シリア難民の受け入れと多様性

マルゴ・キャリントン氏(以下、キャリントン):こちらにいらっしゃる皆さま方をないがしろにするわけではないんですけれども、ニコニコ動画を1万人も視ているということで、さまざまな質問が寄せられています。ステンゲル次官に対しては、アメリカでの政策立案における多様性に関する質問も来ております。

リチャード・ステンゲル氏(以下、ステンゲル):私たちは多様性の強さを信じております。アメリカはいつも多様性を経験してきました。例えば、シリア難民を受け入れるかどうか、アメリカで受け入れるかどうかという論議が進んでおります。

大統領もケリー国務長官も私も、これは道義的な責任というだけでなく、社会にとってもさまざまな視点が必要ですし、難民や移民から多くのことを学ぶことができると思っています。移民を受け入れることによって、逆に相乗効果が生まれてイノベーションが進んでいくと考えます。

アントレプレナーシップというのも、多様性から出てくるものだと思います。スティーブ・ジョブス氏を皆さんご存知だと思いますが、シリア移民の子供でした。ですので、スティーブ・ジョブスがイノベーターということで、移民はむしろアメリカにとってプラスになると思っています。

調査によりますと、10〜15の転職を繰り返すアメリカ人が多いわけですけれども、なかなか1つの会社にとどまらないということで、逆に転職が多いと。

日本から見れば、1つの会社に30年も働くということで、転職を繰り返すアメリカというのは何か問題があったのではないかと思われてしまいますが、多様性とアントレプレナーシップというのはより良い方向への変化を起こすものだと思います。

国際化する日本の大学

キャリントン:それでは会場の皆さま方、質問がある方はどうぞ。

質問者1:私はドイツと日本にフルブライト留学をしておりました。ジャーナリスト藤井さんは公共政策やパブリックスピーキングを教えているわけではないということですが、カリキュラムの中にもパブリックスピーキングが入っていないということで、日本の場合は、政府と産業界、教育界が分断されていると思います。

日本の大学をもっと国際化していこうとする動きもあります。先週末沖縄におりまして、沖縄に科学技術大学というのがありますけれども、これは日本の政府が資金を出しています。80パーセントの学生が海外留学生で、20パーセントしか日本人の学生がいません。

すべて英語で授業が行われております。博士号を持った学生が自分たちのアイデアを会議の場で発表するということになります。それを聞いたときに本当に鳥肌が立ちました。

アメリカの大学も影響を与えることはできると思います。私はカリフォルニアの仕事をあきらめて日本にやってまいりました。それは、日本で教えるのが素晴らしい経験になると思ったからです。質問をしなければいけませんね。「どのように格差を解消するか?」ということです。

キャリントン:日本人のようになってきましたね。コメントを長く言って、なかなか質問が出てこないということですが、コメントでも質問でもけっこうですからどうぞ。オーディエンスの中にも学生の方が多くいらっしゃいます。どうぞ遠慮なく質問して下さい。

日本文化が持つ公共外交への影響力

質問者2:私は今年NPOを立ち上げたんですが、持続できる、自分の力でやっていけるようなNPOを考えておりまして、その中で、先ほど出たように日本にあるアドバンテージを使っていくことを考えています。

それの1つが、日本文化ではないかなと考えています。例えば、先ほども(話に)出たスティーブ・ジョブズさんは、日本に来て座禅をしたということがあったそうです。なので、アニメもそうですけど、和食とかいろんなところで日本の文化というのは、突出してるところがあるのではないかと考えています。

2020年のオリンピックでいろんな外国の方が来られるので、そのときにどんな日本文化を受けてみたいでしょうか。例えば、明日がオフだったとしたら、ステンゲルさんはどんなスペシャルな日本文化体験をしてみたいでしょうか。

キャリントン:なかなかお休みは得られないんですよね。

ステンゲル:スティーブ・ジョブズの話ですが、彼は日本の文化、日本のデザイン、日本の美の大ファンでした。Appleのデザインもそこから多くを学んで今日の形になっていると思います。

