難民キャンプに溢れるシリアの人々の悲劇を知ってほしい

アンジェリーナ・ジョリー氏:皆さま、ありがとうございます。2011年にシリア騒乱が始まって以来、私は11度に渡りイラク、ヨルダン、レバノン、トルコ、マルタのシリア難民を訪問しています。その中で出会ったシリアの方々が今日この場に来ることができれば、どんなによいだろうと思わずにはいられません。

イラクの難民キャンプで出会ったある母親、もし彼女が今日この場にいれば、娘が武装した男たちに性奴隷として連れ去られた後に生きていくとはどういうことか、語ってくれたでしょう。

レバノンでテント生活をする6人の孤児のうちの一人であるホラ、彼女が今日この場に来ることができれば、母親が空爆で亡くなり父親は行方不明となってしまったことで、11歳の若さで家族全員を養う責任を負うとはどういうことかを語ってくれたでしょう。

何百人もの難民が乗っていた密輸船が地中海で沈船し、妻と3歳の娘が溺れ死ぬ様子を目の当たりにしたレパ医師、彼が今日この場にいたとしたら、戦場で愛する者たちを守ろうとして最後の選択肢に賭けた結果、彼らを失う気持ちとはどんなものか語ってくれたことでしょう。

私が出会ったシリアの方々は、本当に明晰に騒乱について語られました。400万人近くのシリア難民が、彼らには何の関係もない騒乱の被害に遭っています。それにも関わらず、彼らは社会的に嫌悪され、嫌厭され、邪魔者扱いされているのです。

シリア難民に支援がなされていない現状に直面して

私が今日ここにいるのは、彼らのためです。なぜなら、この国際連合とは彼らの国際連合でもあるからです。ここでは小国であろうが、混乱が起きていようが、大国であろうが、最も力を持つ国であろうが、すべての国のすべての人々が平等です。

国際連合の目的とは騒乱を防ぎ、それを撲滅し、国々を団結させ、外交的解決を見つけ、命を救うことにあります。シリアに関して我々はこの目的を成し遂げていません。

騒乱の責任はシリア内の紛争当事者にあります。しかし危機的状況が悪化したのは、国際社会が分離し決定を尻込みしたことで、国連安全保障理事会がすぐに動くことができなかったせいです。

2011年にシリア難民の方々とお会いした時、彼らは希望を持っていました。「お願いです。我々の状況を皆に伝えてください」と、彼らは私に言いました。状況が世に伝われば国際的な動きが起きるはずだと信じて。

その後、私が彼らの元に戻ると、彼らの希望は打ちのめされて怒りに変わっていました。小さな赤ん坊を抱いた怒れる男性は言いました。「この子がテロリストに見えますか? 私の息子がテロリストだと言うのですか?」

この2月に現地を訪れると、その怒りは諦め、絶望、辛辣な疑問に変わっていました。「なぜ我々シリア人は、救われる価値がないのでしょうか?」

この騒乱に巻き込まれたシリア人は、無実の人々を守るためにあるすべての法律と原則から無視されているのです。国際人道法は拷問、飢餓、学校と病院への攻撃を禁じています。しかしこれらはシリアでは日常茶飯事に起きていることです。

国連は、その理念をもってシリア問題に対して行動を

国連安全保障理事会はこの件について、国際平和と安全維持宣言に反することを主張する力を持っていました。しかし、そのような断固たる主張は成されませんでした。

国際連合には、国が国民の安全を守ることができない場合、国際社会がそれを見過ごすことはないという概念を、いかなる時も守る責任があります。しかし今回のシリアの件では、国際連合は何も行動を起こしていません。

問題は情報が足りないからではありません。何が起きているのか、情報はあるのです。そこに政治的意思がないことが問題なのです。シリア問題に直面できない、行動するのを先延ばしにしている、そしてこのことは無実の人々を保護することができていないという最悪の状況です。13年間に渡って、国際連合に誇りを持って携わってきた私が言うのです。

どれだけの人が日々国際連合に庇護され、食事を与えられ、教育を与えられているかに、多くの人々は気が付いていると思います。しかし、それがどれだけすばらしいことであっても、シリアの件を帳消しにすることはできません。

法律はないに等しく、科学兵器が用いられ、病院も爆破され、救援物資も差し止められ、一般市民が飢えに苦しんでいます。そして、それを誰も咎めることはないのです。

シリアの人々の声として、国際社会に3つの提言

シリアの人々の代弁者として、国際社会に3つのことをお伝えしたいと思います。まず第一に、団結してください。国連安全保障理事会は一致団結し、この騒乱に終止符を打つために力を合わせてください。合意に至るということはシリア人に正義をもたらし、責任を持つということです。

ヨルダン、スペイン、マレーシアの政府代表の方には勇気づけられました。しかし国連安全保障理事会のすべての国の外務大臣が、早急にシリアに政治的解決をもたらす必要があることを理解してほしいのです。この数カ月で他の地域で進行中の外交政策が見受けられましたが、シリアの人々にはどんな対策を練っていただけるのか、期待しています。

もちろんこの場所で議論を重ねることも重要だと思いますが、皆さんには1度シリアを訪問していただきたいのです。苦しむ人々と騒乱の影響を、ご自身の目で確かめてください。彼らはこの場に来ることができません。皆さま、1度シリアを訪問してください。お願いいたします。

第2に、支援活動を必死に行っているシリア近隣国の方からの声をお届けします。

「何千人もの難民が、世界で最も豊かな大陸の目の前で溺れ死んでいく様子を見るのはとても辛い。本当に追い詰められなければ、こんなふうに子供の命を危険に晒すことはない。騒乱を収めることができないのであれば、我々は人間として難民の方々を救い、法的に安全を確保できるようにする以外、方法はない」

第3に野蛮さ、制度的な性的虐待、このことについて国際社会はもっと注目すべきです。国際社会はこの犯罪を深刻に捉えているというメッセージを、広めねばなりません。

私の唯一の願いは、とにかく心を決めてほしいということです。皆さん、準備をしておいてください。シリアの女性は近い将来多くの解決策をもって、国連安全保障理事会で平和交渉に携わることになるでしょうから。

シリアの危機的状況に今後の国際社会の対応を学ぶ

最後になりましたが、シリアの危機状態は、我々がいかに外交的解決を見つけることに無能であるかを象徴しています。そしてその無能さがシリア人の大移動に繋がり、彼らをどこにも属さない難民にしてしまいました。5200万人が強制的に難民となりました。彼らはどこにも属しません。

もちろんシリアの騒乱を収めることが最優先ではありますが、この議論をより大きな問題へも応用しなければなりません。我々の時代は危機的状況によって決まるのではなく、いかに我々が国際社会としてそれに対応し、問題提起していくかにかかっています。

ありがとうございました。