TPPの法廷賠償制度について

山田太郎氏(以下、山田):さて、ちょっと時間過ぎてますが、1個、TPPの法廷賠償だけ大事だと思っているので。

荻野幸太郎氏(以下、荻野):これ大事ですね。

山田:ちょっとこれ、延長して少しいきたいと思っています。これなんで大事かっていうと、一部では衆議院の予算委員会のなかで、何日かにわたってですね、とくに岩城法務大臣に対して「TPPの法廷賠償制度、やばいんじゃないか?」というようなことが、とくに民主党から指摘されているという問題で。

結論から言うと、「私のほうは大丈夫」ということを、みなさんとともに考えていきたいというふうに思っているんですね。

時間もないので、簡単にくだりをご説明しますと、要は法廷賠償制度っていうのがありますと。法廷賠償制度ってのは何かっていう話を、ちょっと詳しくやらなきゃいけないけど、要はこの法廷賠償制度という考え方と、日本の民法というか日本の賠償金を払うという話と、まず合わないんじゃないかという議論なんですね。簡単に言っちゃうと。

何が合わないかというと、海外の、とくにアメリカの法廷賠償制度というのは、裁判所がある金額の枠組みのなかで懲罰的な意味合いも含めて大きめにですね、いわゆる加害者に対して払わせることができるというのが法廷賠償主義なんですね。

一方、日本は、あくまでも損害があったということ、その金額のなかでちゃんと損害を支払うべきだ、というような考え方なので、その損害賠償のなかでは、とくに民法ではいわゆる懲罰的な色彩、意味合いはありえないんだという、これは最高裁のいわゆる判決でもあるというなかで議論がされているんです。

それ自身はそれとして、じゃあ、どういうことが取り上げられたかというと、これはですね、別の形で炎上したんですが、「コミケや同人誌のなかで、価値がないようなもの」って言っちゃったのかな、ある議員が。

要はそれが「なんでコミケと同人は価値がねーのか!」とかいって炎上して火を噴いたんですけれども、そういうもの。その議員はなんて言いたかったかっていうと、「今は価値がなくても、将来は価値が出るというようなものがあるから、今は大丈夫でも、結局はそういう形でもって、コミケやいわゆる同人誌も危ない」みたいな。

法廷賠償制度が来てしまうと、例えば1万円くらいしか価値がない、いわゆる同人だとかコミケのある作品も、高めの賠償金が将来にわたって、将来たくさん稼げるから請求される可能性があるんじゃないか、というような質問をしたんですね。

最終的には私、その人に聞いてないので、何の意図で聞いたかっていうのは確定はできないんだけど、まずですね、その人がどういうふうに質問したとしても「大丈夫だよ」って話を1つしないといけないのは、まず法廷賠償制度に関する、これTPPの条文なんですが。

ちなみにですね、この番組を見ている人に勘違いしてもらいたくないんですけど、だからといって、別にTPPの著作権等のこういうものを私はすべて良しとしているわけじゃありません。

仮にTPPが通ったとしても大丈夫なように、ヘッジはされているよっていうことを、しっかり伝えておきたいというのが趣旨ですので、そこは間違えないでほしいんですね。

TPPをまずやったほうがいいって言っても、TPPも問題もっているのはわかってますから、できればこんな、わけのわかんないものは、本当にないんだったらなしにするってこともありだけど、今からそういうわけにもいかないってなかで、しっかり現実的な対策として著作権が変なふうにならないようにと。

特にコミケとか二次創作がおかしくならないように、ってことで言っているっていう立場は理解してください。

著作権は損害を確定させるのが極めて難しい

そんななかでTPPの著作権の議論のなかに、「次のいずれかまたは双方の損害賠償について定める制度を採用し、または維持する」っていうふうになっています。で、2つは何かっていうと、「(A)権利者の選択に基づいて受けることができる法廷の賠償」、それから「(B)追加的な損害賠償」ということがあります。

