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鳥越俊太郎×Signia補聴器奨学生募集プロジェクト発表会(全1記事)

鳥越俊太郎氏「左耳はほとんど聞こえません」 補聴器片手に難聴者にエール

ジャーナリストの鳥越俊太郎氏が、シバントス株式会社の「Signia(シグニア)補聴器奨学生募集プロジェクト」のアンバサダーに就任。2月に行われた発表会見に参加しました。2000年にメニエール病を発症し、現在は左耳がほぼ聞こえない状態だという鳥越氏。聴覚障がいは、目に見えないものなので「気付いてもらえず会話をごまかしながら乗り越えてきた」と、苦労を明かします。今後もアンバサダーとして、積極的に難聴であることや補聴器の使用を公表し、補聴器普及に一役買いたいという思いを語りました。

鳥越氏「左耳はほとんど聞こえません」

司会者:本日は補聴器奨学生募集のアンバサダーに鳥越さんが就任されるという、シバントス株式会社1周年記念事業の発表の場でございます。鳥越さんとシーメンス補聴器との出会いについて、お話をおうかがいしたいのですが。

鳥越俊太郎氏(以下、鳥越):シーメンスとの出会いの前に、私の聴覚障がいの出会いについてまず喋らせてください。それがないとシーメンスとの出会いはないものですから。

私は、2000年に耳鳴り・難聴・めまいという3つの障がいが始まったんですね。最初はなんなのかよくわからなくて。なんとなく耳の中でセミが100匹くらい鳴いてるな、とか。「あれ、ちょっと聞こえが悪いな」という程度だったんですが、病院に通っていろいろと検査をしてもらってるうちに「メニエール病」だということがわかりました。

メニエール病は皆さんご存知のように、治りません。若い時だと治るものもあるかもしれませんが、私はもう60歳になっていましたので、そのあとはどんどん悪化していく一方で、耳鳴りはひどくなり、24時間耳の中でセミが鳴いていると。それから、聞こえが段々悪くなって、とくに左の耳は、もう今はほとんど聞こえません。

したがって、テレビでインタビューする時は必ず上手(かみて)に自分が座って、つまり向かって右側ですね。それで、インタビューをしてもらう人にはこちら側に座ってもらって。右の耳でしか会話ができないという状況になっていました。あとは目眩が時々起きる。そういうことがずっと続いていました。

外見に現れないがゆえに起きた苦労も

この聴覚障がい、それからメニエール病を中心とする、なかでも「聞こえが悪い」という障がいは、ほかの障がい、つまり目が見えない・口がきけない・手足が不自由であるというようなさまざまな障がいが人間にはあるわけですけれど、ほかの障がいは外見的に見えるんです。「この方は障がい者だな」ということを、みんなが理解できる。

ところが、この聴覚障がいだけは誰もわからないんです。耳の中で起きていることだから、ぜんぜん障がい者であるという認定を周りがしてくれない。したがって、耳が聞こえないためにコミュニケーションが取れなくて、とんちんかんな会話になってしまったりする。コミュニケーションの質が極端に落ちてくる。

私はずっとテレビに出ておりましたけれど、誰も私がそういう聴覚障がいを持っているということには気付いてはもらえない。だから、ちゃんと普通だと思っていらっしゃる。だけど、私は聞こえていなかったわけで。非常に苦労をしまして。周りの人は私の耳が聞こえないことはわかっていて、私の右の耳のところで、大きい声でこうやって話をしてくれるんですけども、それ以外の方はわからない。初対面の方はもちろんわからない。

ということがずっと続いてまして、いくつか補聴器を、耳鼻咽喉科の先生の勧めもあって試したんです。だけど、いまひとつうまくいかなかったり、操作が面倒だったり、つけるのがいろいろと大変だったり。試しては机の引き出しの中に置くという。今でもすでにいくつか溜まってますけれど。

補聴器のおかげで夫婦関係も良好に

そういうことを繰り返しているなかで、ある時、これは私からではないんですけれど、シーメンスの会社の方が、私が聴覚障がい者であるということをどこかでお知りになって、接触されて「うちの補聴器を試してみませんか?」という申し出があったんですね。それで初めてシーメンスと出会います。それはおそらく3年ぐらい前だと思います。

その時感じたのが、もちろん私の聴覚の程度に応じてちゃんとパソコンを持ってきて、ぜんぶ調整されてたのを目の前に見たのと。それから人間の耳の穴というのは一人ひとりぜんぶ違うんですね。ところが、これまでの補聴器というのはみんな耳の穴は同じだということで、同じ形のものを耳の中にいれるしかなかったんです。

