進撃の巨人に感じるシュールレアリズム感

山田玲司氏(以下、山田)『進撃の巨人』いって良いですか?

進撃の巨人(1) (週刊少年マガジンコミックス)

大野萌奈美氏(以下、大野):お、ついに『進撃の巨人』いきますか。

山田:漫画アナライズ。ダーン! 好きなんだよね?

大野:はい、大好きです。私は腐女子とかではないので、「リヴァイ兵長!」とか言わないんですけど。ハンジさんが一番好きですね。

山田:おっくん、今日初めて読んだよね?

おっくん氏(以下、おっくん):そうですね(笑)。

山田:僕も昨日初めて読んだ。こんな晴れた日に。

おっくん:海にも行かず、ね。

山田:君、湘南に住んでるからね。湘南、祭りだったんでしょ?

おっくん:そうです、祭りあったんすよ。でもね、それをスッと回避して、漫喫にスッと行ってね、そして『進撃の巨人』。

山田:14巻、読破。

おっくん:なんちゅーもん読ませてくれたんだってね(笑)。

山田:じゃあ、始めちゃおうかな。僕も読んでみたのね。2006年に新人賞受賞で、2006年にデビューしたよね。だから、結構経ってるんだよ。『進撃の巨人』でデビューして、『進撃の巨人』の連載でスタートして。

最初ジャンプに持って行ったらしいね。でも、印象としては、心象風景とかね、シュールレアリズム感があるなって感じがしませんか? 根底的な不安感、恐怖感。これ、ムンクだって感じたんだよね、なんかね。

おっくん:ああ、ムンクのタッチには多少似てますね。

山田:ムンク。後、北ヨーロッパ感とか。

巨人とは一体何か

山田:じゃあもうざっとね、ポイントだけ言います。巨大な壁の印象として一番最初に思ったのが、諌山(創)君にとっての壁っていうか、あの壁が何を象徴してるのかっていろいろ考えたんだけど、あれデスクトップでしょ。

デスクトップの向こう側なんて行けないでしょ。「俺たちは海なんか見れないんだ」っていう感覚っていうのが、あの世代くらいから感覚的にあるんだろうなっていうのが漠然とあったんだよね。

もう結論から言っちゃおうかな。「巨人って一体何か」って話なんだけど、アメリカだろうな、とか、大人だろうなとか、ブラック企業だろうなとか、そういうふうにみんないろんなこと言ってるんだろうなって思うんだけど、よくわからない。とにかく話通じない感が半端無いね。巨人に対しての。

だけど、おもしろいのが、ちょっとずつ通じるかもってなっていく。そして、毛が生えたやつは喋れたじゃん、みたいな感じになってく。巨人が裸でいるっていうのがおもしろくて、それはむき出しの人間の本能みたいなものを言ってるんだろうなって思うんだよね。

もっとも強いやつが皮もはがれちゃって筋が見えてるっていうのも、何て言うのかな? 人間の本質、最も恐ろしいことみたいなことかなっていう気がして。

おっくん:あと、30秒なんで。次回の……。

山田:次回は『黒子のバスケ』やります。すみません。そんで、「漫画家にとって運とは何か」ってことと、もう言っちゃおうかな。巨人はリア充です(笑)。『進撃の巨人』は『アナ雪』にむかっていくと。そして……。

スタッフ:(有料に)切り替わりまーす。

山田:ヤッベー、この画がさいこー(笑)。

『進撃の巨人』はゾンビものとヴァンパイアものの系譜!?

<有料会員向けに切り替わる>

おっくん:どうもこんばんは、山田玲司のヤングサンデー。第2部ということで。

大野:いい声で。

山田:本当、君のスキルはすげえなあ!

おっくん:ニューススタイルでいこうと思って。

山田:良いね。

おっくん:ぶつ切りで申しわけないです。初めてやるもんで。精進しながら、いろんなご意見を募集しながら。

山田:すいません、すごい準備したのに。

おっくん:玲司さんのTwitterがありまして、そこの最後のコメントにレス返してくれれば。コメントを見てここで直接質問とかもできるんで。

山田:何でも聞いて。ごめんね、ちゃんとメルマガもやるんだよ。

おっくん:「何でも聞いて」とご本人もおっしゃっているので。こんな感じですよね。

山田:ごめんね。でもこっから有料なんでしょ? 本気で行くよ、皆の役に立つこと言わなきゃだめだよね。

おっくん:気負い過ぎじゃないですか(笑)。

山田:申し訳なくて、金取っちゃうっていうのは。何か、こんな話でみたいな。だけど、いろいろ頑張って分析してきたんだよ。

おっくん:まあまあ、1回仕切りなおしっちゅうことで。お茶飲みますか?

