ジョブズの苦難とピクサー設立までの流れ

山田玲司氏(以下、山田):そんで、ゴージャス系からオレ系の流れな。いわゆるウェルメイド、『風と共に去りぬ』からニューシネマになって。びっくり屋がきて。

それで、再びオレ系になって。そこで「ちょっと待てよ」と。簡単に映画撮れなくなってきちゃったなっていう時代がやってきちゃったの。

ここでですよ。このおじさん。ジョン・ラセターさん。

乙君:けっこう、あれですね、恰幅(かっぷく)がよろしい方ですね。かわいいシャツ着てる。

山田:ピクサーってまず、スーツの問題と切り離せない。まずピクサーがどうやってできたかって話。おもしろいことに、ジョブズが嫌いな奴だから、ペプシのCEOを入れたんだけど、そいつに追い出されるっていう第一次放出っていう有名な話があるじゃん。

あの人1回Apple立ち上げて干されるじゃん。でNeXTって所ですごいレベルの高いものを作ろうとして、これがまあ、空回りしまくるわけだよな。

CGと妻を手放したジョージ・ルーカス

山田:そこで、もう1個。ルーカスの離婚っていうのがあるわけだな。で、ジョージ・ルーカスが離婚してお金がなくなっちゃうんだよ。「CGとかやれるスタジオ欲しいよねー」とかいって作ってたスタジオがあったんだけど、「売んなきゃだめだろ」ってなって。

ジョージはね、妻とCGを同時に捨てるっていうね。それをだよ! あなた! Appleの株持ってやめてっから。ジョブズは。そんでそれを売って買うわけよ、CG部門を。これがピクサーの母体になるんだけど。

これがまたおもしろくて、80年代の半ばくらいなんだけどさ。前、この番組でちょっと言ったけど、スティーブ・ジョブズとウーキーの話したことあったじゃん。

乙君:うんうん。ウーキー族。

山田:そう。俺、ウーキー族なんだけど。あの時に、ジョブズはいっぱい嘘つきますよって話があったじゃん。ジョブズはね、ピクサーのフィルム見て、ラセターのフィルム見て「彼らの夢を応援したいと思ったんだ」って。

長編CGアニメを応援したくて僕はやったんだみたいなことを言ったんだけど、内部の人から言わせると「あれ全部作り話です。あいつはただお金出しただけですから」って言われてるみたいな裏もあって。

『トイ・ストーリー』はなぜ生まれたのか

山田:ここで何が起こったかっていうと、ラセターはすんげー良いフルCGアニメ作ったの。長編じゃなくって。そしたらジョブズどう思ったかっていうと「おっ、これいいぞ、プレゼンに使える」と思ったの。

あの人はこれ(ピクサー)何にしようかなーって思ってたのかっていうと、ハイエンド商品作ろうとしていたの。要するにすげー高級コンピューターっていうのにこだわってたの。

あの人ビジュアルの人じゃん。要するにパッと見で「おおっ」て思わせるの大好きなんだよ。だからラセターの見て、「これ使えんじゃん、これ掴みで使えんじゃん」みたいな流れでトイ・ストーリー作る流れになるんだよ。

乙君:え! そうなの?

山田:そうなの。世界で初めての(フルCG)長編アニメーション。だけどジョブズの頭の中ではそういうことになるって思ってなかったわけ。コマーシャル用だと思ってたの。でも、そういう流れになって、「じゃあ、やってみるか」みたいな感じなんだよ。ジョブズ的には。ていうかまだピンと来てないわけ、長編。

ただ、世界で初めての長編フルCGアニメーションを作るっていうんで、こいつですわ。これが生まれるんだよ。「これは絶対当たりますよ」って周りに言われるんだよ、ジョブズ。そんで、「オッケー、株式公開ね」つって絶妙なタイミングで株式公開するわけ。

ここで億万長者にボーンとなるわけ。それで畳み掛けるようにNeXTをAppleに買えと。Apple死にそうだから、「NeXT買ってくれよ」つってもう1回復帰するっていう流れがある。

この映画(トイ・ストーリー)がきっかけで復活するっていう。(ジョブズ的には)別にこの映画のことなんてどうでも良かったの、本当は。ていう流れがあって。

乙君:ジョブズはハードを作ろうとしたんでしょ? そのための宣伝としてのCGアニメーションていうのを。

周囲に振り回されるジョン・ラセター

山田:おもしろいのが、離婚したりとか、クビになったりとか、ダメ親だらけの家族で。だからすごく『6才のボクが、大人になるまで。』的な感じなんだよ。だからこのおじさん(ラセター)は6才のボクなんだよ。ていう感じだったわけなんだよ!

