2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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辻:では最後の質問です。今度大学生、大学2年生の◯◯さん、お願いします。
質問者4:研究に一番大事なものは何でしょうか? iPS細胞の発見とか青色LEDの発見に必要な資質っていうのはどういったものだったんでしょうか?
辻:研究に一番大事なもの、あるいは研究者の資質という、これも非常に大切な質問ですが、いかがでしょうか?
赤﨑:いろんな資質が必要かもしれませんが、私自身が一番大事かなと思ってるのは好奇心じゃないかと思いますね。スライドで、周期表のあれが出てきますでしょうか?
赤崎:この表題は私が作ったわけじゃないのであれなんですが、研究ではやっぱり「何をやるか」が一番大事じゃないかと思うんですね。
先ほどちょっとお話ししましたけど、私が選んだ材料は13属のガリウムと15属の窒素化合物で窒化ガリウムというんです。
で、世の中の人は何をやってるかといいますと、ガリウムの左側ある亜鉛と16属のセレン。要するにセレン化亜鉛という材料をやってたんです。
私はあえて非常にやっかいな、タフだと言われる窒化ガリウムを選んだんです。この「何をやるか」。それがまず分かれ目じゃないかと思います。
それともう1つはやり方なんですが、私が名古屋大学に来て指示したのは、これは松下のときからやってたんですが、今までの結晶の作り方と全然違っていて、誰もやってなかったやつです。
有機金属化合物を使って、熱分解をして作る方法なんですけど、結局今、世界中の窒化ガリウムを使った、あるいはそれに類似した化合物の発光ダイオードにしろ、電子デバイスにしろ、そういうものは全部この作り方で作ってます。
当時はもちろん市販の装置はありませんから、全部自分で組み立てる。それをさっきの天野君たちが自作してくれたわけです。
「How」の前にやっぱり「What」が一番大事じゃないかと思います。そこが分かれ道。これをそこの前の青色LEDっていうのは一番最初に言いましたが好奇心がそこに来るということではないかと思います。
だから好奇心が一番大事な資質かなという気がします。実際には、「What」が大事で、その次に「How」が来る。そういう具合に考えるんです。よろしいでしょうか。
山中:私も好奇心というのが非常に大切で。私の最初の実験のお話をしましたが、本当に簡単な実験で、どうでもいいような実験なんですけれども、血圧を上げると思っていた薬が逆に思いきり下げた。
そのときにやっぱり人間のタイプが2つに分かれると思うんですね。どっちもいいと思うんですが、「予想どおり血圧が上がったら非常にハッピーな人」つまり、予想が外れたらがっかりしてしまうタイプと、そうじゃなくて、予想どおりだったら「まあこんなもんか」と思って、逆のことが起こったときにものすごい興奮するタイプ。こっちが僕なんですけど、この2つに大きく分かれると思うんですね。
どっちがいいとか悪いとか全然なくて、それはもう、その人の性質。例えば堅い銀行マンとかになるんだったら前者のほうが、もしかしたらいいかもしれない。わからないですけども。でも僕は明らかに後者だったんですね。
そのときに自分は研究者、研究をやっていこうと思いましたから。だからやっぱり、好奇心だと思うんです。「なんでこんな予想が外れたんだろう?」という好奇心が、自分でも予想以上にあったので、そのあとずっと研究してきましたから。
やっぱり研究者というのは向き不向きがあると思います。そういう意外な結果に興奮するかどうかというのが、1つのものさしじゃないかなと思います。
大切なのは、特に自然科学は実験結果を透明な眼鏡で見るといいますか、色眼鏡で見ないということですね。どうしても自分の仮説があったら、その仮説どおりになってほしいという希望があったりして、真っ白な心で見れないので。
そうすると真実を誤認しますから、いかに自分の目を透明にするか、真っ白な心で結果を見れるかということが非常に大切だと思います。
学生さんと話してるときに、白か黒かあったとしたら、白くても黒でもどっちでもいいんやと。どっちか教えてほしいと。白になってほしいというんじゃなくて、「白か黒かどっちでもいいので、どっちが本当かを僕たちは知りたい」ということをすごく言ってきたんですけども、それは非常に大切で。
「これは絶対白になるから」ということで実験してしまうと、白じゃなくても白に見えてしまうかもしれないので。これは研究だけじゃなくて、普段の暮らし、人間付き合いでもすごく大切。
