ジャカルタにてアートスペースを運営

エニン・ヌルジャナ氏(以下、ヌルジャナ):おはようございます。今日はご参加いただきありがとうございます。私はジャカルタにある民間のアートスペース、Komunitas Saliharaのプログラムマネージャー、エニン・ヌルジャナです。

Komunitas Saliharaには、展示会場、ブラックボックスシアター、ダンススタジオ、音楽スタジオ、野外劇場があり、週ごとまたは月ごとにパフォーミング・アーツや文学祭などを開催しています。また2年ごとに国内外から多くのアーティストを招へいして、国際舞台芸術祭『Salihara International Performing Arts Festival』を開催しています。

『Festival Salihara keempat 2012』

今日は、Komunitas Saliharaの事業やコラボレーションに対するアプローチを紹介します。プログラムのほとんどは、国外のアーティストとのコラボレーションによるものです。民間の文化機関なので、国外からアーティストを招へいする予算が足りないことも多く、アーティストの母国の文化機関との共同で企画しています。たとえば、日本からアーティストを招へいする場合は、国際交流基金のジャカルタ事務所に協力を仰ぎます。パフォーマンス以外にも、演技や絵画、哲学など、さまざまな教育プログラムを開催しており、フェスティバル期間中は、アーティストによるワークショップも開催します。

これまでのパフォーマンスやコラボレーション事業について簡単に紹介します。『Warm』は、インドネシアの女優Sha Ine Febriyantiとフランス人映画監督・俳優のデビッド・ボビーとのコラボレーションです。彼らはKomunitas Saliharaに滞在しながら、この作品を制作しました。また、日本の演出家の小池博史とも、ワークショップや作品制作でコラボレーションしています。その他にも、オランダのパフォーマー、Leina Roebanaや、ポーランドの劇団Daniel and Aro、オランダに拠点を置く音楽グループ、Sinta Wullurともコラボレーションを行いました。

多くの日本アーティストとコラボレーション

私たちはアーティストとのコラボレーションを積極的に実施したいと考えています。2年ごとに開催される『Salihara International Performing Arts Festival』だけではなく、毎週、毎月ごとのプログラムについても同様です。実行するためには長期的な計画が必要ですので、1年ほど前からプログラムを企画しはじめます。

しかし、プログラムを実施するためには、資金を継続的に確保する必要があります。作品制作には少なくとも半年は必要です。場所の貸し出しも行っているので、私たちの自主企画作品でなくても、どなたでも稽古場として使っていただくことはできますが、発表する作品は自主企画のプログラムのみで構成しています。アーティストから企画の提案をいただき、それがKomunitas Saliharaの目的に沿っている場合は、自主企画の1つとしてコラボレーションを行うこともあります。その場合は、作品の制作、印刷広報物、チケット予約など、上演に必要なすべてのことを手配します。

これまでコラボレーションしてきたアーティストのほとんどは日本人でした。他のアジアの国々とのコラボレーションは多くありません。日本は活発にインドネシアにアーティストを送り出しているんです。

参加者:日本人アーティストとのコラボレーションが多いのは、資金的な理由によるものでしょうか?

ヌルジャナ:ほとんどの場合、その通りです。国際交流基金はインドネシアに事務所があります。シンガポール、マレーシア、カンボジアなどの国々は、インドネシアには文化機関を持っていないため、簡単に協力を要請することができません。以前シンガポールの舞踊団T.H.E Dance Companyとコラボレーションを行ったことがありましたが、彼らはシンガポールの文化省からの助成を得ており、Komunitas Saliharaに滞在するための旅費を自主的に調達していました。

こちらから提供できるものもあります。たとえば、T.H.E Dance Companyのように自国の文化機関からの助成で旅費をまかなえた場合、ジャカルタでの宿泊費や日当、少額ですが謝金もご用意できるでしょう。もっとも高価なのは旅費です。そのため、芸術祭では国外のアーティストともコラボレーションできますが、通常の企画では資金的な問題から国内のアーティストに限られてしまいます。

もっとたくさんの国と連携していきたい

参加者:Komunitas Saliharaの観客は、もっといろんなアジアの国々のパフォーミング・アーツを観たいと思っているでしょうか?

ヌルジャナ:そう思います。インドネシアの近隣にはたくさんの国があるのにも関わらず、日本以外のアーティストとの連携プログラムが少ないのは悲しいことです。いつかみなさんとも一緒に企画をできる機会があるかもしれませんね。

参加者:インドネシアのアーティストを国外に派遣することもありますか?

ヌルジャナ:私たちの活動の中心は、アートスペースの運営であり、プレゼンターという立場です。アーティストのマネジメントは行っていないため、彼らを国外へ派遣することは行いません。逆に国外からアーティストを招へいする立場だと考えています。

参加者:では、Komunitas Saliharaで制作した作品やプロジェクトで、海外ツアーを行うことはあるのでしょうか?

