人はどのように痛みを感じるのか
最新の麻酔事情と合わせて解説

Why We Have Pain & How We Kill It

人はなぜ痛みを感じるのでしょうか。痛みはできれば避けたいものですが、痛みを感じることによってそれ以上の危険を避けることもできるので、感じなくなってしまうのも、それはそれで危ない状態なのです。今回のサイエンスチャンネル「SciShow」では、さまざまな麻酔の仕組みを解説しながら、痛覚について学んでいきます。モルヒネやアスピリン、あるいはヘビ毒を利用した鎮痛剤もありますよ。

痛みを感じないというのは危険な状態

ハンク・グリーン氏:痛みとは一般的に不快なものとされています。誰も激しい頭痛や折れた鎖骨の感覚などは好きではないし、それだからこそ常に痛み止めや鎮痛療法が存在してきました。

古代エジプト人はギンバイカを噛んだりアヘンを吸ったりすることで、ネイティブアメリカンはヤナギや白樺の樹皮を噛むことで痛みを和らげようとしました。

今日では痛みに耐えるための薬が数多く存在しますが、それらの働きをより深く理解するためには、なぜ私たちはたびたび身体的な痛みに見舞われるのかを知るべきでしょう。ちょうど今のように、光で、目が……今日も1日長かったから……。

私たちの多くはなるべく痛みから逃れようとするものの、私たちを周囲の危険から守ってくれるという意味では良いものであると言えるでしょう。痛みを感じるということは体に怪我を負っているか、苦痛に見舞われているということです。それは私たちが無意識な状態であることを気づかせることで、意識の外にあることをやらせないようにしているのです。

「いたっ!」という脳の言葉は「止まって。これ以上怪我をしないように、その炎や、ヤマアラシや、スズメバチの巣から離れて」と同じことなのです。また痛みは、私たちの体が病に冒されている最初のサインであることが多い。だから痛みを感じないというのは、とても稀ではあるものの、非常に危険な状態なのです。

たとえばジョージア州在住のティーンエイジャー、アシュリン・ブロッカー。彼女はSCN9Aと呼ばれる遺伝子の突然変異により、先天的な「無痛症」として生まれてきました。

足首を骨折したまま数日間走り回ったり、熱湯の中に落としたスプーンを素手で拾い上げたり、誤って自分の舌を噛み切りそうになったこともあるそうです!

痛みを感じる特別な受容器

健康状態によっては、痛みを感じる機能に影響を及ぼすこともあります。例を挙げると、ハンセン病というのは感染した神経や組織を死滅させるため、ハンセン病患者の指は腐り落ちてしまう場合だけでなく、時には感覚が麻痺しているために、切断しなくてはならない部位とそのダメージを抱えたままでいることもあるのです。

ありがたいことに私たちの神経系というのは、体へのダメージに対する最初の反応が痛みになるようにできているため、こういった症状は非常に稀です。

私たちの感覚受容器は常にいろんな感覚を拾っていますが、その中でも侵害受容器と呼ばれる特別な受容器があります。

それは君たちがキスを楽しむためのものとは違って、痛みのみを伝えるために存在します。例えば、針を軽く手のひらに触れさせれば針の先端は感じますが痛みは感じません。なぜなら通常の感覚受容器が針を認識しているからです。しかしそこから針をゆっくり押しつけていくと、ある時点で侵害受容器の境界を超え、それが「いたっ!」へ変わるのです。

ところで、痛みがもしも尻もちをついて尾骨を打ったり、缶切りで指を切ったりなど、深刻な組織や細胞の損傷から来るものであれば、体はそのお尻のあざや血まみれの指に発痛物質を送ります。

この物質は侵害受容器の痛みを感じる境界線をより低くします。だから傷口にわずかでも触れるとより強い痛みを感じるのです。それらの組織はそれ以上のダメージを受けないよう、伝達物質をより多く持っています。本当、踏んだり蹴ったりですよね。

痛みを和らげるアラキドン酸

しかしこれらの物質は痛みの根源であると同時に、科学者たちが痛みを和らげる手段として注目しているものでもあります。これらの要素を錠と鍵だと想像してみてください。傷ついた細胞が放出する主たる物質はアラキドン酸といい、COX-1とCOX-2と呼ばれる酵素と結びつくのが役割です。

