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基調講演・関口昌幸氏(全1記事)

2016.02.26

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育児と介護の「ダブルケア」時代、仕事も諦めたくない人のために行政ができること

提供:株式会社リクルートホールディングス

「子育てしながら働きやすい世の中を、共に創る。」をキーワードに、リクルートが取り組む「はたらく育児」を応援するiction!プロジェクト。12月8日に開催された、Meet upイベントに横浜市政策局の関口昌幸氏が登壇。「はたらく育児、行政が民間に期待すること」というテーマで講演を行いました。晩婚化が進み、今の女性は育児をすると同時に、親の介護についても考えなければならないという現状があります。そんな「ダブルケア」の視点から、この問題にどのように取り組んでいくべきなのか、クラウドファンディングやオープンデータを活用した横浜市の事例が話されています。

育児と介護の「ダブルケア」時代

関口昌幸氏:みなさん、こんにちは!

(会場拍手)

横浜市の政策局政策課の関口と申します。今日は20分でパッパとお話していきますので、よろしくお願いします。

私たちが今、取り組んでいることは「ダブルケア」の問題です。今、お話があったように、働くことと育児を両立させることは、私たちにとってすごく大きな課題で、そのために横浜市は「待機児童ゼロ」を掲げていたりするんですけれど、同時に、超高齢化社会が進んできて育児と介護の同時進行、ダブルケアという課題がでてきました。

例えば、横浜市民ですと子育て中の女性の3割の方がダブルケアに直面している、もしくは、ダブルケアに直面するだろうということです。しかもそのうちの4割の方が働いています。育児と介護の両方のケアをしながら働いていらっしゃる方々が、ここ数年、増えているということです。

この問題に対して、どのように取り組んでいくのかということで、今、僕らは研究調査をしながら政策形成をしているところです。今日は、その話を中心に紹介したいと思います。

厳しい自治体の現状を踏まえた現実的な総合計画を

まず、その前に、なぜダブルケアが今こんなに問題になっているのかという話から始めたいと思います。

みなさん、住んでいる自治体の総合計画を見たことある方っていますか?

自治体が、これから未来の町づくりをこういうふうにやっていきますよ、こういう町、都市を作っていくっていうのを描いているものが総合計画なんですけれども、見たことあるっていう人、手を挙げてください。

(会場挙手者なし)

お、こんなにもいないんですね! びっくりしましたねえ!

(会場笑)

もし官民協働で新しいビジネスを興そうと考えるなら、自治体の総合計画は押さえておいたほうがいい。やはり読んでおいたほうがいいです。実は、横浜市の場合は、昨年12月に新しい総合計画を作りました。

成長拡大期、高度経済成長時代、バブルの頃くらいまでは自治体の総合計画がどういうものだったかと言うと、例えば「みなとみらい作っちゃいます」みたいなかたちで、絵空事と言うと語弊がありますが、夢をみんな語っていたわけです。

あの頃はお金もあったし、人口も増えていたので、そういった夢も語れるわけです。ところが、90年代後半以降、自治体は、財政的にも非常に厳しくなっています。そんな簡単に「あれやります」「これやります」とは言えなくなってきている。

先ほど言ったみたいに、育児と働くことの両立ってものすごくしんどい。そこに介護が加わって、市民生活がすごく大変な状況になっているなかで、夢を語られてもそんなこと信じられないよ、と。

そんなときに僕らは、まずデータから発想しようと。データから発想した上で、10年後の横浜市がどうなっているのかということを、シビアにシミュレーションしようと。その上で、横浜市の課題がなんなのかを、市民と共有するところから総合計画を作ろうと。それで、作ったのが、昨年12月です。

10年後の横浜市はどうなっているのか?

これを見てください。今、2015年です。10年後、2025年に横浜市がどうなってしまうのかを描いているんですけれど、高齢者人口、約100万人です。イメージ湧きます? 100万人って政令指定都市水準の人口です。

例えば、仙台市とか、北九州市とか。そういったところが100万人くらいなんですけれど。要は、高齢者だけで、政令市ができてしまうんです。こういう超高齢化社会が、やはり横浜にも、10年後やってきます。

子育て世代が25万人減、少子化が進んでるから25万人くらい減って。25万人、地方の中間都市がそのまま無くなってしまうようなかたちの減り方です。ものすごい減り方ですよね。