例えば職場とか学校で評判がいい人悪い人がいてると思うんですけれども、その人と初めて会うときに、評判を信じてその人に会ってしまったら、完全に色眼鏡で見ることになってしまいますから。その評判なんて、あてにならないことがものすごく多いですからね。
今だったらインターネットでいろんな情報が出ていますが、それであらかじめ学習してから始めちゃうと、もう色眼鏡で見てしまうことになる。本当はすばらしい人なのに、最初からサングラス越しに見てるようなもんですから。だから全ての場面で大切だと思います。
辻:ありがとうございました。質問してくださった方もありがとうございました。
辻:では時間がかなり迫ってきましたので、最後にお二人から若い人たちへのメッセージ、これから科学者を目指そうという方たちへ贈る言葉をいただきたいと思います。
山中:全員が科学者になられるかどうかはわからないんですけれども、科学者になる、ならないに関わらず、若い今の間に、できるだけたくさんいろんなことに挑戦してほしいなと。
最近は皆さん真面目だから、勉強は言わんでもちゃんとすると思うんですけれども、それ以外にスポーツも芸術でもいいですし、あと海外にチャンスがあったら1週間でも1ヶ月でも。1年とか行けたら最高ですけれども、あらゆるチャンスで、いろんなことを、うんとやってほしいと思います。
いろんな失敗をすると思うんですが、今の皆にとって失敗というのは財産なんですね。やっぱり50ぐらいになって失敗しだすと、いろいろ面倒くさいんですけれども。若い内の失敗は本当に後々の財産になりますから、その中で自分のやりたいことが見つかってくると思います。
時間かかると思うんですけれども、僕も自分のやりたいことが見つかったのは37歳ですから。それまでは迷いに迷って、いろんな周り道をしました。でもそのときにやった失敗、経験が今に生きていると思いますから。
私が皆さんにお伝えできるのは、いろんなことをやって、いっぱい失敗してほしい。失敗は恥でも何でもないです。すごい失敗をすることによって成長できますから。
辻:赤崎先生は。
赤﨑:冒頭のノーベルメダルの話に戻りますけど、裏側に科学の女神と自然の女神の様子が描いてあって、それをさんざん説明していただきました。
確かに科学の女神が自然の女神のベールを剥がして、真実の姿を見ようとしている姿だと言われているんですね。しかしよく見ると、全部剥がれてるわけじゃないんですね。
ということは、まだまだ自然界にはわからないことがいっぱいあるんだということを示唆してるような、謙虚な絵柄じゃないかと私は思います。
私は学生にも時々言ってるんですけど、「もうここまでわかった」というんじゃなくて、「ここまではわかった。わからないことって、まだいっぱい残ってる」なんですね。むしろそっちのほうが多いんじゃないんでしょうかね。
ということは、今から若い皆さんが活躍される分野というのは、無限にあると思っていただいていいんじゃないでしょうか。それが1つ。
若いということは、皆さんの人生というキャンバスは、かなり余白があるんじゃないかと思います。そこに皆さんが、本当に自分がやろうとしているものは何だろうかと。
これは簡単なようで、なかなか見つからないかもしれません。しかし、そんなに焦ることはありません。いろいろ失敗や経験をしながら、いつも自分自身にそれを問うてください。
「本当に自分がやりたいことって何か?」それを見つけていただきたい、夢と言ってもいいかもしれませんが。アメリカの詩人で、有名な実業家でもあるサミュエル・ウルマンさんが「青春とは心の若さである」と言われてますが、若い皆さんは物理的にも、実際の精神的にも、両方若いわけですから、先ほど申し上げたフロンティアに挑戦する時間は十分あるわけです。
だからこれからそういう分野がたくさん待っているんだと思って、失敗してもそれは教訓だと思って、先ほどの話じゃないですけれども、それが自分の肥やしになるんだと思っていただければ、どういう道に進まれても、いい人生を生きてきたと思えるんじゃないでしょうか。
辻:ありがとうございます。今日は研究の中身にはあまり触れる時間がなかったんですけれども、質問の中で、「IPSの研究や材料研究の将来はどうなっていくのか」というようなものもあったので、その辺りご自身の研究、それから少し広がって、これからのことを展望していただけますでしょうか。これからの若い人たちには、どんな世界待っているでしょうか。
赤﨑:これからはますます細分化していくのは確かでしょうけど、私はいつも感じてるのは、境界領域といいますか、広く言えば、医学と工学とか、医学と理学とか、もっと狭めていくと、生命科学と半導体、エレクトロニクスとか、人口知能だとかいろいろありますが、そういう境界領域が非常に大事じゃないかなと思います。そういうところには、先ほどのフロンティアがいっぱいあるんじゃないかと思います。
