専門性を極めて一生の仕事にしたい

――小山田さんは、どうしてデータサイエンティスト職を志したんですか?

小山田創哲氏(以下、小山田):大学院から情報学研究科に所属していて、そこで最近、データサイエンティストと呼ばれる人たちが使うような、機械学習などの要素技術について勉強していたんです。

機械学習や脳活動のデータを扱ったデータ解析を扱う研究室に所属していました。そこでしっかりと勉強や研究をしていた過程のなかで、キャリアとして情報科学や機械学習を使って、その専門性で死ぬまで飯が食えたらいいなと思ったのがひとつの理由です。

大学院は修士まで行って就職したんですが、当時はそのまま博士課程に行くかどうかすごく迷っていて。もともと大学院に入った頃は、博士課程希望だったんですけれど、結果として就職することにしました。

リクルートに入社したきっかけは、インターンです。リクルートがデータ解析職を対象にしたインターンを2、3年前からやっていて、僕はその1期生です。M1(修士課程1年)の冬、2月頃に開催されたインターンに、2週間参加しました。

インターンで優秀な学生に出会って

――それは、院に行くかどうかも含め、将来どうするかについては、まだはっきりと決めていないタイミングだったんですか?

小山田:その時は正直、迷っていたんです。もともとは博士課程までそのまま行きたかったんですが、研究もあまりうまくいってない時期で、自信もなくなってきて。一度、いい意味でいろんな環境を見て、相対的に自分の立ち位置を確かめたいなと思って。

どうしても研究室にいると、人との接点が同じ研究室の人だけという状況になりがちなので、同じような分野を志している人たちと交流が持てたらいいなということで、リクルートのインターンに参加しました。

そうしたら、そこで出会った学生や社員の方々……とくに一緒に参加していた学生の人が非常に優秀で。それは勉学において優秀というだけではなく、「サービスや自分の仕事を通じて、世の中に貢献したい」という強い情熱がある方が多くて。

それが単純にすごく楽しかったのと、そういう人たちと一緒に日々過ごして議論したり、仕事をしたりするのはきっとおもしろいだろうな、と。

当然、インターンをきっかけに、入社した人もそうじゃない人もいるんですけれど、比較的同じように同期で入社した人が多くて。今でも、彼らとの交流はあって非常に刺激的です。結果的に、そこはすごくよかったと思っています。

他社のインターンにも、少しですが参加しました。でも、もともとは博士まで行くもりだったので、就活自体はほとんどやっていないです。

――「就職しよう。どこに行こうかな?」というのではなくて、インターンを経て、この会社には優秀な人たちがいて刺激を与えあえる環境があると知って、その延長線上で入社を決められた、と?

小山田:そうです。先輩社員に優秀な方がいる環境って、そんなに珍しくはないかと思うんですが、同期、そのインターンに参加した人たちがすごく優秀だと感じたので、そこが本当によかったところです。同期と過ごす時間は継続していきますし、同年代のほうが話しやすいのもあって刺激も受けるし、「なにかするぞ」というときにエネルギーが出やすいと思っていて。

あと、大学院にそのまま残って博士まで行くのではなくて、就職すると決めたのには、ほかにも理由があります。大学の研究では、もちろん専門性が身について、その専門性で社会に貢献できるわけですけれど、実際に貢献できるまでにかかる時間が少し長いなと感じたんですね。

企業においては、営利活動をしないといけないので、例えば働いているなかで「KPIをこれぐらい改善しました」とか、成果が目に見えやすいですよね。自分が会社や世の中に貢献しているという実感がより持ちやすいんじゃないかなと思って、就職することに決めました。

全社横断のデータが見られる部署に所属

――実際に業務に携わるようになって約1年、働いてみていかがですか?

小山田:僕は今、リクルートテクノロジーズのビッグデータ4グループに所属しています。ここは、リクルートIDとポイントを扱う部署なんです。

リクルートIDとリクルートポイントを合わせてIDPと呼ぶんですが、社内においてIDPのデータを一番強い権限を持って扱えるほぼ唯一の部署です。逆に言うと、そうしたデータをきちんと利活用する責任を負っている部署だと感じています。全社横断的なデータが集まってくるので、興味深いですね。

――入社時に、とくに「これがやりたい」という希望はあったんですか?

