ゲームに課金する小学生を見て

田中紀子氏(以下、田中):薬師寺先生も本当にいろいろ私たちのためにご尽力いただいて。先日もギャンブル依存症回復施設を視察いただいたりとか、精力的に依存症問題や福祉の問題に取り組んでいただいています。先生からも一言お願いできますか?

薬師寺みちよ氏(以下、薬師寺):皆さん、こんにちは。参議院議員の薬師寺みちよでございます。初鹿先生が落選中に田中さんと一緒にギャンブル依存症のシンポジウムを組まれまして、そこに参加したのが、私がこのように本格的にギャンブル依存に対応する第一歩目となりました。

実は私、医師でございまして、以前から「これ(ギャンブル依存)は疾患だろう」と考えておりました。しかし、そのシンポジウムに出ましたら、皆さん、病気だという認識がないということに逆に驚いた、というところです。

実はその時にも披露したんですけれど、私の息子に、iPadを渡しておりましたらゲームにハマってしまいまして。まだ小学生なんですけど、知らない間にその次の月に2万円課金分が私の通帳から引かれていた。

まだ小学生にも関わらず、やっぱりそうやって武器を買って、おもしろさにハマってしまって、結局これがギャンブル依存の入り口になるんじゃないかなと、大変その時に、私1人の母親として恐怖感をいだきました。

ですから、しっかりと取り組むという意味におきまして、ギャンブル依存への対策が進まないのは、依存症は薬物、アルコール、ギャンブルとあるんですけれども、厚労省に尋ねましてもギャンブルがあるという前提で、この日本は組み立てられておりません。

依存症に対する様々な施設、相談があるんですけれども、そのなかでギャンブル依存だけがなぜか対応が遅れているんですね。

「世界水準、世界標準の対応をまず組んでいかなければ」それが私、国会議員のミッションだと思って今回を臨んでまいりますので、ぜひ今日も様々議論させていただきたいと思ってます。よろしくお願いいたします。

ギャンブル依存は社会問題である

田中:ありがとうございます。さて、では先生方に、「ギャンブル依存対策に何が必要か」お考えを伺いたいなと思っております。宇佐美さん、今、後ろ(スライド)にギャンブル関連問題いろいろありますよね。

でも世間の人たちはこれがギャンブルに関連してる問題だって気が付いてないこともたくさんあると思うんです。

この間、宇佐美さんのブログを拝見したんですけれども。今日の資料にも「ギャンブルが原因で起こっている事件簿」を入れさせていただきました。

横領事件なんかが今まで起こってくると、「(その人が)馬鹿な奴」とか「変わった人がこの我が社にたった1人いましたけど、これから先も大丈夫です」みたいなスタンスでずっと臨まれてきたかなと思うんです。

宇佐美さんのブログに書いてありましたけど、統計を見てみると、年間100億円ぐらい横領事件が起きてるんじゃないかという話がありましたよね。

宇佐美典也氏(以下、宇佐美):そうですね。ギャンブル横領事件って、大王製紙とか、500億円とかとんでもない額も出るんですけども、大体平均的な年間の推計をとってみると、100億円ぐらいの横領に繋がってるだとか。あと年間数件の強盗殺人にも繋がっているとか。

ギャンブル依存症って、「はまってる人が悪いんだ」と思いがちですけど、それが社会問題に繋がるっていう認識が必要なんじゃないかなと思ってます。

一方で、強気な議論を見ますと、先ほど薬師寺先生おっしゃいましたけども、厚生労働省は啓発として、薬物とアルコール依存症は全面的にフィーチャーして、診療ガイドラインも作ってるんですけども。

ギャンブルに関しては、「これは本当に依存症だかわからない」という意見があるというのをちらっと聞いていて、診療ガイドラインも作っていなくて。本格的な対策が取られていないという状況です。

