条約は法律を上回る

昼間たかし氏(以下、昼間):先週さ、SEALDs見に行ったらさ、どっかの学者の人がさ……。

荻野幸太郎氏(以下、荻野):あんまり関係のない話はよそうよ、今は。

(一同笑)

昼間:「南スーダンはこんなにやばいんですよ」ってずっと言ってるんですけど、知らない国の話じゃないですか。結局それと一緒で、ブキッキオさんも、「何この人、遠い国の話してんの。その国の人じゃないのに」って思われてるんじゃないのかな、って思うわけですよ。

山田太郎氏(以下、山田):それからもう1個は、この取り締まるべきだっていうことを、国際人権法の観点を参照としてるんだけど、一応、国連、児童の権利条約、児童の売買等に関する選択議定書、まあ2000年に結ばれたものです。

日本はこれに関しては、児童ポルノに関する解釈をしていて、実在以外認めないということで解釈してるんですよ。それは、「ナイス!」というふうに言われましたが、がんばって質問主意書をちゃんと取って押さえてあります。

「日本はいわゆる児童ポルノに関する関連する法律は、すべてにおいて何か?」ということを聞いていて、「2つしかない」と。1つは今言った児童の売買等に関する児童の権利条約の選択議定書。もう1個は、サイバー犯罪に関する条約っていう。この2本しか児童ポルノに関する定義に関して、日本が締結している条約はありませんと。

なんでこんなに条約に慎重かっていうと、憲法のなかでも条約は法律を上回るというふうに書いてあるので、変な条約を結んでしまうと国内法で勝てないんですよ。

実在しない児童に関してどう解釈するか

山田:それで一応、この2つについて日本政府の解釈としては、実在しない児童に関してはどう解釈するかっていうことについては、まずサイバー犯罪に関する条約については、留保の部分もしてあってということ。

あと、今言った児童の売買等に関する権利条約の選択議定書に関しては、実在の児童だけが対象であるという解釈をしていて、まさに責務を負うものでないということを、はっきり確認をしているので、これ以上、この問題に関して、人権委員会は日本に問えないと。

あともう1つは、EU指令をもとに言ってるんだけど、これはナンセンスで、我が国はEUではないので、それを前提に守るべきだっていう主張は非常にナンセンスだと。

ただ危なかったのは、こういうちゃんと質問主意書で閣議決定を取っておかなかったら、解釈って不安定だからね、めちゃくちゃ。

なので、これは閣議決定をしたかたちでギリギリこの勧告が出る直前にきちっと取ってあったので、日本は人権委員会がどんな勧告をこういうかたちでしてきたとしても従わないということを、政府が言ったのと同じです。

なので、非常にこれは滑り込みセーフじゃないんだけど、ずっと番組でも言ってましたけども、この問題は勧告の出る前にきちっとですね、詰めておかなければいけないということで。

これは政府とも詰めてですね、こういう質疑を質問主意書というかたちで取ってありますので、まあ、大丈夫っちゃ大丈夫だということですね。

荻野:つまり、一緒に視察に行った韓国では、この選択議定書で非実在も含むというふうに政府側が、強硬に無理筋でおっしゃってるんですね。で、反対派の人を「そうやって国際法で決まってるから」って言って押さえつけるってことになっちゃってるので、この質問主意書を政府が取ったのは、すごく大きい。

山田:いや、そうなんですよ。もしこれが曖昧模糊として、まあ我々、あんまり言っちゃうとあれですけど、条約課長とかともいろいろ詰めたりしてるんだけど、そういう人たちがお間抜けで(笑)「いいんじゃない」っていう。

条約そのものの内容をそのまま韓国のようにストレートに受けていたとしたら、もう全部やられてますから。ブキッキオさんが言った人権委員会のものが、いわゆる過去結んだ条約のなかでは生きてるじゃないかっていうことになっちゃって、政府の解釈が変わってしまって、そうすると国内としてはやられていたっていうことになるので。

僕は表現の自由っていろいろと言うんだけど、こういうことが大事ですと。でね、放送法だとか、よく電波法の話とかって、みんな表現の自由みたいにして言う人がいるんだけど、あれもあれで大事な議論かもしれないけど、実際にはTBSを停波するなんていうのはできないから。したら、自民党がひっくり返る。

だけど、この問題はちょっとした解釈でもって、官僚の人が1人、口をすべらせて違うことを言ってしまったら、全部引っかかっちゃうんですよ。このブーア=ブキッキオさんのことを、条約上、従わなければいけない状態に追い込まれちゃった。

こういう具体的な目の前にある危ない状況下を1つずつ、繊細に対応していくってことで、表現の自由ってことが守られるということを、ちょっとぜひ理解してもらいたいなと。

児童ポルノではなく、児童虐待記録物と呼ぶべき

荻野:あのね、山田先生と一緒に、「児童ポルノって言い方って良くないよね。Child Abuse Materialでちゃんとやろう。児童虐待記録物とかでやっていくことで、実在児童の人権を守るというほうの目的をね、はっきりさせよう」って言ってたじゃないですか。