で、「追加的な損害賠償のなかには、懲罰的な賠償を含めることができる」って書いてありますから、たぶん(B)っていうのは日本は選ばない。で、1つは法廷の賠償。

法廷の損害賠償制度っていうのは、これは何を意味するかっていうと、実は今、審議会のなかでも議論されているということなんですけれども、もともと著作権法のなかには法廷賠償制度の前提になる考え方があって、これは何かっていうとですね、著作権って損害を確定させるのが極めて難しいんですよね。どれぐらい損をしたのか。

だから、どうなってるかというと、例えば単体を取り上げて「これいくらくらい儲かったはずだ」っていうものを相手に勝手に使われしまった。だから、実際にはトータルこれくらいの量があるはずだから、推定として相手がこれくらい儲けた。自分たちが儲けそこなった。そういう形でもって、推定を含む賠償する金額を計算することができる。

通常はそれはダメで、著作権の部類以外のものは全部ダメで、損害賠償はあくまでも、いわゆる、それで悪意をもってやってるかっていう話と、具体的に損害があって、実際にその損害がいくらなのかってことが詳細に確定されない限りは、民法上の賠償っていうのは基本的にできないってことになっています。

それだと、いわゆる著作権のような無形のものに関しては、実際の損害賠償を請求することは難しいだろうということで、1つの特例としてそういった法廷賠償制度のようなものが建てつけられているということなんですね。

確かにアメリカは、いわゆる懲罰的なものを含むということで、高めに出るっていうことになってるんだけれども、日本は「それは選ばない」と言っているから、質疑でも実際に法務大臣はそう言ってるんだけど、ギャーギャー打ち消されちゃってですね、聞いちゃいないみたいな話になっている。

坂井崇俊氏(以下、坂井):だから、あれなんですよね。法廷賠償制度のところは、今の日本の法体系そのまんまでも対応できるんじゃないか、っていう議論すらあるっていう。

山田:それからもう1つは、著作権に関してはこれはコミケの非親告罪のところでさんざん勝ち取るときにやってきたし、実を言っちゃうと私もいろいろ話をしながらつけさせたみたいなところがあるんだけど。

要はですね、「各条約国は、この規定……」、この規定っていうのはいわゆる知財権の話なんだけど、「に関しては、……広範な知財権の保護または行使を自国の法令において規定することはできるが、そのような義務を負わない」と。

で、「各締結国は、自国の法制および法律上の慣行の範囲のなかでこの章の法律を実施するための適当な方法を決定することができる」ということで、実はどういう形を最終的に法律に書き込むかということに関しては、各国にある程度任されてますというのが、この条文でちゃんと入っているんです。

そうしないと、知財に関してはかなりな幅広な各国の解釈ができるので、だから日本は例えば、「二次創作等々に関しては、いわゆる海賊版じゃないもの、基本的にマーケットに影響を及ぼさない程度のものについては非親告罪にしない」と言っている解釈は、これは日本の解釈なんですね。

二次創作の分野については大丈夫

山田:ということで、日本が独自でつけようとしていることを、総理に対して私が質疑応答で勝ち取ってきていることを理解してもらうと、その前提は何に基づくかっていうと、この条文に基づいているっていうことを知っておいてもらいたい。

ってなると、きちっと質疑としては、賠償的な、いわゆる法廷賠償制度に関して、政府は「その立場を取らない」と発言しているわけだし、もう1つ大事なのは、これ法務大臣がやることじゃなくて、文科大臣の文化庁がいわゆる著作権をきちっと仕立てるときに、どういう形でやるのかっていうのを質疑で問わなきゃいけないんであって。

民事上の民法は法務大臣だからといって、民法上とこれが合わないじゃないかということで、わざわざ文科大臣が手を挙げたり「答える」というふうに言ってるのに、法務大臣を嫌がらせのように岩城さんをいじめてるという。僕からするとそうにしか見えません、はっきり言って。

