心理学用語、間違って使っていませんか?

ハンク・グリーン氏:誰かが「あの男は狂っているわ!」と彼氏のことについて話すのを聞いたことがあるのではないでしょうか? または綺麗好き過ぎるルームメートをOCD(強迫性障害)だと言ったり、不思議な隣人を異常者と呼んだり、気分にムラのある姉妹を躁鬱病だと言ったり。こんなことはもうやめましょう。

甘いものが好きな友人を「彼女はとっても糖尿病っぽいねぇ」なんて言いますか? 「元カレはマジでがん患者すぎたわよ。彼ったらいつも体調が悪かったんだから」などと誰かが言っている場面を想像してみてください。心理の専門家たちも、不可解な人々の行動や性格、株式市場についてさえ、専門用語が間違って使われていることを懸念しています。

今日はそのように間違って使われている専門用語の定義を明確にし、統合失調症とは何かを説明し、あなたの元カレが恐らく精神病患者ではなかったことを明らかにしたいと思います。

こだわりが強いのは強迫性障害じゃない

まず初めに、専門家にとって精神病とはどのようなことを指すのかを明確にしましょう。心理学者は、精神障害とは「その人が健康的に機能することを妨げる、逸脱して苦悩に満ちた、機能していない考え方や感情、または行動パターンである」と定義しています。

「逸脱」とは、その人が卑劣であるとか下品であるという意味ではなく、全体的な社会的基準が多くの人と異なるという意味です。でも、社会的基準が異なるというのは広い意味で捉えられます。例えば連続殺人者は、多くの一般的な人とは異なる社会的基準を持っていると言えるでしょう。

そして天才やオリンピック選手も、一般的な社会的基準を逸脱すると言えるでしょう。つまり精神障害を抱えらていると認められるのは、その人の考え方や行動が、その人自身や周囲に問題を起こす場合です。

簡単に言えば「なんだか何かが違う」とでも言いますか。心の悩みや苦悩が、その人の人生や仕事の妨げになるといった有害な機能不全を起こすことに繋がってしまうことを指します。

例えば不安障害。誰でもある程度の不安は感じるものです。初めてのデートの前日や、大勢の前でスピーチをする時などです。それはまったく普通のことです。

しかし、それに直面するのが本当に嫌で自宅から出ることができない、ということにまでなってしまうと、これは障害です。つまり、あなたのルームメイトは「汚れ物がシンクに溜まっているのが耐えられない」からといって、OCDを抱えているわけではありません。それが幸せな人生の妨げになる時にOCDとなります。

OCDとは、綺麗好きすぎたり、こだわりが強すぎることや、オレンジが好きだからいつもオレンジを着ているといったことを指すのではなく、本来不必要な反復的な思考を持つことを特徴としています。

つまり、思考に取りつかれているということです。そしてその思考に行動が伴う場合、それは衝動です。OCDを患う人々は、衝動的な行動により、強迫観念に伴って起こる強い不安を取り除こうとします。

例えば、「ここの電気のスイッチに4回触れなければ、恐ろしいことが起こるに違いない」という具合です。

思考と行動が一致しないのは、統合失調症じゃない

次に紹介する一般的に間違って使われている専門用語は「統合失調」です。先週は「音楽がうるさい」といって警察に電話をしたくせに、先日は余ったバースデーケーキをおすそ分けしてくれた気分にムラのある隣人を、この言葉で表現するのは間違っています。

これは統合失調的なのではなく、ある時は優しく、ある時は厳しかっただけです。本当に統合失調を患う人は、世界人口の1パーセント程度と非常に希少なケースです。

しかし、これは恐らく最も偏見を持たれ嫌悪される精神障害の1つでしょう。それが、この専門用語が間違って使われことが多い理由であるといえます。

テレビでも、言うことをちょくちょく変える政治家を統合失調者と呼んだり、株式市場の変動やセレブのファッションについても、この用語を使って表現していたりします。

研究によると、メディアの中で使われる「統合失調」という言葉のうち28パーセントはただカジュアルに比喩として使われているのだそうです。何かや誰かが様々な局面を見せることを「統合失調的」という比喩で表しているだけなのです。

しかし、統合失調症と多重人格は何の関係もありません。この用語が広く誤解されているのは、元々Schizophrenia(統合失調症)という言葉が「分裂した心」という意味に起因するからかもしれません。

この障害の特徴として、状況に対する思考と行動が一致しないことが挙げられます。彼らの心は現実と合致しないのであり、心の中で分裂が起きているわけではありません。

統合失調症を患う人々の多くは、妄想、例えば「自分はイギリス女王である」といった誇大妄想を抱えています。または「自分は処刑されてしまうのだ」「私はCIAやマフィアに追われていると」いった過度な妄想です。

