なぜ辛いものを食べると「熱い」と感じるのか

ハンク・グリーン氏:ミントの包みをはがして口に放り込むと、突然、口の中は心地よいフレーバーが漂う冬のワンダーランドへと変化する。この感覚を描写するのは次の言葉しかない。それは「涼しい(クール)」だ。

しかし世界で最も辛い唐辛子と言われる「キャロライナ・リーパー」から作られたチリ・ソースを一口舐めたときには、明らかに全く異なる感覚を味わう。

「冬のワンダーランド」と言うよりは、「顔から火が噴いている!」という感覚だ。

ではなぜ我々はミント味の食べ物を涼しいと感じ、スパイシーな食べ物を熱いと感じるのだろう? また、どうしてこれらのフレーバーを我々は温度で描写するのだろう?

簡単な答えは、一部の化学物質は我々の身体が実際の寒さや熱を検知するのに使っているのと同じセンサーを活性化しているからということになる。

我々は、ほぼどんな物を体験するときにも、イオン・チャネルを経由している。イオン・チャネルとは神経細胞を覆うタンパク質であり、それぞれ、糖の存在や光、あるいは血中に存在する二酸化炭素の量などの異なる物事がトリガーとなる。

トリガーを受けると、イオン・チャネルはゲートを開くことにより多数のイオンが神経細胞内に流入することを許可し、電荷の変化を引き起こす。

これはスイッチをオンにするのと同じように作用する。神経系を通じて脳にある種の信号が送られ、脳はこの刺激を「甘い」や「明るい」や「酸素がもっと必要だ」などの感覚として解釈する。

カプサイシンの反応が熱さを感じさせる

しかしときどき、これらのイオン・チャネル、特に口の中にあるイオン・チャネルは騙される。一部の化学物質はこれらのタンパク質に結合し、実際の刺激が起きていないにも関わらず、そのカスケード反応全体を引き起こすのだ。

このように簡単に騙されてしまうタンパク質の1つはTRPM8と呼ばれ、皮膚や口の中の神経細胞内に存在し、低温がトリガーとなる。

ミントの活性成分はメントールという化合物だ。メントールは偶然にもTRPM8に完璧に結合するため、氷水をがぶ飲みしたときと同じようにTRPM8のイオン・チャネルのトリガーとなる。

そのためメントールを味わっているとき、実際にはキャンディを舐めているだけなのに脳は「口の中に何か冷たい物が現れた」と錯覚するのだ。

そして同様の現象はスパイシーな食べ物の場合にも起こる。この場合、偽の通報を受け取るのはVR1と呼ばれる別のイオン・チャネルだ。VR1の通常のトリガーは熱か、あるいは細胞が負傷したときに痛みの信号を発信するために放出する化合物である。

しかしVR1も別の化学物質、特に唐辛子にそのスパイシーなフレーバーを与える油っぽい化合物、カプサイシンによって容易に騙される。

唐辛子由来の油がVR1に結合すると、VR1は脳に「口の中が熱い」という信号を送るため、タコスを頬張ると、口の中が燃えているような感覚になる。

つまり我々が食べ物を指して「熱い」とか「涼しい」と言うとき、我々は実際には隠喩的に話しているのではない。単に我々の騙されやすい脳が報告していることを感じているのだ。