そこにはやはり認識の問題があるんじゃないかと思います。そういうところを直さなきゃいけないなと。

田中:ありがとうございます。やっぱり横領とか、窃盗とか、そういった犯罪。また自殺率もすごく高くなっているので、自殺の問題とか、労働意欲が低下してくるとか。

そしてまた、毎年毎年、子供たちがパチンコ屋さんの駐車場で熱中症で亡くなるとか、それだけでもなくて、ご両親がパチンコに行ってしまって、子供たちが火事で焼け死んだとか、交通事故で死んだとか、そういう痛ましい事件も年に数件起きているんですね。

でもそこに対しても、(原因が)ギャンブル依存症っていうことに繋がってこないっていうところが、やはり有効な再犯防止になってないんじゃないかということは、大変、懸念しております。

カジノ先進国を視察して感じたこと

ここからも先生方に、具体的にどんなことをやっていったらいいか、お考えについて、伺いたいなと思うんですが。先生方、いかがでしょうか。柴山先生、お先にお帰りになるということですので、どうぞ。

柴山昌彦氏(以下、柴山):すみません。実は私は昨年、衆議院の内閣委員会の委員長を務めておりました。そこで、もうご案内かと思いますけれど、いわゆるIR法の基本法の議員立法の審議をするなかで、カジノの先進国であるシンガポールに視察に行きました。

今、私の手元にそのときの報告書があるんですけれど。先ほどもお話があったように、日本でどういうかたちで、他の国でなされているような規制、あるいは産業に対する監督の官庁を設けていくか。また実際に、それ(ギャンブル)に染まった人たちに対する、いわゆる社会課程振興省というようにシンガポールでは言っていますけれども。

厚生労働省や文部科学省のようなかたちで指導したり、アフターケアをしたり、コンサルティングをしたり、そういうところで、どうしっかりと責任を持っていくか。こういったところがトータルで連携をして、法律、民法を含めたかたちで、対応していかなければいけないんではないか、と思っております。

何かを最初にやらなくてはいけないことというよりは、そういったことをトータルで、同時並行的に走らせる必要があるのかなと思っております。

田中:今やはり、管轄なんかもバラバラになってるっていうことも1つの大きな問題かなと。農林水産省とか全部わかれていますので。そういうことがやっぱり1つの問題かなと私たちは思っております。

ギャンブル依存について教育していく必要性

先生もそういうご意見だと思います。ほかに何か先生方……。はい、じゃあ、初鹿先生お願いします。

初鹿明博氏(以下、初鹿):いくつもあるんですけど。まず1つは、やはりギャンブル依存というのが病気だということの認識をきちんとつけていくということと、キャンブルは今、決してやっちゃいけないというものではないわけですよね?

博打はいけないけれど。今はパチンコとか、競馬とか競輪は別にやっちゃいけないものではないんだけれども。それをやったらそのなかの何割か、何パーセントかの人は依存になってしまうということを、かなり早い段階で教えていくことが必要かなと思います。

私、今、文部科学委員なので島村大臣のときに質問をしまして、小学校や中学校で今は「薬物乱用防止教室」というのをかなりやっていますが、それと同じように「ギャンブルの問題についても学校教育のなかできちっと取り上げろ」と質問をしまして、かなり前向きな返事をいただいております。

今後、どういうかたちになるかわかりませんが、学校教育のなかでもこれは取り入れられてくことになろうかと思います。また、大学に入るときとか、就職をして会社に入ったときの最初の研修で、この問題というのはきちんと会社がやるべきだと思いますね。

横領事件が起こって、それで痛い目をみるのは会社側なんですから。その背景にギャンブルの問題、依存の問題があるとしたら、それは事前にきちんと社員に対して、教えていくということが、私は、非常に重要だと思います。こういうことも何らかの制度のなかで、労働安全衛生の制度のなかで、きちんとやらなければいけないようにしていくことが、重要かと思います。

子どもをギャンブルに近づかせるな

あともう1つ、先ほどの1回目のシンポジウムで、「低年齢のときに始めたら依存になる人が多い」というデータがありましたけれど。やはり子どもたちをギャンブルに近づかせる環境をなくす必要があるんじゃないかと思います。

