池上彰氏が語る「スマホの普及と難民問題」今、日本に必要な覚悟とは

池上彰氏特別公演 #1/3

サイボウズカンファレンス2015
に開催

2015年11月6日に「cybozu.comカンファレンス2015」が開催されました。今回のカンファレンスのテーマは「変える覚悟、変わる覚悟」。特別講演に登壇した、ジャーナリスト・池上彰氏は、「変わりゆく世界と日本。これから必要な覚悟」と題して、現在教鞭を執っている東工大学で学生たちに学んでほしいことや、国際的な問題となっている難民の増加が今後の世界と日本にあたえる影響について語りました。

人は「わからない状態」に不安になる

池上彰氏(以下、池上):ようこそいらっしゃいました。まさかこんな形で登場するとは思いよりませんで。スモークでもたかれたらどうしようかと思ったんですが。

(会場笑)

今日は、今から全体が1時間です。45分私の話をしまして、残りが青野社長との対談といいますか、質問にお答えするといいますか、そういう形が予定されているということです。

そして、今日のタイトルが、「覚悟」と出ています。覚悟を語らなければいけないというのは、私のほうにも大変な覚悟が要るんでありますが、今の日本、世界、そして歴史を振り返ることで、今私たちに求められているのは一体どういうことなんだろうかという、そんな話ができればなと思っております。

今ご紹介いただきましたように、東京工業大学で学生たちに教えています。今日も午前中、2コマ学生たちに授業をしてきたところです。2012年から東工大で教えているんですが、それを教えるきっかけになったのは、2011年、東日本大震災だったんですね。

あの大きな震災の後、とりわけ福島の原発の事故が起きました。あのとき、多くの人たちが、「一体、原子力発電所の事故はどうなるんだろうか?」という、大変な不安を持って、テレビの前に座ったんですね。

そうしますと、テレビに原子力についての専門家の人たちが出てきて、これを解説をします。ところがですね、これがもう、ちんぷんかんぷんなんですね。いきなりベクレルが出てきたり、シーベルトが出てきたりして。私たちぐらいの世代ですと、放射線の単位というのはキュリーでしたから、キュリーじゃなくて、いきなりベクレルとシーベルトという2種類が出てきて、もう何のことかわからない。

結果的に多くの人が、「原発の事故はどうなっているのか」あるいは「今後何を心配しなければいけないか」がわからないという状態になってしまいました。かえって不安が広がったということなんですね。

私たちは非常に不思議なものでして、「これを諦めなければいけない」とか、「これは気をつけてください。これは危険です」とか言われると覚悟もできようというものなんですが、何が何だかわからないというのが一番不安なんですね。

例えば、これは2008年のリーマンショックのときも同じでした。リーマンショックで、リーマンブラザーズが倒産してしまった。「さあ、金融はどうなるんだろうか?」というときに、それぞれの金融機関の損害がどこまで出ているのかが、はっきりわからない。はっきりわからないがゆえに不安が広がり、世界中の金融業界、お金の動きが止まってしまいました。

「今どうなっているのかわからない」というのが一番不安なんですね。2011年の原発事故のときも、専門家の人たちが出てきて、テレビで解説するがゆえに、かえって不安になってしまった。

東京工業大学で学生たちに教えたいこと

そんな様子を見ていて、私は「日本の社会というのは、本当に文化系と理科系がはっきり分かれてしまっていて、その間には深くて暗い川が流れているのかな。こういうことではいけない。もっと文化系と理科系の架け橋のような存在が必要なのではないか」と思っていたら、東京工業大学の先生方から「うちの学生に教えてくれませんか」というお話があったので、それをお受けしたということなんです。

東京工業大学の学生は大変優秀な人たちばかりなんですが、どうもコミュニケーション能力という点で十分ではなかったり、非常に引っ込み思案だったり、内気だったりして、典型的な「理系ちゃん」が多い。

そういう人たちに、世の中の仕組み、あるいはプレゼンテーション能力、あるいはわかりやすい伝え方、そんなことを伝えていきたい。そういう思いを持って教えるようになっているんです。

