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「ファッション業界で幸せに働く」ということ(全2記事)

夕方以降は働かないことで生まれたリアル--パリコレブランド「sacai」に学ぶ働き方

ファッション週刊紙『WWDジャパン』が、ファッション関連企業と学生をつなぐ目的で開催した「WWDファッションカレッジ」。第1レクチャーには、WWD編集部の村上氏&藪野氏が登壇し、ファッションと働き方の関係について考えました。ファッション紙の編集記者という多忙がイメージされる仕事をしながら、3年前から18時退社を続けているという村上氏。以前は夜遅くまで働いていたという彼の意識を変えたのは、sacaiというブランドでした。

ファッションと働くことを考える

村上要氏(以下、村上):『WWDジャパン』編集長代理、兼『ファッションニュース』編集長の村上と申します。よろしくお願いします。

藪野淳氏(以下、藪野):『WWDジャパン』編集記者の藪野淳と申します。よろしくお願いします。

村上:では、1時間目始めたいと思います。1時間目は「ファッションと働くことって、どうリンクしているのか?」みたいなところをお話していきたいなと思っています。

今回、村上と藪野ですけれども、皆さんのお手元に配りました『WWD Japan』今日発売の最新号。12月14日号の「幸せに働くって何だろう?」という特集を担当した記者として、この壇上に座らせていただいております。

藪野さん、これからよろしくお願いします。

藪野:なかなか慣れないものなので(笑)。

村上:一番最初ですね。

(WWD JAPANの)3ページ目を見てみると、すごく文字が多いページがあって。その真ん中に、若干にぎやかな写真があります。

編集・村上氏が18時退社する理由

藪野:そうですね。村上さんは、18時退社を実践されて3年目になるということなんですけど。その狙いとか、なぜそれをしようと思ったのかというところをお聞きしたいです。

村上:このコラムにも書かせていただいたんですが、僕は今、編集者でありながら、ほぼ週4回18時きっかりに帰っているという生活を送っているんです。

そんな生活を送るようになった理由からお話させていただいて、ファッション業界・ファッションということと働き方って、もしかしたらこんなふうにつながるのかな、みたいなところを皆さんに考えてもらいたいなと思っています。

ここからは、マイストーリーの話なんですけれど。皆さんがイメージする、一般的なファッション誌の記者・編集者って、すごく夜遅くまで働いているような印象を持っているかもしれません。実は、僕自身も、3年よりもっと前は、そんな生活を送っていたんです。

3年前くらいから、そんな生活を「えいやっ!」と止めてしまって、基本的に毎日18時に帰る生活を送るようになったんです。そんな生活になったのには、きっかけのブランドがあるんですね。

村上氏の働き方を変えたブランド「sacai」

まずは、映像で、そのきっかけとなったブランドの最新コレクション、2016年春夏のコレクションを見てもらいながら、「どうしてこのブランドが僕の働き方を変えたのか?」みたいなところの話を、パーソナルですけれども、してみたいと思います。

映像、お願いできますでしょうか。

これは、「sacai(サカイ)」というブランドですね。ここの壇上にいる村上、藪野は「sacai大好き男子」の代表だと自認していますけれど。

藪野さん、サカイってどんなブランドなのか教えてもらってもいいですか?

藪野:サカイは、元々「COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)」でパタンナーとして活躍されていた阿部千登勢さんという女性のデザイナーが手がけているんですね。しかも、それがママ。

村上:ママ!

藪野:今は中学生になられるかなられないかくらいの女の子の。そんな感じで、子育てをしながらコレクション作りを、まず自分の家で始めて、徐々に徐々に拡大していって、今はパリで毎シーズン、ショーを発表しているという、すごく著しく成長しているブランドといえます。

村上:元々、結婚と出産っていう理由で一度はファッション業界から身を退いたデザイナーさんなんですね。

ちなみに、旦那さんは「kolor(カラー)」というブランドをやっている阿部潤一さんという方で。阿部千登勢さんは、その奥さんであり、今もうすぐ中学生になるお子さんのママなんです。

ファッション業界から一度は身を身を引いたんですけれども、やっぱりファッション業界で働くという夢を諦めることができなくって、子育てをしながらどうやってブランドをやっていったらいいだろうというのを考えながら。一番最初は、たった5着の洋服からコレクションは始まったんです。