日本の文化というのは端的な例だと思います。日本の公共外交にも大きな影響力を持っているものだと思います。当時、私の子供にもポケモンがとても人気でした。日本のアニメや文化はとても人気があります。日本食もそうですよね。日本のビジネスはそこのところを見逃しているのではないでしょうか。

それをどうやって輸出するのかを足掛かりに、輸出する力をつけていくべきだと思います。私自身も大ファンなんです。お休みがあれば、大の仲良しが京都で作家をしておりますので、彼のところへ行きたいんですが、なかなか休みをくれないんですよね。次回来日するときには、(訪問先に)京都と沖縄を足しておくことにしましょう。

アメリカから見習うべきアントレプレーシップ

キャリントン:他に質問いらっしゃいますか?

質問者3:私は日本に長い間暮らしていますが、アントレプレナーシップはどのようなかたちでアメリカで進んでいるでしょうか? 今のプレゼンテーションでもあったように、日本の場合はだんだんクールなものとして受け止められてきていますが、どういったことがアメリカでは起きているのか教えてください。

ステンゲル:アメリカでの動き、それがクールかどうかということですか?

質問者3:日本のソーシャル・イノベーションとアメリカを考えたときに、日本の様子はわかったんですが、アメリカがどういった状況にあるのかなと思ったんです。日本が、アメリカから学べることがあるとしたら何でしょうか。

ステンゲル:私がその適任かどうかはわかりませんが1つ。アメリカのトレンドとしては、アントレプレナーシップの波だと思います。シリコンバレーやボストン、ニューヨークなどでも起きています。

これらはNPOに限った話ではなく、利益追求型のもの、それから社会ビジネスと言われるようなものもあります。それからまた、インターネット・ニューエコノミー、それからニューナレッジエコノミーが牽引剤となっているんだと思います。

その点において、アメリカは日本の先を行っておりますので、そこのところを日本でも真似していくべきではないかなと思います。それで答えになったでしょうか。

それに付け加えて、やはりアントレプレナーには資金が必要です。この20〜25年でアメリカではベンチャーキャピタルが登場しました。ベンチャーキャピタルは新しいアイデア、企業家に投資をしてきたわけです。

それによってアントレプレナーの環境がシリコンバレーで生まれました。今アメリカでは、シリコンバレーを見て、ボストンやニューヨークなどがそれぞれシリコンバレーを作っています。

そういったベンチャーキャピタルが、アメリカ中に生まれています。それによってクリエヒティビティやリスクをとる動きが見られています。それは日本にとっても、ぜひ学んでいただけたらと思います。

キャリントン:私たちはいろんなアントレプレナーシップに関してのプログラムを行っておりますので、アメリカンセンターでもこのテーマを引き続き取り上げていきます。そのほかに何かコメントありますか?

テロリズムに対してメディアが果たせる役割

質問者4:今、多様性が広がっていますけれども、テロの攻撃がフランスで起きました。レバノンでもテロ攻撃があるわけですけれども、テロと戦っていかなければならない、テロリストを撲滅しなければならないという論調もあります。

この夏、南アフリカのサミットに参加しまして、ネルソン・マンデラについて学びました。マンデラ氏は、他の文化をもっと尊重しなければならないと言いました。そしてマンデラ氏は、白人と戦うことをしませんでした。

マンデラ氏は非常に苦労したわけですが、そのような態度によって成功を収めたわけです。ステンゲル氏は『タイム誌』で7年働いておられたということですが、メディアは社会を変えるために何ができるでしょうか? メディアは社会の規範を変える大きな役割を果たしていると思いますけれども、いろいろな人々の見方を変えるために何ができると思いますか?

キャリントン:パーフェクトな質問ですね。ステンゲル氏はネルソン・マンデラ氏の自叙伝にかかわったことがありますので。

ステンゲル:メディアが果たせる役割が1つあるとすれば、移民やテロに関するさまざまな誤解を解くことだと思います。例えば、9・11同時多発テロでアメリカが襲われて以降、何十万人という移民や難民が中東から出てきました。

このような移民・難民で、実際に法的問題があった人たちはごく少数だったと思います。難民と移民をテロリストと結び付ける動きがありますけれども、中東では多くの人たちがテロから逃れようと脱出しています。