今回ね、ブキッキオさん、報告のなかで、Virtual Child Abuse Materialとかね……。

山田:(笑)。

荻野:まあ、今までにもそういう言葉使ってた人とかいましたよ、専門家のなかにもね、規制したい人は。それをですね、我々とここでね、フェアな議論を一応したわけじゃないですか。

そのあとで、Virtual Child Abuse Materialって文言を使って、わざわざ違うはずのものを一緒くたにして、ぐちゃ混ぜにするっていうのは、これはフェアな議論じゃないと思うし、ちょっとブキッキオさんにそういうところは改めてほしいなと思いますよね。

意見は違うとしても、議論としてフェアにやるってところだけは、もっとちゃんとできるんじゃないのって思うんですけどね。

山田:あと、一応、備えておいたのは、功を奏したのか、それは問わなかったのかわかんなかったんだけど、実は勧告がくるときに、いわゆる非実在に関しても人権が存在すると。

つまり、前もこれも番組でやったと思うんだけれども、今回は社会的な寛容性、toleranceがあるから、漫画、アニメ、ゲームが原因でもって、そういうものを性搾取するってことが影響があるんだよっていう論旨でいったんだけど。

これは我が国とか、これまでの議論のなかから、関係ないよねっていうところについて、あるいは今議論されてないんだよね、っていうことで押さえたんだけど。

もう1つは、それ自身に人権が存在するかのような、侮辱みたいなかたちでの議論でいくとまずいと思ったんで、これを3月7日の参議院の予算委員会で法務大臣から、例のフィギアのときに、非実在に関しては人権が存在しないんですねと。

フィギアについては人権が存在しない、ということについて認めさせているので、この方面からはこなかったんだけども、一応これも危ないと思ってたんですよ。

危ないと思ってたので、それについても一応、国内としての、いわゆる法務大臣から論拠は取っていたということで、防いでおいたんだけど、ちょっとこれは不発に終わりましたけどね。まあ、良かったなということだと思ってます。

昼間:まだ国連は辞めどきじゃないってことですかね?

山田:えっ(笑)。

荻野:辞めたいんですか?

昼間:いや、辞めたほうがいいでしょう、もう。天皇まで踏み込んでくるんですよ。

山田:まあね。

荻野:まあ、そういう過激な意見もね、表現の自由で守られてるんで(笑)。

昼間:丸く収めるね、荻野さん。

今までは国連から言われっぱなしだった

山田:はい。でも、ほんとにコメントで「山田さんしかこの問題については取り上げてない」って書いてあったんですけど、国連が言ってきている1つ1つに対して、こんなにも精密に外務省も対応するようになったというのは、かなり日本の態度や歴史は変わったと思いますよ。

あのブキッキオ発言は、記者会見のときに普通ならスルーですよ。誰も注目してない。援交30パーセントでワーワー騒いで。当初、外務省もスルーするつもりでいたんだけど、ネットでも大きくなってきたっていうところもあって対処しだしてから、外務省がこの問題に関しても、いろいろ精密にというかですね、神経質に動くようになったっていうのはいいことだと思う。

で、(コメントにて)「国連おかしい」っていうのは、今まで国連から言われっぱなしで放置してきたから、これを政治マターの問題として言うべきことは言うっていうことを外務大臣にも言わせたので、今後は言われっぱなしにならないっていうことです。

もう1つはさっきも言ったように、日本の立場を先に明らかにすることだよね。国連からどう言われたとしても、我々が非実在についてはどうなのかとか、そういうことについてはきちっと質問主意書も取ったけど、閣議での決定をして、政府なり国なりの態度を明らかにしとくっていうことは、これから重要だと思ってます。

なので、危ないようなものに関しては、今後も引き続きですね、日本政府にも働きかけつつ、国連にも言うべきときは言うというふうにしたいと思っています。

荻野:山田先生にほんとに感謝したいのは、6年前の女子委員会の勧告を見てくださればわかるんだけど、もっとね、なんの気遣いもなく、もっと簡単に勧告してたんですよ。「BANしちゃえ、漫画を」と。

山田:禁止だよ、禁止。漫画、アニメ、ゲーム、禁止だよ。国連から。

荻野:今回はね、両論併記でダーッと「わかるわかる、表現の自由も大事だよね」とさんざん書いてから、「でも、toleranceがどうのこうの」って言って、最後は「criminal」、犯罪化って言葉である程度、お茶を濁してると。

やっぱね、完全にこの勧告ね、みなさん納得できないと思うし、私も反対なんだけれども、6年前のなんにもない状態に比べたら、だいぶ表現の自由のことを、「あ、見てる奴がいるぞ」と、向こうも思うから、そんなにおかしいことを言えなくなってるっていうことなんですよ。