最初のうちは「池上が何をやるんだろう?」と思って、興味本位といいますか、大勢の人が履修登録に殺到いたしまして。東工大は、一番大きな教室が260人収容の教室なんですが、そこに1つの講義は800人、もう1つの講義は900人が応募しまして、抽選で260人に絞ったんです。

最初は教室があふれかえっていたんですが、いざ採点ということになりますと、私の場合、採点が非常に厳しいんです。テレビで芸能人相手には、大変やさしくニュースを解説しますが(笑)。学問の世界を志す学生たちには大変厳しいんです。

そんなもんですから、記述式で採点をしていったら、最初、さっさとやっていたら、100点満点で60点を超えると合格なんですが、60点に達しない学生が4割に達しまして、4割落とすことになって。さすがに、これは私もまずいんじゃないかなと判断しまして。もう少し合格者を増やしたほうがいいだろうと考えました。

私には大学院生がティーチングアシスタントでついているんです。その彼に相談しまして、「いくら何でも4割落とすとわけにはいかないだろう。ちょっと下駄を履かせたい。5点ほど下駄を履かせて、改めて計算し直してほしい」と言ったら、東工大の大学院生のティーチングアシスタントが「先生、それはフェアではありません」と私に抗議するんですね。

「何でだ」と言ったら「55点の人を5点で60点にしたら、60点の人と同じになっちゃうじゃないですか。これはフェアではありません。標準偏差をとって、標準偏差の中心点を右にずらしましょう」と。

(会場笑)

いきなりその場で二次方程式をつくって、見事な標準偏差のグラフをつくって、「これでどうですか」と言われて「よくわかりませんけど、それでやりましょう」ということになって、3割を落とすことになりました。そうしましたら、次の学期からは履修希望者が激減いたしました。

(会場笑)

もう抽選をする必要がなくなったので、それで採点をしましたら、また3割落としまして、また履修希望者が激減をしたということになり、だんだん私の悪評が広がっていくと、履修希望者が減ってきまして。

最初は260人の教室だったんですが、教務課から「学生の数が少ないので、もっとここを必要としている先生がいらっしゃいますので、小さな部屋にかわってください」と言われ、今年の前期から小さな教室になりまして。後期もとりあえず260人でやってみたんですが、やはり学生の数が少ないというので、午前中の1コマ目です、小さな教室に移されてしまいました。

特に前期は、もう大変厳しいというのがわかっているものですから、相当覚悟を決めた学生しか履修登録しなかったんです。この結果、前よりぐっと成績がよくなりまして、2割5分しか落とすことがなかったというわけです。

(会場笑)

「2割5分落としました」と言ったら、またかなりびびってしまって、また学生が減ってしまったという状態です。ところが1年生は、まだそんなことがよくわからないまま履修しているもんですから、こちらはかなり人数が多いということで、落とし甲斐があるなということであるわけですね。

(会場笑)

ヨーロッパに大勢の難民が押しかけた原因

というところで授業をしているんですが、最近思うのは、メディアが進歩する、あるいは技術開発が進むにつれて、思わぬ形で世の中は動いてくるなということです。それは、今年の夏から大勢の難民たちがヨーロッパに押し寄せているということです。

何であれだけの難民たちが押し寄せるようになったのか? 特に一般のニュースでは、「この夏以降、大勢の難民がヨーロッパに押しかけるようになった」とは報じているんですが、それがなぜかということを、なかなか報じようとしないんですね。あるいは、はっきりつかめていないのかもしれません。

私もいろいろ難民の取材を続けてきました。例えばヨルダンとかトルコ、レバノン、あるいは、今ヨーロッパに押し寄せている難民たちを取材してきて、はっきりわかったこと。それは、今年の夏以降の難民の奔流というのは、スマホが普及したからなんだということなんです。あの難民たち、みんなスマホを持っているんです。

この夏からというのは、この段階でようやくみんながスマホを持つようになったということなんですね。以前、2年前からシリア難民の取材をやってきました。そうすると、難民キャンプに大勢の人たちが逃げてくるわけです。そうしますと「家族が、ここの難民キャンプで出会えたんですよ」という話を聞いたんです。