彼らはテロの犠牲者です。テロがどれだけひどいかよくわかっています。そういった事実をもっとメディアは広めるべきだと思います。パリで悲劇が起きました。メディアができることは、犠牲者に焦点を当てることです。テロリストそのものではなくて犠牲者被害者の人たち。

多くのフランスの人たちが、このテロによって命を奪われました。多くの悲しみが今フランスを覆っています。遺族も悲しんでいます。そういったところに焦点を当てていくことがメディアにとっては重要だと思います。それによって、テロに対する恐れというものを強調することになると思いますし。非常に難しい質問ですね。

キャリントン:後ほどまたお話をしていただければと思います。それではパネリストの方々に最後の発言があれば。

社会アントレプレナーシップのとらえ方

藤井:(ステンゲル)次官は市民社会の役割、社会イノベーションの役割について2007年にナショナル・サービスの記事を書かれました。その中で、国がナショナル・サービスを提供するような枠組みが必要だとも書いてらっしゃいます。

それは補完的な役割なのでしょうか、それとも置き換えるものなのでしょうか。日本の文脈ですと保守的な文脈ですよね、アメリカはリベラルな文脈でありますが。国のサービスというのはリベラルというよりは、国家主義的で集団心理的な部分があります。

日本の場合は、いわゆる政府の介入というかたちになりがちだと思うんです。なので、それについての意見を教えてください。

ステンゲル:それは2007年のカバーストーリーですよね。だから私は今、政府にいるんですね。国のサービスは非常に大切だと思っている。言うだけでなくて、行いで示さなければと思い現在の仕事に就きました。

私が展開した論調は、アメリカの人々、特に高等教育を受けた人々が、高校と大学の間で一年間、政府や他のところで奉仕すべきだと考えたんです。アメリカの文脈のやり方が国家主義的ではないとは言いきれません。

他のやり方で、ボランティア的なやり方というのもあり得ると思います。また、アメリカのコンテクストの場合、より崇高な国のサービスの1つとして、軍に入るということも1つの選択肢であります。

徴兵を採っているような国の制度もあるようですが、いずれにしても若い人たちが何らかの形で奉仕をする。私人と公人の間でそれを行うということが必要ではないかなと思いました。社会アントレプレナーシップというのは、ある意味ボランティア的でもあり、ある意味国への奉仕でもあります。

日本の市民社会が強くなるよう、もっと議論を深めていきたい

キャリントン:織田さんは何か最後の一言がありますか? それから、今村さんのご意見もうかがって、セッションを閉じたいと思います。

織田:私はすごく励まされたというか、今回200年もアメリカに遅れていながらも、いま日本ではNPO法人がクールな取り組みだってお二人がおっしゃっていたので。

自分たちが立ち向かうべき問題をもっと明確化して、もっと皆さんに支持というか、協力してもらいながら良い日本を創っていこうと。そういう活動をもっと展開していきたいなと思いました。

本当にアメリカと比べるなんてとんでもないと思いましたけれども、日本だからこそできること、障害者だからこそできること、あと女性だからこそできることも、いろいろなことで見方が変わっていい機会でした。ありがとうございました。

今村:日本のシビル・ソサエティがもっと強くなっていくという議論をより深めていきたいと思うのと同時に、私は逆に15年内側にいたからこそ、「政府の役割って本来何なんだろう?」とか、草の根でやっていくことよりも、実は大きな資本を持っている企業がもっと公共サービス的なスタンスを持った、今の本業をもっと変えていくということを意志決定していただいたほうが、よっぽど早く社会が変わるんじゃないかということに最近すごく興味があります。

その動きをアメリカではどうとらえてらっしゃるのかということを、もうちょっとお話ししたかったなと思っているんですけど。自分の持ち場を精いっぱいやりながらも、今回こういうお話をする機会を得たので、グローバルな視点を持ってしっかりと仕事をしていきたいと思いました。どうもありがとうございました。

キャリントン:素晴らしい考えを示して下さいました。ニコニコ動画を通じて参加して下さった皆さま、素晴らしい質問をくださった方々にも感謝します。またステンゲルさんには来日していただきたいと願っています。

(会場拍手)

制作協力:VoXT