なぜこんなに減るかというと、もちろん、少子化が進んでいるということもあるんですけれど、東京に横浜のこの世代が奪われているんです。この10年間、東京に20代後半から30代、40代の人口が奪われ続けて、このまま奪われ続けると、10年後に子育て世代が25万人減ります。

その結果、就業者が5万人減です。ただでさえ、日本全国、これから生産年齢人口が減っていくなかで、横浜の今から10年後は5万人減っている。

というような状況に、今、みなさん、あるんですよと。じゃあ、これからどうしていくんですか? しかも、団塊の世代が10年後には75歳越えになりますから、当然、後期高齢者で介護年齢になりますよね。

横浜ってほんとに団塊の世代が多く住んでいる都市なんです。その方々が住み続けたときに、その方々がどう暮らして生きていくのか、その方々をどうケアしていくのかということが、すごく大きな問題になってくるということです。

ダブルケアが求められている理由は

そのなかで、ダブルケアという問題が発生してきていると。ダブルケアの原因は、高齢化、長寿命化、それから晩婚化、晩産化も進んできてますね。30代後半くらいで結婚される方がものすごく増えているので。

これまでの女性のライフサイクルですと、20代前半、後半くらいで結婚して、第一子を産んで、子供を育て終えたくらいでパートも含めた仕事に復帰して、そのあと介護っていう、M字カーブでした。

それが、晩婚化、晩産化。特に団塊ジュニア世代、今の30代後半から40代前半の世代において、非常に晩婚化、晩産化が進んでいるということに加えて、若年認知症の増加。また、兄弟の数が減ってきているということで、一人の方、特に女性の実子に、介護と子育ての負担が集中するという状況が、起こってきています。

ダブルケアの方の調査をしたんですけれど、やはり半数以上がダブルケアと仕事を両立しているということで、ダブルケアをしながら、なんとか働いているという方々が増えている。

これは先ほどお話ししたみたいに、横浜で言うと、3割、4割近い方々がダブルケアの経験がある、もしくはダブルケアに直面するだろうと考えているということですね。

働き続ける女性は増えた、しかし…

そうしたダブルケアの状況を考えながら、もう一度、女性の年齢階級別の労働力率を見てみたいと思います。先ほども出ましたけど、「このM字の底上げを」ということがあらゆる自治体と、これからの民間企業の非常に大きなテーマ、目標になっていると思います。

見てください。これは横浜市なんですけど、1980年代と比べると、M字の底が実はすごく上がってるんですね。もう、M字とは言えないような状況になっている。

これによって女性の社会進出が進んで、例えば、みんなが「育児と働くことを両立できる社会ができたんだ」「介護と働くことを両立できる社会ができたんだ」と。M字の底が浅くなったから、本当にそうなったと思います? 本当にそうなったと思う人、手を挙げていただけますか?

(会場挙手者なし)

みんなそう思ってないですよね。どんなにM字の底が上がっても、実感としてこういう社会になったとは思えないですよね。なぜそうなのか。これデータですぐわかるんです。

例えば、家族類型別世帯構成を見てみましょう。1985年のとき、この黄色いのが、いわゆる夫婦と子供の核家族。核家族化と言われているように、夫婦と子供の核家族が横浜の場合、半数近くなんです。

ところが、2010年、31.7パーセント。いわゆる、3世帯に1世帯くらいに減っているんですね。何が一番、今、横浜のなかで家族類型のマジョリティなのかというと、単身なんですよ。単身世帯、ここの緑の部分、33.8パーセント。

横浜のような、昔は専業主婦が非常に多くて、核家族がほとんどだった都市ですら、今は、単身世帯のほうが核家族世帯よりも上まわっている。なぜ、こんなに単身化が進んでいるのか。

M字を押し上げているのは未婚女性たち

見てください。未婚率がものすごく上がっているんですね。20代後半、30代前半の未婚率がものすごく上がっている。例えば、1980年代の時点では、30~34歳の女性で未婚の方って10人に1人しかいなかったんです。2010年の調査では、3人に1人なんですね。

こうしたかたちで、20代から30代の女性の未婚率が上がってきていて、生涯未婚率、50歳の時点での未婚率も、急速に上がっているわけです。

これがどういうことかというと、今、高齢者の1人暮らしが非常に増えているといいますけれど、未婚の女性や男性の30代、40代、50代も10年前に比べてものすごい勢いで増えているんです。

ということは、女性が結婚しないで働き続けているんです。しかも、非正規雇用の方がものすごく増えているので、もしかしたら結婚をしない、できない状況のまま働き続けている方々が非常に増えて、M字の底が上がったんです。わかります? 

