親に迷惑かけてまで描きたくなかった

春原ロビンソン氏(以下、春原):なんか「(漫画家になるには)すごい頑張ればどうにかなるかもしれないけど就職した方がいいよ」って言われて。

乙君:えっ?

春原:なんか、「多分無理だよ」みたいなこと言われて。多分無理なんだって思ったんですよ。

乙君:思っちゃったんだ。

春原:ていうかなんか、こう、親に迷惑かけてまで漫画を描こうと思っていなかったんで。

乙君:ええ奴やん!

山田:良い子!

春原:親に迷惑かけるなら就職しようと思ったんですよね。

乙君:へえー。

春原:そん時は専門学校行ってました。

乙君:何の専門学校行ってたの?

春原:3DCGの専門学校に。

乙君:あー、まあでもそっち方面なんですね。

春原:漫画描きながら、「もしかしてダメかもな、俺」って思ったんで、とりあえずクリエイティブな方行ったんですけど、僕3D酔いするって気づいて。

山田:向いてなかったのねー(笑)。

春原:3D作る時に、なんか頂点がいっぱい出てくるんですよ。これを動かしてモデリングとかするんすけど、「気持ちわりっ」と思って。

乙君:漁師が船酔いするみたいな(笑)。

山田:向いてなかったんだー。

春原:だからもう3Dの学科ですけど、映像作ったりするんで、そん時の進行管理やったり、絵コンテ書いたりの方回ってたんで。

乙君:あー、そっち側いってたんですね。

春原:だから漫画家無理って言われたから、アニメ会社にでも入ろうかなって制作管理の方に。

乙君:で?

春原:体壊して辞めて。

山田:その頃のことちょっと聞きたいんだけど。

春原:あー、そうですね。会社名は言えないんですけど、普通にアニメ会社入って辞めただけですね。

山田:それはあれなの? 精神的にキツかったというよりも寝られないとかそういうヤツ?

乙君:ブラックってことですか?

春原:ブラック……? なんか、形だけ見ればブラックなんですけど、うーん。なんか、体が弱いんですよ。

山田:(笑)。そういう漫画だよね。最初にスライムにやられるとかそういうの好きだよね。

春原:そう、皆さん見てわかると思うんですけど、僕虚弱っぽいじゃないですか?

山田:ほらほらほら! ツッコミ待ち!

乙君:恰幅いいよ!

春原:なんか、割とほっそりしてる……栗原類タイプじゃないですか。

乙君:あー、まあ見える人には。

春原:うん、だからー。

山田:ハブとマングースみたいになってるよ。俺が行ったらパワハラ感出すぎるからダメなんだよ。君(おっくん)ちょうど3つくらい上だからね。

乙君:そうですね。うちの弟と同い年なんですよ。

山田:あー、そうなんだ。

アニメ会社で5日間徹夜!?

乙君:何の話してましたっけ?

山田:アニメ会社が大変だっていう。

春原:5徹とかするんで。

山田・おっくん:5徹!?

春原:月の労働時間が600時間とかになって。

山田・おっくん:ええ!

春原:なんか、体壊してたんで、クスリ飲みながらやってたんですけど。「あ、これダメだな」って思って。

乙君:ダメでしょ!

山田:だめだめ。

春原:「死んじゃうなー」と思って。

山田:死んじゃうね。

乙君:で辞めたの?

春原:辞めたんすよ。でも2年くらいやってたんですけど。

乙君:2年もよくやったよねー……。

山田:5徹ってさ、それでもやっぱ、ちょっとは仮眠的なものするの?

春原:あー、しますします。会議室が空いてたから、会議室で寝るんですけど。1回会議室で寝てたら会議始まってて。しょうがないからもう1回寝て、起きたら会議終わってました。

山田:じゃあ会議中ずっと寝てたんだ(笑)。すさまじい現場だねー。

乙君:効率悪いですよね。

山田:まあまあ、てか、帰れないんでしょ。帰っちゃいけないんでしょ、終わるまで帰れないってやつでしょ。

春原:そーすね、まあ。なんかもうそんな感じですね。帰れない。

山田:それっていくつん時?

春原:22とかですね。なんかその辺の記憶が曖昧なんですよね。

山田:あ、もう辛すぎて(笑)。

春原:でも、ブラックかって言われたら楽しかったのは楽しかったんですよ。

山田:ほお。

春原:なんか、楽しかったんですけど向いてなかった。

アニメ現場は天国か地獄か?

乙君:いや、向いてる人いなくない!? 5徹とか。

山田:5徹に向いてる人はなかなかマッドなマックスでしょ。

春原:向いてる人はいるんすよ。

乙君:向いてるって、それ人としてさ!

山田:死んだら神になるみたいな感じ

春原:そうですね……、なんかわかんない。でも、僕のいた時代はアニメの数も多くて、3D出たばっかで作り方もわかんなくて、みたいな感じで忙しかったですけど、今はだいぶ良くなってるらしいんで。業界の皆さんそう言って……。

山田・乙君:(笑)。えー。

春原:1回、アニメ会社の頃のエッセイ漫画を出したんですよ。僕はそれをおもしろいことだけ載せたつもりだったんですよ。「こんな楽しいんだよ! アニメの現場って!」って出したら、感想が「こんな地獄のようなとこなんですね」みたいな感想で。

乙君:いやいや、だってその話、いっこもおもしろそうじゃないもん。

春原:僕の楽しい、楽なとこだけ抽出したコレが地獄だったら、どうなってしまうんだろう(笑)。

乙君:でもわりとがんばり屋さんですね。

春原:あ、そうですね僕は。

山田:基本真面目なんだよ。

春原:真面目だしがんばり屋さんだし、人に優しいしね。

乙君:うん……。それでやめてどうしたの?

