イーロン・マスクのスペースシャトル打ち上げについて

ハンク・グリーン氏:こんにちは! 今週は盛りだくさんの内容ですよ。歴史的なスペースシャトルの打ち上げ、急進展を見せた人工DNA、そして宗教とポルノの共通事項についてです。では、早速始めましょう。

アメリカ航空宇宙局(NASA)がひとつの時代の終わりを迎えました。これは同時に新たな幕開けでもあります。先週、NASAの3機のスペースシャトルのうち最初に引退する機体「ディスカバリー」号が、最終目的地となるスミソニアン航空宇宙博物館へと送られました。

そして来週、再来週にかけては、スペースシャトル計画の後継を担う新たな計画の大きな一歩が踏み出されることになっています。5月初め、民間の宇宙船企業SpaceX社が開発した新たな補給船「ドラゴン」がケープカナベラル空軍基地から打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)に結合(ランデブ)される予定なのです。

これがうまくいけば、ドラゴン補給船は、ISSと結合して貨物輸送を行う初の民間の宇宙船となります。元々は来る月曜日に予定されていた打ち上げですが、今週初めにSpaceX社の設立者イーロン・マスク氏が「ドラゴン補給船のISSドッキング時に使用するプログラムのテストにもう少し時間を費やしたい」とツイート。どうやら今どきは、こうやって情報が広まるわけですね。再開の仮予定は5月7日となっています。

SpaceX社の打ち上げ計画

そして理解しておいたほうが賢明なのは、SpaceX社はISSへ12回の打ち上げを行うということで、すでにNASAと16億ドルの契約を結んでいるということです。しかし、先行きの大半はこの最初の打ち上げにかかっています。また周回軌道への打ち上げの成功だけでなく、SpaceX社は、自社の宇宙船が実際にドッキングするまでの難しい操作の遂行が可能であることを示さなければなりません。

基本的にISSを周回する速度は時速27,000キロメートルです。万事うまくいけば、ドラゴン補給船は飛行4日目に機材と必需品ではない補給物資の計500キログラム超を輸送する予定です。ですから、たとえ試行が失敗に終わっても、ISS滞在中の6人の宇宙飛行士の水や酸素が不足してしまう……などということはないのでご安心を。

計画では、ドラゴン補給船は18日間にわたってドッキングし、その後660キログラムの貨物を搭載して地球へと帰還することになっています。これはロシアの宇宙船「ソユーズ」のカプセルに搭載可能な重量より大きく、注目に値します。

NASA向けに貨物輸送機を開発しているのはSpaceX社だけではありませんが、初めて貨物輸送機を宇宙へ打ち上げ、地球へと無事に帰還できることを実証したのがSpaceX社でした。2010年12月のことです。

SpaceX社ではまた、7名の乗員が搭乗可能な有人型ドラゴンの試作も進行しており、1、2年以内に飛行試験が行なわれる可能性があります。ドラゴンの最初の乗組員として奉仕したい気持ちは山々なんですが、いかんせん宇宙船酔いという問題がありまして……。

ゼノ核酸(XNA)の複製が可能に

それでは次の世界の一大ニュースをお届けしましょう。数週間前にもここでお話しした、合成生物学という分野でのニュースです。今週のニュースは、合成生物学上、これまでで最も大きな進歩だろうと思います。私たちのデオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)の代替となる物質が、複製が可能なだけでなく、時間とともに適応進化できることがわかったのです。

この人工代替物質はゼノ核酸(XNA)と呼ばれるもので、作製されてから数年経っています。ここでお話ししているのはDNAと同じ遺伝情報を持つもの、つまりA(アデニン)・G(グアニン)・T(チミン)・C(シトシン)の塩基を持つXNAです。しかし基幹を成している糖は異なり、そのために、実はXNAの構造はDNAよりも強いものなのです。

最初に急進展を見せたのは先週のこと、国際化学者チームが、DNAを複製する酵素と同様に、XNA分子の複製ができる酵素を作製したと報告したことでした。チームは、ポリメラーゼという酵素にDNA情報をXNAへ転写させ、それから同酵素を使ってそうしたXNAを繰り返し逆転写させました。

