ピクサー作品は私小説系のエンタテイメント

山田玲司氏(以下、山田):有名な話なんだけど、ピクサーって個人的な問題を映画にするっていうのでお馴染みの集団なんだよ。トイ・ストーリーってご存知ですか、これ。

乙君:まあ。

山田:おもちゃですよね。これ有名な話ですけど、何かっていうと、親ですから。

乙君:どゆこと?

山田:「アンディの相手をするおもちゃんだよ! 俺たちは!」って言ってるじゃん。これ親目線なんだよ、基本的に。

乙君:あー!

山田:赤ちゃん、子供できちゃったー、どうする俺、俺たちどうする? 相手しなきゃ、みたいな話で。この立ち位置ができてるの。

乙君:え? これ(おもちゃたち)子供なの?

山田:いや、このおじさん(ジョン・ラセター)に子供ができました。

で、あなたが一番大好きなこれですよ。

乙君:あー、『モンスターズ・インク』ね。

山田:これ、「赤ちゃんできちゃったよ」。

乙君:あー! はいはい、ブーね、ブー。

山田:ブー可愛いでしょ?

乙君:ブーはあんまかわいくないけど。

山田:そこは「可愛い」だろっ! それ(子供)を、「どうすんだ!?」って狼狽するモンスター。何がおもしろいかって、これ普通、子供がモンスターだって言うんだよ。

乙君:そう。

山田:家では子供がモンスターだっていうけど、子供側からみたらお前らがモンスターじゃないって話なの。

乙君:まさにモンスター・ペアレンツですね。

山田:(失笑)。

乙君:え? 何? 違う?

山田:そんなこんなで、可視化する形にして、親側をモンスターにしてって感じなんだよね。でも、「君の泣き声がエネルギーだよ」。これをピート・ドクターがやるの。こういった、いわゆる私小説系のエンタテイメントっていう。

乙君:あ! 私小説!

山田:私小説入ってるんだよ。

乙君:私小説だったんだピクサーって。

山田:だ・か・らやべーって話なんだよ。

乙君:へー! それは新しいかも。集団で創作する私小説って。私小説の普遍化ってことですよね。

山田:そうなんだよ。それをエンタテイメント化してんだよ。普遍的なコンテンツ化してんの。こーれ、誰が叶うんだって話なんだよ。そんでだ!

いろいろ考えたんだけど、日本どうだったかなってちょっと思って。日本のアニメの回想をしてみたいわけよ、俺も。ざっくり回想。日本における私小説ってどのくらい入ってたかなって。

乙君:いやあ、言っても、日本は私小説の国ですからね。

<h2『銀河鉄道999』は内面への旅

山田:そうなんだよ。『ヤマト』からいきますか。ヤマトをざっくり言うとね、ばんばんいっちゃうね、ヤマトは「戦争やり直してえよなあ」。

乙君:そっから!?

山田:これ松本零士の気持ち。その時の気持ち。

乙君:松本零士なの!?

山田:松本零士の私小説。で、これもっとはっきりしてんのが『銀河鉄道999』の松本零士になると、「ロシア系美女とタダで旅してーよなー」。

乙君:あー、なるほどなるほど。うんうん。

山田:そんで「俺死にたくねーよお!」「機械の身体?」「タダでもらえる?」「しかも美女と一緒に?」みたいな。それで大冒険みたいな。そうするとこれ、内面の旅なんだよ、実はけっこう。

乙君:銀河鉄道ね。

山田:どうなるかっていうと、メーテルって母親に支配されてる可哀想な娘なんだよ。毒親ですわ、あれ。「若い男を連れてらっしゃい。そしてネジにするのよ」って。婿入りですわこれ。俺はネジになる〜!

乙君:家のね! なるほどなるほど!

