コンビニ業界に並んだEコマース

小野裕史(以下、小野): 本日はゲストとして、三越伊勢丹ホールディングス社長の大西洋さん、ヤフー副社長の川邊健太郎さんと執行役員の小澤隆生さん、楽天の執行役員の北川拓也さんに来ていただいています。この非常に面白いメンバーで「小売・Eコマースの未来像」についてディスカッションさせていただきます。

小野:最初に、ひとつグラフを紹介します。このグラフは、各小売の売上の推移を示しています。これは経済産業省が発表した数字ですが、コンビニエンスストアは伸びている一方、スーパーは横ばい、百貨店はなかなか苦戦しているという状況です。

ここにEコマースの数字を重ねてみると、2012年の数字で、すでに9.5兆円あります。コンビニエンスストア全体の売上規模と同じくらいにまで伸びてきているわけです。Eコマースもなかなかいい、頑張っているじゃないかインターネット、というふうに見えます。

ただしその一方で、小売全体の売上の中で、Eコマースの占める割合がどれぐらいあるかと言うと、まだ、たった1桁パーセント、約7%しかありません。全小売のなかで、インターネットのBtoC、Eコマースの数字はまだ伸びきっていません。逆に言うと、まだまだ非常に伸びしろがあるとも言えます。

今日は、すでに小売、百貨店の中の雄である三越伊勢丹の話を聞きながら、インターネットが伸びてきているなかで、どう既存の小売は戦っていくのか、そして、インターネット専業で戦ってきているプレイヤーは、どう残りの93%を取っていくのか、もしくはこのトータルのパイをいかに増やすのか、といった話を、それぞれの視点でディスカッションしたいと思います。

では最初に大西社長から、プレゼンテーションをよろしくお願いいたします。

「個人の中の二極化」という新しい消費構造

大西:あらためて、大西でございます。よろしくお願いいたします。今日、IVSの席で、私がなんでこういう話をしているのか、自分でもよくわかっていません(笑)。なんせ百貨店業界は、Eコマースの分野が非常に遅れておりまして、どうなることかと不安な気持ちでここにきました。

ただ、先ほどみなさんにお会いしたら、ものすごくノリがよくて、非常にリラックスしてお話ができそうです。本日は、百貨店のことを話しても面白くないと思いますので、百貨店というよりも、当社の企業理念や今取り組んでいることについて、ご紹介させていただきます。

今、私が注目しているのは、「消費志向の二極化」です。従来の二極化は、富裕層とそうでない人たちの二極化という構図でした。それが今は、ひとりひとりの、「各個人の中の二極化」が、ものすごく激しく出ています。ですから、お客様にとってみると、いろんな使い道ができるということですね。

それから、今日本のGDPが500兆円を切る中で、小売業界の「モノ消費」の規模は、135〜140兆円程度です。ですから、GDPの約25%が小売。それに加えて、「コト消費」が120-130兆円ありますから、「コトモノ消費」合計でGDPの半分くらいはあるわけです。そして小売業のなかのEC、通販というのが、約10兆円です。すでに12兆円や16兆円に達しているという推計もありますが、いずれにしてもEコマースは、小売全体の7〜8%程度だと思います。

百貨店衰退の原因はマーケティング力の低下

では、百貨店業界の規模はどうかと言いますと、残念ながら、かつて9兆円あったのが、瞬く間に6兆円に減ってしまっています。Eコマースの規模の約半分になってしまった、ということです。

なぜ百貨店業界がダメになったかというと、これは「百貨店だから」とか「リアルな小売の店舗だから」ということとはあまり関係ないと思うんですね。どこでも同じことが言えると思いますが、同質化してきて、明らかに競争力がなくなっています。気がついたら、マーケティング力がなくなっていて、収益力と競争力が低下してきたということです。

では、どうすればいいんだ、という話ですが、お客様の変化についていけていない、最たる業態になってしまっている以上、抜本的なイノベーションと改革なくして復活はないということです。イノベーションと言うのは簡単ですが、人がイノベーションを起こしていかないといけないので、なかなか力の要る仕事だと思っています。でも最終的には、お客様が評価をすることなので、お客様にどれだけ新しい価値を提案できるかがポイントだと思っています。