乙君:この人(ラセター)がダメ親なんですか?

山田:違う違う、この人(ラセター)は、すーごい真面目にディズニーとかに就職したから、ちゃんと。

乙君:この人は超真面目だったんだけど、ジョブズとか周りのやつが無茶苦茶なアレで。

山田:自分のいた会社の上で勝手なことやってる連中が振り回したんだけど、この人は折れないでチャンスを掴んだっていうことなんだよ。

乙君:ただ真摯にアニメーション作ろうとしてたんですね。

山田:この人、生粋のディズニーおじさんらしいんだよね。

乙君:ディズニーおじさん(笑)。

山田:この人ディズニー大好きでディズニーに入ってんの。だけど、本当の情報が分かんないんんだけど、ディズニー好きが高じて本家のディズニーランドでジャングルクルーズのお兄さんやってたらしいんだよね。

乙君:へー。

山田:これ本当だったら本当すげーなって。「そんなに好きなんすか?」みたいなやつなわけ。途中でCGアニメっていうのに目覚めて「おー、これでやれんじゃねーのかな」って感じでいたの。この頃っておもしろくって、ティム・バートンとかもディズニー入ったりなんだりしてて。

乙君:あ、そうなんすか。

ディズニー衰退時代とトイ・ストーリーの登場

山田:ディズニーが完全に衰退して、どうにもならなくなった時代の「俺たちどうしたら良いの」ってまさにあれですわ、少年サンデーですわ。

どうする!? 少年サンデーみたいになってんじゃん。編集長ががんばるって話でしょ。応援するしかないですよ。そんな状況ですよ。

乙君:編集長ががんばるって意味がよくわかんないんですけど。

山田:まー、編集長ががんばるって言ってんだからもーいいじゃん、とりあえず。応援するよ、それはさ。たまには呼んで欲しいよな、俺もな。もっかい『ドルフィン・ブレイン』書かせてくれって……いいよもう。

そんで、トイ・ストーリー始まりますよって、こん時にあれですよ。こないだの『インサイドヘッド』『モンスターズ・インク』『カールじいさん』でお馴染みのピート・ドクターさんが合流してますから。

乙君:トイ・ストーリーの時から?

山田:もう一緒にいる。しかも「俺そういうの作ったことないんすよー」「じゃあ脚本の勉強するか」みたいな。

乙君:あ、そんな人だったんですかピート・ドクター。

山田:みんなそうなの。だから、それでこの大勝負だから。この人たちって後ないから。これ失敗したら、トイ・ストーリー終わったらないわけだから。だからここに全部懸けたみたいな感じなんだよ。

そんで! ここがすごいおもしろいんだけどラセターって何が良いかって、クリエイター集団で徹底的に話し合いながら「どうする?」「どうする?」って言いながら作ってる。

各ブレイントラストシステムっていうのがあって。いろんなチームがあって、このチーム……ってわけて。それで、脚本から演出から何から作っていくの。

「ここまでできたよ」ってなったらAチームやるじゃん、チームBにそれ見せて「どう思う?」「これこうしたら良いんじゃないかな」みたいな感じでやるから、偏んない。「あの時のあいつ良かったよね」とかなんない。

乙君:だから個人の才能に寄っかかるんじゃなくて、集団で脚本から何から何まで。

山田:これだから大バジェットで才能のある人がやってた時代、オレオレ時代みたいなものから次のステージへ移っちゃって。俺はこれは「しゃべり場系」って言ってるんだけど。「俺たちどうする?」系ですわ。

乙君:あー。「こんなこと考えたんだけどどう思う?」みたいな。