ストリートスマートの代表例は松下幸之助

大前創希氏(以下、大前創希):アカデミックスマートとストリートスマート。このストリートスマートってどういう意味なんですかね。

大前研一氏(以下、大前研一):松下幸之助さんみたいな、小学校しか行ってないけども、やっぱりものすごい判断力と好奇心がある。あれがストリート。ストリートで非常に頭が良くなったというか、生活の知恵を持ってる人ですよね。

アカデミックスマートは、先生の言うことを全部覚えていった人。そういう勉強の仕方をした人はアカデミックスマート。こういう人が一番集まってるのが役人でしょう。だから役立たずって言われて、もうこいつら本当に役立たずですよ。

だからやっぱり、いま学校で教えてることを全部覚えたとしても、新しい問題についてはどうしようもないし、それから欧米に追いつけ追い越せと言ってる時代は、日本はそっちに行けばよかったんだけど、いまオバマさんに、「あんた何やりたいの?」「中東でどうするんですか?」と聞いたら、「?」だよね。

先週ジェブ・ブッシュ、フロリダ知事が今度は大統領候補で、「あなただったらイラクに行きましたか」って質問を受けて、「お父ちゃんは行った、兄ちゃんも行った。あなただったら、ああいう状況のときにイラクに行きましたか」って聞かれて、いまの大統領候補としては「自分だったら行かなかった」と言わざるを得なかった。

あれだけ仲のいいブッシュ家でも、兄さんを否定して、父ちゃんを否定しなきゃいけないという話ですよ。つまり、アメリカが世界のリーダーだと言うんだったら、「アメリカが方向を示せ」と言ったって、何考えてるのかわからないですよ。結局、答えは自分で見ないといけないですね。

ストリートスマート、幸之助さんが代表例です。幸之助さんは小学校しか出てなかったけども、それだけ早く世の中に出たので、自分で一生懸命質問して答えを自分で見つける。見つけるまで、自分でいろいろな人に話を聞く。こういうスタイルの経営者でしたけれども、日本の生んだ偉大な経営者のトップの1人だと思いますけどもね。

大前創希:今のお話を聞いてますと、ストリートスマートとアスクエブリワンとラーン、リーダー、ネットワークみたいなところは、だいぶつながってるような感触がありますよね。

大前研一:同じことですよね。

大前創希:そうですよね。

大前研一:同じことです。だから三洋をつくった井植歳男さんという人が、自分が中学まで行っちゃったと。三洋の井植さんは、幸之助さんの奥さんの弟だったわけです。だから、もともと松下にいたわけです。

けんか別れして自分で独立したときに、俺は兄貴にかなわないと。理由は兄貴は小学校を出て世の中のことを知る。世の中のことを知るのが早かった。自分は中学まで行って勉強しちゃった。だから、かなわない。

したがって、日本じゃなくて世界をやろうと言って、スリーオーシャン、インド洋、太平洋、大西洋と。「こっちは俺が先にやるぞ」と言って、三洋という名前がついた。それから五十数年たってみると、なんとその三洋が松下に吸収されて、名前もパナソニックに変わって三洋はなくなっちゃった。これも歴史の因縁ですよね。

そのぐらいやっぱり世の中に早く出て、お客さんの考えとか言い分を肌で感じるのは重要なことですね。

3つのクラウドが重要な意味を持っている

大前創希:いまの時代の中で、やはり学校で学ぶ、頭の中に詰め込むところを重要視するのではなくて、やはり自分で考えて、人といろいろとコミュニケーションしていきながら、自分で答えを導いていく人間像が、この時代2015年に求められているところですね。

今日はクラウドを使ったお話もあると思いますので、最近よくクラウド系のセミナーに出ているという噂を聞いておりますので、これらのことについて少し話をしていきたいなと思いますが、ちょっと違うクラウドが混ざってるんですけども、クラウドコンピューティング、ソーシング、ファンディング。

大前研一:日本の講演のときはオジンギャグ使って3つのクラウドって言うと、「うん、なるほど」って思ってもらえるんだけど、英語だと最初のクラウドは、Amazonがそうですね、クラウドはLなんですね、雲のほうのクラウド。