山田:そうですね、お願いします。ゾンビものの系譜なんだよね。

大野:ゾンビものですか。

山田:ゾンビイコール、似てるんだけど話も通じないし、殺しても良いよなっていう。

大野:ああー、はい。

山田:だから最近とくに多いのが、殺しても平気なものだったらガンガンいけるからっていうものが多いなと。あとはヴァンパイアものの系譜っていうのがあって。やられると俺もそれになっちゃうよっていう感染感みたいな。それも、進撃に乗っかってる感じがすごくするんだよね。これもどうでもいい話なんだけど、傾(かぶ)かないんだよ。

大野:傾かない?

山田:歌舞伎がない。基本的に日本のエンターテイメントって、歌舞伎が入る。決めが入る。だから、「5人揃ってゴレンジャー!」って言うのは、あれは歌舞伎なんだよね。

大野:なるほど、決めポーズですね。

山田:そう、決めポーズ。変身物だとものすごい時間かけて、「待ってました!」って決めをやる。要するに傾く。でも進撃はほとんど傾かない。

傾けるような、キャラクターがほとんどいないっていうのは、さっき言った「格好つけるやつは嘘くさい」っていう。あと、おもしろいのが、諫山さんってものすごいももクロ(ももいろクローバーZ)のファンだよね。プロレスが大好き、あと格闘技も大好きって。だから格闘技エッセンスすごい出てくる。脚払ったりとか。

おっくん:そんな出てくるんですか? プロレス好きな感じはそんなになかったですけどね。

山田:たぶん、ガチのほうが好きなのかな。

おっくん:たぶんそう。格闘技好きだけど、プロレスっぽい展開じゃないんだよな。

ヒロインが性の対象ではない

山田:そうなんだよ。そこがすごい興味深くて。いろいろ好きなものが満載して出てくる漫画なんだけど、彼がこれ好きなんだろうなっていうのが、いっぱい出てくるんだよね。だけど、ももクロ感出てこない。ももクロ感ないんだよ。

おっくん:ももクロ感ないですね。

山田:イコール、少女ないんだよね。少女が出てこない。

おっくん:少女。

山田:女の子がほとんど出てこない。ヒロイン出てくるんだけど、ヒロインも何て言うのかな、性の対象みたいな感じが全くないっていうのと。

おっくん:いや、あれ綾波でしょ。

山田:綾波だね。ミカサがそうでしょ。だから助けてくれる、母として出てくる感じで。あとは同目線で同級生で好きになるみたいな感じではないというか。そこをすごい排除してる感じがするのが、すごい興味深いなと。

それでももクロって何かっていうと、ずっと素を見せない人たちだよね。演じ続ける人たちで、レンジャーで。あれ全員ももレンジャーみたいな感じのスタイルっていうか。中に入らないというか。

それでおもしろかったのが、初めて壁の外に出て行くと、女の巨人に会うっていうのがすごいおもしろいよね。女型。「壁の向こうには女が!」っていう(笑)。こういう何かのメタファーかなって思わせるのがすごいおもしろいなっていうのと。

大野:はい。

人間が食べられるイメージから連想するもの

山田:あとね、「痛みの喪失を取り戻せ」って、カニバリズムみたいな流行があって。これはずっと90年代から続いてるんだけど、生態系のピラミッドから開放された人間は、ライオンに食べられるっていうような恐怖はないんだけど、その死の恐怖って、病院の中入ったりとか、大災害で数値化される。

すると身体性を失ってくるんだよね。そこで、食べられるイメージっていうのが最も恐怖を思い出させる。死を想起させる、露骨な感じがする。だから、それをどっかで求めてる。これが90年代に流行った、「生きてる感じがしないの」ってやつ。

だから進撃の巨人ってどっか、リスカっぽいんだよね。食われて、バラバラになったり脚切られて、また戻ってくるみたいな感じ。リスカ失敗みたいな感じのメンタリティが乗っかってる。だからやっててすごく疲れちゃう。

大野:なるほど。

山田:もう1つおもしろいのが、ガンダムの果てだなと思ってて。

大野:ガンダムの果て?

山田:前の世代への怒りと不信感っていうのが、やっぱりあって。「父さんなんか死んじまえ」っていう、父さんに対する不信感。でもその父さんが作ったガンダムみたいな。このパターンが日本の中に系譜としてずっとあるんだけど、巨人大嫌いなんだけど巨人になっちゃうっていう。

それで、敵が自分になってしまう、そして己の力が敵の力なんだけどっていうこの矛盾した状態。デビルマンとか、魔王ダンテとかいう系譜になってくると思う。それでたぶん、エヴァも同じような系譜に入るんだよ。よくわかんないんだけど。

エヴァと合体するみたいな感じになるんでしょ、あれって。だから、そのエヴァの力使って戦うんでしょ。だから、巨人の力を使って戦うっていう。そのときにあるのは、嫌いだったやつ、敵だったやつに対して、自分が合体して一緒になってしまう。

これはすごくおもしろいんだけど。アメリカ大嫌い、大人大嫌い、だけど大人が作ったアメリカが作ったiPhone大好きみたいな。

大野:なるほど(笑)。

山田:だから「お前ら大嫌いなんだ!」って言いながら「じゃあネットやめれば?」って言うと、「それはちょっと」って。「サーバー管理してんの全部大人なんだけど」って言ったときに、「いやいやいや」ってなるっていうときに。