そんなブランドだったんですけれども、徐々に徐々に規模が大きくなって。今見てもらっているのは、パリコレです。パリでラインウェイするまでいたったデザイナーさんです。

「夕方以降は働かない」ことで生まれたリアル

どうして僕がこのコレクションに影響を受けて、18時で帰るっていう生活を決めたかというと。今、お話したみたいに、このデザイナーさんは、夕方で仕事のことは忘れます。その後は、当時はまだお子さんが保育園に行かれていて小さかったので、子どもを迎えに行って、料理を作りながら旦那さんの仕事を待って、旦那さんと一緖にご飯を食べるという生活を夕方以降は志ざします、と言って、夕方以降は働かないっていう生活を実践されているデザイナーさんでした。

なので、阿部千登勢さんには、デザイナーという仕事としての側面があって。あとは妻としての側面があって。さらには、ママとしての側面があってというふうに、様々な女性の側面というものを持っているデザイナーなんです。

取材していると、いろんなバイヤーさんやセレクトショップの販売員から、「女性のリアルを洋服を通して表現してくれるデザイナーさんなので、すごく売れています」っていう評判を、5年前くらいから少しずつ聞き始めるようになったんです。

僕はそこで、「なるほど」と。こういう人の洋服の魅力について、もっと突き詰めて考えていくためには、「この人になるべく近い生活を送ってみるのが一番なんじゃないか」っていうふうに考えて、阿部千登勢さんのマネですけれども、18時まで。うちの会社、一応18時までは働かないと、いけないので(笑)。

18時に仕事を止めて、そこで仕事人としての自分の生活には一区切りつけて。それ以降はまったく違う生活を送るようになったというのが経緯です。

こういうふうに新しい側面を持つと、洋服に対する考え方も、ここ3年くらいですごく変わったなと実感しています。

具体的に言うと、『WWD Japan』という、ファッション業界のど真ん中にいると思っているので、ともすれば24時間365日ファッションのことばかり考えてしまいがちなんです。でも、ファッションと距離を置くことによって、ファッションから離れている人の気持ちとか、考え方とか、洋服に対する金銭感覚とか。そういうものが自分のなかですごく財産になっているというか、糧になっているなと感じています。

仕事を離れることによって、心のなかにゆとりが生まれて、新しい企画とかも立ち上げることができるようになった。

(上映しているスクリーンをさして)こちら、阿部さんですけれども。自分の生活がすごく変わっているなと実感しています。

ということで、今手元に持ってもらってます「働き方特集」みたいな、新しい特集も生まれていますし。僕自身は、とても幸せな毎日を送ることができています。話が長くなりました。

有名デザイナーの辞任劇が働き方をより考えるきっかけに

最近僕のなかでは、すごく「働く」ということと、「ファッション」みたいなものがリンクするようになってるんです。そんな時だったんですけれども、藪野さん、特に今年は働き方を考えさせられるようなニュースっていうのが、後半になって飛び込んできましたよね。

藪野:出てきましたね。

村上:具体的に言うと、「Dior(ディオール)」というブランドを去ったラフ・シモンズ。後は、「BALENCIAGA(バレンシアガ)」というブランドを去ったアレキサンダー・ワン。あとは、「LANVIN(ランバン)」というブランドも、アルベール・エルバスというデザイナーが去りましたけれども。

それぞれが様々な理由、特に最初に言ったラフ・シモンズとアレキサンダー・ワンは、そこに少なからず働き方というのが影響しているんじゃないかと思いました。

そんな働き方ということが、恐らく理由の1つであろう辞任劇。デザイナーの退任劇というのがあって。

僕は常日頃から働き方を考えていますけど。今年の後半は、より一層働くということがファッションとどうつながるんだろうということを考えた半年間でした。

次ですね(映像変わる)。今度は、ディオールというブランドを去ったラフ・シモンズのコレクションです。奇しくもラフ・シモンズにとっては、最後のディオールのコレクションになりましたが、そちらを見ていただきたいと思います。

では、始まりました。

ラフ・シモンズによる一番最後のディオールのコレクションです。また、藪野さんにこれの解説をお願いしちゃおうかな。

藪野:今回のディオールのショー会場からなんですけども。

ルーヴル美術館、パリにある大きな美術館をご存知だと思うんですけど。そこの一角に、本物の芝と、後ろに写っている紫の花、本物の花で大きな丘みたいなものを。このホールの8倍くらいの大きさのものを作って、そのなかにランウェイと客席を作ったという。

村上:なるほど。

藪野:すごく壮大な。

村上:贅沢なコレクションですね。

藪野:このなかでラフ・シモンズが見せたかったものは、彼なりの女性らしさに対する答えなんですけど。

見ていると、ランジェリー風のトップスとかショーツみたいなものを、何度も何度も繰り返し使うことで、ピュアななかにあるセンシュアリティ、セクシーさみたいなものを表現したコレクションでした。

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