それから2番目のクラウドソーシング、これは今日、吉田浩一郎君が来てますけども、クラウドワークス、群衆という意味のクラウドですね。だからRなんですね。それから最近ずいぶん機能するようになってきたクラウドファンディング。これも群衆、一般の人、クラウドですね。

だから英語ではこのジョークが通じないんです。日本のオジンギャングで私が考えたんですけど。3つのクラウドと言って、この3つはしかしながら非常に重要な意味合いを持っています。3つ一緒に考えたほうがいと思います。理由は小は大を制す可能性がある。

つまり、このクラウドを使うことによって大会社とか大組織、うんと先に行ってる人よりも、個人でも、小さな会社でも、田舎にいても克服することができるということですね。

だから一番下にあるファンディング。これもKickstarterみたいな会社がありますけども、Kickstarterが最近集めたお金というのは、一番おもしろいヤツはこの時計ですよね。「Pebble」っていうんですけども、24億円を集めてます。

だからクラウドファンディングの場合には、あなたに資本家になってくださいとエクイティを募集するわけですけれども、同時に「こういう商品を作りたいと思ってますので、できたらあなたには、これを送ります」と。そして送って「あなたは資本家です」ということですね。

だから、エンジェルがああいうサイトを見ていると、おもしろいアイデアがいっぱいあって、ここに50万円とか100万円とか乗っけていくと、全部足して24〜25億円も集まるようになってきた。

2番はクールボックスですね。要するにアイスボックスだけども、そこにUSBが挿し込めたり、いろいろな機能のついたやつで、「こんなアイスボックスは必要ないですか?」「キャンプに行くとき、これいいね」と。できあがったらそれを1つもらって、プラス資本を握れる。

だめもとでも商品あるからいいかと。いま日本の地方納税で牛肉がもらえるとか、桃がもらえるのと同じように、クラウドファンディングが非常に機能するようになってきてます。

パワーポイント資料の英訳はoDeskが便利

それからクラウドソーシング。これはおそらく最も重要なやり方ですね。要するに自分の目の前にいる人じゃない人。会社の同僚じゃない人。下請けでも、外注でもない人。見も知らぬ人に、いろいろ仕事を手伝ってもらうやり方です。

大前創希:発注したことがありますよね。

大前研一:僕を「oDesk」っていうのを年中使ってるけども、oDeskがいま世界で一番でかい。日本では今日来たと聞いておりますけども、吉田さんのところのクラウドワークス。去年の12月12日に上場してますけども、おもしろい会社です。

それはどういうコンセプトかというと、私の場合は日本語でパワーポイントをつくる。誰か英語にしてくれないかなというときに出します。そうすると日本語のパワーポイントを英語に直してくれる。しかもきれいに英語の体裁でやってくれる。こういうやつが一斉に何十人から、「私がやります」と来るんですね。

大半の人は日本人なんです。海外に住んでる日本人。でも、その人たちはたぶん海外に出向している旦那さんにくっついて行って、大学の頃は旦那より成績が良かった頭のいい奥さん。そういう人がアゼルバイジャンで悶々としてる。ボーンと仕事が来た。やってあげよう。

こっちは、その人が信頼できるのかどうかわからないけども、ヤフーオークションと同じように、この人を使った人のいろいろな評価が書いてあるんだよ。そこでチェックするのと同時に、私の場合だったら最初の3枚だけ候補者5人に送ってやってもらう。その中の一番感覚が合う人に頼んで、あとをお願いします。

福島第一の原発の分析も出しましたけども、これを英語にしてくれと言われて280ページ。1人事故調をやりましたけど、280ページ。全部oDeskを使ってやりました。

だから、そういうときには非常に便利ですし、皆さんが会社のパンフレットを作った。それをバハサマレー、マレー語にしたいとかね。インドネシアで使えるようにしたいとか、ロシアに売り込みたいとか。そういうときも、これを使うと一瞬にしてできます。日本の変なエージェントを呼んで頼むよりも、値段は10分の1以下。スピードもものすごい早い。

つまり、これって使ってなんぼなんです。使ってみることが重要でね。そういうのがあるという知識だけじゃなくて、もちろんoDeskの中核的なものはコーディングですから。要するにシステム作ったりするところなんですけども。

だから、もう少しサイエンティフィックでR&Dに近いところは、また全然別のサイトがいくつかあります。NineSigmaとかがあります。ですから使い方は、ものによってどういうクラウドが集まっているかをよく知ること。