結婚して、子育てをして、子育てをしながら働いている女性が増えたからではなくて、結婚しない、できない、子供が産めない、産まない、そして、たぶん働き方も非正規で厳しい状況のなかで、不安な思いをしながら働き続けている女性が増えているから、こういうかたちでM字のカーブが上がったんです。

ということは、M字の底が上がったからと言って、決してハッピーじゃないんですよね。このようなことを、データで読んでいきながら、政策を考えなきゃいけない時代になったんです。「M字の底が上がりました、万々歳」という時代ではありません。

これからの時代にどう対応していくべきなのか

このようなことを考えて、ダブルケアの問題をどう考えるべきかということなんですが、今、お話ししたように、後期高齢者が増加します、それによって介護対象者も増加します。

それから、家族の縮小が進んで、1人暮らしの方、2人暮らしの方が増えているなかで、当然、結婚して子供を産む方においては、1人あたりのケアの負担が増加します。それで、ダブルケアが増加していきます。

その結果、負担増によって、今、お話ししたみたいに、介護離職、子育て離職がどんどん増えていきます。ただでさえ、横浜の生産人口が減っているにも関わらず、就業者が減少して、経済の規模が縮小していく。まさに悪循環ですよね。

今の社会のトレンドがそのまま続いて、行政が何も手を打たなかったら、こういうかたちで、負のスパイラルが確実に起こっていく。その象徴がダブルケアなんです。

じゃあ、私たちは何をすべきかということですけど、1つは「健康長寿社会の実現」。これは言われてますよね。仮に高齢になったとしても、高齢者の方が生き生きと働き続けられるような社会を、データサイエンスなどを使いながら、医療を充実させながらやっていこうじゃないかと。

真の意味での「1億総活躍社会」を

それに加えて、まさに「1億総活躍社会」を実現しようと。女性も高齢者も、誰もが働き続けられる社会の実現。実は、このスライド、1年前から使ってるんですよね。

この「1億総活躍社会の実現」(スライド右中)というところには、別の言葉を入れていたんです。例えば、僕らが言っていたのは「コミュニティ経済」でしたが、意味はそういうことです。女性や高齢者も含めて誰もが働き続けられる社会を、新しいセーフティネットを構築することによって作らない限りは実現できないんだ、ということを言い続けてきたんです。

そうしたら、国が1億総活躍社会ということで、横浜が言っていたことを国をあげてやっていこうということで、今、提案していただいているので、私も今日「1億総活躍社会」と書いて、このスライドを持ってきました。

その結果、我々は就業者の維持増大をするために経済を活性化をしていこうと。負のスパイラルを止めるために、まさに1億総活躍社会が言っている、成長と分配のよき循環によって達成していこうじゃないか、と考えています。

行政にできることだけでは限界がある

ここからが本番ですけど、では、行政ができることって何があるのかということです。

今、お話ししてきたように、ダブルケアに象徴されるような社会的な課題を解決するために、1億総活躍社会を作っていこうと言ったときに、行政が何ができるのか。やはりポイントとなるのが、介護や子育てのサービスを充実しましょうと。

例えば、介護や子育ての社会化をさらに進めていきましょうということです。これ見てください。福祉にかかる経費です。

横浜市の平成17年の福祉に関する経費と、今年度26年の経費を比較すると、10年間で、3580億円から5780億円に上がっている。10年間で、2000億円、経費がアップしているんです。これ、すごいことですよね。

なぜこんなに福祉にかかる経費が伸びているのか。もしくは、行政として投資せざるを得ないのか。

例えば、横浜市は、待機児童ゼロにするために、平成16年度の時点で26,306人だった保育所の利用児童者数を、27年で54,992人に増やしました。ほぼ倍増にしたわけです。保育所の数も、平成16年で289だったのを、797に増やした。

介護の部分で言えば、要介護認定者数が平成12年に46,724人だったのが、27年には143,659人。サービス利用者数も、34,704人から118,366人。

こういうかたちで、ものすごい勢いで利用者が伸びていますし、いろんな施設を作り続けていて、先ほど言ったみたいにものすごくお金をかけ続けている。行政が福祉サービスをやっていないんじゃなくて、やり続けているんです。でも、ダブルケアの問題はまだ解消されていないんです。

やっぱり、今、言ったみたいに、これから行政ができることって限られているわけです。人口減少が進んできて、財政規模もどんどん縮小していくわけですから、限られています。