こうした複製は皆さんのDNAで今まさにポリメラーゼが行なっていることなのですが、これまでDNAやRNA以外で行なわれたことはありませんでした……世界の歴史をもってしても、です。

もう1つ、さらにすばらしい実験がなされました。化学者たちが調べたのは、XNAが圧力をかけられた状態で適応できるかどうかでした。この実験で明らかにしたかったことは、XNA分子の無作為の配列が2つの特定の対象タンパク質と化学結合するように進化するか、ということです。

新しい酵素を使ってXNA断片群を作製し、対象先を見つけることのできた断片を取り出しました。断片はその後新たな酵素で複製され、そうしてできた複製物はまた同じ過程にかけられます。8回の生成の後、結果として生じたXNA配列は本質的にタンパク質と完全結合するように繁殖したのです。ちょうど私たち動物や植物が繁殖するのと同じように。

この研究からわかるのは、必ずしも生命はDNAとRNAという2つの分子に依存しているわけではない、ということです。この世界には、あらゆる種類の、もっと単純でより良い遺伝情報の保存、共有方法がありうるのです。ですから、私たちが地球外生物を見つけたら、……ええ、私たちは見つけますとも……、その異星生物の血に含まれる遺伝情報はXNAに酷似している可能性がありますよ。

ポルノは視覚野への血流を低下させる

最後にお伝えする新発見は、皆さんの脳の働きを止めてしまう2つのものについてです。それは、宗教とポルノです。まずはポルノからいきましょうか。今日はそんな気分の日なので(笑)。性医学学会誌(Journal of Sexual Medicine)は今週、ポルノを見ている女性は視覚野の使用を止めてしまうという報告を掲載しました。

視覚野は脳の部位で、よく見て観察するということだけでなく、見たものの情報処理を司っている部分です。皆さんがポルノを見たことがあるかどうかはわかりませんが(笑)、情報処理が必要な内容なんてほとんどないんですけどね。

とにかく、12名の女性が3つの動画を見ている間、脳のPET検査を受けました。1つ目は全く性的な要素のない自然のドキュメンタリー、2つ目はややR指定レベルの動きのあるもの、3つ目はオランダの科学者チームが言うところの「高強度のポルノ映画」でした。そして、女性がポルノを見た時だけ、視覚野への血流が急激に低下したのです。

研究者たちは、性的興奮に関わる脳領域へと血流が方向を変えてしまうことと、私も引き合いに出しているように、ポルノには「詳細な精査が必要ないこと」が血流低下の理由であるとしています。先ほども言ったように、情報処理が必要な内容なんてほとんどないですからね。

研究者たちはまた、視覚野が不安に関係した脳領域であることにも注目しています。つまり、性的興奮は不安状態を引き起こす可能性があることを示唆しているのです。セックスは良いもの、不安感は悪いものです!

スピリチュアリティを司る脳の部位は「ない」

宗教については、言わせてください、皆さんには「ゴッド・スポット(神の領域)」はありません。この言葉は、霊性や宗教などのスピリチュアリティと関連しているとされる脳の仮想部位を一部の研究者たちが表現するのに使ってきた用語です。

しかしミズーリ州立大学の調べでは、過去の数々の研究から、そのようなスポットは存在せず、スピリチュアリティは脳全体で行なっている何かにすぎない、ということです。

それでも、脳の領域のなかには、他の部位よりこのことに多く貢献している領域があります。第一線の科学者であるブリック・ジョンストン氏は、……何て素敵な名前なんでしょう(笑)……、右脳の頭頂葉に重度の損傷のある220名の人々について調査を行ないました。

頭頂葉は右耳のすぐ上辺りにある領域で、空間認知や自己認識などを司っている場所です。ジョンストン氏は、頭頂葉に最も激しい損傷のある被験者が、高次の力と最も深い関わりを感じ、身近に感じていることを明らかにしました。これはうなずけることですよね、右脳全体が自己のことに専念し、自分の世話を焼くことにかまける傾向があるんですから。

多くの研究によると、修道士や修道女といった人たちは、脳の自己本位な部位の使用度がかなり低い傾向にあるそうです。要は、構造的な脳の部位で、宗教やスピリチュアリティを司る場所はないということです。