小山田:実は、ビッグデータ部のなかでどこのグループ入るかということについては、とくに面談やヒヤリングはなかったんです。でも、もともとインターンの時から、上長の方にはよくしていただいているので、なんとなく「こういうことをやりたいんじゃない?」というところをすごく察してくれて。

その時から、僕は「リクルートIDやポイントに興味ある」という話をしていたので、そのあたりを汲んで配属も決めてくれたのかなと。

同期がビッグデータ部に9人入っているんですけれど、配属に不満があるという人はまったくいなかったですね。希望面談はなかったのにも関わらず、ある程度事前にすり合わせしてくれていたんだと思います。アンオフィシャルな飲み会の席とかでちゃんと話を聞いてくれて。

――同期入社の方のなかでも、今まで学んできたことによって、得意・不得意だったり、知識の差だったりもありますよね。

小山田:もちろんあります。僕の配属に関していえば、得意・不得意も考慮してもらった上で、本人の将来のキャリアの指向性みたいなところも加味して配属が決まってるのかなと思います。

4グループは、IDを通して全社を横断して見られる場所で。例えば、ほかのグループは、「ゼクシィ」とか「リクナビ」とか、担当する領域が決まっているところもあります。専任のデータ解析職の人が少ないところと協力してやっているという部署もありますね。

――実際には、どういった業務に携わられているんですか?

小山田:リクルートグループを横断して、IDに応じていろんなデータを集めてきているんですけれど、IDプロジェクトも組織として計画があって。これまでは、データの基盤を整えます、というフェーズだったんですけれど、今はそのデータを利活用してサービスの改善や収益性の向上につなげるための施策を考えているフェーズです。

例えば、ひとつは内部集客を改善すること。「ゼクシィ」を最近使っているから、「じゃらん」で旅行を勧めるといったような、サービス間での集客、ユーザーの相互送客とか。

――結婚する予定があるということは、カップルだろうから旅行もお勧めする、ということですね。

小山田:そうですね。もうひとつは外部集客です。リクルートグループのサービス以外からリクルートグループのサービスに入って来てもらうために、別のメディア、Facebookとかに広告を出すとか。

あとは、個別のサービスを改善することで、あるサイトのKPIだったり、コンバージョンレートだったりを改善するために横断的に集めてきたデータを使うとか、いくつかパターンがあります。

僕は、そのなかで最後にお話しした、横断的なデータをひとつのサービスの改善に使うというところを担当しています。あとは内部集客のところも少し協力してやっています。

いくつかの壁にぶつかりながらも前進中

――最近、ちまたでは、データサイエンティストの方には3つのスキルが求められてると言われていますよね。データエンジニア力(プログラミング等データを実装・運用する力)と、データサイエンス力(情報処理、人工知能、統計学などを理解して使う力)と、あとビジネス力(課題を理解・整理して解決する力)。

前の2つに関しては、これまで学んで来たことを活かして、より高めていっているところだと思うんですが、3つ目のビジネス的観点について、とくに今現場で鍛えられているところなんでしょうか。

小山田:そうですね。そこは率直に言ってまだ勉強中かな、と思っています。実際のプロジェクトについては、サービスの改善に対して責任を持っているプロジェクトマネージャーの方とディスカッションしながらなので、その場で事業やビジネスの課題を把握しながら進めていくことになります。実際に自分もサービスを使ってみたりしつつ。

そのなかで課題を見つけて、それをデータサイエンティストとして情報科学や機械学習の問題として定式化して解くということをやっています。

もちろん、実際にずっとそのサービスを担当してる方じゃないとわからないことや問題もたくさんあります。それについては、しっかりとヒヤリングをして、ローテクですけど、そうやって一つひとつ当たり前のことをして進めていく感じです。

――今、自分のなかでここをもっと学びたいと思ってるのはどんなことですか? 

小山田:問題設定を聞いたときに、自分のなかでは、定式化として自然だろうと思うようなことでも、説明がなかなか伝わらなかったり、ちゃんと理解してもらえないことがあって、そこがすごく難しいと思っています。

それは、僕の伝え方悪かったんだと思っていて。資料を作って行ったりはしたんですけど、本当はもっとわかりやすくするために例えばデモを実際に組んでいけばよかったなとか。もちろん時間に余裕があれば、という話にはなるのですが。

あとは、作っていったら「欲しいと聞いていたもの」と「本当に必要だったもの」が違ったということがあって。ビジネス側の人が、「こういうことをしたい」「こういうものが必要だ」と言ってくるものと、実際にサービス改善のために必要だったものがズレていたな、と感じることが最近ありました。

もう少しビジネス側に踏み込んで理解しにいくことが足りなかったなと、反省しましたね。僕も、聞いた話を鵜呑みにしてしまったな、と。もちろん普段から、良い意味で、「それは論理的に本当に正しいのか」みたいに、批判的に捉えながらも議論しようと務めているんですけれど、そこは思慮が浅くて。根本的な理解がまだまだ足りないので、そういうことが起こってしまったのかなと思います。毎日、新しく勉強するところがあって、実際の業務になると足りないところばかりなので、そういうところを学んでいきたいですね。

ビジネスに貢献できることがやりがい

――データサイエンティストとしての、仕事のやりがいはどこにありますか?

