「出版」はレコード業界用語

高橋健太郎氏(以下、高橋):なるほどね。僕も、なんのかんので1980年ぐらいから音楽業界にいるんですね。音楽業界にいて、レコード会社の人との付き合いは多いんです。けど、レコード会社の人と付き合ってても、著作権のことはなんにもわかんないんですね。

「どうもレコード会社の人もわかってないんだろうな」って思ってて。1990年ぐらいからプロデュースとかやらしてもらうようになって、95年ぐらいからかなり本格的に音楽制作に入るんです。

そうすると、原盤のところと出版のところと……。実際に自分が作って手がけてるものがどうレコードになるのかって目の当たりに見るんですけども。でもその頃は、レコード会社の人は出版というのは触らないものというか、「触っちゃいけない」みたいな感じの。

三野明洋氏(以下、三野):今日いらしている方、「出版」って言葉も、多分わからない方がいらっしゃるんですよね。ここだけご説明しても意味ないんで。著作権って、非常に言葉がわかりにくいんですよ。

出版、出版って今、話してたんですけど、音楽業界の用語で「音楽出版」っていう「ミュージックパブリッシング」っていう言葉から出てくる意味なんですね。

高橋:もともとは譜面の出版だったんですよね。

三野:ええ。逆に言うと、「音楽出版」って言葉は「音楽著作権」と同意語と考えていただいていいわけです。

高橋:あ、あれレコード業界用語なんですね。

三野:そうなんです。出版って言った途端に、本を出す方向の理解が一般的なんです。ですから、聞いてらっしゃる方も「出版がどうした」とか「原盤がどう」とかっていうのは、音楽業界の特殊な使い方とお考えいただいたほうがいいです。だから一般的にいうと、「音楽著作権をどうするか」って言ったほうが理解が正しいです。

高橋:三野さんは、なるべく「音楽出版」って使わないわけですね。

三野:そうですね。「音楽出版」っていうのは、あくまでも音楽業界の特殊な言い回し。

高橋:染み付いちゃいますけどね。「原盤と出版」みたいなことですよね?

三野:そうです。

交渉したら「なんてことをするんだ」

高橋:なるほど。当時、僕も「出版」に、音楽著作権に関わらざるをえなくなって。そうすると、その音楽出版社の人と話さなければならないんですけども、本当にメニューが決まってるというか。

こっちにJASRACがあって。JASRACは、一律なのは団体の性格上仕方ないのもあると思うんだけど、出版社のほうもいわゆる50、50ですよね。あと、「タイアップになったのを持っていきます」みたいなのは、もう最初からすべて決まっていて、交渉の余地があるのないのという。

三野:そんなことはないですよ。交渉ごとは何ごともそうなんで。音楽出版社と著作者の関係というのは、あくまで力関係なので。人によっては「8割自分、音楽出版社は2割だ」ということを提示することは十分可能。

高橋:はい、だから僕もやったんですよ。「6:4でください」って言ったら、レコード会社の人が「なんてことをするんだ」と。

三野:それは多分、単純にその方に知識がないだけですよ。いたってシンプルなことで。私契約ですよ。要するに、一般的な1対1の契約ですから。なんでもありですよ。

ただ、MPA(音楽出版社協会)が作ってる著作権譲渡契約書っていうのがあって、その中には基本ルールが入っている。 高橋:契約書自体の書式は決まっていて、それが来ちゃいますもんね。

三野:ただ、パーセンテージは書き込むことになってます。

高橋:あと契約期間とかも大抵、存続期間になってるんですよね。

三野:今は多分ないと思います。その存続期間の契約っていうのは、オリジナル権利者に対して、全部買い取っちゃう感じになるので。今は大体5年から10年。

高橋:そうか、でも2000年で。

三野:もちろん、今でも存続期間契約っていうのはありますよ。ただ、それはあくまでも著作者に対して配慮されてるって契約内容ではないので。今は基本的に最短5年、一般的には10年までが常識です。