問題があることを野党が追及して問題をなくすっていうことは、とっても大事です。その機能は否定しないけれども、答えられないということを攻めあげたりとか、条文としてきちっとなってることに関して「いや、それは理解できない」というふうに言ってしまったら、落としどころがないんですよ。

そういうことをずっとやり続けても国民が不安になるだけだし、結局は、逆に言うとその結果はどうなるかというと、「やっていいんだ」みたいな話になっちゃうわけね。

「結局、法廷賠償制度っていうのは、懲罰的な意味合いを持ってるのね」っていう世論が形成されてしまえば、当然そういうふうに誘導されちゃいますから。僕はそういうような質疑の取り方っていうのは、結果をコミットする観点から言ったらば、得策じゃないと思いますよというふうにすごい考えてまして。

そういう攻め方、だからギャーギャー。じゃあ落としどころとしてどうするの? じゃあ、それだけのことだけで、TPP廃止に持っていける、TPPの問題点ということが明らかになったということで、知財権のものに関しては一切やめるってことがそれだけでできるかっていうと、「いや、よく条文読んでみるとそうじゃないよ」って言われたら終わりの話なんです、これは。

だから、あんまり形に僕はならないなと思っていて、質のいい質疑ではこれはなかったし、実際にはいろんな条文だとかいろんな議論の積み重ねを精緻に見ていけば、本件に関しては、とくに二次創作の分野については大丈夫ですよということを、みなさんにしっかりお伝えしといた。

これは私がレクでも法務省、今日は文科省にも来てもらって、確認をきちっと条文上で詰めていっていますし、それでもやっぱり大臣の答弁がなければ、世論としても受け入れがたいとするんであれば、次の予算委員会だったり、僕の担当の内閣委員会でもいいと思いますけども、呼んで大臣の答弁の質疑を取っていくっていうことですけども。まあ、実際にはそこまでしなくてもいいんじゃないかな、というふうに思うような内容。

あとしかも、あるのはレアケースな話なんだよね。いろんな無価値と思われるような同人とかなんとかを集めて、さらに再販みたいな話をしてるんでしょ、あれは。なんかよくわかんなかったんだけど、言いたかったことが。

坂井:たぶん、そういうことなのかなと(笑)。

荻野:たぶんそういうことでしょうね、アンソロジーになった場合の話で。将来的なって話を、TPPの条文で言ってる「将来的な」っていうのは、次から次へと著作権侵害をする人が現れちゃうと困るから、それを防止するための目的で、何らかの措置を取るというふうに書いてあるんだけど。

山田:そういうことを書いてあるんだけど。

荻野:将来的な価値が上がった場合っていう、いわゆる不法行為論の話ですよね。そっちの「将来的」っていう用語と、どうも取り違えがあったのかなっていう。

山田:取り違えてる、誤解をしてると思いますよ。

荻野:そういう可能性があると思いますね。

山田:またいろいろ裏を聞いたら、レクしてないだってね。

荻野:え?

山田:「レクしてない」って言ってましたよ。

荻野:あ、じゃあ文化庁から、そのどういう経緯でって話を聞いてないってことですか?

山田:法務省と、僕だったら事前レクをして。問題があるものってレクしても問題なんだから、突然やって「ほれ、答えられないだろ」ということをするのは、僕はあんまりいいやり方だと思いません。

レクして問題をある程度つぶしておいて、それでもやっぱり、国会のなかで責任のある人がきちっと答えるっていう形で確定してもらったりだとか、本当の意味で「これはちょっと質疑で争わないと、らちが明かないね」っていう話だったり、そう持っていくっていうことが大事なんであって、レクはいらんとは。

荻野:あの、文化庁の委員会なんかを丁寧に追ってる、知財ウォッチャーみたいな人、けっこういるじゃないですか。「今回の質疑で変な方向に流れちゃうと困るよね。大臣答弁、大丈夫かな?」って、心配してる人はかなり心配してたので。