山田:なってきてるね。

荻野:それをやったのが山田さん、しっかり国内でがんばってくださった功績が大きいんだろうなって。

山田:ブキッキオさんにも言ったもんね。このAbuse Materialの話が功を奏してたんだと思うよ。「あんたが児童ポルノって言ったほうが、カテゴリがあって、それをどんどん助長するだろ。おまえこそ、社会的許容をするじゃないか」って、こういうような論旨だもんね。

昼間:まあ、でも、ほんと国連にもイラッとくるしムカつく人もいるんですけど、けっこう重要なのが、イラッときたらその気持ちで「コノヤロー!」と思ってね、新しい漫画を描くとかね、買い支えるためにね、2、3冊、もっとおもしろい漫画を買ったり、円盤を買うとかね。そういうのが重要だと思う。

漫画・アニメは日本の女性を解放した文化の1つ

山田:あと次はですね、ちょっと時間がどんどんなくなってきたんですけど、BBCから取材をされてですね、BBCのなかでもがんばってる人がいるということで、実はBBCとかCNNはですね、非常に日本に対してですね、日本の漫画、アニメ、ゲームが嫌いということで、取り締まるべきだっていう議論があるんです。

そのなかでもですね、BBCのなかでこういうような記事が出たんですよね。「国連が批判する日本の漫画の性表現、『風と木の詩』が扉を開けた」ということで、例の竹宮恵子先生ですね。京都精華大学、今は学者やってるのかな。

荻野:はい。

山田:ということで、何かっていうとですね、非常に内容はですね、1976年に出たんですが、過激というかですね、まさにボーイズラブで、近親相姦ありーの、強姦ありーのということが、いろいろと書かれているような漫画が出まして、問題作としていろいろあったんですね。

そういったものが、女性を1つ解放したことにもつながってるんだよ、っていうようなトーンでもってですね、日本というのはもうちょっと漫画、アニメの果たしてる役割ってのが、いわゆるBBCとかCNNを見ている欧米の人たちから見ると違うんじゃないの、っていうことを一生懸命(に書いてくれている)。

私もこのなかで登場させていただいてまして、BBCからの取材を受けましたので、例の萎縮効果につながるよっ、ていう話のくだりに関しては、記事として取り上げていただいたんですけども、「非実在に関しては萎縮効果につながるよ」っていう話ですね、取り上げていただいたんですけども。

荻野:すごくセンスのいい記者さんですよね。

山田:そうそう。で、やっぱり「大変だ」って言ってたよね。欧米文化のなかで、日本のこういったものに関して(理解してもらうのは)。

たぶん欧米は、特に欧州はそうなんだけど、子供に関してセンシティブだから、もうタブー視しちゃってて、議論もできないぐらい厳しい状態のなかで、やっぱり日本の漫画、アニメをこよなく愛してきたこの記者さんは、必死になってがんばったということで、こういう人もいるんだということですね。

それから、いよいよ議論になる、みんなそういうふうに声を上げれるようになってきたということで、ちょっと逆転というかですね、しっかり日本のことも伝えていくべきなんじゃないかな、というふうに思っています。

荻野:最後の、自分が感動的だなって思ったのは、「パンドラの箱を開けた」っていうところ。「(けれども、箱を開けなくては)希望は(出てこられなかった)」っていう。

山田:そうそう。で、やっぱりだいぶ勘違いされてるのは、漫画、アニメっていうのは、女子差別委員会の人たちに特に言いたいのは、女性が1つ開かれた経緯でもあると。

性の問題なんかをそうやって話せる、今までタブー視されていると、どうしても男女では性の差の問題があるから、それをつまびらかにすることによって、問題がどこにあるのかっていうことも問うことができるようになった。

しかも、それは女性側から出せるようになったていうことの評価が、過小評価すぎると思うんですよ。だから、もっと漫画、アニメがあることによって、女性も解放されているしね、性の問題に関しても、それを取り上げることによって自由に表現ができるようになった。

もちろん、それが不愉快な人は見なければいいし、誰かを傷つけることになったら罪に問われる。そういう論点ではね。だけど、どんなものもいわゆるタブーなく議論できるのが表現の自由だと思っているし。

だけど、それを良く思わない人たち、ちょっとしたことで「これはダメ」ってことで過敏になって、少しでもそこに子供が絡めば、もう「そこは罪なんだ」ってかたちで追い込まれる。

これが常態化してしまえば、当然、「やめといたほうがいいよね」とか、だんだんそういうふうになってしまうので、そういうふうにさせないということは、がんばらないと、どんどん秩序を作りがってる人たちがいるし。

だいたい国会議員なんてのはさ、法律作るってことは秩序を作るってことだからさ、作りたいのよ。規制したいのが、基本的に生き様だから、ここの永田町にいる人たちは。だからね、ちっともあれなんですよ、規制反対みたいな人たちは議員のなかでは育たない。

むしろ、PTA等も含めていつも言うんだけれども、親の側について教育なんてのを語ってる人たちは、どちらかというと取り締まりたい。まあ、こういう背景があるので、なかなか大変ですよねと。一筋縄ではいかないということだと思ってます。