「シリアから逃げてくるときに家族がばらばらになり、この難民キャンプでようやく妻と出会うことができたんです」という話を聞きまして「これはテレビ的においしい話である」と。ここに人間ドラマがある。「どうやって出会えたんですか?」と言ったら、「携帯電話で連絡をとり合いました」と言うんです。全くドラマにならないということですね。今や難民の人たちがみんなスマホを持っています。

(会場笑)

スマホの普及と難民たちに起こった変化

そうすると何が起きるのか? 例えばおととし、あるいは去年、大勢の人たちがとりあえずヨーロッパに逃げていくわけですよね。

そうすると、そこでヨーロッパに行ってみたら、ドイツに行くと、とりあえず難民申請をすれば、アパートを世話をしてくれる。そのアパートに住めば、とりあえず住む場所が用意され、そして、日本円にして大体4万円ぐらいの生活費が出る。

そして6ヵ月たつと、働く場所まであっせんしてくれる。「ドイツはいいぞ!」ということを、スマホで連絡をするわけですね。

こうしてシリアの人たちに、スマホでヨーロッパに行った人たちからの連絡が入ります。親戚だったり友人たちから、こういう話が来る。「それならば、ヨーロッパに行こうじゃないか」と言って、大勢の人がヨーロッパを目指すようになるわけですね。

その場合「スマホだったら、充電はどうするのか?」って、多くの人は心配しますよね。スマホの一番の問題点は、すぐ充電が切れてしまうことですが、その難民の人たちを助けようというボランティアの人たちがですね、あちこちにスマホの充電ステーションというのをつくって「どうぞ、スマホを充電してください」という支援活動をするんです。それによって充電をすることができます。

「道に迷わないですか?」。スマホだったらGPSで、今自分がどこにいるかということがすぐわかるわけですよね。どこに行けばいいかということがすぐわかる。これが、例えば、ハンガリーに入ろうとしたら、ハンガリーが国境線を、警備を厳しくして、なかなか入れない。

「どこに行けばいいのか?」。難民たちがどんどん行き先を変えるわけですよね。どうしてそんな情報が入るのか? 最先端にいる人たちが情報を流すからなんですね。こうして大勢の人たちが、スマホを頼りに動くようになってきている。

「スマホの料金はどうやって払うのか?」。難民なら、銀行口座から引き落としができないだろうと思うわけですが、そのためにプリペイドカードがあるわけですね。プリペイドカードを安く手に入れれば、それで連絡がとれるというわけです。

アラブ民族の大移動が世界と日本にあたえる影響

今や難民の人たちがみんなスマホを持つことによって、ヨーロッパに大勢の難民が押し寄せた。そして、この多くの人たちはイスラム教徒なわけですね。ヨーロッパのキリスト教社会に大勢のイスラム教徒が押しかける事態になった。100万人単位の難民たちが入ってくる。

もちろん、この中には難民ではない人たちもいるわけです。豊かなヨーロッパで生活をしたいという人たちもいるわけですが、これだけのアラブ民族の大移動が起きたわけです。

かつてみなさん、世界史で「ゲルマン民族の大移動」というのを習ったはずですね。ゲルマン民族が入ってきたことによって西ローマ帝国が滅び、今のヨーロッパがつくられたわけです。

そして今、アラブ民族の大移動が起きている。民族が違うだけではない。言葉も違う。さらには宗教が違う。こういう人たちを、ヨーロッパはどのように受け入れたらいいのかという、ヨーロッパの覚悟が、今問われているわけですね。

そして、これは遠くの話だと思うかもしれませんけれども、もうヨーロッパがとてもそれだけの難民を受け入れることができない。

「じゃあ、どうするか?」先進国がみんなで手分けをして難民を受け入れていけばいいんだということになりますと、ヨーロッパの人たちは、世界を見渡せば、アメリカは10万人受け入れると言っている。イギリスも2万人受け入れると言っている。

「そういえば、アジアに大変豊かな国がある。あそこの国はどうするんだろう?」という、これからの国際的な圧力、プレッシャーが、来年にかけて、恐らく日本にやってくるでしょう。そのとき、日本社会はどのようなことができるのか? ということですよね。

制作協力:VoXT

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