山田:あのね、いや、そうなの。例えばですよ、極端なことを言うと、岩城法務大臣が訳わかんないこと答えてもまずいんです。

荻野:そうなんですよ。そこなんですよ。

国会を単なるディベート大会にしてはいけない

山田:あとは世論が形成されて、「やっぱり損害賠償制度をアメリカ並みに厳しくしたほうがいいんじゃないか」っていう世論が喚起されれば、まだ著作権法作られてませんから。そういうふうにもなりかねないんで。

ちゃんと、どういうふうに誘導するのがいいのか、なんて言うのかなあ、まあ、立場が違えばね、「厳しくするべきだ」って思う人もいるんだろうけど、たぶん民主党の野党議員はそうじゃない、「コミケだとかそういうものに影響があるぞ!」って言いたかったんだろうから。

だったら、どうしたら影響がないようにできるのか、どこに影響があるからどうしないといけないのかっていうことを、ちゃんと詰めたうえで質疑をしていく姿勢がやっぱり重要だというふうに思うんですよね。

そうしないとこれは、どんどん変な形で議論が起こっていけば、持っていき方によっては変な方向性になりかねない、というふうに思っていて。まあでも、そういう意味でレクってのがあるんだから、ちゃんと事前にね。そこである程度詰めておいて、落としどころをお互い探りながら。もちろん落とせないものがあります、争いになっちゃうものが。

これは堂々と、テレビの前でも委員会でも、国会のなかでやればいいんだけど、何も別に政府の人たちも与党も野党もね、この国を混乱に巻き込みたいと思ってるわけじゃないんだろうから、それを事前にきちっと片をつけて道を取っとくってことは、僕は少なくとも民間出身だから当たり前なんですよ。

どんな政敵であろうとお客さんだろうと、やっぱりある程度のシミュレーションと落としどころをやりつつ、お互いどうするのかっていうことだと思うんだけど、「はい、答えられないじゃないか、おかしいじゃないか、だからダメなんだよ」って持っていき方は非常に危険。決していい結果が出るとは思いません。

というふう思いますので、それがある種、僕のやり方の、僕流の是々非々だというふうに。是々で非々で、是は是だけ、非は非々、じゃないんですよね。非もどうやって是に、自分たちの土俵のいいふうに持っていくのかどうなのか、っていうことだと思うし。

もちろんそれが全然、相手が話にならないということであれば、全面的に戦わなければいけないというふうに思うんだけどね。

だってそうじゃなかったら、逆に言うと、僕は、今回(の民主党の質問は)、法律を間違った解釈をしちゃっていて、質疑質問としては恥ずかしいと思うよ。はっきり言って、それじゃ。

そういうことにもなりかねないので、あんまりこういうやり方が国会で続くと、僕は国民のなかからも、国会議員全体が理解されない。単なるディベート大会みたいな、テレビの前でやっている、建物ばっかり立派な、そうなりかねないので、本当にそれでいいのか、ということだというふうに思っています。

それ以上にリスクが高い状況。今、本当にTPP、1本間違えたって、我々、漫画とかアニメはどんどん変な形でもってつぶれちゃうかもしれない、っていう瀬戸際のなかで軌道修正をさせたりだとか道はみ出ないようにしたりだとか、いろんな知恵を使って守ってきたということだと思うんですよね。

なので、あんまりですね、政局っちゅうか、……まあ、そういうこともあるんだろうけど、鬼の首を取るような形でもってギャーギャーやってほしくない領域。僕からすると大事な場所だから、ここは。あ、他はいいと思いますよ。別にいいんだ、あのなんだっけ、いろんなこれまでの賄賂がどうだこうだとかさ、それはそれでしょ。

だけど、こういう非常に重要で、みんなに影響が及ぶことに関して政局にして「だから、なんとかだ、ギャー」とか言って話を取っ散らかしてしまって、落としどころがないような形でもって、双方が言い合っているようなことは良くないと思います。