1つの人生では生ききれないし、死にきれない
藤原和博氏:もう1つ別の話をしましょう。もう1つの話は、寿命が伸びて、人生80年から90年になりますよね。すると、もはや、1つの人生では生ききれない、もしくは死にきれないという話です。
これは『坂の上の坂』という本にかなり詳しく書いてありますので、復習したい人は本を参照していただければと思うんですが、僕が言いたいことはこういうことです。
生まれて死ぬまで、この横軸がライフスパンです。縦軸は何かというと、エネルギーレベルと書いてありますが、みなさんの知力・体力・精神力の総合力、もしくはモチベーションのレベルだと思ってください。
時間があればみなさんに書いてもらいたいんですが、小学校の時にすごい盛り上がったんだけど、中学校でいじめられてボーンと下がり、高校でまたバンドを組んでモテたから盛り上がったなあ……。
でも、大学入試で失敗してドカーンと下がるみたいな、人生のエネルギーカーブってありますよね。
それで自分の人生の前半を振り返って一度棚卸しをしてもらうと、すごく勉強になるんです。ですが、今日は時間がないのでいちいち人生のエネルギーカーブを描いてもらうワークショップは省きますが、『坂の上の坂』にはそのへんの細かいことが書いてあるんで。
『坂の上の雲』時代は正しかった「富士山型一山主義」
結論だけ示しますね。日本人の多くが、今日お集まりいただいたみなさんもそうかと思うんですが、大抵、こういう人生観を持っています。
「富士山型一山主義」というんですが、30代~40代~50代がピークで、あと60代になったら降りていく。あるいは落ちていく。五木寛之さんが、降りていく人生というような本(『下山の思想』)を書いてベストセラーになったりしてるじゃないですか。
僕がはっきり言えるのは、「こういう人生観をイメージしてる人にはこういう人生が来ますよ」ということ。この一山主義の人生観は、1900年代に生きた『坂の上の雲』時代の人には正しかったんです。
どういうことかというと、あの時代の人は、山の上に(雲のような)ビジョンとか夢がありまして、「ロシア打倒」とか「日本の独立」とか、そこに向かって登ったわけですよ。
一生懸命登ります。そうすると、40代の山を越え、仕事盛りを越えますと、あの時代、1900年代を生きた人は、このへんで人生が終わりました。平均寿命がだいたい40代だったんです。
『坂の上の雲』は4年前かな、NHKがドラマ化しましたよね。観た方はわかると思うんですが、モックンが演じてた秋山真之という連合艦隊の参謀は49歳で亡くなっていますし、夏目漱石も、教科書を見るとなんかおじいちゃんまで生きたように見えますけども、49歳で亡くなります。
あの物語でいちばんかっこいい、僕も非常に憧れた児玉源太郎という人も53歳。ごくまれに、乃木希典さんとか、秋山真之のお兄さんも長生きしましたけれど。基本的に平均寿命が40代で終わる人生だったら、この人生観は正しいですよね。
ところが今はどうなっているかといいますと、この40年が倍になりまして、80年から90年ですよね。今この場に40代の女性がいるとすると、あと50年あるわけです。50年って、どうですか? 「よっしゃ!」なのか、嫌がって「エーッ?」なのか。
この一山型の人生観で生きたら「エーッ?」ですよ。