ベニクラゲは若返ることのできる唯一の生物

ハンク・グリーン氏:皆さんもうお気づきかもしれませんが、私は大抵の場合とてもおおらかです。でも皆さんと同じようにたまにはイライラします。例えばお腹が空いている時やストレスが溜まっている時です。お腹が空いていて、しかもストレスが溜まっている私の側にはいないほうが身のためですよ。

でもこんな風にイライラするのを防ぐために、私は何か食べたり、運動したり、叫んでみたりしています。でも決してイライラしなかった8歳の時のやんちゃ坊主だった頃に時間を戻すことだけはできません。

しかし、それを実際にやってのける生物がこの世界には存在するのです。

その名はベニクラゲまたの名を「不死身のクラゲ」です! そうです、不死身なんです。彼らは自身を自身の若かった頃に戻ることができる、現在知られている唯一の生物です。

ご想像の通り、彼らが飢餓感に苦しんでいる時や、環境からストレスを受ける時にそれが起こります。問題はそれがどのように起こるのか、そしてどうやって私もそれができるようになるかです。

典型的なクラゲの一生と、ベニクラゲの違い

皆さん知りたくてしょうがないでしょう? まずは典型的なクラゲの一生をご紹介しましょう。受精卵が幼生になり、海底に沈み、何かに密着してポリプになります。そして時間をかけて自由に移動することができる80から90本の足を持つ鐘型のメデューサ──またの名を「クラゲ」──となります。シンプルでしょう。

ベニクラゲをプランクトンのようなものと考えてください。プランクトンとは自分で海の中を泳ぐというよりも、海の流れに漂って移動するものたちを指します。漂流する生物ですね。

ベニクラゲは他の生物の栄養源ですので、他の生物に食べられてしまうことも頻繁にありますから、厳密に言えば食べられてしまうのであれば不死身とは言えないかもしれません。病気にかかってしまうこともありますし。

しかしこの小銭サイズのクラゲが他の生物に食べられてしまうことなく生き延び、彼らが食べ物にありつけない時、または負傷した時、環境によってストレスがかかった時にものすごいことが起こるのです。この時にこのクラゲは「ベンジャミン・バトン」のごとくどんどん若返っていくのです。足が無くなり、最終的には包嚢になります。

包嚢には最初のクラゲの一生から遺伝的指令を再生する能力がある、つまり新たな一生を歩むためのポリプ細胞を生み、そこからどんどん繁殖していきます。科学者たちはこのプロセスは永遠に続くのではないかと推測しています。つまりこのクラゲは「不死身」のクラゲと言うことができるのです。SFの世界みたいですよね。

このクラゲが若返る課程は分化転換と呼ばれています。すでにどの機能として作用するか決められている成長した細胞、例えば肺細胞や肌細胞として機能していた細胞がまったく異なる細胞に変化するのです。このクラゲの例で言えば、筋肉細胞が神経細胞へ、または精子や卵子にすらなるのです。

生物が分化転換を起こすのはそんなに特殊なことではありません。例えば、鶏の目からレンズを取り出すと、時間をかけて虹彩細胞がレンズ細胞に変化します。しかし鶏がこのクラゲのように自らを若返らせ卵に戻ることはできません。そんなことできればすごいですけどね。

ベニクラゲの研究ががんの治療につながる?

ベニクラゲが科学者にとって非常に興味深いのは、我々が細胞組織を再生する方法を常に模索しているからです。大抵の場合組織再生には幹細胞や、神経細胞や骨細胞になるだとか、割り当てが決まっていない細胞が関わってきます。

分化変換においてはそのようなことを考える必要がありません。問題は細胞の種類をまったく別にするためにどんなシグナルが送られているのか科学でまだ解明できないということです。

そして我々のような哺乳類がそのようなことをするのは一体全体可能なのかも明らかになっていません。つまりベニクラゲを研究することが我々に多大な利益をもたらすわけではないのかもしれません。

しかし細胞が自らを変化させるという事実はがんの研究に非常に有益です。想像してみてください。もしもがん細胞を取り出して、それに健康な頃に若返るように指示を送ることができたらと。

現時点では、自らの個体をすべて全く新しいものに再生することが出来ると知られている生物はベニクラゲだけです。このクラゲが世界中でどんどん増えているのはこれが理由なのでしょう。だって彼らは不死身ですからね!