ところが、シーメンスだけはシリコンを私の耳の穴の中に入れて形を取って。つまり私の耳の穴にフィットするような、これを作ってくれました。非常に使い勝手が良い、聞こえも良いということで、それ以来シーメンスをずっとなにかある時はつけてます。つまりほとんどつけてます。

うちの女房とテレビを一緒に見てると、とくにドラマはほとんど聞こえないんです、ぼつぼつ喋りますからね。ニュース番組などは、はっきり明確に喋るのでまだいいんですけど、ドラマになるとほとんど聞き取りにくい。

ところがうちの奥さんはちゃんと聞こえてる。私はしょうがないから音量を上げる。補聴器を付ける前はよく、喧嘩までいきませんけれども、女房にとってみれば私が聞き取れる音量が「うるさい」と。別に険悪なムードになるほどではないんですけれども、言い合いになったりはしてました。

それで、シーメンスと出会ってこれを付けるようになって、今は女房にちょうどいいボリュームでも私は聞き取ることができると。もし聞き取れない時はちょっとボリュームを上げればいいと。その辺は適宜やってますけれども、そういう経緯でシーメンスと出会えて非常に僕はハッピーだったなと思ってます。

会話が成り立たないことを、ごまかし乗り越えていた過去

司会者:ありがとうございます。難聴の不便さを実際に経験されて、そこからシーメンスの補聴器と出会って、日常生活を快適に過ごしていただけるようになったという使用感についても十分ご理解いただいてる鳥越さんなんですが。

鳥越さん、ジャーナリストの立場として、やはり人とコミュニケーションを取らなくてはいけない場面というのは大変重要になってくると思うんですが、この聴覚の重要性というのを、鳥越さんからどう感じていらっしゃいますか。

鳥越:どんな仕事だって他人とコミュニケーションを取らないと仕事が成り立たないのは当然ですけれど、とくに私たちのようにメディアで仕事をしていますと、人から話しを聞くこと、それからこちらから話しかける、つまり会話ですね。コミュニケーションというものは、これは仕事のなかのいちばん大事な部分なんですね。その大事な部分で欠陥が生じているということは、非常に不便というか、仕事がやりづらくなってくる。

例えば、講演に行きますよね。イベントがあって、パネルディスカッションがあったりするんですね。何人か並んで会場から質問を受けて答えるみたいな。そういう場になると、耳が悪くなると、とくにスピーカーの音はかなり歪んだ音になっていますので割れた音になって、とくに高音が聞き取りにくいとか、低音が聞き取りにくいとか。

耳の障がい・難聴というのはとくに、これは高齢者の場合ですけれども、高音域がまず落ちてきて、そして低音域も落ちてくる。中音域は比較的残っているというパターンが多いんですけど。高温域が落ちてくると子音が聞き取れない。母音は聞き取れるんだけど子音が聞き取れない。これ実は、みなさんあまり経験したことはないと思いますけど、子音が聞き取れないと、ほとんどなにを言ってるか意味がまったく取れないんですね。

なにか言っている、音は聞こえてくるんだけど、なにを言ってるのか意味がわからない。ということになると、まったく会話が成り立たないんで質問されても質問がまず聞き取れなくて、もちろん答えも返せないというような非常につらい立場に追い込まれることがしばしばあったわけです。そういうことを私はなんとかごまかしごまかし、聞き直したりとか、いろんなごまかす手を使いながら乗り越えてきたんですけれども。

シーメンスの補聴器ができてからは、そういうことはあんまりなくなったので非常にありがたいと思っているんです。我々のような仕事、メディアで働いてる人間にとって聴覚障がいはかなり致命的である。したがって、補聴器というのは暮らしにすごく大事なものである、というのが私の経験です。

補聴器が普及していない日本の現状

司会者:貴重なお話、ありがとうございます。さて、この度、このシーメンス補聴器を手がけておりますシバントス株式会社の1周年、この1。そしてシーメンス株式会社としての138年。この138という、その歴史にちなみまして、合計139名の学生の皆様に弊社補聴器を無償で提供するという制度が発表されました。そのアンバサダーを鳥越さんが務められることに決定したわけなんですが。鳥越さん、このプロジェクトのお話をまず最初に聞かれた時のご感想を教えていただけますか?