何もしてないのにお金がなくなる

山田:また持ち込みするわけ?

春原:なんかずっと寝てたんですよ。

乙君:はいはい。

春原:そしたら、何もしてないのにお金がなくなっていくんですよね。

乙君:まあね、家賃もあるしね。

春原:何もしてないのに、みんなが僕を、世間が僕をいじめるわけです。お金を払えと。

山田:世間が僕をいじめる。何もしてないのに。

実家に帰ろうと思ったら、実家が東京に来たぞ!

春原:もう実家帰ろうと思ったんですよ。そしたらちょうどお母さんが、マザーが。

山田:いらない、いらない!

春原:マザーの会社が、アジア系の人の派遣みたいなやつで、ちょうど「中国の寮の管理人がいない」みたいなこと言われて。

「よし、俺は中国の寮の管理人になろう!」と思って実家に帰ろうと思ったら、父親が単身赴任で東京に来るってことになって「帰ろうと思ったら実家が来たぞ!」ってなって。

しばらく東京にいれるなってなって、「東京で仕事探そう」と思って気づいたら漫画を描いてたんですね。

山田:もう1回やろうと思ったの?

春原:なんか、食えれば何でも良かったんですよ。だから最初麻雀を覚えたんですよ。

山田:うん。

春原:賭けをしようとかじゃなくって、アニメの時も仕事振る側だったんで、結局、すっげー上手い天才を除いては、そこそこ上手い扱い難しい人と、なんか普通だけどめっちゃ良い人だったら、普通だけどめっちゃ良い人の方がめっちゃ仕事増えるんですよ。

基本コミュニケーションとれる人に。だからまず麻雀覚えて、いろんな人が集まるイベントに行きまくろうと思って。

乙君:麻雀覚えて?

春原:だからまず、いろんな人が集まるイベントでいろんな人と仲良くなる。で、偉い人はみんな麻雀を打つ。

山田:(笑)。

春原:偉い人を見つけたら「俺も麻雀打てるんですよ」って言って一緒に麻雀を打つみたいな。

乙君:あー! だから、飲むみたいなことでしょ。

山田:この上にゴルフがあるんだよ。

春原:ゴルフは30になったら覚えようと思ってます。

山田:政治家、政治家でもある意味賢いよね。

春原:今、ジャンプSQとかでやってますけど、それもメジャーなとこでやろうと思ってたんじゃなくて、地方紙とかちっちゃいところとかあるじゃないですか。

絵は描けんことはないので、そういうちっちゃい仕事でも月何個かやれば生きていける。生きていこうと必死になってたら、こうなってたんですよ。

乙君:いつの間にか?

春原:いつの間にかですよ。

死ぬ前になんか残しとこうと思った

乙君:ニコニコは?

春原:あ、ニコニコはアニメ会社時代なんですよ。

乙君:もうそん時から。

春原:アニメ会社時代に、朝5時か6時に帰ってきて昼の11時くらいに出社だったんですよ。

山田:すげー。

春原:そういうサイクルの時に僕は死ぬかもしれないなと思って。

山田:死ぬかもしれないよね。

乙君:死ぬよね。

春原:死ぬ前に なんか残しとこうと思って。

乙君:そんな思いがあったの!?

春原:なんか、こうクリエイティブなことはやりたかったんです。アニメ会社行ったりCG作ったり。だから、ニコニコに何か投稿しようと思って。

ニコニコで何がウケるかって見て、考えて、ニコニコに無いジャンルと、この短い時間で僕が何ができるのかっていうのを見て作ったら人気出たんですよ。

山田:それが『戦勇。』?

春原:それは、また別の投稿したやつなんですけど。シュールギャグを読み上げソフトで読み上げるみたいな。始まった頃のニコニコって何か新しいものを求めてたんですよね。テレビにないもの。

だからテレビで放送できない感じのシュールなものを出せば。(当時)ニコニコで受けてるシュールなものってあんまなかったから。

乙君:すごい戦略的ですね! 感性でわーっと、ていうタイプではなく。研究して。

春原:持ち込み時代に自分のこと天才だと思ってたんですよ。高校ぐらいから。

乙君:……なんか聞いたことあるなそのセリフ。

山田:新旧。

分析+何も考えないで良いのができる

春原:高校時代から20歳くらいまでは自分のこと天才だと思ってて。他の漫画家さんの意見とか他の漫画とか一切参考にしないで「俺は天才だから俺の理論でいける」って描いていったらうまくいかなかったんで、今度は徹底的にやろうと思って受賞ページみて、審査員のコメント見て、実際受賞している受賞作に照らし合わせて、おもしろい読み切りの何ページから何ページまで何をやってるみたいなのを書いたり。

山田:分析したの。石森章太郎タイプだよね。

乙君:あ、そうなんすか?

山田:石ノ森先生は、そうやって分析して作ってたって言うよ。

春原:でも計算して、計算したまんま描くとあんまおもしろくないから、計算した上で何も考えないで描くとなんか良いのができるなみたいな感じですね。

乙君:あー、そのブレンド具合ですね。

山田:型をいろんな所から持ってきてそれをフリースタイルで回すって感じだよね。DJみたいだよね。

春原;あー、そうですね、DJみたいですね。それ、ください!

山田:あげるあげる

乙君:なになに!?

山田:旧なんで

春原:DJみたいなもんなんですよ。

山田:おもしろいからいいよもう!