第154回芥川賞・本谷有希子氏『異類婚姻譚』

司会:同じく芥川賞の本谷有希子さんにお願いいたします。本谷さん、今の感想をひと言よろしくお願いいたします。

本谷有希子氏(以下、本谷):今、本当に頭が真っ白な状態で。でも、滝口さんのコメントをいろいろ聞いて、ああいうふうに率直に言っていいんだなと思って、ちょっと安心しました。

司会:はい、ありがとうございます。それではご質問の方、挙手をお願い致します。

質問者1:朝日新聞のヨシムラです。おめでとうございます。

本谷:ありがとうございます。

質問者1:選考委員の奥泉(光)さんが選評の中で、「説話の構造を現代小説に生かして、とても成功されている」という評価をされました。

その一方で、否定的な意見として、「これまで本谷さんにあった凶暴さが失われていて残念だ」という選考委員の方がいらっしゃったそうなんですが、そのことについてどう思わますか?

本谷:今までわりと激しい欲望を持った人や、激しい感情を持った人たちが出てくる小説を書き続けていたので、確かに今回の専業主婦のサンちゃんはほとんど激しい感情に突き動かされることもなく、のらくら生きているという人物なんですけど。

やっぱり私の場合、小説ってそのときの自分の人格にどうしても引っ張られちゃうので。昔は激しかったんですけど、最近はやっぱりのらくらしたりとか、だらだらしたりとか、だらしなくというのが自分になってるので、それがそのまま出ちゃった。

だから、今の私が激しく書いても、たぶんご期待に沿えるような激しさではないんじゃないかなと。でも、またもうすぐ激しくなるんじゃないかなと思います。

質問者1:ありがとうございます。

司会:続いて、奥の眼鏡の方。

出産間近に仕上げた作品の特徴

質問者2:読売新聞のウカイです。おめでとうございました。

本谷:ありがとうございます。

質問者2:今日はずいぶん「おめでとう」って言われたと思うんですが。去年の10月もずいぶん「おめでとう」って言われたと思います。

本谷:はい。

質問者2:去年の10月のおめでたと今日のおめでたと、どこに共通点があってどこに違いがあるか教えていただければ。

本谷:10月のおめでたは、私が第1子の娘を出産したばかりで、もうすぐ3ヵ月になるんですけど。そのおめでたと、このおめでたの共通点はちょっと見つからないんですけど。でも、その赤ちゃんがお腹にいたときに小説を仕上げていて。

それで、さっきも言ったように、私は2年半ずっとのらくらして、ちゃんと形になる小説を書けていなかったんです。

でも、出産が決まって、その出産までに何とか小説を書かなきゃいけないと思ったときに初めて書けたので。いつ破水するかわからない状態で、ずっとやり取りをして直していました。

それで、今まで3回ダメだったのに、今回彼女が生まれて初めて、4回目で受賞ができたので、自分の中では娘と今回の作品はすごく関連しているような気がしています。

きっかけはパソコンの顔認証システム

質問者2:それとの関連なんですが、本谷さんは小説を書いていると登場人物になりきるところがあるとお伺いしたことがあるんですけれども。今回、長女の方がご出産されたときに、日記で「自分と顔がよく似ている」と書いてたんですが。

今回の小説の設定は、主人公とパートナーの顔が似てくるという話なんですが、書いているときにご自身のパートナーとも顔が似てくるという現象はあったんでしょうか。

本谷:はい、ありました。実はこの話の本当のきっかけというのは、私、パソコン詳しくないからあってるかわからないんですけど。

人から(聞いたところ)、写真の整理をしたときに、この顔の人を全部勝手に顔認証システムか何かでパソコンがより分けてくれる、その人の写真だけ集めてくれるという機能があるらしくて。

それをしたときに、私と旦那さんがなんでか知らないけどいっぱいごっちゃになって入ってたって。

そのパソコン内では、私のことを旦那さんと認識して1つのフォルダに入れていたという話を聞いたのが実はきっかけで。

なので、実際その写真を見比べても自分はどこが似てるかわかってなかったんですけど。そういう現象ってあるんだなって思ったところから一段落目を書いて。

その夫婦の顔が似てくるという中にある薄気味悪さを感じ取ったときに、2年半書けなかったけど、これは書けるかもしれないというような予感がありました。

司会:よろしいでしょうか。続いてご質問の方。右の前の方。

慌てて家を出てきて靴下を左右間違えた

質問者3:niconicoのタカハシです。ニコニコ動画はご存知でしょうか。

本谷:はい。

質問者3:ありがとうございます。では、視聴者から寄せられた質問を代読したいと思います。埼玉県30代の女性の方、ほか何名かからいただいてるんですけれども。「今日のファッション、特に靴下について教えてください」という。

本谷:それ、(左右で靴下の柄が)違うやつですよね。正直、取ると思っていなくて、それで着ていく服も決めていなかったんですね。

本当にゆるい家着みたいなのを着て、赤ちゃんがいるので自宅でみんなと待っていて……。それで、取って「10分後に出発だ」と言われて、それから服を慌てて履いたときに間違ったんだと思ったんですけど、そのまま来ました。

質問者3:では、偶然でということなんですね。

本谷:でも、もともと靴下をぐちゃぐちゃに履くのが好きなので。

今後も声優に挑戦する可能性は

質問者3:続いて、群馬県30代の男性の方からの質問です。受賞おめでとございます。

「今回の作品を読んだときに、妻にこう思われていたら嫌だなと思うところがたくさんあったのですが、本谷さんご自身が配偶者に対して思う気持ちが反映されているのでしょうか。また、この作品は配偶者の方は読んでいるのでしょうか」。

本谷:はい、配偶者の方は『群像』に掲載された時点で読んでいます。私が原稿用紙を書いてるときにチラチラ見てたので、たぶん夫婦の話だなということと、自分が出てくるんじゃないかというふうに期待してたらしいんですけど。

実際、この話に出てくる、すごい楽をしたい旦那さん像とうちの本当の旦那さん像は真逆なので、それを読んだときにとてもがっかりしていました。

質問者3:ありがとうございます。最後に、ニコニコユーザーは非常にアニメが好きな方が多くて、本谷さんを『彼氏彼女の事情』の声の役者ということで認識されている方が多いかと思うんですけれども。今後も声優に挑戦されたりする可能性はあるんでしょうか。

本谷:19歳のときに、あのアニメをオンエアで見たときに、あまりの棒読み加減に絶望したのでもうないと思います。

質問者3:ありがとうございます。