Amazonがクラウドコンピューターを握った

それから、もう1つクラウドソーシングじゃないんだけど、LinkedInですね。LinkedInは、やっぱりこういうSNSみたいな形態をとりながら、世界最大の就職サイトになったわけよ。要するに、エンジニアのプロフェッショナルの人たちがグループで集まってて、誰がどういう能力があるかわかってる。

「俺、会社が嫌だから辞めたいんだよね」なんて言ったら、「君のような人だったら、この会社が採ってくると思うよ、紹介しようか」。あるいは「うちに来てくれないか」と、結果的にリクルートとかアデコのようなリクルート会社、20世紀型の会社じゃなくて、この領域で人材紹介では圧倒的に強くなってる。

だから入ってる人は少ないけれども、時価総額は高くなるのは、こういう理由ですね。つまり、プロの同類の人が集まってるんです。これもやっぱりクラウドソーシングというか、クラウドを使った就職サイト。普段いろいろとチャットしながら、その人の考え方とか能力がわかってるので、「彼みたいな人がうちにいたらいいよな」ということになってくるわけですね。ですから意外にクラウドソーシングの範囲は広がってると思います。

最後のクラウドコンピューティングですけど、これはまさにAmazonがいま非常に世界的に強いので、気が付いてみたらアマゾンが、その他のクラウドコンピューティングの会社を全部足したよりも強いことがわかって、いま証券市場ではAmazonという会社の時価総額、はじけないよなと。

クラウドコンピューティングを握っちゃった。断トツ50パーセント以上だと。残るすべてを足しても、Amazonのほうがでかくなってる。気が付いたらAmazonだった。時価総額に直したらいくらですか。誰もいま計算できないです。

ジェフ・ベゾフは、赤字でも平気でやっちゃう人ですから、なんとなくそこはディスカウントになってるんだけど、これ握ったらでかいよね。だから、ほとんどいままで気が付かなかったけど、ひたすら自分のところが表側がリテールになるという。本を売ったりいろいろなもの売ってる間に、バックエンドでこれを充実してたということですね。

大前創希:いまちょうどキーワードが出ましたから、少しだけ飛ばしまして、いまの時代、個人がすべてですよと。勝ちはステージ演出で決まるという話が、ちょうど前話してたときに出たんですけれども。

個人がすべてで、ステージ演出で決まるというのは、ジェフ・ベゾスを代表した人間性による部分があると思いますけども、そこってどういう意味なんでしょうかね。

21世紀は個人が国を負かす時代

大前研一:20世紀というのはグループで団結して一生懸命やることが非常に重要だったわけですけれども、もちろんその経営者個人の力も非常に大きな影響力があったけども、21世紀になってみるとスティーブ・ジョブズが死んじゃって、「ああいう人はもう出ないよね」と言ってたら、いつの間にかイーロン・マスクが出てきて、ジャック・ドーシーが出てきて、ベゾスもすごいとなっている。

考えてみると、いまは個人が国を負かす。日本がいま負けている産業を見ると、ほとんど全部、個人にやられてます。よくそこで間違えるのは、「アメリカってすごいよな」と言うんだけれども、実はいまから20年〜25年前のアメリカは、リサーチが3つの場所で行なわれたんです。

MITに行ったんだけど、あそこの128号線、ボストン、これが1つの極。もう1つはノースカロライナ、ローリーとかですね。それからシリコンバレーと言われてたんですけど、いまこの2つは見る影もない。

それから一時、ワシントン郊外にAOLが出てきて、ワシントン郊外も第4の極だと言ってる時代があったけども、いまはベイエリアだけです。あれが唯一のステージになって、世界中から我も我もと思う人は、みんなシリコンバレーというよりもベイエリアに来るんです。

その理由は、あそこで認められるとお金がつく。何しろ、いわゆるスーパーエンジェルと言われてるホロウィッツとかマーク・アンドリーセンのような人たち、ネットスケープを作ったのがアンドリーセンですけども、ああいう人が金を持ってて、目利き、鼻利きで、ずっと「あいついいぞ、あの会社だ」と金を入れる。だから金がドンとくるわけですよ。