小山田:まだまだ自分の理想とする仕事ができる段階ではないですが、世の中の問題をきちんと「それが自然だよね」というかたちで定式化できて、それが解ければ、営利企業であれば、ビジネスに貢献できる。

そういうふうに自分のなかでreasonableな定式化ができて、それを解くことによって、実際にビジネスで目に見えるかたちで、利益なりに貢献できるところがやりがいだと思います。

――いままでで、それを感じたことは?

小山田:そういう場面の兆しというのは、ちょっとあります。でも、なかなか難しいですね。まだまだ、僕自身の能力の問題だと思います。問題を定式化するところも、博士課程できっちり訓練してきた人間とではレベルに差があると個人的には感じています。

例えば、僕の研究室の先輩が博士号を取ったあとにポスドクを何年かやって、ほぼ同時期にリクルートに入社しているんです。その方は、外部の研究員と共同して産学連携で、社内の問題をいいかたちで実際に解いて、きちんとビジネスに貢献していて。しかもそのテーマで論文も書いて、特許も取って。

――ほぼ同時入社ということは、1年ぐらいの間に?

小山田:そうですね。ほかの仕事もたくさんしているし。僕もそういう仕事ができたらいいなと思います。まだまだ足りないところが多いですけれど、そういうところを目標にしています。同期だったり、上司だったり、最近転職してきた方だったり、周りの方からはとても刺激を受けます。

人生に沿ったデータが手に入るおもしろさ

あとやりがいで言うと、やはり、リクルートは持っているデータが豊富なので。これは、なかなか珍しいんじゃないかなと思いますね。

人の一生を見た時に、サービスでカバーしてる範囲がすごく広い。「赤すぐ」から始まって、教育だと「スタディサプリ」で小中高の学習をサポートして。大学に入ればバイト情報があって。就活では「リクナビ」を使って、あとは「ホットペッパー グルメ」とか「じゃらん」とかもあって。「ゼクシィ」で結婚して、「SUUMO」で家を探して。

そういう人のライフイベントに沿ったデータが、広く手に入る環境はすごくめずらしいと思います。

――解析者として、わくわくする部分なんですか?

小山田:そうですね。解析者ということ以上に、データ解析をした結果得られる知見というのは人に対するものですよね。人の行動だったり、人の嗜好性だったり。

僕自身、大学院の時には人の脳活動のデータに扱った研究をしていたので、人には興味があって。人を生まれたときから長い間サポートして、人の嗜好性とか、人に関することが人生に沿っていろいろ理解できるというところはおもしろいなと思います。

――たしかに、それはリクルートならではですね。ほかにリクルートの環境でこれはいいなと思うところってありますか?

小山田:ひとつは、ちゃんとビジネスに直結する話ができることですね。

例えば、民間のメーカーに勤めると、環境的に周りにいるのがエンジニアの人だけになると思うんです。僕も部署の席の周りはもちろんそういう人ばかりですけど、実際に会議をしたりプロジェクトを一緒に進めるのはビジネスについて詳しいプロジェクトマネージャーの方になるので。

メーカーで働くより、ビジネスに比較的近かったり、一緒に働く人が必ずしもデータサイエンスやエンジニアリングに興味がある人だけではない、というところだったりがけっこう違うと思っています。

そこを良いと捉えるか、悪いと捉えるかは人それぞれですが、いろんな人と仕事できるのがおもしろいですね。

とくに今所属している、リクルートテクノロジーズという会社は、機能会社と呼ばれている、それ自体が事業を持ってない会社なので、ほかのいろんなところと協力して仕事を進めることになります。そういう意味で、いろんな人と仕事ができるというのは魅力のひとつかも知れないです。

――単純にデータを与えられて、「これをこうしてください」と指示されたことをやってるのではないということですよね。

小山田:そうですね。一緒に協力しながら、ビジネスを理解するという部分でも、相手のなかで問題や解決策がはっきりしているということは少ないので、一緒にその改善をしていくということはおもしろいですね。