鳥越:驚きましたね(笑)。いや、シーメンスというのは、僕らの世代のイメージでいうとドイツの戦車とか大砲、飛行機を作ってた「軍事会社」というイメージがあるんですよ。そのシーメンスが補聴器を作っているということにまず最初驚いていたんですが。そのシーメンスが太っ腹にも139人に無償で。

実は補聴器というのは、ご経験ないと思いますが、けっこうな値段するんですよ。安くはないんです。数万円では買えません。もう1つ桁が上がります。そういう補聴器を百数十個無償で提供して、難聴で苦しんでいる若い人たちに提供すると。本当にシーメンスは太っ腹な会社だなというのが最初の驚きでした。

司会者:ありがとうございます。本当にできるだけ早く難聴の学生の皆さんに日常の学習の妨げにならないようにしてさしあげたいなという思いで、始まったプロジェクトでございます。それでは、その補聴器奨学生募集のアンバサダーということで、鳥越さんが今回選ばれましたが、アンバサダーに就任されたと聞いた時のご感想はいかがでしたか?

鳥越:「アンバサダーってなんや」と、最初は「なにするの?」というような感じ。追々、話をしながら、要するに補聴器というのは本当に一部の人しか、難聴のなかでもさらに一部の人。難聴になってる人でも補聴器をつけられない人がいっぱいいますから。

まして言わんや、一般社会からいうと、自分の子供はちょっと耳の聞こえが悪いと思っていても、お母さんやお父さんが補聴器のことまで考えるということはなかなかない、というのが実情なんですね。

そういう意味では、例えば目が悪いということになると眼鏡をかけるのは当たり前じゃないですか。近眼の人は近眼鏡をかけるし、老眼の人は老眼鏡をかける。これはごくごく普通に当たり前で、誰もなにも不思議に思わずに、自然につけている。にも関わらず、耳が悪い・耳の聞こえが悪いというのはなぜか、補聴器をつけることが今の日本の社会であまり普及していないことを僕は知っています。

人の話がちゃんと届く、いきいきとした生活を子供たちに

人間が生活していく上でコミュニケーションというのは、どんな仕事をするにしろ、人間として生きていく、社会人として生きていく上でも、言語によるコミュニケーションは絶対に必要だと思ってます。

それを普及させていくための1つの仕掛けをシーメンス、シバントスという会社がなされたということで、その1つの広告塔といいますか、宣伝役を。鳥越を見たら、鳥越は難聴者で補聴器を付けてるんだということを知っていただいて、「じゃあ、ちょっと補聴器をつけてみようか」という補聴器の普及に一役買えればいいかなと。

それが「アンバサダー」という、なにかとんでもない、辞書で引くと「大使」としか書いてないんですよ。大使というと、「えっ」と思ったんですけど。名称はなんでもいいからとにかく補聴器の普及の先導役を務めている人間であることを皆さんに認識していただければ非常にありがたいかなと思ってます。

司会者:ありがとうございます。ちなみに鳥越さんが今回アンバサダーを務めております「補聴器奨学生制度」なんですけれども、今お手元に資料をお持ちいただいていらっしゃいますけれども、簡単に。

小学生から大学生24歳までの皆さま、ということにさせていただいていまして。こちらの方々には全ラインナップからそれぞれの聴力ニーズに適した製品を、基本、両耳でご提供を無償でさせていただく。こちらが今回の補聴器奨学生という制度になっているんですけれど、この制度について改めてどう考えられますか?

鳥越:シーメンス、シバントスという会社が、本当に太っ腹にあらゆるタイプの補聴器をそのニーズに応じて無償で、しかも新型の機種で提供される。しかも、小学生から大学生まで幅広い年代。実は難聴というのは高齢者には必ず起きることなんですね。だから、高齢者には補聴器が絶対に必要なんですけれど。

実は若い人や子供たちで、生まれつき、もしくは中耳炎等の障がいがあって難聴になってしまったという子供たちがけっこういらっしゃるということを知りました。そういう子供たちが補聴器を得ることによって、これまでとは違った音が聞こえてくる、人の話がちゃんと耳に入ってくるという新しい世界を獲得できていきいきとしていけるんだったら、これは大変うれしいことだなと。

同じ難聴者としてもそう思います。この制度は非常にいろんな意味で優れたシステムだなと。ぜひいろんな方が、これを利用されて、応募されることを祈ってます。

難聴であること、補聴器を使っていることを公言していく

司会:ありがとうございます。これから、アンバサダーとして鳥越さんからも情報を発信していただいて、いろんな方にこの制度が広がっていくことになるかなと考えております。では、この制度自体、今後の展開として、鳥越さん、どういったことが考えられると思いますか?