山田:少年の旅は母親を失うことによって新たな母親を見つけ、そして束の間の夢を見て、ネジになる……。

乙君:なるほどね〜。めちゃくちゃわかりやすい。

山田:そんな感じなわけよ。じゃあ『ウルトラマン』はどうかなって考えて。これ「菩薩助けて〜」なんだよ。煩悩たる怪獣がやってくる。欲望の化身。街をやっつける、僕らもヤバい、でも戦えない。

一応、防衛軍的なものが行く、それっぽいことだけやる、倒せない。「助けて〜! 菩薩様〜!」つって観音が降りてくる。でもそれ、アメリカっぽくね? みたいなやつ。両方入ってますみたいなのが『ウルトラマン』なわけだな。

これ、どうなのかっていうと、複雑な当時の気持ちが入ってる。「俺たちだけじゃ戦えないんだよ!」これ、憲法第9条に守られた国。敗戦国の宿命みたいなものを感じられちゃうわけよこれ。

乙君:(笑)。感じられちゃいますか。宿命を。

山田:『仮面ライダー』はもう素顔見せられませんから。仮面かぶれば戦って良いんですから。しかも改造されてますから。みたいな感じになってくる。これも日本の……。

乙君:え? ちょっと待って。仮面ライダーってあれ、中取ったら変わるんですか。

山田:まあ変身するんですけど。そういうふうに仮面系譜っていうのがあるんだな。『月光仮面』から続く。素顔のままじゃ戦えないっていう感じだよね。まあ、そんなこんなで、私小説ではないけど、のっかってはいるなと思う。ただ、作者個人の思いっていうのは、断片的にしかなかなか入らないなあっていうのがあって。

乙君:そうですね。

「選ばれし絶対勇者」の系譜

山田:ざっくり言うと、『デビルマン』なんて「偶然ヒーロー」なんだよな。たまたま悪魔に乗っ取られるっていう。「たまたま系」っていうのが現れるんだよな。あと『北斗の拳』 になると、「選ばれし絶対勇者」ってドラクエのやつだよな。『ハリー・ポッター』的なやつ。「実は俺王子!」みたいなやつだな。でこれ『ドラゴンボール』につながってくわけ。

乙君:北斗の拳はもうあれですよ。

山田:一子相伝。だからこれ、最初から決められてるやつ。後から気がつくか、最初から知ってるかのパターンだけで、結局王子だったみたいな、最初からモテますみたいなそういう感じだね。でこれ本当にやるとキリがないんで『ガンダム』。ガンダムおもしろいよ。

乙君:ガンダムは違うでしょ。

山田:学生運動です。あれは富野さんの学生運動なの。

乙君:まま、それはそうだと思います。

山田:で、なんて言うのかな、あれはね、青春グラフティだよね。

乙君:あー。

山田:あれは私小説けっこうのっかってる。で、こうやっていろいろ考えてると『エヴァンゲリオン』はおもしろくて。『エヴァンゲリオン』って私小説の塊なんだよ、やっぱり。

乙君:やー、もうそうでしょーね! こじらせ系のやつですからね。

山田:「選ばれし勇者」なんだけど「イヤイヤ勇者」なんだよ。これアムロからの系譜なんだよね。「戦いたくないやい!」みたいなやつ。「でも、すごい力はあるんだい」みたいな。

乙君:「やだやだ! 逃げちゃダメだ!」つってね。

山田:すごいややこしいことに、母と同級生が一緒にこう現れてるみたいなね。

乙君:そうそうそう。

山田:同級生が母なの? みたいな、わけがわからなくなっていって。常に付きまとう罪悪感。なにやら罪悪感。そして自分ツッコミ。「俺なんて……」みたいなやつ。全部パッケージされて。これはザッツ私小説だし文学だよね。だからここで、これおもしろいことに95年なんだよ。タランティーノの登場とかぶってて。(日本のコンテンツも)やってんじゃん、大丈夫じゃん! みたいな。

乙君:基本的にアニメですけどね。

山田:これなんでかっつーと、作家主導で動いちゃったやつっていうのはいびつで私小説的になりがち。

乙君:あー。

山田:一方でじゃあ『ポケモン』てどうすんのって話なのよ。

乙君:……ポケモン?

山田:ポケモンて私小説入れないんだよ。

乙君:入れないでしょあれ。

山田:入れないんだよ。だからそういう、入れないやつもいっぱいあるわけだよ。

乙君:うん。

山田:だから、何て言うんだろう、個人というものがガーっと入っちゃうものと入んないもの

乙君:それエンタテイメント系に分けるってことでしょ。

山田:それが、日本の場合複雑で。

乙君:『うる星やつら』とか私小説じゃないでしょ。るーみっくわーるどでしょ。

山田:いやーあそこはねー、時間かかっちゃう。

山田:たいへん。大変大変。

乙君:そりゃまた別で!