずに、一人ひとりの幸せを追求できるように発想がいくと。それを男性・女性、日本人・外国人みたいな、僕らの引きやすい線を引いて制度を決めていくと、今度は「個」が埋没していくような制度ができていくと。
なので、1人の人間、生身の人間、そこにいるあなた、その人に目を向けて物事を考えるという習慣をつけていく必要があると思います。
もう1つ、これは僕の希望なんですけど。「法人」というのは化け物ですね。えらそうにしすぎ。法人なのに「永続する会社はいい会社」とかいうじゃないですか? なんでですかね?
会社なんてバーチャルなものじゃないですか。別に会社がなくなったって、誰も痛くないんですよ。みんな別の会社に転職して、「ワーイ!」って言ったらいいわけじゃないですか。
生身の人間のほうがはるかに大事なのに、なんかこの法人様がすごくえらいぞと。法人様は、「お前何時に来い」「ここで働け」「副業するな」と命令をいっぱいするわけですよ。
その法人様のために、生身の人間がみんな頭を下げながら働いている。この図式がちょっとおかしいと思うんですよね。本当に僕たちが大事にしないといけないのは、こっちの生身の人間のほうで、法人なんかバーチャルなもんだから、作って閉じて、作って閉じて、そこはもっと自由にフレキシブルにやっちゃえばいいんじゃないかと思います。
法人というこのバーチャルな、モンスターみたいなやつに縛られないように、「法人のため」「リクルートは」「サイボウズは」こういう言葉はちょっと疑ってかかったほうがいいと思います。そこにリクルートという人はいないし、サイボウズという人もいない。そんな人のために働く必要はない。
そんなものはバーチャルなものでしかない。この法人と個人の関係性を見直すというのが、たぶんここからの数十年で必要になるんじゃないかなと思っています。
林:青野さん、ありがとうございました。
青野:ありがとうございました。
(会場拍手)