ミルクは子供のためのものだった

ハンク・グリーン氏:あなたは自分がX-メンだとか、実は天候をコントロールしたり他人の頭の中を読んだり、テレポートしたり、そんな類のかっこいいことができるミュータントだったら……と考えたことはありますか?

それでは聞きましょう。ミルクはお好きですか? アイスクリームは? 体調が悪くなったりしませんか? おめでとうございます。あなたはやっぱりスーパーパワーを持ったミュータントです。

ミルクは主に他の食べ物を消化することができるようになるまで、赤ちゃんに栄養を与えるために哺乳類の乳腺で作られるものです。にも関わらず、ミルクは本当に栄養豊富です。たっぷりのタンパク質、カルシウム、カリウム、ビタミン、そして、たっぷりのラクトースあるいは乳糖も含まれており、これは消化が難しいものです。

幸運にも、人間の赤ちゃんを含む哺乳類の赤ちゃんは、ラクトースの消化酵素であるラクターゼを大量に生成しているのです。

もし彼らが唯一の栄養源を消化することができなければ、彼らは死んでしまいます。子供が4歳とか5歳の頃には、彼らの身体においてラクターゼ生成が弱まってきます。そして7歳から8歳頃くらいには他の動物のミルクを飲むと体調を崩すようになります。

もしあなたやあなたの知ってる誰かがラクトースを許容できない体質の場合、2スクープのチョコレートチップアイスクリームに敗れて惨めにトイレに閉じこもる羽目になります。そして、そういう苦しみに苛まれる人は実は大多数に上ります。世界の人口における約70パーセントの人々は、子供時代以降、ラクターゼを生成できないのです。

大人になってもラクターゼを生成できるのは突然変異

ラクターゼがない人にとって、ミルクは基本的に毒になります。ではなにが変わったのでしょうか? どうしてミルクは赤ちゃんのためだけの変な食物からスーパーマーケットの必需品になることが可能だったんでしょう? 答えは2つの言葉、「ミュータント」つまり突然変異と、「農場主」たちです。

人類が動物を飼いならすことを始めたのは、11,000年前、中東からでした。

肥沃な三日月地帯では8,500年前、中央ヨーロッパでは7,000年前の遺物から乳脂の跡が発見されました。

科学的な分析によると、新石器時代に家畜を世話していた人たちがミルクの中のラクトースの濃度を薄くする新たな方法を見つけたことを示唆しています。発酵させるんです。チーズとかヨーグルトにしちゃうんです。でも彼らにできたのはそこまでです。

彼らはミルクそのものを飲むことはできなかったのです。ヤギであれ、牛であれ、なんであれ。そして遺伝子変異が起きて、全ては変わりました。ラクターゼ持続性形質として知られ、それはLP対立遺伝子と呼ばれるものによってもたらされます。

科学者はそれが最初に現れたのは約7,500年前の中央ヨーロッパであると考えています。それはひとつの小さな異型遺伝子で大人になってもラクターゼを生成し続けることを担うのです。

それはおそらく新石器時代にヨーロッパを通って北や南へ移動したグループによって広がりました。

ミルクを一気飲みできるのは人類のたった30パーセント

対立遺伝子はいくつかの理由から、とりわけ北に広まりました。ひとつには乳製品は涼しい気候のところのほうが保存しやすく、食べ物を入手するのが難しい場所において、乳製品は非常に便利だったのです。

加えて、日照時間の短いような地域では、ミルクに含まれる高濃度のビタミンDは、健康上、貴重なものでした。通常、私たちの身体は、ビタミンDを体内で生成するのに、日光を必要としますからね。

ですから、ラクターゼ持続性形質は人類移動の波を形成するのに一役買ったわけです。でもどこにでも必要というわけではありませんでした。こんにち、英国とスカンジナビアにおいて90パーセント近い大人があらゆるミルクを一気飲みすることが可能ですが、一方でちょっと下にある地中海沿岸においてラクターゼ持続形質を持っている人はおそらく40パーセントにも及びません。

そしてアフリカやアジアの人口においては、10パーセントにも満たないところがあることが明らかになっています。

ですからあなたは何のお咎めもなくアイスクリームを食べることができる世界における選ばれた30パーセントのミュータントってわけです。他者より抜きん出た素晴らしい進化を存分に味わうのだ!