そこに弁護士がついて、いろいろなアドバイザーがついて、あっという間にファンドが集まってくる場所は、シリコンバレーしかなくなっちゃった。でも、シリコンバレーは生活環境が悪いし、住宅が高いので、サンフランシスコのほうにどんどん来てるんですね。

ですからセールスフォース・ドットコムはサンフランシスコにあるんですけども、サンフランシスコからシリコンバレーのサンノゼまで、これがベイエリアですね、ここだけです。あとは閑古鳥です。だから、そこに人が集まってくる。どういう人が集まってくるかっていうと、アメリカ中から集まってくるけれども、もう1つはインド、イスラエル、台湾です。これがベイエリアの三大外国人ですね。

中国をうまく使える台湾エンジニア「チャイワン」

大前研一:それからイーロン・マスクは南ア連邦から来ています。セルゲイ・ブリン、Googleの共同創業者の1人ですけど、彼はロシアの移民の子供ですから、アメリカでは生まれてるんですけども、そういう意味で「何人?」と言ったって、それぞれすごいですよ。特に台湾がすごい。

台湾というのは、日本語ができて英語ができて、かつ中国語がネイティブ。こういう人は世界中にいないんですね。ですから仕事をやっていくときに、システムを作るだけじゃなくて、物まで作ってあげましょうと。いわゆる「チャイワン」と言います。中国をうまく使ってくれる台湾のエンジニアですね。

鴻海なんかが代表ですけど、最近はメディアテック、それからASUSから出てきたぺガトロンという会社がありますけど、アイシックスの一部はぺガトロンが作っています。非常にいい商品ですけど。日本の企業はそこに部品納入と。いまはもうチャイワン圧勝の時代になってます。

だからこのようにして、台湾の人はだいたいベイエリアで力をつけて、それから母国に帰ってくる人もいるし、中国に行って中国人を使いまくって、商品で勝つ人もいる。だからXiaomiという会社が創立5年で1兆円になったといって騒いでいるけど、あれもチャイワンに作ってもらってるわけです。

だからそういうことを考えると、シリコンバレーの中で幅を利かしているインド、イスラエル、それから台湾、そのほか東欧系、ロシア系がみんな集まってくる。これステージなんです。だから、ハリウッドが映画俳優のステージであるようにね。

でもハリウッドに行ってみたら、ラッセル・クロウとか、ニコール・キッドマンとか、オーストラリアのやつばっかり。アメリカ人じゃないわけですよ。そうして世界中からタレントを集められる場所は、アメリカの中でも1か所になっちゃいました。私はボストンが栄えてくれるとありがたいと思ってる人間だけど、もう見る影もないね。

大前創希:世界で見ても、もう一極集中っていうのが極端なんですね。

大前研一:1個です。

大前創希:はい。

大前研一:部分的には、さっき言ったエストニアみたいに、Skypeの開発とかやってるし、場所的にはいろいろあるんですよ。でも非常に限られています。

「熟練工になるな」という言葉の真意

大前創希:それでやっとここまで来たわけなんですけれども、未来を見ていきましょうと、残り10分ぐらいになってしまうんですが、ここで未来に向けて考えたときに、いまのところは整理できたわけなんですが、どうなるのかと。

これも2週間ぐらい前に話をして出てきた内容なんですけれども、一番最初のキーワード、「ソフトウェアの熟練工になるな」ということですね。2つポイントがあると聞いております。

熟練工はマシンの仕事になっちゃうよ。これは先ほどの置き換え、代替される可能性があるということですよね。発想、構想、コンセプトを作っていく仕事のほうが、この先重要なってくるよと。

これはいまお話しされていたように、それを作っている方々が、どんどんビジネスを大きくしているという現状を踏まえての話だと思いますけれども、ソフトウェアの熟練工なるなという話をお願いします。

大前研一:このマシンの仕事になる手前に、エキスパートになるだけだと、だいたい安い国に行っちゃいます。ネットを通じて安い国に。これが最初に観察されたのが、アメリカのソフトウェアの開発の大半がインドに行っちゃったことですよね。それからさらに世界に広がってしまう。

クラウドソ―シングの1つですけど、どんどん同じ仕事だったら、コンピューターのプログラミング仕事は、ソフトウェアの仕事みんなそうですけれども、標準があるわけで。その標準でやってる限りにおいては単価の安いところにいく。

