35人の時短勤務メンバーが営業スタッフとして活躍中

高島理沙子氏(以下、高島):皆さん、こんにちは。ご紹介にあずかりました、リクルートスタッフィングの高島と申します。私は、キャリアサポートユニットというところのユニット長をやっておりますが、新卒で入社をして、15年間ずっと営業畑にいます。

産休を終えてスマートワークが始まったころに復帰したんですけど、それまでは遅くまで働いていたんですが、戻ってきたらスマートワークの推進が始まっており、現場の組織長として頭を悩ませながら改革をしている最中です。

皆様の周りで派遣スタッフの方が活躍されている職場はどれくらいありますでしょうか。ありがとうございます。

もし近くに派遣スタッフの方がいらっしゃるようであれば、その営業担当者をイメージしてお話を聞いていただければと思います。

本日私が説明するのは通称「キャリサポ」、キャリアサポートユニットというものについてです。ユニットというのは、皆様のところで言うと、部格ですね。

イメージしていただくと、この三角形、派遣の事業ではよく使うのですが、スタッフの方、お客様がいて、それぞれに対応するのが通常営業担当者という個人の者が担当しています。

キャリアサポーターという週2〜4日勤務、10時〜16時くらいの時短勤務のメンバーがフロントで営業して、それを組織でバックアップするという営業部隊を作りましたので、そのお話をさせていただきます。

この組織は昨年2014年9月に発足をしまして、現在約1年間で35人の時短勤務メンバーが活躍しています。全国でも広がっていて、弊社全体では約50名が活躍をしております。

この1年間ですね、通常、派遣営業というのはフルタイム勤務の営業担当者が行うのが当然の業務だったんですけど、その固定概念に何とか挑戦をして業務変革をしました。それで得たことを今日お話させていただきます。

短時間勤務社員でクライアント対応できる体制に

キャリサポユニットができたことで、弊社の営業体制に2つ変化がありました。

1つ目は担当の体制ですが、元々弊社はエリアごとに営業部を置いています。部では新規のお客様も既存のお客様も対応しておりますが、このキャリサポでは、既存のお客様の一部をぎゅっと集めて担当させていただいています。

それにより、エリアの営業担当者が、新規のお客様への対応に注力できる体制になりました。

2つ目は組織構成の変化です。今までフルタイムの営業担当者が13名で行っていた業務を、私の組織では、フルタイムの営業担当者が3名、キャリサポメンバーが30名で、フルタイム社員が少ない状況でもワークシェアで業務が行えているという状態です。

そもそもなぜこのような組織を作ったかですが、皆様お感じになってらっしゃると思いますが、有効求人倍率も上がる中、リクルートスタッフィングでも採用に苦戦しており、人手不足を感じていました。

さらにこの10月に派遣法の改正があり、法改正にともない派遣スタッフのみなさまの就業支援というアフターフォローを更に強化していく必要がありました。

スマートワーク真っ直中に生産性を上げなければいけない。人手不足で現場が忙しくなる中、どうやって競合優位性を高められるか、とても頭を悩ませました。それで打ち手を考えたプロセスを少しお話させていただきます。

世の中には「制約を満たした魅力的な仕事」がない

先ほどもお話がありましたけれども、今約170万人の働きたくても働けない女性がいらっしゃいますよね。

さらに、私も娘が幼稚園に行っておりますので、ママ友がいっぱいいます。元総合商社の総合職で働いていたんだけども、2人目ができてフルタイムで働くのは難しいということで辞めざるを得なかったとか、本当にまわりにもたくさんこういう方がいます。

彼女たちが口を合わせて言うのは、「制約があるから時短での勤務をしたいんだけど、希望条件にあう魅力的な仕事が見つからない」みたいな。

ここで私は、「なるほど、働きたいけど制約があって、でも制約を満たした魅力的な仕事ってないんだ。なんとかできないだろうか」と思うに至りました。

実際今どういう体制になっているかと言いますと、先ほどお伝えした通り、元々13名でやっていたところが、フルタイムの営業担当者3名のバックアップでフロントにキャリアサポーターメンバーがいます。

キャリアサポーターメンバーは、だいたい週2〜4でフレキシブルに働いていて、10時〜16時勤務くらいですかね。扶養枠内での勤務の希望者が多いです。ブランクのあるマザーが多い。