具体的に言うと、競馬場に今、子どもの遊戯施設があるわけですよ。「子どもを連れて競馬に行きましょう」、子どもを連れて行ったら、これは競輪場でしたっけ? 競艇場だったかな? 特別観覧席に無料で入れます、とか。

これはあまりにもひどいと皆さん思いませんか? パチンコも18歳未満では店に入れないはずだけれど、私は高校が両国高校っていうところでしたけれども、錦糸町にあるんですね。繁華街なんですよ。

皆、パチンコには行ってたし、馬券場、ウインズがありましたので、みんな授業抜けたり、土曜日なんかは、授業終わったら皆で、馬券買いに行ったりしてましたよ。これを許しちゃいけないと思うんですよ。

ですから、きちんと年齢を確認するシステムを作る必要があると思います。このことを農水省の人に「競馬場の年齢確認ってどうしてるんですか?」っていう質問をしたら、ガードマンがいて、「18歳未満に見える人には声を掛けてます」って。そんなのわかるわけないでしょ!

それって「何もやってない」って言ってるのに等しいことなので。やはりこういうことをきちんとやるということが必要だなと。

事件、自殺の背景にあるギャンブル依存を見逃すな

あと、ここに事件簿がありますけれど、事件も、自殺の問題でもそうなんですけれども。この事件を起こした背景にギャンブルがあったとしたら。

例えば、こういう事件を起こして捕まったと。で、懲役になりましたということになったら、単に懲役をするのではなくて、そこできちんと依存症の問題に対する回復プログラムをその受刑者には義務付けて、なかに入っている間にきちんと回復のプログラムを受け、終わった後に、GAとかに繋いでいくということが、私は重要かなと思います。

自殺の問題でも、借金で自殺をしましたと。借金が原因だというとこはわかるんですが、何で借金をしたかというところまで追い求めないわけですよ。

会社が潰れて借金、自殺をした人への対策と、ギャンブルの依存で借金を重ねた人が自殺したとき、自殺しそうになったときの対策っていうのはまったく違うわけですけれど、どうしてもデータで出てくるのは、「自殺の原因は借金です」っていうところで止まっちゃう。

もう1歩先まで、調べていくようなことを厚生労働省がきちんとやっていくことが必要かなと私は考えております。

田中:ありがとうございます。柴山先生からも、管轄を越えてきちんと対応をする(ことが必要とのお話をいただいて)。文部科学委員会でぜひ、それをどんどん言っていただきたいなと思ってるんですが。やはり教育の導入が必要じゃないかということ。

あとはやはり調査ですよね、きちんとした調査が必要なんじゃないかということを今、初鹿先生からご意見をいただいたんですけど。奇しくも角田先生と薬師寺先生、どちらも厚生労働委員会だと思うんですけど。まず、どちらかご意見、いただければと思うんですが。

依存に困ったとき、どこに相談に行けばいいのか

薬師寺:じゃあ、レディファーストということで、お話を失礼させていただきます。

厚労委員会で私も質問したときに多くの議員から疑問が出たのが、ギャンブル依存で家族が借金をしている。じゃあ、まず借金をして「どうしたらいいでしょう私たち?」と、保健所に相談に行くっていう発想がないですよね? 青少協福祉センターに行って、相談しなきゃいけないっていう認識がないですよね?

まず、そこから変えていかなきゃいけないと思うんです。近所の方から「それって依存症じゃない? 保健所に行ってみたら?」と言っても保健所の職員がまったく、その知識を知らないんですよ。

これは依存症なんだから自助グループに繋げなきゃ、回復施設に繋げなきゃ、ここに相談窓口ありますと。統一されたインフォメーションが、国にはありません。

ですから、まず、その情報を集約して情報を提供するそのシステムを構築すべきだと私は考えております。また、もっと厚労省といわゆる疾患をマネージメントして福祉を行う場面で、ギャンブル依存症っていうものは、この日本のなかで、当たり前のように蔓延してるものなんだよっていうことを、更に口語していかなければ、これは国民全員、誰しもが陥る可能性がある病気ですし。