「風穴開けてやろう」とは思ってない

高橋:僕が見てた感じだと、90年代はわりとちゃんと年数を書きこめる書式が送られて来たんですけど。多分レコードバブルのなかで、2000年前後が一番酷かったんじゃないかなと思って。あのへんで存続期間の契約書が自動的に送られて来る感じになってたんですよ。

三野:私の周りは、ほとんどそういうことありません。

高橋:僕はそれで必ず突き返してて。僕の周りのミュージシャンにも「存続期間でやってはいけません、10年にしときなさい」ってみんなに言ってたんですけども。

三野:基本的に著作権って、著作者と音楽出版社で契約結ぶので。そもそも保護の期間も長過ぎますよね。これ言うと怒られるんですけど、「著作権管理事業者の社長がなんなんだ」と。一世紀を跨ぐような著作権の保護期間なんておかしいですよね。

数年前からアメリカの著作権、映画の著作物が95年になったとこなんですけど。一般の保護期間が70年。95年なんてありえないですよね。なんだけど、ああいうことを通っちゃうっていうのは著作権の特殊なとこですよね。あれ「ミッキーマウス法」って呼ばれてるの、知ってます?

高橋:はい、知ってます。そういう著作権に、三野さんはどの辺から「ちょっと風穴開けてやろう」的なことを思ってたんですか?

三野:いや、「風穴開けてやろう」なんて最初から全然思ってなくて。単純に1995年に……その前に色々あったんですけど、ちょうどあの年っていうのはWindows95が出て、コンテンツのデジタル化、メディアのIT化が一般の人たちも普及し始めたのが1995年なんですよ。

そういうことが始まると、「著作権管理どうすんの」って言ったときに、アナログの管理を全部やってたのが、デジタルの対応した管理をしなきゃいけなくなったんですよ。

ここで、JASRACはどうしても所帯が大きいですし、歴史を担っちゃってる部分もあるので、そういうものに対応するのがスピード感として遅くなったんですね。デジタル化されて、ITの時代になってくるにも関わらず、そこに対する著作権の管理の仕組みもできないと、それ自体が事業の発展に足かせになっちゃいますよね。

なので、「早期に対応をした規程を作っていく必要があるんじゃないか」っていうことを提言したのが最初なんです。

Napster最高!

高橋:1995年っていうのは、意外に近いと言えば近いというか。やっぱりITが大きい。

三野:やっぱりデジタル化ですね。コンテンツのデジタル化で、使い方が全然変わっちゃいました。例えば音楽を、CDでもそうですけども、CDだと、大体音楽は15曲か20曲入って終わりですよね。CD-ROMになると、それに映像が入って、700メガぐらいはありますよね。

DVDになるとそれの7倍ですよね。というふうに、容量の大きい物ができると、その分コンテンツも多くなるわけで。そうすると、それに合った著作権の使用料の仕組みを提案しなきゃいけない。

高橋:そうですね。著作権使用料が商品より高くなるんですよね。

三野:そうですね。ただ、パッケージ商品っていうのはどっかで限界があって。やっぱりネットワークになることは見えてたわけですよね。だから僕なんかは、話ちょっとずれますけども、一番好きだったのはNapsterですよね。

高橋:出ましたね。

(会場笑)

三野:本当に好きなものはね。死ぬほど好きなんですよ。2000年に、イーライセンス作ったときに、僕が「Napster最高」って言ったら、「著作権管理事業者の社長がなにを言ってるんだ」と。「そんな違法なものを使っておかしいじゃないか」って言われる。「冗談じゃないでしょ」って言ってましたね。

高橋:もう1人、Napsterで人生を変えたのが津田大介っていう。

三野:津田さんもそうなんだけど、やっぱり今でも僕、最高ですね。あれを潰しちゃったのは本当に寂しいですよね。だって、僕なんかどうやってやってたかっていうと、とにかく好きな曲を探して。