オープンイノベーションの必要性

だからこそ、さきほど小安さんも、おっしゃっていましたけれど、公民連携で、オープンイノベーションをしていかなければいけない。民間と積極的に連携しながら、この課題に対してアプローチしていかなければいけない。

まさに行政もオープンイノベーションの時代。そのために公民連携によるダブルケアサポート、3本の矢。私の思いついた3本の矢を書いてきたんですけれど、そういうかたちで、僕らは今、3つのプロジェクトを考えています。

1つはNPOさんとの連携。今、「ダブルケアサポート横浜」というNPOが立ち上がっています。

NPOさんが、地域のダブルケアで悩んでいる当事者の方々をネットワークしたり、子育て施設と介護施設の両方を結びつけながら、職員の方にダブルケアの視点から研修プログラムを開発したり、支援者の方々のネットワーク作りをしたりしています。

このダブルケアサポート横浜というのは、横浜市が提供している「LOCAL GOOD YOKOHAMA」というクラウドファンディングの仕組みがあるんですけど、このクラウドファンディングによって立ち上げられたプロジェクトです。

だから、このNPOさんに対しては、横浜市はいっさい補助金を出していない。クラウドファンディングで市民の方から広く集めたお金によって、こうした本来、行政がやるような仕事を、NPOさんがやってくれているわけです。そうしたNPOとの連携、クラウドファンディングとの連携が1つ。

データを活用し産業として育成

それから2点目は、今、横浜信金や、ユニシスさんと連携して、データを活用したダブルケア産業を育成していこうとしています。つまり、民間の力、今日のテーマもそこにあると思うんですけど、民間の事業者の方々にきめ細かくダブルケアに対応した、持続可能なビジネスを開発してもらおうと。

そうした、ソーシャルビジネスを創出していくために、地域の金融機関が、今までのように単に融資、金貸しをするだけではなく、コンサルティングの役割を果たして、事業者にきめ細かくデータを提供したり、アドバイスをしようと。

場合によっては、ダブルケアサポーターの方とか、いろんな方が適切なアドバイスをしながら、データに基づいたソーシャルビジネスを創出していこうと。

NPOとか、地元の中小企業は、なかなかマーケティングができないですよね。リクルートさんみたいに大きな会社だったらマーケティング部門を持ってますから、地域で事業をやろうとしたら マーケティングをしてよりよい事業計画を立ててその地域に入っていくと思うんですけど。

地元の小さな中小企業やNPOの方々はマーケティングをする体力がない。だから、行政も金融機関も一緒になってマーケティングをしながら、ソーシャルビジネスを興していこうという仕組みを今、立ち上げて、ワークショップや相談会をすでにやっています。

多様な働き方ができるような環境を

それから、3点目、テレワーク。テレワークに僕たちは注目しています。横浜には非常にテレワークに熱心な企業があります。リクルートさんもそうですよね、まさに、今、テレワークやっていますよね。マイクロソフトさんとか、アクセンチュアさんなども含めて、大きな企業はテレワークをやろうとしてます。

そこで、テレワークを中心に据えながら、多様な働き方をできるような、横浜で言えば地域企業と大手の企業のネットワークを作っていこうと。

実際に本格的なテレワークの普及に向けて、テレワークの研究検討会を開こうと思っています。12月17日に、その第1回目の公開研究会を小安さんを招いてやらせていただきます。

そうしたかたちのなかで、多様な働き方、新しい働き方を、横浜から企業さんと一緒になって進めていこうというプロモーションをやっていこうと思っています。

みなさん、興味のある方は、私のFacebookに友達申請していただければガンガン承認しますから、そうした研究会にご参加いただくこともできますし、先ほど言ったソーシャルメディアとか、NPOさんと連携したいという話があれば、いくらでも繋ぎますので、ぜひ友達になっていただいて、一緒にやっていければと思います。今後とも、よろしくお願いいたします。

私、本当は今日の交流会まで残りたかったんですけれど、なかなか人的リソースが限られていて、ものすごく少ない人数で仕事してるので。横浜市は、福祉に重心を置いていますけれど人件費をものすごく切り詰めていて、もう24時間仕事しているような状態なんで、この後すぐ、出ないといけなくて(笑)。関口昌幸で検索して、Facebookで友達申請してください。

(会場笑)

連絡を取り合って、みなさんと一緒にやっていきたいと思いますので、よろしくお願いします。ということで、どうもありがとうございました!

(会場拍手)

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