実際にそれをたどっていくと、様々な疾患を持ってらっしゃる方もいらっしゃいます。例えば発達障害のために、PTSDために、もしくは虐待を受けたそういう生育歴のために、実際いろいろと根っこに抱えているその問題を治療していかないと、根本的な問題解決にはなりません。ですから、しっかりとそういったことまでの調査、研究(の必要性)というものを責任持って私は厚労省に対して、今も要求をさせていただいております。

調査、対策予算は誰が出す?

田中:調査、研究っていうことがすごく大事だと思うんです。

大体、今、1億円ぐらいの予算が厚労省で。ギャンブルだけではなくて依存症対策のお金として、まだ予算が1億円ぐらいしかないような状況だと思うんです。海外はやはりギャンブル産業からそういった調査費とか、研究費っていうのがみんな捻出されていくので。

先日、ちょっと韓国に視察に行ったときも10数億円のそういうお金が出ている。また他国、欧米諸国でも20億円近いお金がやはり捻出されていて、調査、研究がされているっていうことです。

その辺の予算の問題もあるのかなと思うんですが、与党の角田先生にその辺も踏まえて、一言何かいただければと思います。

角田秀穂氏(以下、角田):当然、予算を立てないといけないんだろうと思いますけれど、そのためにはまだ実態が十分に明らかになっていないというのが1つあると思いますので。

まず、そこから本腰を入れてやっていかなければいけないんだろうと思うんです。対策については一言で言えば、私は気付きをいかに早くできるようにするかが一番大事だと思っています。

私自身も、やはり相談を受けましたけれど、さすがに田中先生ほどメガトン級の方にはまだお目に掛かっていません。

田中:(笑)。

角田:それで、なおかつ何とかなってしまうというところは本当にすごいと思うんですけど。大抵の場合はもう、すぐ何とかならなくなっちゃうんですね。その際に相談来られる方って、本人じゃなくて、大抵は家族です。

基本的には家族、夫婦のなかでも隠してますから、わかったときにはもうかなりどうしようもないような状況で相談に来られる。ある方は「奥さんが行方不明になっちゃた」ということで伺ったら、消費者金融のカードがたくさん出てきて。

近所の人に聞いてみると、「毎日、パチンコ屋の前に自転車停まっていました」ということがそのときわかって。ご主人もそれまでまったく気付かなかったということがあります。

また、ギャンブルで借金を重ねて、気が付いたときにはもうどうしようもなくて。自己破産しかないなというケースでも、今はどうかわかりませんけれど、ギャンブルでこさえた借金については裁判書が免責を認めてくれないとか、そういった理解もなかったということもありますし。

そうしたことからも、本人も病気だということも知らないし、家族も知らないし、また周りの社会も知らないという状況がまだ今の現状じゃないかなと思いますね。少しでも早く気づいてあげて、回復に結び付けていくためには、まず、そうした正しい情報、または知識の啓発ということが最も急がれるんじゃないかなと感じております。

ギャンブル産業が果たすべき義務

田中:ありがとうございます。柴山先生もうそろそろ退席ですよね? ありがとうございました。ぜひ、一言最後に、柴山先生。この依存症対策推進に本当にご尽力いただきたいと思っておりますので、何か一言。

柴山:最後に田中さんがおっしゃったように、要するに賭博産業にこういったさまざまな対策にかかるコストの一部を負担してもらうというのは、これは非常に重要なアイディアではないかなと思っています。

今、こういった産業が、特に今後、日本の景気回復に大きな役割を果たすというのであれば、やっぱりそれに沿ったかたちの社会的な責任を自覚をしてもらわなければいけないのかなと思います。

しっかり与党としても、検討していきたいなと思っております。今日はどうもありがとうございました。

田中:ありがとうございました。柴山先生ご退出でございます。

(会場拍手)

制作協力:VoXT