それはどちらのサイドからいっても、例えば生命科学者のほうからいっても、電子工学者のほうからいっても、アプローチとしてはいいんだと思いますが、そういう境界領域が非常に大事じゃないかなと思います。
辻:山中先生は。
山中:はい。私たちは医学研究をしておりますので、私たちの領域に限ったことを言いますが、今、日本という国は世界1位のことがどんどん少なくなっていると思います。
例えば経済でいうとGDP、国民総生産。1番はアメリカですけれども、日本はずっと世界の2番だったのが、中国に抜かれて3番になってしまって、今後はもっと下がっていくだろうと。
僕たちの分野で1つもうダントツ1位があるんです。何だと思いますか? これ、間違いなく1番なんですが、何かといいますと、高齢化のスピードなんですね。
(会場笑)
山中:これはどこの国よりも、日本は遥かに速く進んでいます。人口ピラミッドって知ってますよね? 横軸が男性、女性の数で、縦軸が年齢。昔の日本は富士山型で、非常に安定だったんですが、もう20年もしたら日本は逆富士山型という、非常に不安定な社会になります。
長生きするのは非常にいいことですよね。平均寿命が延びることはいいことなんですが、ただ問題は、健康寿命と平均寿命の間に10年ぐらい差があるんです。
健康寿命というのは一人ひとりの方が自分のやりたいことをやりたいようにできる年齢。今、日本の平均寿命は男女とも80歳以上ですが健康寿命は、70歳ちょっとなんですね。
そうすると10年間は介護が必要になったりする。この期間を日本は短くしていかないと、特に若い人はそういう高齢者、介護を必要とする人を支えていく必要がありますから、大変な負担を強いることになる。
私たちが今やろうとしているのは健康寿命を伸ばしているんです。そういう意味で世界的な規模でいくと、今回ノーベル賞を貰われた大村先生っていうのは、寄生虫をやっつける薬を開発されて、すでに世界中で何億人っていう人の寿命と健康寿命を両方とも伸ばしているすごい方です。
この間、僕の中学からの親友というか悪友と飲んでましたら「山中、大村先生って本当すごいよね。もう何億人も助けてはるんだよね」と。「何でお前が先に貰ったんや」って言われまして(笑)。
赤﨑:(笑)。
山中:僕も酔いが一気に冷めましたが……。
(会場笑)
山中:その通り、その通りなんです。やはり僕たちのiPSっていうのは、一昨年になりますが、神戸でお一人だけ患者さんの手術が始まって、その方は順調に経緯してるんですが、いろんな法律とか規制の問題で、なかなか広がっていかないです。
これを何億人にというのはなかなか難しいですが、できるだけ広げていくというのが、今、私たちの最大の目標です。
私たちの賞は医学賞なんですが、英語はPhysiology or Medicineなんです。生理学、つまり生命現象で新しいことを見つけた仕事がPhysiology。Medicineっていうのは新しい治療法等の開発です。
おそらく私たちの仕事はPhysiologyのほうで評価されたんじゃないかと思ってます。大村先生は間違いなくMedicineのほうですね。僕も元々臨床医でしたので、何とかPhysiologyに終わらずにMedicineのほうで貢献できるように頑張っていきたいと思っています。
大村先生の仕事は、ものすごく日本を明るくして、日本だけでも経済効果が何兆円という規模ですし、新しい雇用も何万人とつくられた。
ですから社会貢献がものすごいですから、本当にすばらしいんですが、私たちは社会貢献という意味ではこれからという段階でありまして、ノーベル賞をいただいたときに、「これはもうしまっておこう」「ちゃんと社会貢献ができたらゆっくり見よう」と思って、日本で帰ってからも両陛下にはお見せしましたがそれ以降は僕も1回も見ていないの。
今日も主催者の方に依頼していただいたんですが、ちょっとそういうことで持ってこなくて申しわけなかったんですけれども。自分も長いこと見ていませんので、何とか赤崎先生のお仕事のように本当の意味で社会に役立つ仕事にしたい。あと何年研究できるかわからないんですが。
赤﨑:しかし非常に夢のある……。
山中:そうですね。
辻:そうすると、山中先生がそのメダルを見ることができるその日を、私たちも楽しみにしたいと思います。
赤﨑:また次のノーベル賞もね。
辻:そうですね。今日はお二人の先生方から非常に意味の深い、また若い方にとってはとても勇気付けられるお話を伺ったのではないかと思います。先生方、本当にどうもありがとうございました。
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