そして幻覚症状を患うことも多く、例えばそこにあるはずのないものが見えたり聞こえたりして、何が現実かわからなくなってしまうという具合です。つまり、統合失調症は一貫性の欠落とは違います。統合失調症は、生涯障害を抱えることになる病気です。

気分にムラがあるのは双極性障害じゃない

次に気分のムラや上辺だけのものや人を表現する時に使われる専門用語「躁うつ」「双極性障害」についてです。これは過去「躁うつ病」と呼ばれていましたが、双極性障害は気分障害の1つです。

私たちのムードとは長期的な感情の程度を指し、非常に主観的で的確に測ることは難しいですが、基本的には2つに分かれます。「良い」か「悪い」です。

気分障害とは、感情が極端なことと、自分の気分をコントロールすることが難しくなることが特徴です。うつ病の症状は慢性的な絶望感と無気力ですが、双極性障害のそれは、うつと躁、そしていわゆる「普通」の状態間を行き来し、月ごと、週ごと、または1日の間に変化します。

躁状態というのは、すごく幸せそうで活発であるということではなく、常にそわそわし、過剰に楽観的な活発性を指します。躁状態の間は、自分自身と自分の能力を過剰に高く評価する傾向があります。

躁状態にある人は「自分はなんて素晴らしいのだ!」と感じるのですが、それが人を間違った判断に走らせます。例えば銀行預金をすべて使い果たしてしまったり、過剰に買い物をしてしまったり。眠ることもしないほどハイな気分になった後は、激しく落ち込み、自殺願望となることもあります。

反社会的パーソナリティ障害とは何か?

最後に、ヒッチコック以来非常にポピュラーとなった「精神病者」という用語についてお話しましょう。精神病理というのもまた時代遅れな用語です。最近では社会病理と呼ぶのが一般的でしょう。

専門家はこれを「反社会性パーソナリティ障害」と呼びます。これはパーソナリティ障害の中でも最も重度で診断を下すのが難しい障害でしょう。もちろん、これを患う人々も大変な困難と共に生きていくことになります。

その理由は、他のパーソナリティ障害と違い、反社会性パーソナリティ障害を抱えた人の多くは、自分がそうであることに気が付きません。この障害を抱える人は、「自分以外の皆がおかしいのだ」と思っていることすらあります。

反社会性パーソナリティ障害を抱える人々は、多くの場合良心が欠けています。友人や家族に対してもです。彼らの破壊的な行動は幼少期に現れます。その始まりとして「嘘を頻繁につく」「喧嘩をする」「盗みをはたらく」「暴力」「人を操る」という行動が見られます。

彼らは、彼らの行動によって起こるであろう悪い結果をものともしません。共感する能力が欠如しているので、他人のことなどどうでもよいのです。ベネディクト・カンバーバッチは我々が大好きな俳優ですが、彼が演じた社会病理者として、シャーロック・ホームズは失敗でしたね。だってホームズとワトソン氏は非常に友好な人間関係を築いているではないですか!

今触れた反社会性パーソナリティ障害も、先に触れた障害も、非常に複雑で、まだまだわからないこともたくさんあります。ある症状は遺伝や脳内化学物質といった生物学的要因に起因し、ある症状はストレスやトラウマといった特定の状況や環境に起因すると言われています。

生物学的なものも、環境的なものも、どちらも原因となる場合があります。家族の中にそれを患うケースが多く、生物学的にその障害、例えば統合失調症を抱えやすいけれども、外的要因によってそれが刺激されなければ症状が現れることはないといったケースです。

このようなことをもっと学びたい方は、Crashcourseをチェックしてみてください。心理学についてたくさん調査していますから。こんなことを言うべきではない、と説教をするつもりはありませんし、どんなことに憤慨すべきかと言いたいわけでもありません。ただ、我々の世界を理解したい。そして人間を理解したいというだけです。

臨床的診断を用いて他人の髪形や皿洗いの習慣などをからかうのは、心の病について間違った見解を広めてしまうだけではないでしょうか。病気を患う人について話をする際は、彼らを病気によって定義しないように心掛けてください。

「統合失調症の人」ではなく、「統合失調症を抱えて生きる人」と言ってください。すでに病に身体を蝕まれているのですから、病気に自分自身を乗っ取られないようにするのは大変なことです。次に誰かがあなたをイライラさせたら、シソーラス(類語辞典)を使って他の言葉を探してみてください。