だから日本の場合、システムをアウトソーシングすると、IBMなんかに頼むと月300万円。安い会社に頼むと80万円か60万円とかするじゃないですか。6万円でやってくれる人が世界には5万といるんだから、その程度のものだったら。だから、そこの差が10倍じゃきかないんです。

それから、かなり高級なやつでも、やっぱり300万円と言っても、500万円と言っても、「そういうものだったら20万円で行けます」と。ベラルーシなんて国はそうだね。そうなってくると、このようなプログラムをやっていく、ソフトウェアのことをやっていくのは、世界中で安いところにどんどん流れていきます。

それからEPAMという会社がベラルーシにあるけど、ああいう会社は、お客さんから仕事を聞いて、「それだったらこうしたらいいよね」と解釈して、自分のチーム、またはoDeskみたいなところにぶん投げて、納期どおりに商品もタイミングも収める。これが安くできるわけですよ。

つまり、アービトラージされる。だから機械とか、いまのようなシステムにアービトラージされるような仕事の熟練工になったらだめだよというのが、私のポイントです。

価値を高める仕事はマシンに置き換えられない

大前創希:はい。いまですらもうクラウドを使えば安いところに出せる。それが20年後には今度は機械、システム、ソフトウェア、プログラミングによって、人がやらなくてもできるところは、たくさん出てくるよねというのが1つのポイントになってくると思いますね。

大前研一:だからキーは、発想、構想、コンセプト。新しいことを考えついて、そのシステムを作るか、例えば、いまのAppleみたいに自分でOSまで作って、そこから先のマシンに変えていくところはメディアテックとか、鴻海みたいなところにやらせるか、Qualcommにやらせると。

つまり、最初の発想のところは、やっぱりどうしても自分で押さえとかなきゃいけない。ここまで持っていかれちゃったら、どうしようもないということですね。

大前創希:そこで、こちらのほうのキーワードが出てくると思いますが、新しい価値を生み出す力をつけろ。価値を高める仕事はマシンへの置き換えが極めて難しいところがポイントになるかと思います。

大前研一:そうですね。だから、私もコンサルタントとして長い間、非常に高い値段でやってきたので、ここはよくわかるんだけども、最初にマッキンゼーのコンサルティングを始めたときに1か月2500万円。世界は全部2500万円。その時、能率協会のベテランのコンサルタントが1か月50万円。私32歳。こっち65歳。どうやったらいいのかを集中的に考えたからね。

それで、そのあと価値がわかってくれたら、2500万円でも、いくらでも仕事が来るようになったんだけど、ここがやっぱり、私にとっては生きるか死ぬかの勝負だった。この前も時計でウブロのビジネスが日本に来たときに、日本の時計メーカーは、何であんな素晴らしい時計を15万円で売るのよと。私のところは250万円で売ってるよと。

どちらが精度が高いかといったら、日本の時計のほうが精度が高い。わけのわからない時計が250万円。つまり価値を取れるかどうかなんですね。

大前創希:ちなみにこれもいま、200万円そこらで売ってる「Edition」っていうのがありますけど、Apple Watchですね。

戦略系コンサルティングが機械化できないのは差別化の問題

大前研一:そう。だから、実はいま、おもしろい現象があって、世界のスーパーリゾートって1泊16万円で食事がついてないとか、50万円のところもありますよね。アジアにあるんですけど、スーパーリゾート。

アマングループとかシックスセンシズとかって、すごいシャンデリアがあるとか、すごい家具があるとか、馬鹿でかいベッドがあるんじゃなくて、テントだったりね。変なその辺のローカルの人が作ってくれた木材だったりして、そういうのを求めて20万円、30万円を払う。

つまり人々が払うお金は、ほかでは期待できないものを求めている。これは何でも同じです。だから、新しい価値を生み出すのは、ヨーロッパ人は都市ホテルにもう疲れた。モルディブに行って水上コテージに泊まる。あるいはアマンワナに行ってテントに泊まる。これが彼らから見ると、新しい価値なんですね。

ですから値段の競争ではなくて、価値の競争になる。その価値を高める仕事は人間にしかできないことなんですね。そういうことはシステムでも、コンサルティングの世界でも、もちろんあるわけで。そういうものを生み出す力を磨いておくと、置き換えられることもないと思いますね。