アラキドン酸が酵素と結びつくと化合物を形成し、腫れ、体温や心拍数の上昇、より痛みに敏感になるなど、痛みに関わる全ての元となります。

すなわちアラキドン酸という鍵がそれと結びつく酵素という錠にはまらないようにすれば、これらの物質が引き起こす結果をコントロールすることができるということです。

それには、これらの錠をふさぐ役割のある鎮痛剤を送り込むわけですが、これには主に2つの分類があります。1つ目はフレンドリーで仕事熱心な、処方箋が不要の薬。これらは薬棚や財布にあったり、ガソリンスタンドで2錠ずつの小さなパックで5ドルほどで売られていたりします。

2つ目は実力者のオピオイド(麻薬様物質)。これらは医師の処方箋を必要とし、モルヒネやオキシコドンなど、近年中毒者が多く見られるものです。これは少しの頭痛で服用してはだめですよ。釘を踏み抜いた時、ヘルニアの手術の時、痛くて痛くて狂いそうな時のような、かなり深刻な時のためのものですから!

アスピリンの働きを解説

処方箋不要グループの1つとして知られているのは、非ステロイド性抗炎症薬であり、NSAIDsとも呼ばれています。これらは発痛物質の流れを止める作用がありますが、痛みの元を探ることができないため、痛みを伝えるCOX酵素を全てブロックすることで痛みを感じさせないようにします。

アスピリン、またの名をアセチルサリチル酸は、バイエル社のドイツ人薬学者フェリックス・ホフマンによって単離されました。痛みを和らげる主成分はサリシンといいますが、これはヒポクラテスの時代に私たちの先祖が噛んでいたあのシラカバの樹皮にも含まれています。

サリシンはサリチル酸へと代謝され、とりわけCOX-1酵素の活性を阻害します。ここでアスピリンは、錠に他の鍵が入らないように錠を中から壊す鍵のような働きをしています。つまり、酵素の活性が阻害されている間は、痛みを増幅させるアラキドン酸が酵素に入らないということになります。

主にアドビルやモトリンという名で販売されるイブプロフェンは、1960年代に関節リウマチの治療の一環として初めてプロピオン酸から誘導されました。

そしてこれは他のNSAIDとは少し違った働きをします。アラキドン酸が酵素に入らないようにする方法として、アスピリンのようにその酵素を破壊するのではなく、少しの間その酵素に居座るものの、しばらくしたらその酵素の錠から吐き出されてしまうことが特徴です。主にアリーブとして販売されているナプロキセンナトリウムもまたNSAIDの仲間で、COX酵素を抑える働きをします。

最後に、タイレノールに代表されるアセトアミノフェンもしくはパラセタモールは、処方箋不要の薬であり、NSAIDではありません。これは発痛物質が酵素と結びついた後でないと効果を発揮せず、その上、形成された化合物によって引き起こされる症状の、全てではなくいくつかしか抑えることができません。

そのため痛みや熱を抑えることはできますが、炎症を抑えることはできません。あと、アセトアミノフェンはコールタールから作られていて、そのほとんどが肝臓で代謝するため、摂取しすぎると肝障害を起こす可能性があるので気をつけて!

鎮痛剤としてのヘロイン

しかし時には薬棚のどんな薬も効果を示さないほどの痛みが存在します。そう、例えばあなたの友人が誤って、バック中のミニクーパーであなたの足を引いてしまった時のような。その時は処方箋の必要な鎮痛剤をもらいに医者に行くべきでしょう。

オピオイドはNSAIDとは完全に違う働きをします。彼らはまるで雄弁で元気なおしゃべりのようで、人々は何千年も前から薬として、時には気晴らしにも使ってきました。本当のことを言うと、彼らは痛みを消すわけではありません。ただふわふわとした雲の中を泳いでいる間だけ、痛みを忘れさせてくれるだけなのです。

彼らは脳に痛みの信号が届くのを妨げ、痛みの認識を変えるために脳にあるオピオイド受容体をマッサージしながらこう囁くのです。「何も異常はないよ、落ち着いて。全身血だらけだけど、問題ないよ!」