鳥越:私自身は、こういう記者会見でも、もちろんアンバサダーという立場で出てきて「私は耳が悪いんです。したがって補聴器をつけてます」と言って、シーメンスの話をするわけですけれども。機会があるごとにいろんなところで、この奨学制度も含めて、それから補聴器の存在も含めてできるだけ世間にアピールしていきたいなと思います。

例えば、この間あるところで講演をやってまして。講演の最中に耳の中の補聴器から「ポロンポロンポロンポロン」という音の音色が聞こえてきたんですけど、これは、補聴器の電池がきれますよ、という合図の音なんですね。放っておとくと聞こえなくなるんです。しょうがないから取り出して、講演をやりながら。

私は常に、ポケットのなかにこういう電池を持ってるんですね。これが補聴器の電池です。この電池を積み替えなきゃいけない。だから、講演をしながら手元で電池の入れ替えをやりました。その時にこそこそと隠れてやるんではなくて、オープンに。「私は実は難聴者なんです。耳が悪いんです。したがって、こういう補聴器をしています。だから、いま電池が切れましたので取り替えてます」ということをオープンにやる。

耳が悪いということを比較的みなさんは隠してらっしゃるんですね。障がいがあるということを、マイナス、ネガティブなことのように捉えると、あまり知られたくないという気持ちが出てくるわけですけれども。つまり大事なのは、「私はこんな障がいを持ってるんですよ」ということをね、できるだけ声を大きくして言いたいという気持ちがあるもんですから。

私、ガンにもなって、ガンの本も書きました。癌とはこんなもんだよということを広くアピールしてますけれども。それと同様にできるだけ講演の場でそうやってオープンにして、難聴・聴覚障がいの問題点、それを補うために補聴器というものがあるよ、こういう補聴器を使ってますよ、ということをみなさんに伝えていきたいと思ってます。これはもう、いろんな機会で言おうと思ってます。

司会者:ありがとうございます。補聴器奨学生募集のアンバサダーである鳥越さん、これからきっと皆さんにわかりやすく、補聴器の大切さ、そして補聴器があることによる日常生活の改善についてお話を広めていっていただけるかなと思っております。大変頼もしく思っております。よろしくお願いいたします。

「我慢しなくていいんだよ」補聴器の伝道師として

では、最後になりますが、補聴器奨学生募集のアンバサダーとして、皆さまへぜひメッセージを一言、お願いしたいと思います。

鳥越:これは今までも申し上げましたけれども、人間にとって言語によるコミュニケーションというのはいちばん大事なんですね。コミュニケーションというのはいろいろありますよね。もちろん、目でコミュニケーションするとか、インターネットやパソコンを使ってやるコミュニケーションもあるし。いろんなコミュニケーションがあるんですけれども、最も基礎になっているコミュニケーションは、実は言語によるコミュニケーションなんですね。

つまり、音による「声」を発生して、それを耳で聞いて脳で理解して答えを返すことによって、人間の会話・コミュニケーションは成り立っている。そうすることによって、人間は情報を得て判断をして行動をするという人間的な活動をしているわけです。

したがって、言語によるコミュニケーションがいかに大事かを、普通はなにげなく自然に「言語によるコミュニケーション」を皆さんおやりになってるので、そのことについてなにも思わないと思うんですね。それはあたりまえだとみんな思ってる。

ところが、一旦、聴覚が落ちてしまうとこれは大変なこと。コミュニケーションができなくなる。そうすると、もう情報のGetができないから、もちろん判断もできない、行動もできない。社会的な存在としての人間として、非常に不便、不自由さに陥ってしまう。そういうことを改めて私は皆さま方に訴えて、それを改善する1つの手段として補聴器というものがあるよと。

それから補聴器の存在をできるだけ多くの人に知ってもらって、これは若い人だけじゃなくて高齢者も含めて、聴覚障がいがある人は我慢しなくていいんだよ、補聴器で補正すれば、100パーセントといえるかどうかわかりませんけど、かなりの程度聞こえるようになります。私がそうです。見本です。実体験をしていますからわかります。

それをぜひ皆さんにわかっていただいて、人間とは生きていく上で言語による会話が一番大事なものだから、補聴器はそういう意味で大事な道具だよ、ということをわかっていただきたいなと、思います。以上です。

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