大前創希:例えば最近、今日はデベロッパーカンファレンスなんで、少しそれっぽい話をしますと、ディープラーニングみたいなキーワードがものすごく流行りつつある。いろいろと私もFacebookで友人が、そういうプログラミングを組んでみて、いろいろなことをラーニングできているという話が、「すごい楽しい!」となってる部分もあるんですが、このAIが考えて何か価値を生み出すことは、20年以内に起こり得るんですかね。

大前研一:僕も戦略系のコンサルティングを、マシンに置き換える試みを何回も見てきたけども、誰も成功してない。

大前創希:なぜなんですか。

大前研一:それはやっぱり、それができるようになると価値がなくなって、普通の去年入ってきたようなスタッフが使えるようになるわけ。その程度だと、企業の差につながらない。だから企業の差につながる部分は、どうしても人間が新たに考え出さなきゃいけない。

だから、その程度のことでも使えない会社はもちろんあるんだけども、価値を生まない理由は差別化ができないからです。みんながすぐ使えるものを作っちゃったら、もうそれは差別化の原因にならないということですよね。

Airbnbはすでに世界の5番目に大きいホテルチェーンに相当

大前研一:だから例えば、アメリカでAirbnbなんて会社がある。これって相手のものを使おうという、いわゆるシェアエコノミーの一部です。相手のものを使いましょうと。そうすると、息子が育っちゃって、あの部屋が開いてるから、うちも登録しておこうかっていうと、ヨーロッパから(お客さんが)1か月ぐらいくるという話になってくるのね。

そのようなものを新たに考えると、いまでは世界の5大ホテルチェーンの、5番目にこの会社が入ってきてます。あっという間に。それから、WeWorkという会社があるんですけど、これもニューヨークで生まれて間もない会社なんですけども、いま時価総額が500万ドルということで6000億円。

何をやってるかというと、事務所のサブレントです。自分たちでこの事務所を借りて、あの事務所を借りて、それで1人で使いたいときは35ドルから、そこの事務所を使うことができる。350ドル払うと、こんなファシリティーもついてくる。その代わりドリンクとかは全部こっち側で用意してある。

このスペースは巨大なスペースで、いちいち事務所をつくって、デポジットを置いて、どうのこうのとか登録しないで、ネットで頼んだら自分の事務所。だからいま、シリコンバレーの会社は、これを使ってニューヨーク支店、テキサス支店とどんどん出して、一気にネットワークを広げることができるようになっています。WeWorkですね。

これはいままで考えられそうで、ここまで持ち上げた人がいないんだね。そうすると1人で、ここからどんどん行っちゃうと思います。

大前創希:シェアオフィスだと私も何度も見たことあるので、シェアオフィスというビジネスモデルそのものは、いままでもありましたよね。それが急にここまで持ち上がったのは、なんでですかね。

大前研一:これは事務所に行ったら、ものすごい便利さがあるわけ。要するに共通のスペースでは、夕方になるとビールがただで出てくる。そうするといろいろな事務所にいる人が来て、和気あいあいと始めちゃうとかね。それから要するに、そんなにチープじゃない。35ドルのやつはチープだけれども、350ドル払ったときは、こんな事務所も全部個室になってる。全部ネットで選べる。

しかも、エンパイアステートビルの全フロアよりも、でかいスペースを全米に持ってる。サブレントですよ。だから法的には、ものすごい便利なわけですね。ちょっとあそこに支店がほしいっていうときにね。事務所は開設するだけで大変ですけども、これが全部できあがってる。そこまで持っていくと、やっぱり差別化になるわけですね。

これからの企業は最初の2年が勝負

大前創希:人が便利だと思うものであったりとか、人が新しい価値を生み出そうと思うものは、なかなかシステムでは作ることはできないと。またそれは自分で考えて作っていかないと、なかなかサービスとして立ち上がらないので、個の能力が求められる時代になっていくし、20年後もそれは変わらないだろうという話ですね。

大前研一:そうだね。だからUberなんかもそうだけども、いろいろ法的な問題は世界中で起きてるけれども、やっぱりあれに慣れた人は使いたがるし、規制がないところでは、どんどん広がっていってるよね。