何とも言えない無力感っていうのを感じてるんだろうなって思うんだけれども。だから、巨人になるときに、汚れる感じがすると思うんだよね。大人になる感じっていうのと。だから、自分がそれを手にしたときに、意識失うでしょ? あの人。

大野:はい。

山田:コントロールできない。だから大人になるときに、その力をコントロールできない。汚れてしまっている。巨大な科学技術を手にしたときに、それをコントロールできない人間、みたいなのも乗っかってんなって思う。ここが、俺は興味深いなーと思って。

巨人はいろんなメタファーの集合体

おっくん:結局、玲司さんが読み解く巨人ていうのは、いろんなメタファーの集合体っていうことで良い?

山田:そう。それで、そのメタファーの集合体は、不安だしよくわかんない。だから、コンタクトできない何か。要は使徒の系譜なんだよ。それと、淡いコンタクトできるかもしれない希望みたいなのだと思う。

さっきざっくり言ったのは、リア充爆発しろ問題。「あいつら皆、クソ食らえ」って思ってるときは、リア充の人たちとはコンタクト取ってないから、わかんないんだよ。どんな人か。

だけど、会ってみたら良いやつかもしんないじゃんっていう、そういうやつの気分が、どうも背後にある気がしてならない。それで、諫山先生はインタビューで言ってるんだ。「僕はリア充じゃないです」みたいなことを言ってるし、「それを敵対してるとずっと思ってた、恨んでた」みたいなことを言ってる。

明らかに壁のこっち側みたいな感じ。それでおもしろいのは、26、7歳だったかな、彼は。そうすると、氷河期ロスジェネのちょい下くらいなんだけど。ロスジェネたちってエヴァ世代だから。

子供たちがテレビでやたらと主張してた。テレビでしゃべり場(注:若者たちが討論しあうテレビ番組)やってた。しゃべり場で何を言ってたかっていうと、「大人は信じられない」とか「自分で自分の命を捨てるの何が悪いんですか」みたいのをやってたみたい。ものすごく出てる、それが! しゃべり場なんだよね。進撃の巨人って。

大野:ああー!

山田:だから、大きな巨人のシーンの後にしゃべり場がやってくるんだよね(笑)。

おっくん:そう、それ! それがねえ……。

山田:嫌なの?(笑)

おっくん:いや、嫌じゃないんだけど。何だろうなあ(笑)。

山田:良いんだよこれ、大島渚の系譜なんだよ! だから、学生運動なんだよ、やっぱり。

巨人はリア充!?

おっくん:何かの系譜多すぎじゃない?(笑)

山田:すいません(笑)。彼ってやっぱり、流れの中で必然として生まれてきてる所がやっぱりおもしろいなって。「努力に意味はあるのか?」とかね。あとちょっと、内ゲバ感と、バトル・ロワイヤルフレーバーがあって。

フレーバーっていうのは、匂い。感覚だけ。だから実際に殺しちゃうってことじゃないんだけど、何とも言えない、味方なんだか敵なんだかっていう。

大野:敵になったり味方になったり、みたいな。

山田:そうそう。そういう感じが、塾の人間関係っていう感じがすごいするんだよね。これおもしろいのが、安直に「仲間を信じないぜ」って思ってるわけ。セリフの中で出てくるんだけど、「仲間を信じたほうが楽だったんだよな」みたいな、内省のセリフがあって。「お前を信じるぜ!」で終わんないの。

「お前を信じるぜ! で終わったほうが楽だったんだよ、俺は」っていう、ややこしい感じっていうのかな。これが対比的にあんのが、リア充ワンピースなんだよ。ワンピースっていうのは、本当はヤンキースだと思うんだよね。ヤンキースなんだよ、ヤンキーなんだよあいつら。

大野:ヤンキース(笑)。

山田:「お前良いやつだな、仲間になろうぜ」っていう単純な連帯で行くんだけど、外と内がすごくはっきりわかれてて(笑)。だから、俺たちの族のメンバー、そういうメンバーは「仲間だよな!」って言ってて。冒険、一緒にご飯食べて「うめー」ってやってんだけど。敵っていうのははっきりしてる、みたいな感じ。

そうなんだけど、この感じがとっても曖昧。壁はあるんだけど、外と内がわかんなくなっちゃってる、ふわーってしてる感じっていうのかな、これがおもしろいなと思う。あと、巨人リア充説っていうのも考えると。巨人は光が当たってないと弱まっちゃう(笑)。

おっくん:うん。それはね、俺も思ったんですよ。

山田:リア充はアウトドアなんだよ!

おっくん:そうそうそう! 夜に活動できない。

山田:コカ・コーラなんだよ。

おっくん:アメリカ人なんだなって。

大野:ああー!

山田:アメリカ人なんだよ! だから、白人多いでしょ。

おっくん:アメリカ人なんだな。白人は多いですよ。