オピオイドには3つ種類があります。植物由来の天然のオピオイド、半合成もしくは完全に合成されたオピオイドです。

モルヒネやコデインのような天然のオピオイドとは、古いケシから直接抽出されたものを指します。ちなみにオズの魔法使いでドロシーとその仲間たちがエメラルドシティのポピー畑で眠くなってしまったのは偶然ではないですよ! モルヒネはアヘンの有効成分であり、1800年代初頭に初めて最も純粋な形で取り出され、内戦時に鎮痛剤として広く用いられました。

それ以前は貧血気味の女性はあへんチンキ(あへんのアルコール溶剤)を一口飲んで和らげたとされています。しかしモルヒネの多幸感を楽しむ人が少しばかり多すぎたため、1870年代に化学者たちはモルヒネに代わるものを探し始め、そしてモルヒネの約2倍の効果、そして同等の中毒症状のあるすばらしいものを見つけました。そう、ヘロインです!

ヘロインは、半合成オピオイドに分類され、不良少年のオキシコドンのような中毒性の強い薬のすぐ次に位置します。化学者のC.R.アルダー・ライトは天然のモルヒネ分子に2つのアセチル基を加える事でヘロインを生成しました。

極度な痛みを和らげるための薬に使われる際はジアモルフィンと呼ばれます。道端で違法に使われる際は、スマック、ドープ、H、ジャンク……などなど、もっと知りたければThe Wireを見るといいですよ。

1905年には、アメリカ議会があへんを禁止し、薬品にはその成分をラベルに記載しなくてはならないという純正食品・医薬品法を通すまでには事態が悪化していました。なんてクレイジー!

ヘビ毒を利用した新しい鎮痛剤

効果のある、しかし中毒性の弱い鎮痛剤を探し続け、1937年ドイツ人化学者がメタドンの合成に成功しました。メタドンはモルヒネやヘロインと同様オピオイド受容体に作用し、デメロールやフェンタニルなどを含む完全合成オピオイドに分類されます。

メタドンは麻薬中毒患者のヘロイン中毒を和らげるために使われますが、多くの人はヘロインと同様、もしくはそれ以上の中毒性を持っていると考えています。オピオイドが痛みのコントロールに一役買っているのは事実ですが、それは非常に危険な手段であるとも言えます。

主な副作用としては吐き気、眠気、便秘などが挙げられ、乱用すれば当人の命がトイレに流されることになりかねません! そのため、研究者たちは痛みを和らげる別の方法を模索し続けているのです。少々珍しく、可能性を秘めた新しい鎮痛剤が、蛇毒です。ハンゾーソードを振り回すベアトリクス・キドーのように、ブラックマンバは世界有数の殺し屋です。

その超強力な毒は1時間足らずで人を簡単に死に至らしめることができます。しかし近年の研究によると、ブラックマンバは紳士な殺し屋であるとされています。なぜなら彼らの強力な神経毒には、マンバルジン──どう発音するかわかりませんが──が含まれているからです。

というのは、それはモルヒネと同等の強力な鎮痛剤であり、差し迫る死の強烈な苦痛を和らげてくれるのです! なかなかいいですね……。

ところでマンバルジンはこれまでに紹介したどんなものとも違う働きをします。モルヒネはオピオイド受容体と結びつきますが、マンバルジンは痛みを感知する侵害受容器そのものをターゲットとするのです。

これにはいくつかの利点があり、オピオイドの多くは呼吸困難などの深刻な副作用があるのに対し、マンバルジンにはそういった副作用は見られず、かつ中毒性も低いと言われています。あるフランスの製薬会社はマンバの薬を開発中であり、注目を集めています。

私たちがすぐにアスピリンに手を伸ばすのと同様、痛みの感覚がなくなってしまえば、世界は非常に危険な場所になってしまうでしょう。痛みというのは、見方を変えれば天からの贈り物なのです。

だから次に下りエスカレーターを駆け上がっていて転び、膝をぱっくり切ることになった時は、恥はひとまず置いておいて、足元に気をつけることを気づかせてくれたエスカレーターとその痛みの受容体に感謝して、自己防衛本能を強めることに努めましょう。

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