あとはダブルワーカーでバレエの先生やカウンセラーなどをやっている方も多いですね。ただ共通していえるのが、人生経験というスキルを活かして人の役に立つ仕事がしたいという方です。

サービスレベルを維持するための4つの取組み

「この組織を作ります」って言った時に、周囲からいろいろな反響がありまして、一番懸念されたのが「サービスレベルが低下しないか?」ということでした。例えば、週3で10時〜16時の方が営業することを想像していただきたいんですけど、「お休みの日にお客様から電話がかかってきたら即対応できないのでは?」とか。

2番目は、自分の元々担当している組織のフルタイムの営業担当者から、「すごく誇りを持って派遣の営業をやっています。なのに、キャリアの浅い人が時短勤務で出来る仕事なんですか」と言われ、業務の切り分けと役割分担の説明をしたのですが、なかなか理解を得られず、すごく辛かったです。

サービスレベルを維持するために、4つの大きな取り組みをしました。

まず1つ目、キャリサポという組織の役割を明確にするということです。派遣事業を簡単にまとめると、新規、既存、あとご依頼をいただくというのがあるんですけど、この既存のお客様の担当というところにシンプルに絞りました。個人の役割を明確にするということで、改めて派遣営業というプロセスをすごく細かく分解してみました。

そうすると、ルーティン化できる仕事とルーティン化できない仕事があるのがわかりました。ルーティン化できる仕事は、時間が決まっているけど計画的に動けば対応が可能なキャリサポメンバーの方にお願いしました。

ただ、営業ですので、突発的なことトラブルなどもちろんたくさん起こります。それをバックアップするために、フルタイムの営業担当者がリーダーとしてつくという体制を作りました。

2つ目にインフラを整備しました。このキャリサポメンバーが不在の時はすべてオフィス内のバックアップ組織で対応するという制度を整えています。

具体的には、キャリサポメンバーは会社貸与のiPhoneで業務を行っています。社外ではこのiPhoneを使って必要な入力業務などを行っています。

データベースを作りまして、お客様先に行ったら、その内容をデータベースに投入する。その情報は中にいるフルタイムの営業担当者が確認して、こういう会話をしたのねと。もし(キャリサポメンバーが)お休みの時でもお客様から電話がかかってくれば、こういう進捗だからと、いちいち相談しなくても対応できるようにしました。

「頑張りすぎ」は絶対に禁止

3つ目に、けっこうこれが課題だったんですけど、時短勤務のメンバーも頑張りすぎちゃう。責任感のある方が多いので、お休みの日も仕事が終わった後もメールをiPhoneでチェックし始めるんですね。

それに頼りたくなってしまうんですけど、、これは絶対禁止にしました。そのために、電話もメールもお仕事が終わったらオフィスへの転送設定をする。オフィスの中で実施をするということをやっています。

4つ目ですね。お客様の対応ですけど、従来と違って、「私たちは週3勤務の営業で、ただ、不在時はバックアップの組織で対応しています」ということを最初にきちんとお伝えしています。

具体的にはこういった「自己紹介ツール」を使っています。ここには、「私は週3、月水金で10時〜16時まで」というようなことが書いてあって、「ただ、不在の時はリーダー社員の誰々が対応します」というところまで記載をしています。

これも元々キャリサポのメンバーに、「引き継ぎの時に持っていって紹介をしてください」という話をしたんです。けっこう最初はそんなことをしたら信頼されないんじゃないか、と不安に思っていました。

実際1年やってみて、通常の営業担当者でしたら、電話がオフィスにかかってきても、打合せで席を外していたり外出していたりして折り返しが遅くなるケースもあるのですが、キャリサポの組織ですと、「担当の誰々さんがいなくても電話をすれば誰かが対応してくれるというカウンターパートが増えたね」とお客様からご評価いただくようになって、この組織はいいのかもという兆しを少し感じ始めました。

フルタイムの営業担当者に共感してもらうための勉強会を実施

最後に社内の意識改革というのがあります。先ほど私が「辛い言葉があった」と言ったと思うんですけど、社内の他のフルタイムの営業担当者に理解をしてもらうことがすごく重要だと思って勉強会なども実施しました。