だからそういう意味で、規制天国日本みたいなところは、まだ何とか守られてるけども、やっぱりああいうものを考え出して、行くとこまで行っちゃうと、そこから先は2年ぐらいが勝負という時代になってる。

だから新しい価値を生み出したら実行して、それを1年以内に実現していく。1年、2年でね。だから医療関係では、Practice Fusionみたいな開業医向けのメディカルシステムを作って、2年で勝負と言ってる会社があります。電子カルテも含めてね。

だからスピードは2年。3年目でものになってなかったらやめなさい。もう1回やり直しなさいとなってきています。

大前創希:はい。ちょうど私も3年目の事業があるので、3年目、気合い入れてやっていきたいと思います。せっかくなので、残り少ない時間なんですけれども、1名だけ質問を受けたいと思うんですけれども、もしよろしければ1名だけ質問のほうをお願いいたします。挙手いただけた方から質問させていただきたいと思います。どなたかいらっしゃいますか。

大前研一:1名って言われると、やりにくいよね。

大前創希:(笑)。

大前研一:一命をとりとめた。

大前創希:ぱっと挙げられる方、いますか。はい、どうぞ。いまマイクが行きますので、少々お待ちください。

現在40歳の人は今後10年をどう生きるべきか

質問者1:すみません。先ほどのお話で、全体的に世界中の平準化がすごい勢いで進んでいると。その中で、個をどう価値を出していくか、ずっとお話いろいろいただいたかと思うんですけれども。

いま我々が、例えば私、今年で40歳なんですが、これから世の中に出てくる方と、インターネットからすごい勢いで進んできた10年を社会人として過ごした人間、いわゆるおじさん連中がどう生きて、個を学んでいくか。

もちろん、いろいろな方にお話をお伺いして、というのも全部受けた上で、1つだけ、ここを意識して次の10年を生きていくことが何か1つあれば、ぜひお教えいただきたいなと。

大前研一:これから世の中に出ていく人。

質問者1:ではなく、もうこのインターネットの10年を過ごした、おじさんたちに1つ。

大前創希:私みたいな41歳の人が、次の51歳になるまでの間の心持ちをどうするのかって話ですね。

大前研一:ひたすらいじりまくる。新しいサイトでも、今日出てきたようなサイトでもなんでも自分で実感として、とにかくこれを浴びて、毎日いじって、そして友達をつくる。その友達も同類じゃなくて、とんでもない感じの友達がいいです。類は友を呼んだらいけないです。

やっぱり変わった野郎とか、自分とちょうど思想が反対とか。それから年齢差、もうちょっと上と、かなり下まで。私なんか彼の娘、私の孫と話してると、もうぶっ飛んだことを言うからね。もうスマホが染色体に入ってるぐらい早く検索できるし。そういう子と話をしてると、「ええっ」ていうこと、いっぱいありますから。

だからやっぱりその感覚が重要だと思います。要するに、今日出てきたようなところとか、エストニアとかを自分で、土曜日の暇なときには1回は見てみると。サーフィンしたらだめですよ。今日はこれを調べようと思って、さっき言ったWeWorkというサイトをとことん調べたら、日本ではまだまだチャンスあると思うし、そういうものですよ。

だから孫さんは時間差攻撃って言って、アメリカでやってることを日本に持ってきて、だいぶうまくいったって言ってますけども、やっぱり私は世界でいま急速に伸びているシステムとか、サイトとか、サービスとかをとにかく自分の体で浴びることが非常に重要だと思います。知識じゃなくて、動かして、自分の体験として、向こう10年それをやったときは、ものすごい幅の広い、いろいろな思想ができる、考え方ができるようになると思います。

大前創希:それでは最後に締めしたいと思うんですけれども、私のほうから皆さんに贈りたい言葉として、「最も強い者が生き残るのではなく、最も賢い者が生き延びるのでもない。唯一生き残ることができるのは、変化できるものである」。

ということで、今日の話を聞いていただきまして、ぜひ変化の兆しを感じ取っていただいて、次の10年、次の20年、徹底して変化できる人間であっていただけたらと思って、今日の話を締めくくりたいと思います。今日はお時間ありがとうございました。

大前研一:どうも。

(会場拍手)

制作協力:VoXT