ブルーオーシャンとレッドオーシャンという言葉もありますが、当社は「相対的価値と絶対的価値」を、常にひとつひとつ評価してきました。当社としては、絶対的価値を突き詰めていくことに力を入れています。

相対的価値というのは、「AとBとCを比べて一番いい」というふうに、他社との比較によって選ばれる価値です。それに対して、絶対的価値は、最終的に人の心を豊かにできます。「こんなものがあったんだ」とか、「これはここでしか買えないんだ」という、本質的な価値を追求していきたい。

それから先ほど、(Eコマースの小売全体のシェアが)7%というお話をしたように、市場占有率は非常に大事ですが、それと同じく、ひとりのお客様に対してどれだけの「ウォレットシェア」を自分たちのなかで獲得できるかがポイントかな、と思っております。

ネット展開に成功したアメリカの百貨店

では、今何を考えているかというと、1つ目に、これはもう大きなビジョンというか、方向性だけですが、これだけ有形無形の新しい価値のあるものがたくさん出ている世の中では、自分たちの“編集力”を活かして、新しい価値を生み出していくことが重要だと思っています。

百貨店はどちらかというとファッションやブランドといったものを扱ってきましたが、今後は、それよりも、人、歴史文化、学び・知識、習慣・スタイルといったもの、アート、コンテンツ、音楽のところも百貨店として新しく提案していかないと、リアルな小売業としてはやっていけない、と思っています。

2つ目は、これだけITが進歩している中で、世界同時に同じ情報がつかめるわけですから、「世界のライフスタイル」をちゃんと提案していくべきだと思っています。海外のライフスタイルを、そのまま導入するのは難しいですが、今はブラジル、将来的にはアフリカまで視野に入れて、世界のライフスタイルを提案していきたい。

グローバルというキーワ―ドについては、私どもは百貨店なので、海外に店舗をたくさん出すのは限界があります。ですので、ネットの方たちとコラボレーションしながら出て行かないと、グローバルとはもう言えないかな、と考えています。アメリカの百貨店は、すでにネットのシェアが50%を超えていますので。

3つ目に、百貨店ですので、地域とか街とか、地元の行政と一緒に成長していきたい。これは「地方で地元に」というイメージよりも、首都圏のお店で、1つの建物だけでなくて、その地域とともに成長していくというイメージです。いわゆる“ソフト”というか“コト”の部分を、百貨店で情報吸収しながら情報発信をしていかなければいけない、と考えています。

生き残るには別次元へのチャレンジが必要

最後に、今取り組んでいることをお話しします。我々は、コンテンツというか、自分たちしかできないことをやっていかないと、生き残れないと思っています。3年前から「JAPAN SENSES」という取り組みを行っています。これは、いろんなコラボレーションをしながら、地方のいいものづくりを提案するというものです。47都道府県全てを訪れて、そこで2週間なり1ヶ月を過ごし、ファクトリーを回ったりしながら、その地域の本当にいいもの、ものづくり、技術、職人といったノウハウを3年間積み上げてきました。

それが少しだけ評価されまして。経済産業省から支援をいただき、2014年2月に「日本JAPAN SENSES goes to NY」ということで、ニューヨークでPOP UP SHOPを出させていただくことになりました。これからは、「そこでしかできないコンテンツ」に、今まで以上に取り組んでいく必要があると思っています。簡単ですが、私からは以上です。

小野:ありがとうございます。特にインターネットというところで、ひとつご質問させてください。先日の会見で、2014年、三越さんと伊勢丹さんの全商品をEコマースでがっちゃんこすると発表されました。これは、かなりの規模になると思うんですが。

大西:そうですね、Eコマースは10兆円以上の規模があると思いますが、百貨店のEコマースは600億〜700億円です。その中で私どもは100億円なので、百貨店の中では大きいほうです。今のSKU(最小在庫管理単位)は5万程度ですが、フォーマットを一つにしたシステムを作って、15万〜20万に増やす計画です。

さらにEC専用の倉庫やインフラや物流の仕組みを作っていけば、100億が200億、300億にはなるかなと思うんです。ただし、おそらくそれだけではダメで、別の次元で新しいビジネスモデルみたいなものが必要になります。メディアなのか情報発信なのか、あるいはSNSを通じてコミュニティを作って集客をするのか。いろんな新しいビジネスモデルにチャレンジをしていくべきだとは思っています。