「新しい働き方を私たちが作るんだ」というリクルートらしく、「社会課題にちゃんと対応していくのが私たちのビジネスだ」と伝えて共感してもらうことができました。

その1年間の成果としてまず、営業体制が効率化されました。さらに、派遣売上の大半を契約継続率が占めるんですけど、その契約継続率が上がり売上が増加しました。

さらに想定外なんですけど、お客様からご依頼をいただく件数もがすごく増加しました。ただ、本当に一番悩ましいのはマネジメントです。

想像していただきたいのですが、ほとんど月に1回1時間くらいしかオフィスに出勤して顔を見ることができない方たちが30名働いているので、顔色を見て、今日元気ないなとか営業先で何かあったのかなとか、嬉しいことあったのかなとか、コンディションの把握がすごく難しいのが実感です。

昇給・昇格がないのでそれでモチべートできない。同じ方向を向いて頑張ってもらうための動機づけが、本当に難しいと思っています。

社内ミーティングをやめて、移動ミーティングに

まず日々のコミュニケーションのところは、大きく3つ書いていますがいろいろ工夫をしています。

例えば、朝夕メールって聞かれたことありますかね。私も含めた組織のメンバー全員が、朝仕事の時に、「今日の計画はこれです」って全員宛にメールをしています。さらに、仕事が終わったら、「今日の業務はこうでした。こんなことが質問です」みたいなのを全員宛に送信してもらっています。

これをすることで、オフィスの中にいるリーダー社員が業務のバトンタッチのタイミングがわかる。この後、「彼女のメールを転送したものに対応すればいいのね」と、わかる状態になっています。

さらに一番下に、社内ミーティングから移動ミーティングへと書きました。月に1回しかオフィスに来ないので、彼女たちがオフィスに来る時間を拘束することは、イコール、スタッフのみなさんとお客様に対応する時間を削ることになってしまうので、それはダメだと思っていまして。

それであれば、私たちリーダー社員がきちんと彼女たちのアポイントに同行して状況把握する。アポイントとアポイントの間の10分とかでミーティングをするというようなやり方をやっています。

組織ミッションをシンプルに、個人の役割もシンプルに

2つ目に、モチベーションのアップですけど、キャリサポで働きたいという意識を醸成する仕掛けをとっています。

キャリサポメンバーだけのキックオフをやっています。こちらもトップのコミットということで、「あなたたちが新しい働き方を牽引してるんだ」ってことを伝えてもらって一体感を醸成したり。

「キャサリン」というユニット内情報共有紙を作り、全国のキャリアサポーターに配布して、「こういう働き方をしてる仲間がたくさんいるんだね」ということで一体感を醸成しています。

あとはキッズスタッフィングという名称で、お子様を呼んで職場見学を行いました。これもリクルートらしく名刺獲得キャンペーンとかをしたんですけども、これをすることで、「ママ、今まで働いていなくて、働き出して家にいなくて寂しいけど、こんなにイキイキしてるんだったら、応援しよう」という家族の支援も醸成していると。こういった取り組みをやっています。

まとめですね。まずお伝えしましたように、組織ミッションをシンプルに。個人の役割もシンプルにすることで、サービスレベルの均一化をすることをしました。さらに、組織で情報共有し、きちんとバックアップ体制をしくことで、迅速な対応ができるという状況を作っています。

キャリサポで働く意義を醸成して、自ら選んで働いているという高い当事者意識をメンバー一人ひとりが今持っている状態です。これによって、今までと違って個の力に甘えずに強い組織ができつつあるなと感じています。

制約条件の中で生産性を上げるには発想の転換が必要

最後になりますけど、私はスマートワークを通じて、スマートワークという生産性を上げなきゃいけないという制約条件の中で、どうやって競合優位性を高めるかにすごく悩みました。

今までだったら、「計画的に進める、より高い目標を達成する」と思っていたんですけど、発想の転換が必要で、発想の転換ができて初めて、いままでの派遣営業組織とは180度反対側の組織営業作りをやってみようという発想に至りました。

今私が見えているところは、この組織で営業ができるんだから、時短勤務メンバーできちんと今までのサービス提供ができるんだから、フルタイムの営業担当者ならではの価値はなんだろうと、今それを考え始めています。

こういった取り組み、チャレンジは、私は1つの組織でやっていますが、スマートワークによってリクルートスタッフィングの中のいろいろなところでこういったチャレンジが起こっている。それが非連続の成長になっているんじゃないかなって思っております。

制約条件を課されることで、初めて発想の転換が促されて進化ができるんじゃないかなということを皆様にお伝えしたいと思っております。ありがとうございました。