ヌルジャナ:プロデュース公演はあまり行っていません。今までに3つの作品を制作しましたが、いずれも国内ツアーのみでした。もっと広げていきたいのですが、多くのプログラムを企画し、スペースの運営も行っているため、いまのところはそれだけで精一杯というのが現状です。

2016年はインドネシアの振付家、エコ・スプリヤントの新作『BALABALA』を共同製作します。2016年11月の『Salihara International Performing Arts Festival』で上演される予定です。

エコ・スプリヤント『Cry Jailolo』(『TPAM 2015』より)

イスラム過激派集団から攻撃を受けたことも

参加者:政治的な作品の上演を避けることはありますか?

ヌルジャナ:いいえ。それこそが、インディペンデントで運営されるアートスペースの長所です。芸術表現や内容を大切にしており、表現の自由は常に担保します。ただ、インドネシアにはイスラム過激派集団が存在するので、攻撃される可能性については常に神経を尖らせています。

2012年に、カナダのジャーナリスト、イルシャド・マンジが、「アッラー、自由と愛(Allah, Liberty and Love)」という本についてのトークイベントを行った際、彼女がレズビアンであったために、イスラム過激派集団から攻撃を受けたことがあります。彼らは会場までやってきて、イベントを中止するよう要求してきました。それでも私たちが続行したため、彼らはついにスペースにまで押し入ってきたのです。

Pembubaran Paksa Diskusi Irshad Manji Komunitas Salihara

同じ年、『Salihara International Performing Arts Festival』では、ヌードパフォーマンスで知られるカナダの振付家、ダニエル・レヴェイエを招へいしました。インドネシアでは、ヌードはポルノグラフィーと捉えられることもあります。彼らのパフォーマンスについての噂が広まれば、また過激派を引き付けてしまう心配があったので、せっかくカナダから来てくれたのに残念でしたが、公演は1回だけにとどめました。しかし、一夜だけのパフォーマンスながら、それは大きな成功を収めたのです。ヌードであることが観客の気分を害してしまうのではないかと懸念していましたが、公演はスムーズに進みました。

参加者:『Salihara International Performing Arts Festival』では、フェスティバル全体のテーマを設定していますか?

ヌルジャナ:それについては、フェスティバルの企画段階から議論してきました。昨年までは、特にテーマは設けていませんでした。40日という会期は長いように思えますが、フェスティバルはKomunitas Saliharaの1か所だけで開催されているので、1週間に上演できるのはせいぜい2、3作品。期間中に上演できるのは全部で14公演ほどに限られます。このような状況下で特定のテーマを設定してしまうと、プログラムを組むことが困難になってしまうことが想定されるのです。でも、テーマ設定の問題については常に念頭に置いています。

参加者:フェスティバルの客層について教えてください。

ヌルジャナ:観客は主にインドネシア人で、学生や若者がほとんどです。国外のプレゼンターを招へいする場合もありますが、多くはありません。1週間に2、3公演しか観ることができないので、フェスティバルのためだけにわざわざ国外から来る観客は少ないのです。もちろん熱烈に観たいプログラムがあれば来てくれることもあります。1つの公演を観るためにオランダから来た人もいましたね。

文学祭やダンスフェスティバルも開催

参加者:数年前に開催されていたと思うのですが、いまでも文学祭や音楽祭は行われているのでしょうか?

ヌルジャナ:今日はパフォーミング・アーツを中心に話しましたが、Komunitas Saliharaでは毎年いろんなジャンルのフェスティバルを開催しています。2016年は『Salihara International Performing Arts Festival』を、2017年は文学祭『Salihara Literary Biennale』を開催します。前回の文学祭のテーマはサーカスとミステリーで、会期中には小池博史の『The Restaurant of Many Orders(注文の多い料理店)』を含む2つのパフォーマンスを上演しました。

隔年で行われる文学祭では、古典・伝統的な作品だけでなく、国内外の現代文学作品も紹介します。1か月間の会期中、著者による朗読、ディスカッション、執筆のワークショップの他、講義や学校訪問など、学生たちに文学の知識を広めるための企画が多数行われています。また、キュレーターが選んだ詩を元に創作された音楽や美術作品も紹介します。

文学祭の年には、月ごとに小規模なパフォーマンスを開催します。たとえば、『Jazz Buzz』というイベントでは、4から6組のグループが、通常のジャズではなく、プログレの要素を加味したジャズを演奏しました。また、ダンスフェスティバルである『Hela Tari』が2週間にわたって開催されました。

昨年は、ワールドミュージックのフォーラムと演劇のフォーラムも開催しました。これらは『Salihara International Performing Arts Festival』がない年に開催されます。基本的に、私たちは止まることなく活動し続けているのです。

参加者:2016年の『Salihara International Performing Arts Festival』では、どのようなコラボレーションを計画していますか?

ヌルジャナ:今年は、エコ・スプリヤントの新作を初演します。また、日本のシアターカンパニー・アリカや、イギリスの『ヒューマン・ズー』、オーストラリア、マレーシアの音楽プログラムなどを紹介します。今年の音楽プログラムのテーマは、インドネシアの現代音楽です。ジャカルタ、ジョグジャカルタ、バンドンなどから来た3つのグループが毎日演奏します。

以上です。本日はご参加いただきありがとうございました。