その前はどうやってたかっていうと、TSUTAYAへ行って、自分の探したい曲探すんだけど、なかなかないんです。

Napsterの後にiTunesが出てからは、アメリカからiTunesのプリペイドカードっていうのを送ってもらって。アメリカのプリペイドカードで、アメリカのiTunesでダウンロードしたりして、それでもない曲が圧倒的だったんだけど。

Napsterだと、入力してちょっと待ってると、ダーっとコンテンツが出てくるんですね。その中から容量が大きそうなやつを探して、間違いが多いので間違いは削除して。そして「これだったら聞けそうだな」っていうのをダーっと覗くんですよ。

それでダウンロードしてると、欲しい曲はいくらでも見つかるんですよね。これほど最高のものはないと思って。これを潰さずに合法化して、なんとかビジネスにできないか、っていうのは僕らの考え方なんですけども。

70人のTime After Time

三野:ついでですけど、そのとき使ってた使い方。『Time After Time』という曲が大好きなんですよ。

高橋:シンディ・ローパー。

三野:『Time After Time』と入力すると、150曲ぐらい出てくるんですよ。それで数日経ってやると、また違うのが出てくるんですね。そのなかから好きな音源をバーっと、いろんなアーティストのをダウンロードすると。

『Time After Time』がいろんなアーティストの作品として揃うんです。だいたい70人ぐらいのアーティストの曲が入ってます。

高橋:それ、Napsterで取ったのもずっと取って(おいて)あるですか?

三野:もちろんとってます。

(会場笑)

三野:あともう一つ人生で一番好きな曲は『Moon River』です。『Moon River』も120曲ぐらいダウンロードしてあって。そのなかで音質の悪いモノなんかを削除してって今、好きなのは約50曲もあります。

いろんなアーティストが歌い、インストも入ってるんですね。これをNapsterじゃなくてやろうとしたら、アルバム探して、アーティスト探して、その中に(『Moon River』が)入ってるやつ探してきて、それをリッピングして……。全部集めていくんだったら何ヶ月かかるかわかんないですよね。

それがわずか数分でできるんです。これがNapsterですよ。この遊び方は、今までの音楽の聞き方と違うと。だから音楽の聞き方、違う聞き方も許される。もっともっと楽しんでもらう方法はないかと、これが僕の発想なんです。

高橋:なるほどね。すごい話になりましたね。イーライセンス会長はNapsterのヘビーユーザー。

三野:もう大好き。レコミュニはそれで作ったんです。

高橋:知ってますけど。

時代が追いつけなかった金子勇氏

三野:「僕もユーザーアップロードするような配信システムを作りたい」って提案して。竹中くんを呼び込んで、高橋さんが入ってきて、「じゃあこれやってみよう」っていうことで大失敗したんですよ。

で、今のオトトイが変化してきて、おかげ様でやっと安定しましたけど。最初は苦労したんです。それよりもっと面白かったのはWinny。金子(勇)先生ととことん話した。

金子先生の技術と僕の著作権管理のアイデアを足せば、絶対おもしろい、ピアツーピアでの配信システムができると思ったんですよ。途中で金子先生亡くなっちゃって、非常に寂しい思いをしたけど。あれも、そもそも著作権法違反で問うこと自体が大間違いなんですよ。

やっぱりWinnyってのは、インターネットってのは……あそこにいる戸田さんに教え込まれたアイデアですけどね。そもそもインターネットっていうのは、コンテンツを共有するものなんですよ。

高橋:「すべてのP2Pは悪」みたいなことになってますよね。

三野:いや、全然そんなことないですよ。共有するために作ったシステムなんで、共有するのが当たり前なんです。そこに、ただ残念ながら違法性のある音楽コンテンツの共有をするような使い方が乗っかっちゃったから、著作権法違反なんですね。

だから金子さんが著作権法違反なんじゃなくて。あの人は非常に優秀なシステムを作った人。僕から言わせれば、それの合法な使い方をキチっと整理しなかった人のほうが悪いんですよ。

高橋:まぁ、追いつけなかったんでしょうけどね。

制作協力:VoXT